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八百六十五話 クソ猿、楽しむ

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「ウキャ! ウキャキャキャっ!!!」

「こんの、クソ猿がッ!!!!!!!」

ヴァジュラは、アラッドとガルーレからどう戦えば良いか……といった指示は受けていなかった。

そのため、とりあえず対戦相手の二人の人間を殺さない。
それだけを気を付け……後は自分のやりたいように戦っていた。

つまり……ある程度とんでくる攻撃を気を付け、ソルとルーナをからかっていた。

「ソル!! 熱くなり過ぎ!!!」

「ぐッ!!!!」

それでも、後衛であるルーナは司令塔の魔法使いらしく、あまりヴァジュラの小バカにする態度に釣られていなかった。

ソルはルーナの声を受け、前に出過ぎていた、連携を無視した動きをしてしまっていたと反省するも……ヴァジュラは攻めの手を止めたのを良いことに、更に煽り始めた。

「ウッキャッキャ~~~~~~」

「こ、んの、クソ猿ぅぅぅ…………」

ヴァジュラはいわゆる、あっかんべーの表情をした。

モンスターの言葉は解らずとも、表情から自分たちに何を思っているのかは、なんとなく解ってしまう。

冷まそうとしていた頭の温度が直ぐに沸点を越えてしまうも、ソルの頭にはまだ先程相方が伝えてくれた言葉が残っており、大剣を握る力が強まるも……なんとか堪えていた。

「ウキャ~~? ……キャキャ!」

直ぐに熱くなり、突っ込んで来なかったことを不思議に思いながらも、ヴァジュラは牽制代わりに白毛の針を飛ばし始めた。

「そうは、させません!!!!」

ルーナは風属性の巨大な玉を複数生み出し、それでヴァジュラを撃ち抜くのではなく、前衛のソルに影響ない程度の場所で爆散させた。

「っ!? ウキャァ……キャッキャッキャ!!」

白毛の針は一度に飛ばせる数が多いものの、攻撃速度自体はそこまで早いものではない。
そこまで魔力を消費してない風球を利用すれば防げた。

「いつまで笑ってんの、よッ!!!!!!!!」

「ッ!!! ウキャッキャッ!!!」

宙に飛んだソルが大剣に火を纏い、全力で振り下ろす。
だが、ヴァジュラはそれを避けず、得物で棒で受け止めた。

「ホキャ、キャッ!!!!!」

「うぐっ!!!!!」

大剣で押し潰すことに意識が向き過ぎた結果、腹に蹴りを貰ったソル。

ソルにとって、それはやらかしてしまった行動ではなく、寧ろ読めていた。
腹に魔力を多めに纏い腹筋に力を入れていたことで、戦闘不能になるほどのダメージを受けずに済んだ。

ただ、何かしら攻撃が飛んでくること自体はヴァジュラも読めており、左右から迫って来た風槍を棒で弾き飛ばした。

「キャッキャッキャァ……ウキャキャ?」

からかい甲斐があって、尚且つ楽しい戦い。

そう感じたヴァジュラは、二人が今までよりも上のステージについて来れるから試し始めた。

「「ッ!!??」」

それは、棒による高速連続突き。

並みの相手であれば、それだけで敵を制圧出来てしまう。

「こ、こんのッ!!!!」

一撃一撃はそこまで重くないものの、このまま磔状態にされてしまえば、体力と魔力がどんどん削られてしまい、ガス欠に追い込まれてしまう。

だが、ソルは不用意に動けなかった。

二対一という数的には有利であるものの、後衛であるルーナは魔法使い。
狩人タイプの後衛であれば、素早く動きながら狙撃も可能ではあるが、ルーナにはそれが出来ない。

勿論、動きながら魔法を発動することは出来るものの、ソルと完全に二手に分かれて行動し始めた場合、ルーナの機動力ではヴァジュラにとって格好の的になってしまう。

(私が、切り開かないとっ!!!!!!!)

このままでは、自分のせいでソルが戦闘不能になり、結果敗北してしまう。
相棒の足手纏いになってたまるかという思いを爆発させ、ルーナはウィンドランスの上位魔法、ウィンドジャベリンを四つ同時に発動。

「ウキャキャ……キャキャっ!?」

速いが、軌道は読みやすい。
そう思って回避という行動を選択した。

だが、四つの強力な風槍はヴァジュラに回避された後も消えることなく、追尾し続ける。

ここにきて、初めてヴァジュラの表情に焦りが生まれた。



「ほぉ……前も思ったが、あの後衛の魔法使い……ルーナだったか? そこそこ優秀だな」

「あら、アラッドにしては随分と高評価ですね」

「そうか? 別に、正しく評価してるだけだぞ」

放った魔法が避けられたからといって、放置するのではなくそのまま操り続けるのは、一種の魔力操作技術。

当然、操る数、発動した魔法のレベルによって求められるコントロールし続ける技術力の高さが異なる。

「それに対して、あっちの大剣を使う奴は…………前に戦った時と比べて、腕力は上がってるか? その分剣速は上がってるが……今のところ、それだけだな」

大剣を扱う剣士が、より腕力を身に付けて強力な一撃を放てるようにすることは、至極当然。
何もおかしなところはないが、あまりにも普通過ぎる。
そして、その上がり幅もアラッドの想像の域を越えないものであった。

「まぁ、ヴァジュラにとって良い遊び相手にはなるか」

「ふふ…………本当に、そうだと思いますか?」

「あの大剣士に、なにかあるのか? それならそれで、もう少し良い戦いにはなりそうだな」

アラッドはソルとルーナにスティームやガルーレほどの期待は感じていない。

ただ、二人が慕い憧れている人物がフローレンスということもあり、何かが切っ掛けで化けても……そこまで驚くことではなかった。
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