スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
882 / 1,058

八百八十一話 割と傲慢

しおりを挟む
「そういえば、いつかは国外で冒険してみたい、なんて話をしていましたね」

「ん? あぁ……そうだな。長い冒険者人生だ。それに、幸いにも俺には機動力がある。全くもって無理な話じゃない……というより、近々冒険ではないが、少しの間だけ国外へ行く」

「? そうなのですか」

フローレンスからすれば、アラッドはこれから一年……半年は国内に留まっておいてほしい。

しかし、アラッド自身がそれを解ってないとは思えない。

「因みに、どういった……用事? で国外へ向かうのか尋ねても大丈夫ですか?」

「構わない。別に、大したことでもないしな……向こうとの戦いが始まれば、ガルーレは当然といった様子で参戦してくれる」

「彼女らしいですね」

「そうだな。それで、スティームも迷うことなく参加すると口にした」

「……友人が戦場へ向かおうとしてる。であれば、友人として共に戦いたいということでしょう」

フローレンスはスティームが他国の貴族であることは忘れてない。

ただ、共に戦争に参加しようと決める選択、理由はいたって単純なものであると予想出来た。

「そうなんだろうな……つっても、スティームが他国出身の冒険者であることに変わりはねぇ」

「……っ、もしかしなくても、スティームの実家にその為にご挨拶にいくと?」

「そうだよ」

「それは……なんとも……律儀? ですね」

結婚のあいさつでは? といった内容のジョークが出かけた。
しかし、寸でのところで飲み込むことに成功した。

「解ってるよ。冒険者として活動してるんだから、わざわざそんな事する必要はないし、スティームも望んでないって言いたいんだろ」

「…………そうですね。それが、冒険者としての感覚だと思います」

「俺も、それはそれでスティームが冒険者として活動する上での覚悟に水を差す行動かもしれないって思ってる。ただ……やっぱり、冒険とは……話が違うだろ」

「……そう、ですね」

フローレンスは、当然ながらまだ戦争を体験したことがない。
仲間を見殺しにしてしまったという経験もない。

ただ、戦争では……何かしらの罪を犯した罪人ではなく、同じ騎士や冒険者たちを殺さなければならないという事は、解っていた。

現在パーティーを組んでいるからという理由で、スティームをそんな争いに巻き込んでしまう。
その事に……アラッドは、多少なりとも罪悪感を感じていた。

「アラッド自身は、参加することに対して何か思うことはないの?」

「………………ある、だろうな。戦いが始まれば、初めて死体やその中を見た時の様に吐きはしないだろうが、心の中になんとも言えないモヤモヤが生まれる筈だ」

「…………それでも、既に覚悟が決まってる様な顔をしてるわね」

吐きはせずとも、心の中に言葉では言い表せないモヤモヤが生まれる筈。
そんなアラッドが口にした言葉に、嘘があるようには思えない。

だが、それと同時に、そんな感情に屈しない覚悟を既に持っている様に見えた。

「俺が冒険者になってから知り合った人たちも参加するだろうからな…………また、どこかで出会って、互いの冒険譚を語り合いたいって思う奴もいる」

「なるほど」

「それに、レイ嬢やヴェーラ嬢も参加するかもしれないだろ」

「……絶対にないとは、言えませんね」

タッグで戦えば、ソルとルーナのペアに勝てる可能性が十分にある。

となれば、まだ学生であったとしても、特例として頼まれてもおかしくない。

「二人の道は……まだまだこれからだろ」

「ですね…………ふふ、ふっふっふ」

「なんだよ。なんか笑うところでもあったか?」

「いえ、なんて言うか…………アラッドは謙虚に見えて、思ったよりも傲慢なところもあるのだと思うと、つい」

「…………うっせ」

何故傲慢だと思われたのか。
既に理解しているからこそ、アラッドは明後日の方向を向くも……否定はしなかった。

「解ってんだよ。他の奴らから見れば、寧ろありがた迷惑だってことぐらいな。けど…………死んでほしくないだろ」

「そうです。そこに関しては、同意です」

「んで、俺には……俺らには、他の奴らよりも多く、相手に出来るだけの強さがあるだろ」

「……それも、間違ってはいませんね」

自分も含まれている。
そんなアラッドの考えを聞いて、ほんの少し嬉しさを感じたフローレンス。

「まぁ、それでも俺は末端の冒険者だ。そんな戦場で無茶苦茶する訳にはいかないだろうけどな」

「……どういった活躍を、お望みですか?」

「? そうだな……物凄く個人的な考えではあるが、なるべく早く終わらせたいと思ってる」

多くの相手をすれば、他の者たちに接触する前に自分が殺せば良い。
そんな考えもあったが、アラッドは本当の意味での狂人でなければ、ゴリディア帝国そのもの、住民までもが憎い訳ではない。

仮に、アラッドが仲間達と動きに動いてゴリディア帝国の兵士や騎士、冒険者達を大量に仕留めれば……ゴリディア帝国が有する戦闘力が著しく下がる。

そうなれば何が起こるか……戦争が終わった後、国内のモンスターや盗賊へ対応しなければならない数が減り、冒険者や騎士たちだけではなく戦えない一般市民にまで被害が及ぶ可能性が高まる。

「ただの理想だがな」

「…………」

ただの理想。
そう口にしたアラッドの言葉を、フローレンスは忘れず脳裏に刻んだ。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...