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八百六十七話 使い慣れなければ……
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「ホキャっ!!??」
ヴァジュラはソルの変化を見て……本気で心底驚いた。
「アアアアアアァァアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」
何故なら……変化したソルが放つ殺気は、自分と同様……モンスターに近いそれだった。
そんなヴァジュラが驚くほどの変化を遂げ、凶悪な殺気を放つようなソルが使用したスキルは……なんと、あのアラッドが持っているスキルと同じ、狂化であった。
「ッ!!!!」
「ガッ!!! ァアア゛ア゛ッ!!!!」
「ホッ、ギャ! アキャ……」
何故アラッドの切り札である狂化の存在を、ヴァジュラが知らないのか……それは単に、アラッドがヴァジュラだけではなく、狂化を仲間たちとの模擬戦で使用しないからである。
そのため、狂化を使用した人物との戦いは今回が初めてであり……その衝撃は、ヴァジュラから徐々に余裕を削り取っていた。
「ほぇ~~~~。ソル……いつの間に狂化を会得したの?」
「交流戦の後、Cランクモンスターではありますが、一部の能力はBランクに足を踏み入れているモンスターとソロで戦い、その際に得たようです」
「強敵の戦いで、か…………懐かしいな」
アラッドはかつて、トロール亜種が相棒であるクロが殺されかけたことで、狂化を会得。
当時、何を思ってソルが狂化を会得したのかは知らないが、それでもただの口だけ、態度だけではないところに多少感心したアラッド。
「…………あの、ここまでソルさんが強化を使用しなかったのは、まだ自身に眠る狂気を上手くコントロール出来てないからですか? それとも、アラッドが使うスキルと同じだからですか?」
二つ目の理由に関して、まさかそんな事で? と首を傾げるアラッドとガルーレ。
同僚の心の内を知るフローレンスは、苦笑いを浮かべながらも頷いた。
「スティームさんの考える通り、その両方がここまでソルが狂化を使用しなかった理由です」
「そんな理由で……いや、まぁ…………別にそこまでおかしい理由ではない、か」
アラッドとしては、面倒な絡み方をしてきた者を、適当に言いくるめただけ。
特に悪いことをしている意識はないが、大前提としてソルにとってアラッドは自身の憧れであるフローレンスに対して不遜な態度を取る失礼な輩。
そして初対面で、これでもかという完封負けを食らった。
二対一と、数では有利である状況での完封負けだった。
実力は自分より上だと解ったとしても、結局のところ根っ子であるフローレンスに対して不遜な態度を取っているという部分は変わらないため、やはり良い印象を持つことは出来ない。
そんなところで……普段はそこまで苦戦することがないCランクモンスターを相手に苦戦している自分の弱さに怒りを覚え、結果として狂化のスキルを会得したが…………ソルからすれば、何故あの男が切り札としているスキルなのだと、全くもって素直に喜べなかった。
「えっ! アラッドはその理由に納得出来るの?」
「技術云々ではなく、メンタルの問題だからな……自分自身ですらコントロールするのが難しい部分だ。それに、ソルが俺のことを嫌っている理由はおおよそ予想出来る」
ソルの心の弱さを責めることなく、寧ろ容易に解決出来る問題ではないと一定の理解を示すアラッドを見て、フローレンスと同行している黒狼騎士団のメンバーは、少しアラッドを見る眼が変わった。
「ふ~~~~ん? でもさ、私のペイル・サーベルスはちょっと違うから解んないけど、狂気? をコントロールするのって、結構難しいんじゃないの?」
「そうだな。俺も……何度か飲み込まれそうになったことがある」
いくら転生者という他の者にはないアドバンテージを持つアラッドであっても、心の強さまでは容易に鍛えられない。
現在、冒険者として活動するようになってからも、まだ狂化を使用し続けられる時間は限られている。
「……それ、本当ですか?」
「本当に決まってるだろ……俺をなんだと思ってるんだ」
「何事もそつなくこなすことが出来る猛者かと」
「そうかよ。確かに出来ることは多いが…………心の強さに関しては、よりその人物の素質が大きく関わってくる筈だ。後は……そいつが、生きてきた環境とかな」
アラッドは幼い頃から、他の者が聞けば普通ではないほど、訓練と実戦を繰り返してきた。
ただ、それはアラッドにとって、本当に心の底から楽しさを感じていたからこそ続けられたことであり、本人はその日々を辛いと……苦痛に感じたことは一度もなかった。
故に、学園に入学するまでの十数年という日々で、メンタルまでバキバキに鍛え上げられていた訳ではなかった。
「それがなければ、実際に使って実戦の中で慣れていくしかない」
「…………あれ? アラッドって、そんなに実戦で狂化を使って戦ったことあったっけ?」
話として聞いた内容も含めても、そんなに多くないのでは? と思ったガルーレ。
「……かもしれないな。ただ、今はコツ……ではないが、なんとなく感覚を掴んだ」
実際のところ、その感覚を掴む切っ掛けとなったのは強敵との戦い……ではなく、人為的に起こされたであろう雪崩によってガルーレと分断された際、怒り狂って天を裂いた時であった。
「ともかく、使い慣れてない狂化であれば、ヴァジュラを驚かすことは出来ただろうが、一分もあれば慣れる筈だ」
アラッドの言葉通り、最初こそ狂化を使用したソルの猛攻に驚きを感じたヴァジュラだったが、今ではある程度の動きなどを把握し、その表情に余裕が戻ってきていた。
ヴァジュラはソルの変化を見て……本気で心底驚いた。
「アアアアアアァァアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」
何故なら……変化したソルが放つ殺気は、自分と同様……モンスターに近いそれだった。
そんなヴァジュラが驚くほどの変化を遂げ、凶悪な殺気を放つようなソルが使用したスキルは……なんと、あのアラッドが持っているスキルと同じ、狂化であった。
「ッ!!!!」
「ガッ!!! ァアア゛ア゛ッ!!!!」
「ホッ、ギャ! アキャ……」
何故アラッドの切り札である狂化の存在を、ヴァジュラが知らないのか……それは単に、アラッドがヴァジュラだけではなく、狂化を仲間たちとの模擬戦で使用しないからである。
そのため、狂化を使用した人物との戦いは今回が初めてであり……その衝撃は、ヴァジュラから徐々に余裕を削り取っていた。
「ほぇ~~~~。ソル……いつの間に狂化を会得したの?」
「交流戦の後、Cランクモンスターではありますが、一部の能力はBランクに足を踏み入れているモンスターとソロで戦い、その際に得たようです」
「強敵の戦いで、か…………懐かしいな」
アラッドはかつて、トロール亜種が相棒であるクロが殺されかけたことで、狂化を会得。
当時、何を思ってソルが狂化を会得したのかは知らないが、それでもただの口だけ、態度だけではないところに多少感心したアラッド。
「…………あの、ここまでソルさんが強化を使用しなかったのは、まだ自身に眠る狂気を上手くコントロール出来てないからですか? それとも、アラッドが使うスキルと同じだからですか?」
二つ目の理由に関して、まさかそんな事で? と首を傾げるアラッドとガルーレ。
同僚の心の内を知るフローレンスは、苦笑いを浮かべながらも頷いた。
「スティームさんの考える通り、その両方がここまでソルが狂化を使用しなかった理由です」
「そんな理由で……いや、まぁ…………別にそこまでおかしい理由ではない、か」
アラッドとしては、面倒な絡み方をしてきた者を、適当に言いくるめただけ。
特に悪いことをしている意識はないが、大前提としてソルにとってアラッドは自身の憧れであるフローレンスに対して不遜な態度を取る失礼な輩。
そして初対面で、これでもかという完封負けを食らった。
二対一と、数では有利である状況での完封負けだった。
実力は自分より上だと解ったとしても、結局のところ根っ子であるフローレンスに対して不遜な態度を取っているという部分は変わらないため、やはり良い印象を持つことは出来ない。
そんなところで……普段はそこまで苦戦することがないCランクモンスターを相手に苦戦している自分の弱さに怒りを覚え、結果として狂化のスキルを会得したが…………ソルからすれば、何故あの男が切り札としているスキルなのだと、全くもって素直に喜べなかった。
「えっ! アラッドはその理由に納得出来るの?」
「技術云々ではなく、メンタルの問題だからな……自分自身ですらコントロールするのが難しい部分だ。それに、ソルが俺のことを嫌っている理由はおおよそ予想出来る」
ソルの心の弱さを責めることなく、寧ろ容易に解決出来る問題ではないと一定の理解を示すアラッドを見て、フローレンスと同行している黒狼騎士団のメンバーは、少しアラッドを見る眼が変わった。
「ふ~~~~ん? でもさ、私のペイル・サーベルスはちょっと違うから解んないけど、狂気? をコントロールするのって、結構難しいんじゃないの?」
「そうだな。俺も……何度か飲み込まれそうになったことがある」
いくら転生者という他の者にはないアドバンテージを持つアラッドであっても、心の強さまでは容易に鍛えられない。
現在、冒険者として活動するようになってからも、まだ狂化を使用し続けられる時間は限られている。
「……それ、本当ですか?」
「本当に決まってるだろ……俺をなんだと思ってるんだ」
「何事もそつなくこなすことが出来る猛者かと」
「そうかよ。確かに出来ることは多いが…………心の強さに関しては、よりその人物の素質が大きく関わってくる筈だ。後は……そいつが、生きてきた環境とかな」
アラッドは幼い頃から、他の者が聞けば普通ではないほど、訓練と実戦を繰り返してきた。
ただ、それはアラッドにとって、本当に心の底から楽しさを感じていたからこそ続けられたことであり、本人はその日々を辛いと……苦痛に感じたことは一度もなかった。
故に、学園に入学するまでの十数年という日々で、メンタルまでバキバキに鍛え上げられていた訳ではなかった。
「それがなければ、実際に使って実戦の中で慣れていくしかない」
「…………あれ? アラッドって、そんなに実戦で狂化を使って戦ったことあったっけ?」
話として聞いた内容も含めても、そんなに多くないのでは? と思ったガルーレ。
「……かもしれないな。ただ、今はコツ……ではないが、なんとなく感覚を掴んだ」
実際のところ、その感覚を掴む切っ掛けとなったのは強敵との戦い……ではなく、人為的に起こされたであろう雪崩によってガルーレと分断された際、怒り狂って天を裂いた時であった。
「ともかく、使い慣れてない狂化であれば、ヴァジュラを驚かすことは出来ただろうが、一分もあれば慣れる筈だ」
アラッドの言葉通り、最初こそ狂化を使用したソルの猛攻に驚きを感じたヴァジュラだったが、今ではある程度の動きなどを把握し、その表情に余裕が戻ってきていた。
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