スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
813 / 1,044

八百十二話 本当に残念

しおりを挟む
「……先輩、最近あの三人組を見ませんね」

昼過ぎ頃の冒険者ギルド内で働く受付嬢が、ふと思い出したかのように呟いた。

「アラッドさんたちの事ね。そういえば……確かに最近見ないわね」

「また依頼は受けずに、気ままに狩りを行ってるのでしょうか?」

「かもしれないわね」

アラッドたちが街から出て活動する日、三人は必ずしも冒険者ギルドに寄ってはいなかった。

理由は特に珍しくはなく、金に困っていないから。
それをギルド側もある程度把握しており……三人が偶に気ままに狩りを行ない、溜まった素材などを売却しに来ることいった流れも把握していた。

「それが、別の街に移ったのかもしれませんね」

「それは……少し残念ですね」

残念と呟いた受付嬢は、アラッドやスティームといった冒険者として活動しているが、実際は貴族の令息といった玉の輿を狙っていた訳ではなく、純粋に三人が売却しに来る素材に対して有難さを感じていた。

「アラッドさんたち、この寒さでも全く気にせず連日の様に外に出てたらしいですからね」

「防寒対策のマジックアイテムを装備してたらしいけど……それでもってツッコみたくなったわ」

雪原や雪山での探索に慣れている冒険者であっても、一度探索を終えれば最低でも一日……基本的に二日か三日は休日を取りたい。

それほど体力を消費させられる環境であり、探索慣れしているからといって、容易に消費を抑えられるものではない。

「全ての素材を売ってくれてた訳じゃないけど、本当にびっくりするぐらい売却してくれたお陰で、今年もなんとかなりそうね」

基本的に気温が低く、寒い時期は本当に寒くなる。
その為、一定の時機に突入する前に、街全体で備える取り組みを行うのだが……百パーセントと完全に備えられるかと言えば……やや怪しい。

雪山や雪原などを主な生息地とするモンスターの錬金術に使える素材などは、貴重な収入源。
勿論肉などに関しても、全ての冒険者がアイテムバッグやリングを持っているわけではなく……一般的な森、草原などと違ってその場で解体を行うのに向かない環境であるため、丸々持って帰る方が効率が良いのだが、出来るパーティーが限られている。

「当然と言えば当然の事なんでしょうけど……本当に強かったですね、アラッドさんたち」

「そうね。この街を拠点にしてくれないかって、本気で思うぐらいにね」

アラッドたちは討伐したBランクモンスターの素材に関しては、肉などの食べられる物や、アラッドが討伐したモンスターのキャバリオンの素材として使える物などは売却しなかったが、その他の素材に関してはギルドで売却していた。

キャバリオン以外のマジックアイテムを造れるアラッドだが、自分の腕ではまた使いこなせる素材ではないと判断していた。

肉に関しても必要以上に溜め込むことはなく、ある程度は売却しており、ここ最近で一番ギルドに貢献した冒険者たちは誰かと問われれば……受付嬢たちは間違いなくアラッドたちだと答える。

「そう考えると……あの冒険者たち、よくアラッドさんたちの事を嗤えましたね」

以前、アラッドたちがクエストボードを見ながら、目に映ったヘイルタイガーやブリザードパンサーといったモンスターたちと戦ってみたいという言葉に反応し……比較的若い冒険者たちが三人の事を小バカにするように嗤うという事件があった。

事件という言葉を聞いて、大袈裟ではないかとツッコむ者がいるかもしれない。
しかし、ウィラーナの冒険者ギルドの職員たちにとっては、決して笑いごとで済ませる話ではなかった。

「そうね…………彼等の事を良く知らなかったとはいえ、あれは本当に肝が冷えたわ」

アラッドに非はまったくないのだが、結果としてある冒険者をギルドから追放する件に関わったことがある。

冒険者ギルドから見て、アラッドはここ一年と少しの間でいくつもの功績をたたき上げ、かつ侯爵家の令息という……超新星とほんの少しの恐ろしさが混ざった存在。
諸々の事情を考慮すれば、アラッドの一声で冒険者を追放しなければならないと判断するのは……決して冒険者ギルドの早計とは言えない。

「嫉妬するという気持ちは解らなくもないけど、冒険者なのだから……もう少しその辺りを考えて言葉を発してほしいわ」

受付嬢として数年以上の実務経験がある彼女。
容姿は受付嬢らしく整っているが、受付嬢として働き始めた当時……現在は受付嬢たちを纏める立場として働いている上司の美しさに嫉妬した経験がある。

とはいえ、嫉妬したからといってどうこう出来るわけがなく、仕事が出来る者が失われれば、そのしわ寄せが襲い掛かってくるだけ。

基本的に嫌がらせなどをしようとしても、メリットなど欠片もない。
加えて、される側も潰したところで直ぐに使える新人が入ってくるわけでもないため、気にするだけ無駄と判断することが多い。

だが……冒険者たちは、物理的な力がある。
ギルド内で起こる件に関しては口を出せるが、外で起こる事に関しては口を出せず……仮にアラッドたちが裏で嗤った者たちと軽くお話をしたとしても、それはそれで致し方ないと思われるだけ。

「なんだが、今となってはって話ですけど、一度ぐらい死なず……本当の意味で心が折れないぐらいにはボコボコにして貰った方が良かったのではと思います」

「……上手くいく保証はないけれど、同意はするわ」

二人は揃って大きなため息を吐きつつも、上司に怒られない様に真面目に手を動かし続けた。
しおりを挟む
感想 466

あなたにおすすめの小説

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...