829 / 1,023
八百二十八話 別ベクトルの恐ろしさ
しおりを挟む
(う~~~ん……中々、近付けないね)
ハヌマーンとの戦闘が始まったスティームは楽し気な笑みを浮かべながらも、現在の戦況に少し困っていた。
「ウキャッキャッキャ!!」
ハヌマーンが操る武器は槍……ではなく棒。
しかし当然ながら、ただの棒ではない。
強度が高いだけではなく、伸縮自在の効果を持つ。
アラッドはチラ見でその光景を見て「マジで孫悟空じゃん」と、心の中で思いっきりツッコんだ。
だが、スティームはその孫悟空という存在は知らないので、心が乱されることはなく、ただ笑みを浮かべながらどのようにして突破すれば良いかを考えていた。
(伸縮自在、本当に、良い効果だね)
伸縮効果を持っているとはいえ、離れた場所にいる敵に攻撃を当てるのであれば、元のサイズから伸ばさなければならない。
そして、それを連続で行うのであれば伸ばして戻す、伸ばして戻すを繰り返す必要がある。
一見……戻すさいに好きが生まれるように思えるが、これがスティームの予想以上に速かった。
(下手に跳んでも、それこそ浮いてるところを狙われる。そこを躱しても……そのまま振り回されて潰される可能性も、ある)
ハヌマーンは毎度同じ位置まで戻してから伸ばしているのではなく、スティームが移動する度に毎回調整している。
「っ! 本当に器用……頭が回る? と言えば良いの、かな」
現在、ハヌマーンはその場から一歩も動いていない。
棒を伸ばすのにわざわざ踏ん張る必要はなく、魔力を纏った脚を振るい、魔力の蹴弾を時折飛ばし始めた。
(普通の攻撃で、これ。加えて、嫌がらせ攻撃も、無視出来ない……あのエルフの細剣士が、逃走を選んだ理由が、良く解る)
まず、並みの突進力がなければ近づくことすら出来ない。
そして棒の伸縮行為に関して、ハヌマーンは一切魔力を消費していない。
下手すれば、遊ばれて終わる可能背が十分にある。
(とりあえず、第一関門を、突破しないとね)
突きは身一つで躱し、スティームは双剣をその場で振るった。
「ホキャッッッッッ!!!!!!!!」
放たれた雷刃は弧を描き、白毛ボス猿の元へと向かった。
高い身体能力、優秀な武器を持っていようと、直撃すれば確実にダメージを負ってしまう攻撃。
普通なら回避、もしくは棒を振り回して防御という選択肢を取る。
だが……ハヌマーンが取った選択肢は、咆哮。
声一つで、スティームが放った雷刃をかき消した。
「凄いね」
「ッ!!!!」
ハヌマーンは雷刃の対処に意識を取られていた間も、棒の連続突きを止めていなかった。
ある程度位置も把握していたため、牽制にしては十分過ぎる。
ただ、スティームはそんじょそこらの双剣士とは速さが違う。
「ウキャキャキャキャッ!!!」
自分の無限連続突きを越えてきた。
追い詰められたと言えなくもない状況にもかかわらず、ハヌマーンは楽し気に笑いながら棒を振るい、迫る双剣を弾いて対処する。
(やっぱり、力では、上回られてるね)
ハヌマーンが再び距離を取ろうとせず、そのまま接近戦を続行するという選択肢を選び、ようやくスティームの攻撃が届く距離での戦いが始まった。
とはいえ、スティームの双剣が届く範囲にハヌマーンがいるとはいえ、寧ろハヌマーンにとって接近戦こそ特異な領域。
遠距離から相手を責め続け、敵の攻撃は自分に届かない……そんな状況も楽しくはある。
なによりからかい甲斐があるが、それを越えて接近戦を仕掛けて来てくれると、それはそれでテンションが上がる。
「ホキャキャッ!!!」
(武器が、完全に手の……延長線にある、といったところかな)
伸縮自在の棒は、接近戦であっても非常に優れている。
いきなり変化するリーチは、相手の虚を突くのに適している。
加えて、槍と違って攻撃個所は一つだけではなく、双剣を扱うスティームの方が一見手数では上回っているように見えても、その攻撃が届くかは別問題。
(堅牢、だね)
攻めるのが得意なのかと思えば、守りも堅い。
(それなら、もっと頑張れば良い話、だよね)
まだハヌマーンの手札を把握はしてない。
それでも、このまま同じような攻め方をするのは不毛な時間と判断し、スティームは超至近距離から雷刃や雷刺を放ち始めた。
「ホキャっ!?」
アラッドやラディアの様に、剣戟を行いながら攻撃魔法を連続で発動するような器用な真似は出来ない。
そこでスティームはわざと前後に動きながら放った雷刃や雷刺を操り、あたかも手数が増えたかのように戦い始めた。
既にハヌマーンも体に魔力を纏っており、本気ではない雷刃や刺突が当たったとしても、肉が抉られて血が流れることはない。
ただ、毛は焦げ……なにより、微量ではあるがダメージは入る。
「ウキャキャッ!!!!!」
再度、目の前の人間に面白さを感じて笑いながら、自身の白毛を針に変えて放った。
(っ!! そういう、嫌らしい攻撃もあるのか……本当に、Bランク?)
迫力、体格……そういった点に関しては、以前遭遇した轟炎竜や木竜、オーアルドラゴンなどには及ばない。
総合的な攻撃力といった点に関してもAランクには及ばないが……異様に対人戦に慣れている。
モンスターの身体能力を持ちながら、人間との戦いに慣れているというある種の恐ろしさを感じ取ったスティームは……それでも尚、笑みを浮かべ続けた。
ハヌマーンとの戦闘が始まったスティームは楽し気な笑みを浮かべながらも、現在の戦況に少し困っていた。
「ウキャッキャッキャ!!」
ハヌマーンが操る武器は槍……ではなく棒。
しかし当然ながら、ただの棒ではない。
強度が高いだけではなく、伸縮自在の効果を持つ。
アラッドはチラ見でその光景を見て「マジで孫悟空じゃん」と、心の中で思いっきりツッコんだ。
だが、スティームはその孫悟空という存在は知らないので、心が乱されることはなく、ただ笑みを浮かべながらどのようにして突破すれば良いかを考えていた。
(伸縮自在、本当に、良い効果だね)
伸縮効果を持っているとはいえ、離れた場所にいる敵に攻撃を当てるのであれば、元のサイズから伸ばさなければならない。
そして、それを連続で行うのであれば伸ばして戻す、伸ばして戻すを繰り返す必要がある。
一見……戻すさいに好きが生まれるように思えるが、これがスティームの予想以上に速かった。
(下手に跳んでも、それこそ浮いてるところを狙われる。そこを躱しても……そのまま振り回されて潰される可能性も、ある)
ハヌマーンは毎度同じ位置まで戻してから伸ばしているのではなく、スティームが移動する度に毎回調整している。
「っ! 本当に器用……頭が回る? と言えば良いの、かな」
現在、ハヌマーンはその場から一歩も動いていない。
棒を伸ばすのにわざわざ踏ん張る必要はなく、魔力を纏った脚を振るい、魔力の蹴弾を時折飛ばし始めた。
(普通の攻撃で、これ。加えて、嫌がらせ攻撃も、無視出来ない……あのエルフの細剣士が、逃走を選んだ理由が、良く解る)
まず、並みの突進力がなければ近づくことすら出来ない。
そして棒の伸縮行為に関して、ハヌマーンは一切魔力を消費していない。
下手すれば、遊ばれて終わる可能背が十分にある。
(とりあえず、第一関門を、突破しないとね)
突きは身一つで躱し、スティームは双剣をその場で振るった。
「ホキャッッッッッ!!!!!!!!」
放たれた雷刃は弧を描き、白毛ボス猿の元へと向かった。
高い身体能力、優秀な武器を持っていようと、直撃すれば確実にダメージを負ってしまう攻撃。
普通なら回避、もしくは棒を振り回して防御という選択肢を取る。
だが……ハヌマーンが取った選択肢は、咆哮。
声一つで、スティームが放った雷刃をかき消した。
「凄いね」
「ッ!!!!」
ハヌマーンは雷刃の対処に意識を取られていた間も、棒の連続突きを止めていなかった。
ある程度位置も把握していたため、牽制にしては十分過ぎる。
ただ、スティームはそんじょそこらの双剣士とは速さが違う。
「ウキャキャキャキャッ!!!」
自分の無限連続突きを越えてきた。
追い詰められたと言えなくもない状況にもかかわらず、ハヌマーンは楽し気に笑いながら棒を振るい、迫る双剣を弾いて対処する。
(やっぱり、力では、上回られてるね)
ハヌマーンが再び距離を取ろうとせず、そのまま接近戦を続行するという選択肢を選び、ようやくスティームの攻撃が届く距離での戦いが始まった。
とはいえ、スティームの双剣が届く範囲にハヌマーンがいるとはいえ、寧ろハヌマーンにとって接近戦こそ特異な領域。
遠距離から相手を責め続け、敵の攻撃は自分に届かない……そんな状況も楽しくはある。
なによりからかい甲斐があるが、それを越えて接近戦を仕掛けて来てくれると、それはそれでテンションが上がる。
「ホキャキャッ!!!」
(武器が、完全に手の……延長線にある、といったところかな)
伸縮自在の棒は、接近戦であっても非常に優れている。
いきなり変化するリーチは、相手の虚を突くのに適している。
加えて、槍と違って攻撃個所は一つだけではなく、双剣を扱うスティームの方が一見手数では上回っているように見えても、その攻撃が届くかは別問題。
(堅牢、だね)
攻めるのが得意なのかと思えば、守りも堅い。
(それなら、もっと頑張れば良い話、だよね)
まだハヌマーンの手札を把握はしてない。
それでも、このまま同じような攻め方をするのは不毛な時間と判断し、スティームは超至近距離から雷刃や雷刺を放ち始めた。
「ホキャっ!?」
アラッドやラディアの様に、剣戟を行いながら攻撃魔法を連続で発動するような器用な真似は出来ない。
そこでスティームはわざと前後に動きながら放った雷刃や雷刺を操り、あたかも手数が増えたかのように戦い始めた。
既にハヌマーンも体に魔力を纏っており、本気ではない雷刃や刺突が当たったとしても、肉が抉られて血が流れることはない。
ただ、毛は焦げ……なにより、微量ではあるがダメージは入る。
「ウキャキャッ!!!!!」
再度、目の前の人間に面白さを感じて笑いながら、自身の白毛を針に変えて放った。
(っ!! そういう、嫌らしい攻撃もあるのか……本当に、Bランク?)
迫力、体格……そういった点に関しては、以前遭遇した轟炎竜や木竜、オーアルドラゴンなどには及ばない。
総合的な攻撃力といった点に関してもAランクには及ばないが……異様に対人戦に慣れている。
モンスターの身体能力を持ちながら、人間との戦いに慣れているというある種の恐ろしさを感じ取ったスティームは……それでも尚、笑みを浮かべ続けた。
630
お気に入りに追加
6,108
あなたにおすすめの小説
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる