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七百八十五話 十竜十色
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「それじゃあ、行ってくるよ。父さん」
「いってらっしゃい。気を付けてな」
アラッドは数日間、情報集めに勤しみ、次の目的地を決めた。
(そういえば、滞在している間に母さんたち帰ってこなかったな……まっ、元気にやってるだろ)
結局アラッドが実家に滞在している間に、いずれ巡ってくる日に備えて実戦訓練へと向かったアリサたちは帰ってこなかった。
息子としては少し心配に思うも、ガルシアたちが傍にいると思えば、その心配もある程度和らぐ。
「…………」
「スティーム、なんて顔してるのよ」
「いや、既にちょっと寒さを感じるのに、これから更に寒い場所へ向かうって……やっぱりおかしいよなと思って」
「えぇ~~~。それ、もう今更でしょ」
ガルーレの言う通り、非常に今更な話である。
ただ、スティームが心配そうな表情を浮かべるのも無理はなかった。
「解ってるよ。解ってるけど……普通の雪竜とは違うらしい雪竜がいるんでしょ」
今回三人と二体が向かう街の名前はウィラーナ。
冬は特に厳しい環境になるものの、街としての発展度は決して低くない都市。
そんな歳へ向かう決定打となったのが……普通ではない雪竜の目撃情報。
「らしいな」
「絶対に挑んでみたいでしょ、アラッド」
スティームの言葉に、ニヤッと……全く笑みを抑えられないのが窺える顔になるアラッド。
ただ、アラッドなりに考えていることがあった。
「機会があればな。場合によっては、挑まない方が得策という考えは頭の片隅に置いてる」
「どうして? 私はてっきり挑む気満々なのかと思ってたけど」
「その普通ではない雪竜がその地域で守り神……とは少し違うかもしれないが、ある意味抑止力的な存在になっているかもしれないだろ」
ドラゴンは生物ピラミッドの頂点に君臨する存在である、暴力の化身とも呼ばれるほど高い戦闘力と闘争心を持っているが……人間と同じく、それぞれに個性がある。
ドラゴンだからといって、全ての個体が人間に危害を加えようと動いてはいない。
「でも、その雪竜に殺された冒険者がいるって情報があったわよね」
「そうだな。けどな、ガルーレ。腕に自信がある冒険者なら、功績を手に入れるチャンスがあると知ってわざわざ見逃すと思うか?」
「あぁ~~~~……そう、ね。確かに涎を垂らしながら見逃すのは無理そうね」
ドラゴンというモンスターの素材は無駄がない。
素材を売りさばけば大金が手に入り、同時にドラゴンスレイヤーという称号が手に入る。
性別に限らず、ドラゴンスレイヤーというのは多くの冒険者たちにとって、憧れの称号。
ガルーレは直ぐに納得し、スティームも「そうなんだよね~~」と何度も頷く。
「あれ? でも……私たちも冒険者よね?」
「そうだな。まぁ、俺の勝手な考えだ。身近にただのんびり過ごしてるドラゴンがいるとな」
「……なるほどね」
オーアルドラゴンの事を思い出し、ガルーレはなんとなくではあるが、アラッドの気持ちが理解出来なくもなかった。
「それなら、アラッドがウィラーナへ行こうと思った決定打はなんなの?」
「寒い季節になれば、普段からそこで動いてる連中にとって、最高のパフォーマンスが出来る時期だろ。それなら、楽しい戦いが出来るかと思ってな」
「な~るほど!! 確かに、それは間違いなさそうね!!!」
雪原、雪山という環境に加えて、その環境で動き慣れているモンスター。
ガルーレにとっても、相手にとって不足なし!!! と思える相手たちである。
「ふぅ~~~。少し、肌寒くなってきたな」
実家を出てから、既に七日が経過していた。
目覚めるのが割と早く、野営に対して不満がないアラッドたちは移動が徒歩とはいえ、他の冒険者たちよりも早いペースで移動していた。
「というか、そろそろ見えてきたな」
既に遠目には雪山が見えており、あと一日か二日あれば目的地に辿り着く。
「あ、当たり前だけど、本当に寒そうだね」
「そういった地域だからな。でも、俺たちは既に準備をしている。そこまで心配する必要はないだろう」
実家を出る前に防寒対策用のマジックアイテムは既に購入済み。
アラッドたちは極寒と呼べる環境でも、ある程度問題無く戦える。
「とりあえず、ウィラーナに着いたら当分の間泊る宿を確保して、まだ時間があれば……やっぱり、戦う為の訓練をしないとな」
「今更訓練?」
「平地、森の中、そういった場所であれば戦い慣れている断言出来る。しかし、雪上では普段との戦闘と勝手が違うだろう」
過去、アラッドは雪の上での戦闘経験は……数度だけあった。
しかし、ほんの数回だけの話。
慣れたと思った頃には意味がなくなっており、特に気にせずとも普段と変わらない動きで戦える程まで、身に染みて身に付いてはいない。
それはアラッドだけではなく、ガルーレやスティームも同じ。
「DランクやCランクのモンスターが相手でも、慣れるまでは注意しながら戦わないと痛い目を見ることになるかもしれない。だから、本当に慣れるまである程度訓練を積もうと思ってる」
つまり、到着してから数日間……もしくは五日間、十日間はがっつり冒険しないことになるかもしれない。
そう思うと到着前から萎えを感じるガルーレ。
だが、アラッドが自分たちの安全を思って提案していることは解るため、異を唱えることはしなかった。
「いってらっしゃい。気を付けてな」
アラッドは数日間、情報集めに勤しみ、次の目的地を決めた。
(そういえば、滞在している間に母さんたち帰ってこなかったな……まっ、元気にやってるだろ)
結局アラッドが実家に滞在している間に、いずれ巡ってくる日に備えて実戦訓練へと向かったアリサたちは帰ってこなかった。
息子としては少し心配に思うも、ガルシアたちが傍にいると思えば、その心配もある程度和らぐ。
「…………」
「スティーム、なんて顔してるのよ」
「いや、既にちょっと寒さを感じるのに、これから更に寒い場所へ向かうって……やっぱりおかしいよなと思って」
「えぇ~~~。それ、もう今更でしょ」
ガルーレの言う通り、非常に今更な話である。
ただ、スティームが心配そうな表情を浮かべるのも無理はなかった。
「解ってるよ。解ってるけど……普通の雪竜とは違うらしい雪竜がいるんでしょ」
今回三人と二体が向かう街の名前はウィラーナ。
冬は特に厳しい環境になるものの、街としての発展度は決して低くない都市。
そんな歳へ向かう決定打となったのが……普通ではない雪竜の目撃情報。
「らしいな」
「絶対に挑んでみたいでしょ、アラッド」
スティームの言葉に、ニヤッと……全く笑みを抑えられないのが窺える顔になるアラッド。
ただ、アラッドなりに考えていることがあった。
「機会があればな。場合によっては、挑まない方が得策という考えは頭の片隅に置いてる」
「どうして? 私はてっきり挑む気満々なのかと思ってたけど」
「その普通ではない雪竜がその地域で守り神……とは少し違うかもしれないが、ある意味抑止力的な存在になっているかもしれないだろ」
ドラゴンは生物ピラミッドの頂点に君臨する存在である、暴力の化身とも呼ばれるほど高い戦闘力と闘争心を持っているが……人間と同じく、それぞれに個性がある。
ドラゴンだからといって、全ての個体が人間に危害を加えようと動いてはいない。
「でも、その雪竜に殺された冒険者がいるって情報があったわよね」
「そうだな。けどな、ガルーレ。腕に自信がある冒険者なら、功績を手に入れるチャンスがあると知ってわざわざ見逃すと思うか?」
「あぁ~~~~……そう、ね。確かに涎を垂らしながら見逃すのは無理そうね」
ドラゴンというモンスターの素材は無駄がない。
素材を売りさばけば大金が手に入り、同時にドラゴンスレイヤーという称号が手に入る。
性別に限らず、ドラゴンスレイヤーというのは多くの冒険者たちにとって、憧れの称号。
ガルーレは直ぐに納得し、スティームも「そうなんだよね~~」と何度も頷く。
「あれ? でも……私たちも冒険者よね?」
「そうだな。まぁ、俺の勝手な考えだ。身近にただのんびり過ごしてるドラゴンがいるとな」
「……なるほどね」
オーアルドラゴンの事を思い出し、ガルーレはなんとなくではあるが、アラッドの気持ちが理解出来なくもなかった。
「それなら、アラッドがウィラーナへ行こうと思った決定打はなんなの?」
「寒い季節になれば、普段からそこで動いてる連中にとって、最高のパフォーマンスが出来る時期だろ。それなら、楽しい戦いが出来るかと思ってな」
「な~るほど!! 確かに、それは間違いなさそうね!!!」
雪原、雪山という環境に加えて、その環境で動き慣れているモンスター。
ガルーレにとっても、相手にとって不足なし!!! と思える相手たちである。
「ふぅ~~~。少し、肌寒くなってきたな」
実家を出てから、既に七日が経過していた。
目覚めるのが割と早く、野営に対して不満がないアラッドたちは移動が徒歩とはいえ、他の冒険者たちよりも早いペースで移動していた。
「というか、そろそろ見えてきたな」
既に遠目には雪山が見えており、あと一日か二日あれば目的地に辿り着く。
「あ、当たり前だけど、本当に寒そうだね」
「そういった地域だからな。でも、俺たちは既に準備をしている。そこまで心配する必要はないだろう」
実家を出る前に防寒対策用のマジックアイテムは既に購入済み。
アラッドたちは極寒と呼べる環境でも、ある程度問題無く戦える。
「とりあえず、ウィラーナに着いたら当分の間泊る宿を確保して、まだ時間があれば……やっぱり、戦う為の訓練をしないとな」
「今更訓練?」
「平地、森の中、そういった場所であれば戦い慣れている断言出来る。しかし、雪上では普段との戦闘と勝手が違うだろう」
過去、アラッドは雪の上での戦闘経験は……数度だけあった。
しかし、ほんの数回だけの話。
慣れたと思った頃には意味がなくなっており、特に気にせずとも普段と変わらない動きで戦える程まで、身に染みて身に付いてはいない。
それはアラッドだけではなく、ガルーレやスティームも同じ。
「DランクやCランクのモンスターが相手でも、慣れるまでは注意しながら戦わないと痛い目を見ることになるかもしれない。だから、本当に慣れるまである程度訓練を積もうと思ってる」
つまり、到着してから数日間……もしくは五日間、十日間はがっつり冒険しないことになるかもしれない。
そう思うと到着前から萎えを感じるガルーレ。
だが、アラッドが自分たちの安全を思って提案していることは解るため、異を唱えることはしなかった。
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