スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
869 / 1,059

八百六十八話 事前にガード

しおりを挟む
「ウキャッキャ! ホキャキャキャキャ!!!」

「ヌウウウウウアアアアアアアアッ!!!!」

炎を纏う大剣を力の限り振り回すソルに対し、余裕を取り戻したヴァジュラはケラケラと笑いながら躱していく。

当初、急激に上がったソルの身体能力には、確かに驚かされた。
放つ殺気の質も、これまで対峙してきた人間のものではなかった。
ただ……殺気に関しては、これまでに本気で自分を殺しにきたモンスターのものと同じだと把握。

加えて、身体能力が大幅に上がった分、技術力が落ちている。

ハヌーマ、ハヌマーンの厄介なところはナチュラルに敵対者を煽る才ではなく、対人戦に関する技術力の高さ。
ソルの身体能力の上昇幅には驚かされたものの、それは決して野性の勘に頼らなければならない程のものではなかった。

そして、先程から試合当初は少し面倒だなと思っていた連携が、全く上手くいってない。

殆どソルが前に前に出て大剣を振るっているだけ。

もう、これ以上遊べる要素はなさそうだ。
そうヴァジュラが思った時……一つの攻撃魔法が飛来。

「ウキャ?」

だが、その攻撃はヴァジュラに向けて放たれたものではなく、ソルに向けられて放たれた攻撃であった。

一人だけ暴走した仲間に向けられた、怒りの攻撃? 
そんな考えが一瞬だけ浮かぶも、ヴァジュラは直ぐにその考えを捨て去った。

「ハァアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!!」

後方のルーナが放ったウィンドジャベリンは、ソルの体ではなく、炎を纏っている大剣に命中。
普通なら、直撃した瞬間に大剣が弾かれ、大き過ぎる隙が生まれてしまう。

しかし、ウィンドジャベリンがソルの大剣に当たった瞬間、弾いたりソルの体を揺らすことはなく……一瞬にして大剣を纏っていた炎と混ざり合い、更に高火力な炎を生み出した。

「ッ! ウ、キャオ!!!!」

止めとけば良かった。
ヴァジュラの反応速度であれば、その一撃を躱すことが出来た。

もし食らえば、割と余裕が消えてしまうほどのダメージを受けてしまう。
それが解っていながら……ヴァジュラが取った選択は回避ではなく、相殺だった。

「「ッ!!!!!!!!!」」

二人の攻撃がぶつかり合った瞬間、訓練場に……ギルドのロビーにまで聞こえる衝撃音が発生。

多くの者たちが顔をしかめながら耳を両手で塞ぐも、なんとなくヴァジュラなら避けないだろうと思っていたアラッドは、他の者たちよりも早く耳を塞いだお陰でノーダメージだった。

(ルーナって奴……本当に戦況を良く見てたな)

ルーナはただソルの大剣目掛けてウィンドジャベリンを払ったのではなく、タイミング的にはこれ以上ないぐらいジャストな瞬間を狙って放った。

反応速度が高いヴァジュラであれば躱せるが、他のBランクモンスターが相手であれば……避けられず、勝負を決める一撃となっていた可能性が十分にある。

(後衛の中でも、相当レベルが高いな…………あんまり、がっつり後衛として本気で戦ってるところを見てないから断言は出来ないが、後衛としての技量は、ヴェーラに迫るか?)

ヴェーラ・グスタフは、アラッドが同世代の中で一番優秀な魔法使いは誰かと問われれば、真っ先に名前を上げる友人。

その実力は数歳程度の差など無意味。
そんなヴェーラと技量だけであれば迫るかもしれないという言葉は、アラッドにしては中々の称賛だった。

「…………まぁ、それでも、もう終わりだな」

轟炎を纏った大剣と魔力を纏う棒が激突した結果……勝者は、轟炎を纏った大剣だった。

だが、それはただ押し切っただけであり、ヴァジュラの体は後方に押し飛ばされるも、体勢を崩すことはなかった。

「ハアアアアア゛ア゛ア゛っ!!!!???? ッ」

一撃の攻撃力は上がったとしても、それは所詮攻撃力の話。

ソルの身体能力そのものが上がった訳ではないため、攻撃の軌道は相変わらず読みやすく、まだ素早さはヴァジュラの方が上回っていた。

その結果、腹に棒を叩きつけられ、体にあった酸素が全て強制的に吐き出された。
内臓がぐちゃぐちゃ……とまではいかないが、骨がいくつか折れ、内臓が損傷。
ソルは強制的に狂化が解除されてしまい、ダウン。

「くッ!!!!」

相方が倒れてもルーナは諦めず、まずは牽制の攻撃魔法を放ち、その後に本命の攻撃魔法を……っと、瞬時にそこまで考えられる思考力は悪くないが、ヴァジュラを相手に実行するには、圧倒的に移動速度が足りなかった。

「ホキャ、ホキャキャ、ホキャ!!」

「っ!!!!!!!???????」

飛来する攻撃魔法を全て弾き飛ばし、最後に全力…………ではなく、手加減しながら頭部に棒を振り下ろした。

絶妙に手加減されたため、頭蓋骨が割れることはなく、脳も無事である。
だが……その辺りを絶妙に加減された一撃だったからこそ、とんでもない鈍痛がルーナの頭を襲った。

「ふっ、ふっふっふ……フローレンス、決着で良いよな?」

「えぇ、そうですね。この戦いの勝者は、ヴァジュラです」

まだ呼吸を整えられてない前衛と、頭部を両手で抑えながらうずくまる後衛。
どう見ても、ここから続行するのは不可能だった。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...