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八百六十三話 威を借りる吠えはダサい

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「げぇ…………」

冒険者ギルドに入って来た一団を見て、後悔を含む声が零した。

「あら」

対して、一団の戦闘を歩いていた人物は、どこか嬉しさを感じさせる声を零した。

「アラッドたちじゃないですか」

「…………なんでお前らがいるんだよ」

アラッドにしては珍しく、目の前の人物に対して不満を隠そうとはせず、言葉も少々雑になっていた。

「騎士団としての任務、としか言えませんね」

アラッドがそんな態度を取ってしまう人物は……フローレンス・カルロスト。

今のところ、この女性騎士しかいない。

「フローレンスさんじゃん。久しぶり~~~」

「久しぶりですね、ガルーレ。スティームさんも、お久しぶりです」

「どうも……それで、フローレンスさんたちが受けた任務とは……」

「えっとですねぇ………………いずれバレるでしょうし、構いませんよね」

後方の人物に確認を取るフローレンス。

「……好きにしろ」

男性騎士はお前の好きなようにしろと口にし、止めようとはしなかった。

「私たちがここに来た目的はアンドーラ山岳に潜むと言われている闇竜の探索と討伐です」

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~」

任務内容を聞いた瞬間、アラッドは大きな大きな……非常に大きなため息を吐いた。

いきなりダルそうに、大きな大きなため息を吐かれては、フローレンスと共に行動している者たちは不快感を感じずにはいられない。
今回も前にフローレンスと共に行動していたソルとルーナもおり、強く拳を握りしめるも……前回の旅で、アラッドという人間が自分たちの尊敬するフローレンスと同じく、常識外の戦闘者であることは痛いほど理解していた。

その為、いきなり突っ掛かるような真似はしなかった。

「なんでお前らも………………チッ!!! そういう事か」

「? どうかしましたか」

「なんでもねぇよ」

雪竜、グレイスから教えてもらった情報から、今後ゴリディア帝国と本格的に戦争を行うことになる際、そちら側に引き込まれるかもしれないドラゴンたちの情報を、アラッドは自国の国王に伝えていた。

国王からすれば、アラッドだけに負担を強いる訳にはいかないと、騎士たちに任務を出して要注意ドラゴンを討伐するように動かす可能性は十分考えられる。

しかも、闇属性のドラゴンであるアンザラムに対して、光魔法を扱い、聖光を纏うに肉体強化スキルを持つフローレンスをぶつけるのは、非常に得策と言える。

「もしかしなくとも、アラッドたちもアンドーラ山岳に潜む闇竜を討伐しに来たのですか?」

「あぁ、そうだよ。完全にプライベートではあるけどな」

あくまで、アラッドはグレイスから情報を貰い、個人的に闇竜アンザラムを討伐しに来た。

フローレンスたちみたいに、上から任務を出されてゴルドスに来たわけではない。

「だったら、今回は引き下がったらどうなの」

あくまで喧嘩口調ではないが……ソルはやや敵意を瞳に宿し、三人に引き下がれと口にした。

「そういうのは、もう少し強くなってから言ってくれ。下手に説教するほど善人じゃないが、虎や竜の威を借りて吠える奴ほど、ダサく見えるぞ」

「なっ!!」

「それと、因みに俺も騎士の爵位は持ってるんだよ」

冒険者としてのアラッドしか知らない人物からすれば意外も意外だが、アラッドは一年生ながら王都の四学園が合同して開催するトーナメントで優勝した功績から、十五歳にして騎士の爵位を国王陛下から授与されている。

「ふふ、アラッド。あまりソルをイジメないであげてください」

「なら、自分よりも実力が上の人間を相手に、下手に咬みつこうとするなってちゃんと教えてやれ」

「そうですね…………一応聞いておきたいのですが、私たちと共に行動するつもりはありますか?」

「「「「「っ!!??」」」」」

「勝手な事を……」

騎士が冒険者に対し、目的が同じであれば共に行動しないか……そう提案することは、稀にある。
稀にあるのだが……基本的に冒険者は騎士のことを良く思っておらず、同じく騎士も冒険者たちのことをあまり良く思ってない。

「バカを言うなっての。俺らが闇竜を討伐するのは、確かに他の目的はあるが、俺らの誰かが楽しめないと……なぁ」

「ん~~……フローレンスさんには悪いけど、一緒に行動するメリットはないかな~~」

「僕達とフローレンスさんたちの戦力合わせてしまうのは、それはそれで勿体ないと思うかな」

「あらら、フラれてしまいましたね」

残念と言いながらも、フローレンスはこうなると解っており、本当に残念そうな表情を浮かべてはいなかった。

「お前はともかく、他の騎士たちは納得してない奴がチラホラいるが……なんなら、訓練場で団体戦でもやるか? この前、うちのパーティーに強くて元気な奴が入ったんでな。数も六対七でわるくないだろ」

「あっ、やっぱりあの大型の猿系モンスターは、アラッドたちの仲間でしたのね」

「ハヌマーンのヴァジュラだ。それで、どうするんだ。本当にやるか? まぁ……クロは反則だから、クロ抜きで戦ることになるが」

「「っ…………」」

明らかに自分たちを下に見ている発言に、ソルとルーナは更に拳を握る強さが増すも、クロという名の従魔がAランクモンスターである事を知っており……下に見ていると同時に、優しさであるのも理解していた。

「アラッド、そんなにいじめないでください。ですが……闇竜と戦う前に、良い刺激を受けときたいですね。もし、今日特に予定がないのであれば、私たちと模擬戦でもしませんか」

フローレンスの提案に、アラッドはそれでも構わないと思い、了承。

ギルドの職員に説明し、クロたちと共に訓練場へ移動した。
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