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八百七十五話 試合にならない

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SIDE アラッド

「ッ……参った」

「いぇいっ!!!! ありがとうございました!!」

「あぁ……こちらこそ、良い戦いが出来た」

ガルーレ対男性騎士の試合は、ガルーレの勝利に終わった。

「……以前と比べて、なんと言いますか……繊細さが増した?」

「かもしれないな」

相手の存在ではなく、相手の動きを正確に把握出来る立体感知は、ガルーレにとって思っていた以上に強力な武器になっていた。

「お疲れ、ガルーレ。良い戦いだったな」

「ありがと~~。それで、次は誰と誰が戦うの?」

「そうですね……では、スティームさん。私と一戦どうですか」

「っ、分りました」

予想外の申し出に驚くも、スティームは考える素振りすら見せず、フローレンスからの申し出を受けた。

「二人とも、戦るのは良いけど抑えるところは抑えてくれよ」

「えぇ、解ってますよ」

「解ってるよ、アラッド」

なんでお前がそれを言うんだと、黒狼騎士団の面子が鋭い視線を向けるも、現状……諸々の実績も含めて、実力的にはアラッドがトップであるのは間違いなかった。

「フローレンスさんとスティームさんの試合……アラッドは、どっちが勝つと思う?」

「それは、これから行う試合か? それとも、もし本気で二人が戦ったらっていう想定での質問か?」

「あっ、そうだね…………どっちもかな!!」

二人が話している間に、二人は試合を始めた。

「どっちもか。そうだな…………今始まった試合に関しては、六対四でフローレンスが僅かに有利、かな」

「おっ、やっぱり」

「……この試合で使える手札を考えると、な」

事前に話し合っていた訳ではない。
だが、今回の試合の中で、どこまで使って良いか……その考えはピッタリ重なっていた。

「それじゃあ、二人が本気で戦ったら?」

「本気で、なぁ…………その場合、ファルも参加することになるだろ」

「えっと……確かに、そうなりそうだね」

フローレンスが本気で戦うとなると、当然契約している光の精霊、ウィリスも参戦する。

そうなると、二対一という不公平な戦況になる。
であれば、従魔であるファルが参戦してこそ公平。

「………………なんと言うか、試合にならないな、多分」

「えっ!? い、一方的な戦いになる、ってこと?」

「違う。勝ち負けを決めるなら、単純な勝負じゃなく、試合を越えて殺し合いになる」

殺し合いに発展する。
それを聞いて、ソルたちの表情から……一応不満が消えた。
ただ、当然の様に心の底から納得はしていなかった。

「そっ、か……本気ってなると、当然あれも使うもんね」

「そうだ。まぁ、スティームが人間を相手にあれを使うかは分からないが……本気で戦うと想定すれば、な」

スティームにはただでさえ、赤雷という特別な雷がある。
そこに、万雷という武器が食われれば……まさに必殺の一撃を放つことが出来る。

フローレンスにはフローレンスで聖光雄化、そしてウィリスと同化する精霊同化という奥の手がある。
まず、互いにそこまで色々と使用してしまうと、ただの勝ち負けで済むか非常に怪しい。

だが……そこにスティームの必殺の一撃が関わってくると、本当に一撃でフローレンスがノックダウン……仮に意識を保てたとしても、精霊同化は強制的に解除されてしまう。

(そうなれば、ファルの体力や魔力が残っている、ノックダウンしてないと仮定すれば……おそらく、スティームたちが勝つ。ただ、逆に躱されてしまうと一気にフローレンスが有利になる…………互いの攻撃力を考えれば、やっぱり試合じゃなくて殺し合いになるな)

どうなるか本当に解らないため、贔屓目でスティームが勝つ……とは安易に言えなかった。

「随分と、仲間を信頼してるみたいね」

「……そうだな。なんだ? 自分の憧れであるフローレンスを低く見られてるとでも思ってるのか?」

声を掛けてきたソルの表情を見れば、何を考えているのかおおよそ把握出来た。

その感情を理解した上で……アラッドは特に気遣うことなく、思ったことを口にした。

「だとすれば、お前は……お前らはスティームの事を嘗め過ぎだ」

「っ!!! 別に……あいつのことを、嘗めてるわけじゃ」

「そうか。それじゃあ、相変わらずフローレンスの事を狂信的に信頼してるんだな。さっきも言ったかもしれないが、スティームはさっきお前たちがコテンパンに潰されたヴァジュラに勝ってるんだ」

「ウキャウキャ」

アラッドの言葉に続くように、ヴァジュラはスティームとの激闘を思い出し……笑みを浮かべながらうんうんと頷いた。

「フローレンスの奴に狂信するほどの強さがあるのは、俺も理解している。ただ、世界は広い。アルバース王国以外に目を向ければ、珍しくとも……いない訳ではない」

「…………ッ!!!」

聖光雄化という非常に珍しい強化スキルを有している。
それだけでも十分特別ではあるが、それに加えてフローレンスはただの精霊ではなく人型の精霊と契約し、更には精霊同化という切り札中の切り札も有している。

ずば抜けたセンスや才能、非常に高い潜在能力……そういった表現だけでは表せない怪物であるのは間違いない。
それでも、アラッドの言う通り、世界は広い。

赤い雷閃が、筋肉聖女を穿つ可能性は、十分にあり得る。
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