786 / 1,043
七百八十五話 十竜十色
しおりを挟む
「それじゃあ、行ってくるよ。父さん」
「いってらっしゃい。気を付けてな」
アラッドは数日間、情報集めに勤しみ、次の目的地を決めた。
(そういえば、滞在している間に母さんたち帰ってこなかったな……まっ、元気にやってるだろ)
結局アラッドが実家に滞在している間に、いずれ巡ってくる日に備えて実戦訓練へと向かったアリサたちは帰ってこなかった。
息子としては少し心配に思うも、ガルシアたちが傍にいると思えば、その心配もある程度和らぐ。
「…………」
「スティーム、なんて顔してるのよ」
「いや、既にちょっと寒さを感じるのに、これから更に寒い場所へ向かうって……やっぱりおかしいよなと思って」
「えぇ~~~。それ、もう今更でしょ」
ガルーレの言う通り、非常に今更な話である。
ただ、スティームが心配そうな表情を浮かべるのも無理はなかった。
「解ってるよ。解ってるけど……普通の雪竜とは違うらしい雪竜がいるんでしょ」
今回三人と二体が向かう街の名前はウィラーナ。
冬は特に厳しい環境になるものの、街としての発展度は決して低くない都市。
そんな歳へ向かう決定打となったのが……普通ではない雪竜の目撃情報。
「らしいな」
「絶対に挑んでみたいでしょ、アラッド」
スティームの言葉に、ニヤッと……全く笑みを抑えられないのが窺える顔になるアラッド。
ただ、アラッドなりに考えていることがあった。
「機会があればな。場合によっては、挑まない方が得策という考えは頭の片隅に置いてる」
「どうして? 私はてっきり挑む気満々なのかと思ってたけど」
「その普通ではない雪竜がその地域で守り神……とは少し違うかもしれないが、ある意味抑止力的な存在になっているかもしれないだろ」
ドラゴンは生物ピラミッドの頂点に君臨する存在である、暴力の化身とも呼ばれるほど高い戦闘力と闘争心を持っているが……人間と同じく、それぞれに個性がある。
ドラゴンだからといって、全ての個体が人間に危害を加えようと動いてはいない。
「でも、その雪竜に殺された冒険者がいるって情報があったわよね」
「そうだな。けどな、ガルーレ。腕に自信がある冒険者なら、功績を手に入れるチャンスがあると知ってわざわざ見逃すと思うか?」
「あぁ~~~~……そう、ね。確かに涎を垂らしながら見逃すのは無理そうね」
ドラゴンというモンスターの素材は無駄がない。
素材を売りさばけば大金が手に入り、同時にドラゴンスレイヤーという称号が手に入る。
性別に限らず、ドラゴンスレイヤーというのは多くの冒険者たちにとって、憧れの称号。
ガルーレは直ぐに納得し、スティームも「そうなんだよね~~」と何度も頷く。
「あれ? でも……私たちも冒険者よね?」
「そうだな。まぁ、俺の勝手な考えだ。身近にただのんびり過ごしてるドラゴンがいるとな」
「……なるほどね」
オーアルドラゴンの事を思い出し、ガルーレはなんとなくではあるが、アラッドの気持ちが理解出来なくもなかった。
「それなら、アラッドがウィラーナへ行こうと思った決定打はなんなの?」
「寒い季節になれば、普段からそこで動いてる連中にとって、最高のパフォーマンスが出来る時期だろ。それなら、楽しい戦いが出来るかと思ってな」
「な~るほど!! 確かに、それは間違いなさそうね!!!」
雪原、雪山という環境に加えて、その環境で動き慣れているモンスター。
ガルーレにとっても、相手にとって不足なし!!! と思える相手たちである。
「ふぅ~~~。少し、肌寒くなってきたな」
実家を出てから、既に七日が経過していた。
目覚めるのが割と早く、野営に対して不満がないアラッドたちは移動が徒歩とはいえ、他の冒険者たちよりも早いペースで移動していた。
「というか、そろそろ見えてきたな」
既に遠目には雪山が見えており、あと一日か二日あれば目的地に辿り着く。
「あ、当たり前だけど、本当に寒そうだね」
「そういった地域だからな。でも、俺たちは既に準備をしている。そこまで心配する必要はないだろう」
実家を出る前に防寒対策用のマジックアイテムは既に購入済み。
アラッドたちは極寒と呼べる環境でも、ある程度問題無く戦える。
「とりあえず、ウィラーナに着いたら当分の間泊る宿を確保して、まだ時間があれば……やっぱり、戦う為の訓練をしないとな」
「今更訓練?」
「平地、森の中、そういった場所であれば戦い慣れている断言出来る。しかし、雪上では普段との戦闘と勝手が違うだろう」
過去、アラッドは雪の上での戦闘経験は……数度だけあった。
しかし、ほんの数回だけの話。
慣れたと思った頃には意味がなくなっており、特に気にせずとも普段と変わらない動きで戦える程まで、身に染みて身に付いてはいない。
それはアラッドだけではなく、ガルーレやスティームも同じ。
「DランクやCランクのモンスターが相手でも、慣れるまでは注意しながら戦わないと痛い目を見ることになるかもしれない。だから、本当に慣れるまである程度訓練を積もうと思ってる」
つまり、到着してから数日間……もしくは五日間、十日間はがっつり冒険しないことになるかもしれない。
そう思うと到着前から萎えを感じるガルーレ。
だが、アラッドが自分たちの安全を思って提案していることは解るため、異を唱えることはしなかった。
「いってらっしゃい。気を付けてな」
アラッドは数日間、情報集めに勤しみ、次の目的地を決めた。
(そういえば、滞在している間に母さんたち帰ってこなかったな……まっ、元気にやってるだろ)
結局アラッドが実家に滞在している間に、いずれ巡ってくる日に備えて実戦訓練へと向かったアリサたちは帰ってこなかった。
息子としては少し心配に思うも、ガルシアたちが傍にいると思えば、その心配もある程度和らぐ。
「…………」
「スティーム、なんて顔してるのよ」
「いや、既にちょっと寒さを感じるのに、これから更に寒い場所へ向かうって……やっぱりおかしいよなと思って」
「えぇ~~~。それ、もう今更でしょ」
ガルーレの言う通り、非常に今更な話である。
ただ、スティームが心配そうな表情を浮かべるのも無理はなかった。
「解ってるよ。解ってるけど……普通の雪竜とは違うらしい雪竜がいるんでしょ」
今回三人と二体が向かう街の名前はウィラーナ。
冬は特に厳しい環境になるものの、街としての発展度は決して低くない都市。
そんな歳へ向かう決定打となったのが……普通ではない雪竜の目撃情報。
「らしいな」
「絶対に挑んでみたいでしょ、アラッド」
スティームの言葉に、ニヤッと……全く笑みを抑えられないのが窺える顔になるアラッド。
ただ、アラッドなりに考えていることがあった。
「機会があればな。場合によっては、挑まない方が得策という考えは頭の片隅に置いてる」
「どうして? 私はてっきり挑む気満々なのかと思ってたけど」
「その普通ではない雪竜がその地域で守り神……とは少し違うかもしれないが、ある意味抑止力的な存在になっているかもしれないだろ」
ドラゴンは生物ピラミッドの頂点に君臨する存在である、暴力の化身とも呼ばれるほど高い戦闘力と闘争心を持っているが……人間と同じく、それぞれに個性がある。
ドラゴンだからといって、全ての個体が人間に危害を加えようと動いてはいない。
「でも、その雪竜に殺された冒険者がいるって情報があったわよね」
「そうだな。けどな、ガルーレ。腕に自信がある冒険者なら、功績を手に入れるチャンスがあると知ってわざわざ見逃すと思うか?」
「あぁ~~~~……そう、ね。確かに涎を垂らしながら見逃すのは無理そうね」
ドラゴンというモンスターの素材は無駄がない。
素材を売りさばけば大金が手に入り、同時にドラゴンスレイヤーという称号が手に入る。
性別に限らず、ドラゴンスレイヤーというのは多くの冒険者たちにとって、憧れの称号。
ガルーレは直ぐに納得し、スティームも「そうなんだよね~~」と何度も頷く。
「あれ? でも……私たちも冒険者よね?」
「そうだな。まぁ、俺の勝手な考えだ。身近にただのんびり過ごしてるドラゴンがいるとな」
「……なるほどね」
オーアルドラゴンの事を思い出し、ガルーレはなんとなくではあるが、アラッドの気持ちが理解出来なくもなかった。
「それなら、アラッドがウィラーナへ行こうと思った決定打はなんなの?」
「寒い季節になれば、普段からそこで動いてる連中にとって、最高のパフォーマンスが出来る時期だろ。それなら、楽しい戦いが出来るかと思ってな」
「な~るほど!! 確かに、それは間違いなさそうね!!!」
雪原、雪山という環境に加えて、その環境で動き慣れているモンスター。
ガルーレにとっても、相手にとって不足なし!!! と思える相手たちである。
「ふぅ~~~。少し、肌寒くなってきたな」
実家を出てから、既に七日が経過していた。
目覚めるのが割と早く、野営に対して不満がないアラッドたちは移動が徒歩とはいえ、他の冒険者たちよりも早いペースで移動していた。
「というか、そろそろ見えてきたな」
既に遠目には雪山が見えており、あと一日か二日あれば目的地に辿り着く。
「あ、当たり前だけど、本当に寒そうだね」
「そういった地域だからな。でも、俺たちは既に準備をしている。そこまで心配する必要はないだろう」
実家を出る前に防寒対策用のマジックアイテムは既に購入済み。
アラッドたちは極寒と呼べる環境でも、ある程度問題無く戦える。
「とりあえず、ウィラーナに着いたら当分の間泊る宿を確保して、まだ時間があれば……やっぱり、戦う為の訓練をしないとな」
「今更訓練?」
「平地、森の中、そういった場所であれば戦い慣れている断言出来る。しかし、雪上では普段との戦闘と勝手が違うだろう」
過去、アラッドは雪の上での戦闘経験は……数度だけあった。
しかし、ほんの数回だけの話。
慣れたと思った頃には意味がなくなっており、特に気にせずとも普段と変わらない動きで戦える程まで、身に染みて身に付いてはいない。
それはアラッドだけではなく、ガルーレやスティームも同じ。
「DランクやCランクのモンスターが相手でも、慣れるまでは注意しながら戦わないと痛い目を見ることになるかもしれない。だから、本当に慣れるまである程度訓練を積もうと思ってる」
つまり、到着してから数日間……もしくは五日間、十日間はがっつり冒険しないことになるかもしれない。
そう思うと到着前から萎えを感じるガルーレ。
だが、アラッドが自分たちの安全を思って提案していることは解るため、異を唱えることはしなかった。
689
お気に入りに追加
6,130
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる