上 下
875 / 1,033

八百七十四話 可哀想?

しおりを挟む
「とりあえず……戦争が起これば、アラッドだけじゃなくてスティームやガルーレも参加するんだよな」

夕食が到着した後、ポロっとリオが零した。

「……そうなるだろうな」

スティームとガルーレは、アラッドのパーティーメンバーである。

アラッドと同じく冒険者であり、基本的に他国との戦争などが起きれば、戦争に参加する。
スティームに限っては他国出身の冒険者であるため、戦う必要がないといえばないのだが、彼の性格を知っているレイたちは、スティームが参加を拒否するとは思えなかった。

ガルーレも同様に、戦争という普段とは違う戦場であったとしても……寧ろ参加しないと宣言する姿が想像出来なかった。

「はぁ~~~~~~~。なんか、あれだな。これまで目指してきた方向が間違ってるとは思わないし、いきなり変えようとも思わねぇけど……こういう時、なんつーか……まだ学生であるっていうのが、歯がゆく感じるな」

「リオの言う通りですわね」

「……話からして、おそらく後一年以内に始まるでしょう。それを考えると……私たちは、参加出来ないでしょう」

「…………」

先程、レイやヴェーラには特例で上から参加してほしいという特別指令がくるのではないかと話していたが、それも確定という話ではない。

寧ろこれから先、多くの騎士たちを引っ張ていく逸材を戦争で失ってはならないと、逆に絶対に参加させてはならないと考えるかもしれない。

(……そうだ。確定では、ないのだ……)

そもそもな話、ゴリディア帝国の者に内部でやられてはいるが、結果的に戦争が起こらなければそれに越したことはない。

だが、事情を知っている者たちからすれば、ふざけるなと……到底怒りが収まるものではない。
それでも、戦うべきは大人たち。

年齢的な意味では、既にレイたちは大人ではある。
だが……彼女たちは、まだ学生……守られるべき立場なのである。

「まぁ、あれだよな。俺らがゴネて無理矢理戦争に参加して……誰かが死んだりすれば、アラッドが悲しむだけだよな」

「そうだね……なんで、無理矢理にでも僕たちの参加を止めなかったんだって後悔しそうだ」

「……はぁ~~~~。もっと、早く強くなりたいですね」

まだ自分は幼い。
そんな事はシルフィーも解っている。

しかし……騎士の娘だからか、なんで私はその場に立てないんだという強い悔しさは、そう簡単に消えない。

(やっぱり、皆さんは僕と考え方のスタンスが違いますね)

そんな中、やはりと言うべきか……アッシュだけは、全く違う事を考えていた。
まず、アラッドや父であるフールが参加する戦争に、なんで自分は参加出来ないんだという悔しさは、一切なかった。

そして、以前久しぶりに出会った兄、そして兄の仲間たちの実力を肌で感じ、観戦した。

だからこそ思った。
アラッド兄さんたちと戦場で出会った人たちは、色んな意味で絶望しながら死んでいくのではないかと。

(アラッド兄さんより強い人はいるだろうけど、アラッド兄さんにはクロっていう頼れる相棒がいる。スティームさんはストームファルコンに乗って空から攻撃できるし、ガルーレさんは体の一部が潰れても攻め続けるアラッド兄さんにも負けない狂気がある)

まだアッシュの耳には入っていないが、今のガルーレには頼れる棒使いの白毛ボス猿という相棒がいる。

(ハッキリ言って、アラッド兄さんたちに戦場で遭遇する人たちが可哀想だよね……どう考えても歳下の人に、あっさりと殺されるんだから)

歳下の……まだ完全に大人になったとは言えない子供に殺される。

世の中には常識外れの怪物がいるという事実は、戦闘者であればなんとなく知っている。
だが、いざ戦争という戦場でその常識外れの怪物に……明らかに自分より歳下の冒険者に殺されるという事実に納得出来るのか。

答えは……ノーである。

(それに…………なぁ……うん。仮に僕が大人になったとしても、あまり参加したいとは思えないね)

アッシュは一度も人間を殺したことがない訳ではない。

しかし、罪のない人間を殺したことは、一度もない。

(皆さんは、それが解ってるのかな……まぁ、どちらでも良いか)

解っていようと、解っていまいと、結局のところ自分たちが戦場に参加することはない。
そう思っているからこそ、アッシュはいつも通りの表情で美味な夕食を口に入れていった。

「アッシュは、なんかいつも通りだな」

「アラッド兄さんたちや、父さんが死ぬとは思えないので」

「心配してないんじゃなくて、アッシュは信頼してるのね」

「シルフィーにしては、随分と冷静だね」

「うっさいわね。でも……さっき軽く話したけど、ドラング兄さんがこの事を知ったら、やっぱり暴れちゃうかな」

「多分ね。けど、まだ父さんほど強くないから守られてる、参加出来ないんだよって言われたら、さすがに引き下がるんじゃないかな」

ドラングは父親であるフールに強い憧れを抱いている。

それはドラングの家族、同世代の令息や令嬢であれば全員知っている事であり、リオたちは苦笑いを浮かべながら確かに、と頷くのだった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

無限の成長 ~虐げられし少年、貴族を蹴散らし頂点へ~

りおまる
ファンタジー
主人公アレクシスは、異世界の中でも最も冷酷な貴族社会で生まれた平民の少年。幼少の頃から、力なき者は搾取される世界で虐げられ、貴族たちにとっては単なる「道具」として扱われていた。ある日、彼は突如として『無限成長』という異世界最強のスキルに目覚める。このスキルは、どんなことにも限界なく成長できる能力であり、戦闘、魔法、知識、そして社会的な地位ですらも無限に高めることが可能だった。 貴族に抑圧され、常に見下されていたアレクシスは、この力を使って社会の底辺から抜け出し、支配層である貴族たちを打ち破ることを決意する。そして、無限の成長力で貴族たちを次々と出し抜き、復讐と成り上がりの道を歩む。やがて彼は、貴族社会の頂点に立つ。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...