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八百六話 捕食者
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(……末恐ろしい。今まで出会ってきた冒険者たちの中で、一番その言葉が似合う人間でしたね)
アラッドたちが雪山から去った後、グレイスは目を閉じ……暴風竜ボレアスを討伐した男の息子、アラッドの姿を思い出していた。
パーティーメンバーとして同行しているスティーム、ガルーレもグレイスが出会ってきた人間の中で、上位に入る強さを持っていた。
しかし……その中で、アラッドという青年は完全に別格であった。
(人間…………そう、人間ではあるはず。しかし……彼の姿が鬼人族という種族の人間と被った様な…………いえ、そういった話ではないかもしれませんね)
グレイスはどこかのタイミングで、アラッドが先日狂化を全力で使用し……額の右側に角を生やした姿を、錯覚ではあるものの、見えてしまった。
(鬼……そう、鬼という種、言葉の深淵の姿………………上手く表現するのが難しいですね)
見た目に厳つさはあるものの、他人に悪と解らせる雰囲気や見た目ではない。
加えて、意外にも相手がモンスターであろうとも、会話が出来……相手が心の底から争うことを望んでいないと伝えれば、了承して無理矢理襲い掛かろうとはしない紳士的な態度を取れる。
荒々しい、鬼と呼ぶには少し無理があるとすら思える。
しかし……グレイスはアラッドが本気になった姿を、錯覚ではあるが見てしまい……体が震えることはなかったものの、これまでの竜生の中で感じてきた強者に対する恐れを、アラッドに対して感じた。
(とはいえ、私の様に争うつもりはないと言える個体……昔から彼と上手くやっている個体。そういえば、もう一つ気になる匂いがありましたね。あまり外の情報は知りませんが……アラッドであれば、関わっていてたとしてもおかしくはありませんね)
これまでアラッドが関わってきたドラゴンは最初に鋼竜、オーアルドラゴン。
そして次に元火属性の死竜、ドラゴンゾンビ。
戦ったのは兄であるギーラスだが、暴風竜ボレアスの子、風竜ストール。
同じく戦いはしなかったものの、Aランクの木竜。
火竜が同じ火竜を食らって進化した轟炎竜。
最後に……種族としてはBランクでありながら、Aランクの領域に踏み込んでいる雪竜、グレイスドラゴン。
オーアルドラゴンを除けば、三年と経たない間に五体のドラゴンと関わっている。
「ドラゴンスレイヤー…………いえ、彼は特にドラゴンには拘っている様子はなかった……となれば、捕食者……と言うべきでしょうか」
絶対的な捕食者。
相手がどんな強者であっても関係無く食らうプレデター。
(私たちドラゴンは、彼が理性的な人間であることに感謝しなければなりませんね)
グレイスは当然感謝している。
去り際に斬っても問題無い部分までの尾と鱗、爪をいくつかプレゼントするほどぐらいには感謝していた。
「…………………」
「何難しい顔してんの、アラッド」
夕食時、普段通りもりもりと料理は食べているものの、普段よりも口数が少なくなっていた。
「……少し、考え事をしててな」
「ふ~~~ん? それは私たちにも相談出来ない感じの依頼なの?」
「僕たちはパーティーなんだから、相談ぐらい何時でも乗るよ」
「…………ふふ、ありがとな、二人とも」
二人のお言葉に甘え、アラッドは考え込んでいた内容について語り始めた。
「父さんが、暴風竜ボレアスを倒した。それは二人も知ってるだろ」
「勿論覚えてるわよ」
「そのボレアスの子であるストールが、父さんの息子であるギーラス兄さんを狙った」
正確には二人の故郷である街も狙っていたが、ドラゴンらしからぬチキン竜田なストールは父の仇であるフールではなく、ギーラスを狙った。
「あの戦いは本当に凄かったね。遠目からではあったけど、実際に観れて本当に幸運だったよ……でも、アラッドはそういう話がしたいんじゃないんだよね」
「あぁ、そうだ。おそらく、ボレアスには他にも子がいるだろう。もしかしたら、ボレアスを慕っていた風竜もいるかもしれない……そんな中、ここ最近バカ共が俺たちに仕掛けてきた」
「…………っ、なるほど。そうか、そこに繋がってくるのか」
「??? ねぇ~~、私バカだから私にも解るように教えて~~~」
「フールさんやアラッド、ギーラスさん達に恨みを抱いている可能性がある風属性のドラゴンたち。それと、先日仕掛けてきた連中が属している組織……目的が重なると思わない、ガルーレ」
「目的が重なる…………うげっ!! そういう事?」
基本的に強者との戦闘に関しては、モンスターであろうと人間であろうとウェルカムウェルカムだが、リーダー的な立場の者が抱える苦労が解らないわけではない。
「かもしれない。俺の憶測ではあるが、取引するには互いに悪くない相手だと思ってな」
「……連中は結果的に、竜騎士を増やすってことよね」
「そこまで上手くいくかは分からない。風竜の中にストールほどの知性を持つ個体がいれば、そう簡単に交渉が進むとは限らない。人間と手を組むリスクも考えられる筈だ」
夕食後、アラッドは亜空間から紙を取り出し、一通の手紙を書き始めた。
アラッドたちが雪山から去った後、グレイスは目を閉じ……暴風竜ボレアスを討伐した男の息子、アラッドの姿を思い出していた。
パーティーメンバーとして同行しているスティーム、ガルーレもグレイスが出会ってきた人間の中で、上位に入る強さを持っていた。
しかし……その中で、アラッドという青年は完全に別格であった。
(人間…………そう、人間ではあるはず。しかし……彼の姿が鬼人族という種族の人間と被った様な…………いえ、そういった話ではないかもしれませんね)
グレイスはどこかのタイミングで、アラッドが先日狂化を全力で使用し……額の右側に角を生やした姿を、錯覚ではあるものの、見えてしまった。
(鬼……そう、鬼という種、言葉の深淵の姿………………上手く表現するのが難しいですね)
見た目に厳つさはあるものの、他人に悪と解らせる雰囲気や見た目ではない。
加えて、意外にも相手がモンスターであろうとも、会話が出来……相手が心の底から争うことを望んでいないと伝えれば、了承して無理矢理襲い掛かろうとはしない紳士的な態度を取れる。
荒々しい、鬼と呼ぶには少し無理があるとすら思える。
しかし……グレイスはアラッドが本気になった姿を、錯覚ではあるが見てしまい……体が震えることはなかったものの、これまでの竜生の中で感じてきた強者に対する恐れを、アラッドに対して感じた。
(とはいえ、私の様に争うつもりはないと言える個体……昔から彼と上手くやっている個体。そういえば、もう一つ気になる匂いがありましたね。あまり外の情報は知りませんが……アラッドであれば、関わっていてたとしてもおかしくはありませんね)
これまでアラッドが関わってきたドラゴンは最初に鋼竜、オーアルドラゴン。
そして次に元火属性の死竜、ドラゴンゾンビ。
戦ったのは兄であるギーラスだが、暴風竜ボレアスの子、風竜ストール。
同じく戦いはしなかったものの、Aランクの木竜。
火竜が同じ火竜を食らって進化した轟炎竜。
最後に……種族としてはBランクでありながら、Aランクの領域に踏み込んでいる雪竜、グレイスドラゴン。
オーアルドラゴンを除けば、三年と経たない間に五体のドラゴンと関わっている。
「ドラゴンスレイヤー…………いえ、彼は特にドラゴンには拘っている様子はなかった……となれば、捕食者……と言うべきでしょうか」
絶対的な捕食者。
相手がどんな強者であっても関係無く食らうプレデター。
(私たちドラゴンは、彼が理性的な人間であることに感謝しなければなりませんね)
グレイスは当然感謝している。
去り際に斬っても問題無い部分までの尾と鱗、爪をいくつかプレゼントするほどぐらいには感謝していた。
「…………………」
「何難しい顔してんの、アラッド」
夕食時、普段通りもりもりと料理は食べているものの、普段よりも口数が少なくなっていた。
「……少し、考え事をしててな」
「ふ~~~ん? それは私たちにも相談出来ない感じの依頼なの?」
「僕たちはパーティーなんだから、相談ぐらい何時でも乗るよ」
「…………ふふ、ありがとな、二人とも」
二人のお言葉に甘え、アラッドは考え込んでいた内容について語り始めた。
「父さんが、暴風竜ボレアスを倒した。それは二人も知ってるだろ」
「勿論覚えてるわよ」
「そのボレアスの子であるストールが、父さんの息子であるギーラス兄さんを狙った」
正確には二人の故郷である街も狙っていたが、ドラゴンらしからぬチキン竜田なストールは父の仇であるフールではなく、ギーラスを狙った。
「あの戦いは本当に凄かったね。遠目からではあったけど、実際に観れて本当に幸運だったよ……でも、アラッドはそういう話がしたいんじゃないんだよね」
「あぁ、そうだ。おそらく、ボレアスには他にも子がいるだろう。もしかしたら、ボレアスを慕っていた風竜もいるかもしれない……そんな中、ここ最近バカ共が俺たちに仕掛けてきた」
「…………っ、なるほど。そうか、そこに繋がってくるのか」
「??? ねぇ~~、私バカだから私にも解るように教えて~~~」
「フールさんやアラッド、ギーラスさん達に恨みを抱いている可能性がある風属性のドラゴンたち。それと、先日仕掛けてきた連中が属している組織……目的が重なると思わない、ガルーレ」
「目的が重なる…………うげっ!! そういう事?」
基本的に強者との戦闘に関しては、モンスターであろうと人間であろうとウェルカムウェルカムだが、リーダー的な立場の者が抱える苦労が解らないわけではない。
「かもしれない。俺の憶測ではあるが、取引するには互いに悪くない相手だと思ってな」
「……連中は結果的に、竜騎士を増やすってことよね」
「そこまで上手くいくかは分からない。風竜の中にストールほどの知性を持つ個体がいれば、そう簡単に交渉が進むとは限らない。人間と手を組むリスクも考えられる筈だ」
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