スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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八百八十二話 ふと、思い出す

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(そういえば……そんな事も、考えてたな)

ゴリディア帝国との戦争を早く終わらせるには、どうすれば良いか。

以前、アラッドは自身が造ったマジックアイテム、キャバリオンを持つ少数精鋭で総大将の元へ向かえばいいのではないかと考えたことがあった。

その中に……戦力として、フローレンスもいた。

(………………いやいやいや、だとしてもこう……丁度良い、理由がないな)

フローレンスも戦力として数えていたが、アラッドは肝心のキャバリオンをフローレンスに売ったことはなかった。

「? どうしました。急に黙ってしまって」

「なんでもない……とにかく、早く終わらせられたら良いなと思ってる」

「そうですね。ただ、向こうも向こうで、アラッドたちにそれなりの方たちをぶつけてくるでしょう」

「そういうものか」

「そういう者ですよ……アラッドは、もっと自分が有名人という事を自覚した方が良いですよ」

「その言葉、そっくりそのまま返す」

お前はお前で有名人なんだから、軽々しく男と二人でバーで呑む様な真似はするな。
と言いたいアラッドだったが……確かに、それはそうである。

しかし、フローレンスがアラッドに伝えたい事も、本当にその通りであった。

「全く……そこは、アラッドの良くない謙虚さだと思いますよ」

「そうかよ。つっても、自分がどういった相手を倒してきたかは覚えてる。ただな……やっぱり、それを信じてくれない奴は一定数いる」

アラッドは冒険者として活動を始め、直ぐに刺青を拡大させてBランククラスにまで戦闘力を高めたオークシャーマンを討伐。
その後も闇魔法を使うミノタウロスや、本当にギリギリまで追い詰められはしたものの、Aランクのドラゴンゾンビを討伐した。

物凄い功績ではあるが、それらの功績はまだアラッドが冒険者活動を始めて一年……半年も経たない内に得た功績。
当然、その功績を信じることなく絡んできた愚か者もいた。

「……そういった方たちがいるのは、否定出来ませんね」

「そうだろ。フローレンス、お前だって似た様な経験があるんじゃないか?」

「ですね」

騎士として最前線で活動するフローレンス。

まだ活動歴は短いものの、入団当初は同僚となった者から、活動を始めてからは冒険者から絡まれたこともあった。

「向こうがどう判断するのか、どんな奴が参謀として活動してるのかは知らない。ただ……向こうは、勝てる算段があるからこそ、俺らに喧嘩売ってきたんだろ」

「…………」

「それなら、俺がこれまで倒してきた存在……本当に俺の力だけで討伐したのか、怪しむだろ」

「……敵の心配をする必要などありませんが、容易に想像出来てしまいますね」

「まぁ、それはそれで楽に攻められるから良いんだけどな」

アラッドもアラッドで、戦争という戦いを経験したことがない。
ただ、強敵との戦いを望むよう場所ではないと自覚している。

「それなら、尚更早く……敵に回りそうな個体を討伐しておかなければなりませんね」

「だな。とはいえ、俺たちは俺たちでやるつもりだ」

「勿論、解っていますよ」

「そうか………………そういえば、お前は既に騎士……になってたんだな」

「? えぇ、そうですよ。それがどうかしましたか?」

「…………いや、なんでもない」

「?????」

アラッドが何を隠したのか、何を口に出そうとしたのか。

子供の頃から何度も何度も社交界に出席しており、人の腹の内を探り、察するのが得意なフローレンスであっても……アラッドが何を隠したのか、本当に解らなかった。

(クソ……碌に関わってなかったから、本当になんて伝えれば良いのか解らない)

ほんの僅かに苛立ちが零れ、それをかき消すように……もう一杯、カクテルを頼んだ。



「出すっての」

「良いですよ。私が奢ると言ったじゃないですか」

確かに、フローレンスはアラッドを誘う時に、自分が奢るから二人で呑まないかと誘った。

ただ、アラッドは男として、それじゃあお言葉に甘えて……と答えるのは宜しくないと判断。

「では、今度奢ってください」

ニコッと笑いながらそう伝え、フローレンスは会計を終わらせてしまった。

(………………なんか、父さんの顔を思い出したな)

フール……ではない。
フローレンスの「では、今度奢ってください」という、次に繋げる言葉選びを聞き、アラッドは久しぶりに前世の父親の顔を思い出した。

(……って、それは普通野郎側が使うものだろ)

咄嗟に心の中でツッコむも、既に会計は終った後。

既に日は完全に暮れていることもあり、アラッドはフローレンスを泊っている宿まで送ることにした。

「別に大丈夫ですよ?」

「一応酔ってるだろ」

「……ありがとうございます」

夕食を食べ終えた後から、それなりに長い時間、二人で呑んでいた。

コツン、コツンと……店から離れれば、自分たちの足音しか聞こえなくなってきた。
そんな空気も悪くないと感じるフローレンス。

「あっ、そういえば」

「?」

何かを思い出したフローレンスはアイテムバッグの中から、ある物を取り出した。
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