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八百五十五話 噂が人を呼ぶ
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「アラッド、クロに譲っちゃって良かったの?」
「そういうガルーレも、勝手に俺がクロに戦う権利を譲って良かったのか?」
アラッドたちは少し離れた場所に移動し、既にクロと風竜……ルストの戦いが始まっていた。
「ん~~~~……確かに惜しいって気持ちはある。でも、そういえばここ最近、クロは強い奴と戦えてなかったな~~って思ってさ」
「そうか…………俺も同じことを考えた」
最後のクロが強敵と言える強敵と戦ったのは、轟炎竜との戦い。
その際も、クロ単体ではなく、アラッドとタッグで戦った。
「それにしても、やっぱり人の言葉を喋れるほど知能が高い個体だったね」
「ゴリディア帝国の連中と接触していなくて、本当に幸いだったな」
アラッドが自身の父、暴風竜ボレアスを殺した人間の息子だと知っても、激しい怒りや殺意を向けてくることはなかった。
ただ、それでも人間を殺すことに躊躇いはなく、殺せるなら殺したいという思いは持っている。
そのため、アラッドたちよりも先にゴリディア帝国の者達と接触した場合、ゴリディア帝国に協力し、更にランクを越えた強さを持つワイバーンの数が増えていたかもしれない。
「…………ヴァジュラとの戦いを見て思ったんだけどさ。あのワイバーンたちって、結構冒険者たちを殺してたよね」
「……おそらくな」
「CランクのワイバーンがBランククラスの力を手に入れた。しかも、それが一体だけじゃなくて合計で……四体? もいれば、もっと前から大きな話題にならなかったのかな」
「それは、一理あるな」
Bランククラス……どころではなく、身体能力という要素だけであれば、四体のワイバーンは確実にBランクであった。
「ある程度察しは付くがな」
「マジ?」
「予想出来る範囲の話だが、おそらくあの風竜は、自身も含めてロッサの密林から離れて、他の場所で同じく冒険者……Dランクの上位、Cランクのモンスターを狩っていた」
「あっ……そっか。そういう方法なら……カルトロッサで噂になる可能性が低そうだね。でも、よくそんな方法を思い付くね」
「俺たちより長く生きてれば、強いという噂が人を呼び、殺されたモンスターを何度か耳にする筈だ」
ある一体のモンスターが多くの冒険者、人々を殺せば、当然ながら噂が広がり、挑戦する者が多く現れる。
危険度が高まれば高まるほど、ギルドが懸賞金を用意したり、一定以上の実力を持つ冒険者たちを集め、討伐作戦を行う。
「……最悪の場合、あの風竜もAランクまで成長して、ワイバーンの中からも……Aランククラスのモンスターが現れたかもしれない、ってことだよね」
「その可能背は、否定出来ないだろうな」
「ワイバーンだけじゃなくて、風竜も?」
「あの風竜はただ有効的な狩猟方法を説明しただけじゃなく、それに従わない奴らを実力で叩きのめして、無理矢理従わせただろう……であれば、強くなるワイバーンたちを制御するためには、自身も強くならなければならないことぐらいは解ってる筈だ」
「…………あの風竜、アラッドの言う通り本当にストールの上位に値する戦闘力を持っているね」
以前、風竜ストールとアラッドの兄であるギーラスの激闘を観たことがあるスティームは、その強さをよく覚えている。
アラッドと出会ってから赤雷を会得し、レベルも上がって身体能力は確実に上昇している。
戦闘技術も向上しているが……それでもあの時のストールを相手に、余裕を持って倒せるイメージが湧かない。
以前、ヴァジュラとのガチバトルでなんとか、ギリギリ勝利することが出来たスティーム。
そんなヴァジュラよりストール、ルストの方が確実に強いという訳ではなく、単純にスティームにとっては人型であるヴァジュラの方が戦い易い相手だという話。
それでも、間違いなくヴァジュラに勝利した実力を持つスティームだが……それでも視線の先でクロと生死を懸けた戦いを行っているルストを見て……正直、自分の勝率は五割もないと思った。
(ファルと一緒に戦えたとしても…………それでも、七割に届くかどうか……伊達に竜種ではない、ということだね)
アラッドたちと共に行動している時に遭遇して良かったと、思わざるを得ない。
ただ頭の回る風竜というだけではない。
そんなルストを相手に……クロを楽しげに笑っていた。
ルストはまだBランクの域を越えていないが、それでもBランクの中で最上位の戦闘力を有している。
Aランクモンスターのクロと言えど、攻撃を食らえばノーダメージとはいかない。
「……ねぇ。アラッドのお父さん、フールさんが戦った風竜、暴風竜ボレアスは一対一でフールさんと戦ったんだよね」
「途中からだけどな」
「でも、その子供の風竜は、あんまり自分一人の力だけで戦おうとしないんだね」
「…………どちらが厄介かという話なら、どちらとだと断言は出来ないな」
強大な力を持つ個と、同族をまとめ上げられる力と統率力を持つ個体と多数の同族。
どちらにも別の強さがあるため、アラッドだけではなくそれを理解しているスティームも、どちらの方が厄介だと判断出来なかった。
「何はともあれ、今ここであの風竜を討伐出来て良かった……それは間違いない」
強大な力を持つ個と、それに従う優秀な戦闘力を持つ多数の同族。
敢えて答えを出すのであれば、それらが組み合わさった存在が一番厄介な存在だった。
「そういうガルーレも、勝手に俺がクロに戦う権利を譲って良かったのか?」
アラッドたちは少し離れた場所に移動し、既にクロと風竜……ルストの戦いが始まっていた。
「ん~~~~……確かに惜しいって気持ちはある。でも、そういえばここ最近、クロは強い奴と戦えてなかったな~~って思ってさ」
「そうか…………俺も同じことを考えた」
最後のクロが強敵と言える強敵と戦ったのは、轟炎竜との戦い。
その際も、クロ単体ではなく、アラッドとタッグで戦った。
「それにしても、やっぱり人の言葉を喋れるほど知能が高い個体だったね」
「ゴリディア帝国の連中と接触していなくて、本当に幸いだったな」
アラッドが自身の父、暴風竜ボレアスを殺した人間の息子だと知っても、激しい怒りや殺意を向けてくることはなかった。
ただ、それでも人間を殺すことに躊躇いはなく、殺せるなら殺したいという思いは持っている。
そのため、アラッドたちよりも先にゴリディア帝国の者達と接触した場合、ゴリディア帝国に協力し、更にランクを越えた強さを持つワイバーンの数が増えていたかもしれない。
「…………ヴァジュラとの戦いを見て思ったんだけどさ。あのワイバーンたちって、結構冒険者たちを殺してたよね」
「……おそらくな」
「CランクのワイバーンがBランククラスの力を手に入れた。しかも、それが一体だけじゃなくて合計で……四体? もいれば、もっと前から大きな話題にならなかったのかな」
「それは、一理あるな」
Bランククラス……どころではなく、身体能力という要素だけであれば、四体のワイバーンは確実にBランクであった。
「ある程度察しは付くがな」
「マジ?」
「予想出来る範囲の話だが、おそらくあの風竜は、自身も含めてロッサの密林から離れて、他の場所で同じく冒険者……Dランクの上位、Cランクのモンスターを狩っていた」
「あっ……そっか。そういう方法なら……カルトロッサで噂になる可能性が低そうだね。でも、よくそんな方法を思い付くね」
「俺たちより長く生きてれば、強いという噂が人を呼び、殺されたモンスターを何度か耳にする筈だ」
ある一体のモンスターが多くの冒険者、人々を殺せば、当然ながら噂が広がり、挑戦する者が多く現れる。
危険度が高まれば高まるほど、ギルドが懸賞金を用意したり、一定以上の実力を持つ冒険者たちを集め、討伐作戦を行う。
「……最悪の場合、あの風竜もAランクまで成長して、ワイバーンの中からも……Aランククラスのモンスターが現れたかもしれない、ってことだよね」
「その可能背は、否定出来ないだろうな」
「ワイバーンだけじゃなくて、風竜も?」
「あの風竜はただ有効的な狩猟方法を説明しただけじゃなく、それに従わない奴らを実力で叩きのめして、無理矢理従わせただろう……であれば、強くなるワイバーンたちを制御するためには、自身も強くならなければならないことぐらいは解ってる筈だ」
「…………あの風竜、アラッドの言う通り本当にストールの上位に値する戦闘力を持っているね」
以前、風竜ストールとアラッドの兄であるギーラスの激闘を観たことがあるスティームは、その強さをよく覚えている。
アラッドと出会ってから赤雷を会得し、レベルも上がって身体能力は確実に上昇している。
戦闘技術も向上しているが……それでもあの時のストールを相手に、余裕を持って倒せるイメージが湧かない。
以前、ヴァジュラとのガチバトルでなんとか、ギリギリ勝利することが出来たスティーム。
そんなヴァジュラよりストール、ルストの方が確実に強いという訳ではなく、単純にスティームにとっては人型であるヴァジュラの方が戦い易い相手だという話。
それでも、間違いなくヴァジュラに勝利した実力を持つスティームだが……それでも視線の先でクロと生死を懸けた戦いを行っているルストを見て……正直、自分の勝率は五割もないと思った。
(ファルと一緒に戦えたとしても…………それでも、七割に届くかどうか……伊達に竜種ではない、ということだね)
アラッドたちと共に行動している時に遭遇して良かったと、思わざるを得ない。
ただ頭の回る風竜というだけではない。
そんなルストを相手に……クロを楽しげに笑っていた。
ルストはまだBランクの域を越えていないが、それでもBランクの中で最上位の戦闘力を有している。
Aランクモンスターのクロと言えど、攻撃を食らえばノーダメージとはいかない。
「……ねぇ。アラッドのお父さん、フールさんが戦った風竜、暴風竜ボレアスは一対一でフールさんと戦ったんだよね」
「途中からだけどな」
「でも、その子供の風竜は、あんまり自分一人の力だけで戦おうとしないんだね」
「…………どちらが厄介かという話なら、どちらとだと断言は出来ないな」
強大な力を持つ個と、同族をまとめ上げられる力と統率力を持つ個体と多数の同族。
どちらにも別の強さがあるため、アラッドだけではなくそれを理解しているスティームも、どちらの方が厄介だと判断出来なかった。
「何はともあれ、今ここであの風竜を討伐出来て良かった……それは間違いない」
強大な力を持つ個と、それに従う優秀な戦闘力を持つ多数の同族。
敢えて答えを出すのであれば、それらが組み合わさった存在が一番厄介な存在だった。
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