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八百五十一話 後悔は、ない
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(良かった……それは、失ってないんだな)
アラッドは例のワイバーンが一目散に逃げるのではなく、覚悟を決めて自分に襲い掛かってくる光景を見て、ホッと一安心。
普通は寧ろ背を向けて逃げてくれた方が、ズバッと攻撃を当てて倒しやすいのだが、普通の人間ではないアラッドはそれを望んでいない。
「ギィィィアアアアッ!!!!」
「ふんッ!!!!」
急接近し、鋭い尾撃をお見舞いするワイバーン。
対して、アラッドは鋼鉄の剛剣・改で応戦。
(っ、やはり普通のワイバーンと比べて、肉体的な強さが数段上だな)
モンスターも戦闘経験を積み、人間や同じモンスターを殺すことで強さが増す。
例のワイバーンは冒険者だけではなく、普通にモンスターも狙っていた。
しかも狙っていたのは余裕で討伐出来る個体ではない。
戦い方はヒット&アウェイが殆どではあったが……それでも、本来の戦い方を忘れていなかった。
「ガァアアアアアアッ!!!!!」
「それは、勘弁してくれ!!!!」
上空へ舞い戻ったワイバーンはたっぷりの息を吸い込み、渾身のブレスを吐き出した。
それをアラッドは旋風を纏い、連続で斬撃刃を放ち、事なきをを得た。
アラッドのスピードであれば避けることは珍しくないが、狩りに避けてしまえば、周囲の木々に燃え上がり、一気に森林火災という最悪の災害に繋がってしまう。
一部のモンスター、もしくはゴブリンやコボルトがメイジに進化した個体は魔力をコントロールして消す、もしくは森林火災が起きれば自分たちの住処まで消えてしまうと解っているため、自分の意志で消化することが可能。
ただ……ワイバーンは基本的にそこまで考えておらず、クロは水魔法を使えないため、即座に消化できる方法がない。
「ッ!? ィィイイァアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!」
尾撃が弾かれた、その後に繰り出した爪撃も弾かれ、渾身のブレスも風の斬撃刃によって対処されてしまった。
これで、基本的にワイバーンが使える攻撃は目の前の人間に対処されてしまった。
これが人間であれば、もう自分が敵にダメージを与えられる攻撃はないと諦め、どう上手く逃走するかを考え始めるが…………今、ワイバーンの中の野性が目覚めていた。
ここ最近はブレスを使っていなかったものの、それでも最大火力の一撃であるブレスがかき消されたことに驚きはした……だが、それがどうしたと言わんばかりの激情を迸らせながら襲い掛かる。
(良いぞ、良いぞ!!! それでこそ、ドラゴンだ!!!!!!!!)
野放しになっていては不味い存在。
仲間たちの前で話し、冒険者ギルドのお偉いさんたちに手紙で伝えたその内容に、嘘偽りはない。
ただ、自分が戦うとなればまた別の話。
こんな強敵との戦いを一瞬で終わらせるのは、勿体ない……非常に、勿体ない。
そんなバカな事を考えながら戦っているからこそ、アラッドは得物を変えようとはしなかった。
かつての鋼鉄の剛剣から改へと改良を重ねたが、それでも身体能力や魔力量がBランククラスまで成長しているワイバーンが相手では、やや力不足。
それが解っているからこそ、アラッドは鋼鉄の剛剣・改を使い続ける。
堅い鱗を、牙を、爪を……力だけに頼らず斬り裂く。
そんなある種の舐めプ対応を行っていることなど、ワイバーンは知る由もない。
知ったところで…………この戦いには関係無かった。
「ァァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」
あまり大きな声を出し過ぎれば、目の前の人間の仲間が現れるかもしれない。
人間は、あまり一人で動かない。
知識としてそれは知っていた。
だからこそ、ワイバーンは最近の狩りの最中に殆ど声を荒げ、全力で吼えていなかった。
でも今は……全力で吼えていた。
これまで叫べていなかった分を全て吐き出すかのように、吼えて吼えて吼えまくり……目の前の人間との闘いを楽しんでいた。
「そうか、楽しいか」
「ッ!!!!!!」
「俺も、同じだ」
首に、鋭い痛みが走った。
直ぐに熱さが生まれ、大事な液体が零れだすのが分かる。
重傷を負った。
重傷どころか、致命傷。
これまでみたいに、自身の回復力だけではどうにもならない。
「……戦い方はあれだが、それでも戦ってきたんだな」
「っ………………」
ワイバーンの体には、小さな傷から、明らかに古傷だと分かる傷まで、多くの戦歴が刻まれていた。
それだけで、これまでワイバーンが決して楽ではない戦いを積み重ねてきたことが解る。
「もう一度、伝える。お前と戦えて、楽しかった」
「……………………」
視界がボヤける。
それでも、視界に映る先程まで自分と戦っていた人間は、笑みを浮かべていた。
嗤っているのではない。
モンスターと人間という種族の違いはあれど、その笑みは……自分との戦いに楽しさを感じ、満足したからこそ零れた笑みなのだと解かる。
結果、死んでしまう。
それでも……ワイバーンは目の前の人間と遭遇し、逃走という選択肢を選ばず、本能に従って全力で戦ったことを欠片も後悔しなかった。
アラッドは例のワイバーンが一目散に逃げるのではなく、覚悟を決めて自分に襲い掛かってくる光景を見て、ホッと一安心。
普通は寧ろ背を向けて逃げてくれた方が、ズバッと攻撃を当てて倒しやすいのだが、普通の人間ではないアラッドはそれを望んでいない。
「ギィィィアアアアッ!!!!」
「ふんッ!!!!」
急接近し、鋭い尾撃をお見舞いするワイバーン。
対して、アラッドは鋼鉄の剛剣・改で応戦。
(っ、やはり普通のワイバーンと比べて、肉体的な強さが数段上だな)
モンスターも戦闘経験を積み、人間や同じモンスターを殺すことで強さが増す。
例のワイバーンは冒険者だけではなく、普通にモンスターも狙っていた。
しかも狙っていたのは余裕で討伐出来る個体ではない。
戦い方はヒット&アウェイが殆どではあったが……それでも、本来の戦い方を忘れていなかった。
「ガァアアアアアアッ!!!!!」
「それは、勘弁してくれ!!!!」
上空へ舞い戻ったワイバーンはたっぷりの息を吸い込み、渾身のブレスを吐き出した。
それをアラッドは旋風を纏い、連続で斬撃刃を放ち、事なきをを得た。
アラッドのスピードであれば避けることは珍しくないが、狩りに避けてしまえば、周囲の木々に燃え上がり、一気に森林火災という最悪の災害に繋がってしまう。
一部のモンスター、もしくはゴブリンやコボルトがメイジに進化した個体は魔力をコントロールして消す、もしくは森林火災が起きれば自分たちの住処まで消えてしまうと解っているため、自分の意志で消化することが可能。
ただ……ワイバーンは基本的にそこまで考えておらず、クロは水魔法を使えないため、即座に消化できる方法がない。
「ッ!? ィィイイァアアアアアアア゛ア゛ッ!!!!」
尾撃が弾かれた、その後に繰り出した爪撃も弾かれ、渾身のブレスも風の斬撃刃によって対処されてしまった。
これで、基本的にワイバーンが使える攻撃は目の前の人間に対処されてしまった。
これが人間であれば、もう自分が敵にダメージを与えられる攻撃はないと諦め、どう上手く逃走するかを考え始めるが…………今、ワイバーンの中の野性が目覚めていた。
ここ最近はブレスを使っていなかったものの、それでも最大火力の一撃であるブレスがかき消されたことに驚きはした……だが、それがどうしたと言わんばかりの激情を迸らせながら襲い掛かる。
(良いぞ、良いぞ!!! それでこそ、ドラゴンだ!!!!!!!!)
野放しになっていては不味い存在。
仲間たちの前で話し、冒険者ギルドのお偉いさんたちに手紙で伝えたその内容に、嘘偽りはない。
ただ、自分が戦うとなればまた別の話。
こんな強敵との戦いを一瞬で終わらせるのは、勿体ない……非常に、勿体ない。
そんなバカな事を考えながら戦っているからこそ、アラッドは得物を変えようとはしなかった。
かつての鋼鉄の剛剣から改へと改良を重ねたが、それでも身体能力や魔力量がBランククラスまで成長しているワイバーンが相手では、やや力不足。
それが解っているからこそ、アラッドは鋼鉄の剛剣・改を使い続ける。
堅い鱗を、牙を、爪を……力だけに頼らず斬り裂く。
そんなある種の舐めプ対応を行っていることなど、ワイバーンは知る由もない。
知ったところで…………この戦いには関係無かった。
「ァァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!!!」
あまり大きな声を出し過ぎれば、目の前の人間の仲間が現れるかもしれない。
人間は、あまり一人で動かない。
知識としてそれは知っていた。
だからこそ、ワイバーンは最近の狩りの最中に殆ど声を荒げ、全力で吼えていなかった。
でも今は……全力で吼えていた。
これまで叫べていなかった分を全て吐き出すかのように、吼えて吼えて吼えまくり……目の前の人間との闘いを楽しんでいた。
「そうか、楽しいか」
「ッ!!!!!!」
「俺も、同じだ」
首に、鋭い痛みが走った。
直ぐに熱さが生まれ、大事な液体が零れだすのが分かる。
重傷を負った。
重傷どころか、致命傷。
これまでみたいに、自身の回復力だけではどうにもならない。
「……戦い方はあれだが、それでも戦ってきたんだな」
「っ………………」
ワイバーンの体には、小さな傷から、明らかに古傷だと分かる傷まで、多くの戦歴が刻まれていた。
それだけで、これまでワイバーンが決して楽ではない戦いを積み重ねてきたことが解る。
「もう一度、伝える。お前と戦えて、楽しかった」
「……………………」
視界がボヤける。
それでも、視界に映る先程まで自分と戦っていた人間は、笑みを浮かべていた。
嗤っているのではない。
モンスターと人間という種族の違いはあれど、その笑みは……自分との戦いに楽しさを感じ、満足したからこそ零れた笑みなのだと解かる。
結果、死んでしまう。
それでも……ワイバーンは目の前の人間と遭遇し、逃走という選択肢を選ばず、本能に従って全力で戦ったことを欠片も後悔しなかった。
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