スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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八百四十三話 感激

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「お疲れ様、アラッド」

「お疲れ~~~~。どうだった、楽しめた?」

「あぁ、ある程度不満は解消出来たよ。それより、賭けが行われてたみたいだが、二人は賭けなかったのか?」

「……あっ!!!!」

スティームはアラッド対二十人近くの冒険者たちとの戦いで賭けが行われていたのを知っていた上で、参加しなかった。

だが、ガルーレは単純に気付いていなかった。

「はぁ~~~~……白金貨一枚ぐらいアラッドに賭けとくべきだったかな」

「元締めの取り分がかなり減りそうだな」

ガルーレの落ち込み具合を見て笑っていると、一人の冒険者がアラッドの元に駆けよって来た。

「あ、あの!!!!」

「ん? どうした」

駆けよって来た冒険者はスティームやガルーレとそこまで歳の変わらない青年だった。

表情に負の感情、瞳の奥に嫉妬の炎などがないこともあって、アラッドは特に警戒しなかった。

「どうやったら、あなたみたいに強くなれますか」

自身より強い冒険者に対して尋ねる内容としては、全くおかしな内容ではない。

((うわぁ~~~~、よりによってアラッドに訊くのか~~~~))

スティームとガルーレの心は見事にシンクロした。

よりによって、様々な側面から見て普通ではないアラッドに、それを聞くのかと。

「…………」

対して、アラッドはそんな青年からの問いに対して、直ぐに答えなかった。

適当でそれらしい答えは出てくる。
ただ……目の前の青年からは、真剣さが感じられ……適当に答えたくないと思った。

(…………これが、一番か)

親交がある者からの頼みであれば、この後一杯呑みながら伝えることも出来たが……目の前の青年だけを特別扱いすれば、後から面倒な問題に発展しそうだと思い、なるべく短くまとめた。

「訓練を、実戦を重ね続けるんだ。生まれが貴族……確かにそこに差はあると思うが、俺はバカみたいに武器を振るって、次の日は実戦で行ってきた。その過去があっての、今の俺だ」

「積み重ねが、大事だということですね!!」

「そうだ。今、既に冒険者として活動しているあなたには酷かもしれないが、得られる物をしっかりと感じ取り続ければ、無理ではないと思う」

伝え終えたアラッドは二人と共に今度こそ訓練場から立ち去った。

「………………」

「なんだよ、スティーム。俺の顔になんか付いてるか?」

「いや、そうじゃなくてさ…………アラッドって、やっぱり誰かに何かを教えるのが好きだよね」

「確かに~~~。さっきのアラッド、なんかこう……ザ・先生! って感じがした」

(俺が先生かぁ…………全くもって似合わない気がするな)

褒められているというのは解っているが、それでもぴっちりとした服を着て教壇に立つ自分をイメージするも……あまりにも似合わないと思い、小さく吹き出し笑ってしまった。

「あの人は、純粋に前に進みたいと思ってる感じがしてな。それに…………改めて他人から言われないと、解らない事ってあると思うんだよ」

アラッドが思い出すのは、前世の自分。

特別虐められて苦い思いでしかない訳ではない。
それでも、特別頑張って成果を出した記憶というはなく、強いて言えば高校受験ぐらいの時しかそういった記憶がない。

「時間ってのは、気付いた時には足りないと思って……それでも、どう足掻いても取り戻せないだろ」

「…………アラッドって、やっぱりおじいちゃん?」

「ぅおい。おじいちゃんはないだろ。せめて大人臭いぐらいにしてくれ……おじいちゃんは泣くぞ」

「あっはっは!!! ごめんごめんって。でもあれだね、時間は足りないって気付いた時には、どう足掻いても取り戻せない……まさに真理って感じだね!!!」

ガルーレと同じことを考えており、スティームも同意するように頷く。

「やっぱり、アラッドは教職がある種、転職なのかもしれないね」

「教職……………………いや、やっぱりそれはないな」

アラッドは再び前世の記憶を思い出す。

小学生頃は解らなくとも、高校生にもなれば教職というのがどれだけブラックなのか、どうブラックなのかがある程度解る。

「相手が誰であっても、反発する生徒がいれば力で無理矢理捻じ伏せても良いなら、多少は考えるがな」

「そ、それは……ど、どうなんだろうね?」

「寧ろあれじゃない。手の付けられない問題児とかを上手く更生させられそうじゃない」

「そんな面倒が解り切ってるクラスを持ちたくないな。それに、問題児が物理的に潰されて教師の話を聞かざるを得なくなったとしても、根っこの部分が変わるとは限らないだろ」

「…………アラッドで本当に面倒なことまで考えるね」

アラッドからすれば、特別深く考えてるつもりはない。

ただ……前世で見たニュースなどから思い至った考えというだけであった。

「まぁ、考えることは嫌いじゃないからな。それより、ささっとあいつらを連れて飯を食いに行こう」

ギルドの外で大人しく待っていた三人と合流し、クロたちと共に従魔用のスペースがある酒場へと向かい、三人が中で食べている間、クロたちはそのスペースで夕食を食べていた。

人間の言葉はある程度解っても、まだまだ言葉は解らないヴァジュラに変わってクロたちが適当に従業員にメニューを頼んだ。

「ッ!!!!!!! ウ、キャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

「「「「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」」」」」

あまりの美味さにヴァジュラは感激の声を抑えられず、酒場で食事を食べている者たち、酒場周辺にいる者たちまでその声が届いてしまった。

結果、少々楽観的な考えを持っているガルーレもこれは不味いと思い、ダッシュでヴァジュラの元へ向かった。
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