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八百十一話 忘れてた可能性
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「…………」
「ボーっとしてどうしたのよ、アラッド」
「送った手紙に関して、少し考えてた」
父親であるフールに手紙を送ってから、約三日。
寒い環境で狩りをし後に食べる温かい飯の美味さに魅了され、まだ留まっていた。
これまで悪天候下であまり戦う機会がなかったアラッドは、雪が降っている状況下での糸の使いにくさなどを学ぶことが出来、ただ美味い料理を食べていただけではなかった。
「まっ、気が重くなる内容よね~~」
「それもあるんだが……本当に戦るとなると、まだ学生の友人が参加する可能性があるんだ」
「以前学園で会ったレイ嬢たちのことだよね」
「そうだ」
アラッド程ぶっ飛んではいないにしろ、二人にとって非常に良い刺激を受けた出会いであり、レイたちの事はしっかり覚えていた。
「並の騎士以上の実力を持ってるから、参加してくれ~って頼まれるってことね」
「まだ学生だから、強制ではないと思うがな。ただ……」
「彼女たちのことを考えると、まず断らないだろうね」
「……やはり、そう思うよな」
以前、ナルターク王国との対抗戦に参加するにあたって、母校に寄った。
その際に久しぶりにレイたちと出会い……別れてからどれほど実力を身に付けたのか、ある程度把握している。
(レイ嬢は、確定だろうな。複数人が相手だろうが、大剣のアームスイングでなぎ倒せる。技術力もあってあの身体能力…………ソロの実力なら、ヴェーラ嬢も全然あり得る。一年生の時と比べて魔法の発動速度も発動しながらの移動速度も上がってた)
アレクや学園長と同じ考えに至っていた。
更に付け加えるのであれば、二人はツーマンセルで戦うことが苦手ではないため、二人が組めば更に安定感が増す。
(連携度なら……ベルたちの参加も十分考えられる………………さすがにアッシュに声がかかるのはないと信じたい)
兄として、まだ中等部の弟が参加することは許容できない。
強い戦力は一つでも必要であることは理解出来るが、それとこれとはまた別である。
「アラッドはお兄さんだから、心配になるよね~」
「……心配し過ぎるのは、レイ嬢たちに失礼、と言いたげな顔だな」
「あら、解ってるじゃん。私は起こるならがっつり参加するつもりだけど、学生には強制力がないんだっけ。それなら逆に、そういう声が掛かったら絶対に参加しようって思うのが……未来の騎士、魔術師候補なんじゃないの」
「良く解ってるじゃないか、ガルーレ」
まさにガルーレの言う通りである。
良い意味で貴族らしい考えを持っているレイとヴェーラにとって、参加の提案を断る理由はどこにもない。
「………………あのさ、レイ嬢たちに声が掛かるなら、ドラング君にも声が掛かるんじゃないかな」
スティームは直接ドラングの戦闘光景は観ていないが、アラッドが参加したトーナメントで二、三年生を倒してアラッド戦える場所まで上り詰めたという話は知っていた。
「うげっ…………それは、不味いな」
すっかりその可能性を忘れていたアラッド。
「ドラング君って、アラッドに負けてばっかりの弟君だけど、世間一般的には十分天才、エリートって呼ばれる部類なんでしょ?」
「そうだな。血筋や才能、強くなることに対する熱意も十分ある。あるんだが……本当に起こると確定すれば、俺が参加するのが解らないほどイノシシではないんだよなぁ……」
どれだけ兄の功績が耳に入ろうとも、ドラングの中で父を越える前にアラッドをぶっ倒すという目標は変っていない。
つまり……トーナメントでの戦いが終わってから既に一年以上も経過しているが、未だにアラッドのことを意識し続けているということ。
「アラッドが参加するなら、アラッドに負けないぐらいの成果を上げようとするかもしれないってこと?」
「そうだ。俺はそこが心配だ」
「参加するにしても学生なら、そこまで重要な場所? には配置されないんじゃないの? そうなったら、そもそもアラッド以上に戦果を上げようとしても無理だと思うのだけど」
「あいつはクソバカではないが…………俺が絡めば、どうなるか解らん」
アラッドがまだブラックウルフの頃のクロを従魔として迎え入れた際、ドラングは父親にドラゴンの卵が欲しいと頼み込んだ。
まだ……まだ幼かったとはいえ、無茶が過ぎるお願いであることは解らなくもない……はず。
「部隊の規則を破って功績を求めに行く感じ? 私、あんまりそういうのは詳しくないけど、罰せられるもんじゃないの」
「部隊を危険に晒す行為だと思うから、普通に止められると思うよ」
「………同じ部隊の人、隊長とかからバカすれば父さんの顔に泥を塗るとか伝えてもらえば…………大丈夫か」
眼の仇にされている側であるアラッドだが、ドラングが自分に対してそういった気持ちを抱いていしまう心を解っているため……命を落とす様なことになれば、当然悲しい。
戦場では、そういった感情はただの我儘であることは解っているものの、出来ればドラングには……もっと言えば、レイたちにもまだ参加してほしくない。
ほんの一瞬だけ、諸々の理由を長々と書いた手紙を母校に送ろうかと思ったが、バレたら友情に亀裂が入り、兄弟仲がぶっちぎりの氷点下まで下がってしまう未来が見えたため、思い留ることに成功。
「ボーっとしてどうしたのよ、アラッド」
「送った手紙に関して、少し考えてた」
父親であるフールに手紙を送ってから、約三日。
寒い環境で狩りをし後に食べる温かい飯の美味さに魅了され、まだ留まっていた。
これまで悪天候下であまり戦う機会がなかったアラッドは、雪が降っている状況下での糸の使いにくさなどを学ぶことが出来、ただ美味い料理を食べていただけではなかった。
「まっ、気が重くなる内容よね~~」
「それもあるんだが……本当に戦るとなると、まだ学生の友人が参加する可能性があるんだ」
「以前学園で会ったレイ嬢たちのことだよね」
「そうだ」
アラッド程ぶっ飛んではいないにしろ、二人にとって非常に良い刺激を受けた出会いであり、レイたちの事はしっかり覚えていた。
「並の騎士以上の実力を持ってるから、参加してくれ~って頼まれるってことね」
「まだ学生だから、強制ではないと思うがな。ただ……」
「彼女たちのことを考えると、まず断らないだろうね」
「……やはり、そう思うよな」
以前、ナルターク王国との対抗戦に参加するにあたって、母校に寄った。
その際に久しぶりにレイたちと出会い……別れてからどれほど実力を身に付けたのか、ある程度把握している。
(レイ嬢は、確定だろうな。複数人が相手だろうが、大剣のアームスイングでなぎ倒せる。技術力もあってあの身体能力…………ソロの実力なら、ヴェーラ嬢も全然あり得る。一年生の時と比べて魔法の発動速度も発動しながらの移動速度も上がってた)
アレクや学園長と同じ考えに至っていた。
更に付け加えるのであれば、二人はツーマンセルで戦うことが苦手ではないため、二人が組めば更に安定感が増す。
(連携度なら……ベルたちの参加も十分考えられる………………さすがにアッシュに声がかかるのはないと信じたい)
兄として、まだ中等部の弟が参加することは許容できない。
強い戦力は一つでも必要であることは理解出来るが、それとこれとはまた別である。
「アラッドはお兄さんだから、心配になるよね~」
「……心配し過ぎるのは、レイ嬢たちに失礼、と言いたげな顔だな」
「あら、解ってるじゃん。私は起こるならがっつり参加するつもりだけど、学生には強制力がないんだっけ。それなら逆に、そういう声が掛かったら絶対に参加しようって思うのが……未来の騎士、魔術師候補なんじゃないの」
「良く解ってるじゃないか、ガルーレ」
まさにガルーレの言う通りである。
良い意味で貴族らしい考えを持っているレイとヴェーラにとって、参加の提案を断る理由はどこにもない。
「………………あのさ、レイ嬢たちに声が掛かるなら、ドラング君にも声が掛かるんじゃないかな」
スティームは直接ドラングの戦闘光景は観ていないが、アラッドが参加したトーナメントで二、三年生を倒してアラッド戦える場所まで上り詰めたという話は知っていた。
「うげっ…………それは、不味いな」
すっかりその可能性を忘れていたアラッド。
「ドラング君って、アラッドに負けてばっかりの弟君だけど、世間一般的には十分天才、エリートって呼ばれる部類なんでしょ?」
「そうだな。血筋や才能、強くなることに対する熱意も十分ある。あるんだが……本当に起こると確定すれば、俺が参加するのが解らないほどイノシシではないんだよなぁ……」
どれだけ兄の功績が耳に入ろうとも、ドラングの中で父を越える前にアラッドをぶっ倒すという目標は変っていない。
つまり……トーナメントでの戦いが終わってから既に一年以上も経過しているが、未だにアラッドのことを意識し続けているということ。
「アラッドが参加するなら、アラッドに負けないぐらいの成果を上げようとするかもしれないってこと?」
「そうだ。俺はそこが心配だ」
「参加するにしても学生なら、そこまで重要な場所? には配置されないんじゃないの? そうなったら、そもそもアラッド以上に戦果を上げようとしても無理だと思うのだけど」
「あいつはクソバカではないが…………俺が絡めば、どうなるか解らん」
アラッドがまだブラックウルフの頃のクロを従魔として迎え入れた際、ドラングは父親にドラゴンの卵が欲しいと頼み込んだ。
まだ……まだ幼かったとはいえ、無茶が過ぎるお願いであることは解らなくもない……はず。
「部隊の規則を破って功績を求めに行く感じ? 私、あんまりそういうのは詳しくないけど、罰せられるもんじゃないの」
「部隊を危険に晒す行為だと思うから、普通に止められると思うよ」
「………同じ部隊の人、隊長とかからバカすれば父さんの顔に泥を塗るとか伝えてもらえば…………大丈夫か」
眼の仇にされている側であるアラッドだが、ドラングが自分に対してそういった気持ちを抱いていしまう心を解っているため……命を落とす様なことになれば、当然悲しい。
戦場では、そういった感情はただの我儘であることは解っているものの、出来ればドラングには……もっと言えば、レイたちにもまだ参加してほしくない。
ほんの一瞬だけ、諸々の理由を長々と書いた手紙を母校に送ろうかと思ったが、バレたら友情に亀裂が入り、兄弟仲がぶっちぎりの氷点下まで下がってしまう未来が見えたため、思い留ることに成功。
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