スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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八百七十九話 答えのない問題

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「ロングソードを使った戦い方が、本職ではなかったのか?」

「一応そうですね。ただ、それと同時に幼い頃から素手だけの戦い方も並行して行っていたので」

「そうか……凄いな」

槍使いの騎士は、意外にも称賛を送った。

ロングソード使いなのに、何故そこまで徒手格闘で戦えるんだ!!?? という疑問自体は生まれた。
ただ、彼はアラッドよりも一回り年上。
まだおっさんと呼ぶには早いが、若僧たちと比べて色々と解っている。

(実家の……侯爵家の方針なのか、それともこいつが進んで手を広げていたのかは知らないが…………良い幼少期を送ったもんだ)

槍使いの騎士が生まれた家系は、先祖に槍使いとして名を轟かせた騎士がいたため、自然とその子孫たちは一旦、まずは槍を触れようとする。

そんな子孫たちの中で、男は一定レベル以上の才があったからこそ、そのまま槍の道に進んだ。

そして現在、騎士として活動しながらも何度も激闘、死線を越えてきた。

「……なぁ、ちょっと良いか?」

「? 良いですよ。えっと……」

「レパレス。アラッドって呼ばせてもらうから、そっちもさん付けはしなくて良いぞ」

「ありがとうございます。それで、レパレスさんは俺に何を聞きたいんですか」

既に最初に出会ったときの様な嫌悪感などは消えており、アラッドは普段通りの態度で対応。
とはいえ、本当に今回が初対面であるため、何を尋ねられるのか全く解らなかった。

「……幼い時、剣一つで進もうとしないことに、不安はなかったのか」

当然と言えば当然だが、多くの者は自分が得意だと思う武器を極めようとする。

得意な武器を使って勝ちたい、負けたくない……そういう思いを、多くの者が持っている。
その思い自体が悪いことだとはレパレスも思っていない。

だが、現在肉体的には間違いなく全盛期と言える時期に入ってから、偶に思うことがあった。
槍という武器だけに……あそこまで時間を費やす意味はあったのかと。

「なかったですね」

「そうか。逆に、多くの事に手を出すことも、不安ではなかったと」

「……なんと言うか、バカにしてるのかっと思われるかもしれませんが、なんか……本当に楽しかったんですよ」

「なるほど…………ふふ、そうだな。確かに、その感覚には覚えがある」

初めて武器という物を見た。

扱う仮定で、その恐ろしさを知ることもあった。
だが……なにより先に、一番最初に感じたのは……武器が醸し出すカッコ良さだった。

「それじゃあ、少し異なる質問だが、一つの武器だけを触り続けるのは……手札が多いアラッドからすれば、ある種おかしさを感じたりするか?」

「おかしさ、ですか……………………」

アラッドはレパレスからの質問に対し、直ぐには答えなかった。
正確には……直ぐに答えられなかった。

(そういう質問を俺にするってことは、今まで自分が槍の扱い、訓練に費やしてきた時間と結果が釣り合っていない……そう感じてるから、だよな?)

質問してきた意図は察せた。

しかし、先程アラッドが取った戦闘スタイルに関しては、戦場では武器も弾かれることがある。
その際に素手で戦えた方が良いという考えもあった。
単純に徒手格闘で戦う戦闘スタイルも好きという思いもあったが、万が一のことも考えてという思いもあったのは事実。

なので、それがレパレスの求める答えになるとは思えなかった。

「……………………それはおそらく、戦闘者にとって答えが出ない問題になるかもしれませんね」

「ほぅ……答えが出ない問題…………つまり、確実にメリットとデメリットがある、ということか」

「はい。レパレスさんが考えていることは、なんとなく解りました。確かに、実戦において手札が多いというのは限りなくメリットに近いと思います」

人間より思考力が浅いモンスターであっても、戦いが長引けばおおよそ敵のリーチは……攻撃が届く範囲はこれぐらいなんだと把握する。
得物を変えれば、その思考を逆手に取り、仕留めることが出来る。

「ただ、いざという時…………その戦いで死ぬか生き残れるかは別として、ここが分水嶺だと思った時、手に持つ武器に対してどれほど時間を費やしてきたか……バックボーンの厚さによって、精神力が大きく左右されることはあるかと」

「大事な場面だからこそ、か……難しいな」

「そうですね。逆に大事な場面だからこそ、違う一手が刺さることもあるかと」

「………………なるほどな。確かに、どれだけ考えても考えても、明確な答えを出せない問題かもしれないな」

いざという時に、自分が持っている武器に信頼を置けるか、託せるか……過去を振り返ってみると、レパレスにはその経験があった。

(……そうだな。確かに、無意味な時間では、なかった)

何十時間、何百時間と振るい続けてきたか分からない……覚えていない。
それでも……自分の相棒は間違いなく槍と答えられる自信と信頼があった。

「良いも悪いもない……仮にそれを付けるとすれば、結果を示すだけか」

「そうですね。俺たちに求められてるのは、そこですから」

年頃の青年らしい笑みを浮かべるアラッドを見て……先程までの自分は、なんとも小さな男だったのかと感じた。

「……すまなかったな」

「?」

「いや、ただ謝りたかっただけだ」

ただのエゴであったとしても、謝りたかった。
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