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七百八十四話 どちらの方が恐ろしい?

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「ねぇ、アラッド兄さん」

「ん? なんだ」

「今度は何処に冒険に行くんですか」

討伐戦に関わるつもりはなかった。
しかし、偶々……本当に偶然、パラライズタラテクトの討伐戦にほんの少しだけ関わってしまった日から数か月……アラッドは実家でゆるりゆるりと過ごし続けていた。

「そう、だな…………確かに、そろそろ冒険に出たくはある、な」

孤児院の子供たちは、アラッドに対してニート的な存在と捉えている訳ではない。

勿論、このままずっと屋敷に居てくれるのであれば、それはそれで非常に嬉しい。
ただ……アラッドが体験してきた冒険譚を聞くのが大好きなため、やはり冒険していてこそ自分たちの恩人!!! といった思いを持っていた。

それに対して、アラッドも少し考えていたことがあった。

(それに……そろそろ、あいつの相手に相応しい敵と戦ってみたい)

あいつ、とはナルターク王国に代表戦で訪れた際に……自分が買い手を選んだ武器、羅刹。

実家で悠々自適な生活を送っている中、羅刹を使ったモンスターを討伐する機会は何度かあった。
自分が全力になれる……討伐すべき相手でない限り、鞘から出ることはない!!! といった頑固な意志を持っているなんて事はなく、素直に持ち手として選んだアラッドに従っている。

剛柔に関しては、これまで通り三人とも自分の武器ではなく、三人共通の武器という認識が続いている。
因みに……フールや騎士たちも英雄、エルス・エスペラーサの事は当然知っており、かつての英雄が使用していた剛柔を見て……童心に帰ったかのように眼を輝かせながら魅入っていた。


「という訳で、どこか冒険に行きたい場所はあるか」

アラッドの自室に集まった三人。
クロとファルに関しては孤児院の子供たちと戯れ中。

「確かに、良い感じにリフレッシュ出来たって感じだったわね~。三食美味しいご飯が食べられて、強い人達と何度も何度も模擬戦が出来て……まさに理想の引退後生活って感じだわ」

引退してもまだ戦うのか? と普通の人ならツッコむところだが、二人はもうガルーレはそういう人間なのだと理解しているため、特にツッコまなかった。

「どこか行きたいところ、か…………僕としては、二人と一緒に冒険してれば、退屈するようなことはなさそうだから、何処に行っても刺激的な冒険が出来ると思ってるよ」

「……とにかく、予定を決めて行こうと思う」

それは俺とガルーレが問題を起こす爆弾なのかと苦言を呈したいところではあったが、振り返ればそういった部分が絶対にないとは言えなかった。

「ん~~~~……やっぱり、私は別に特にここっ!!! って場所はあまりないかな~~」

「…………僕も、今のところガルーレと同じかな。さっき言った通り、何処に行っても刺激的な冒険になることに変わりはないと思うから」

(……二人とも、考えるのが面倒って訳じゃないんだろうな)

思考を停止して答えてるわけではないことは解る。

とはいえ、アラッドとしても……ぶっちゃけた話二人と似た様な考えなため、これといった案が中々浮かばない。

(今個人的にある考えとしては、羅刹を振るうに相応しい敵と戦ってみたい……だけんなんだよな)

どうしようかと悩みながら窓の外に目を向けると……ふと、妙案が浮かんだ。

「そういえば、これから寒くなるよな」

「? そうね。場所にもよるけど、これからは比較的寒い時期になるわね」

「………………どうせなら、寒い場所に行ってみるか」

アルバース王国に四季は一応存在する。
しかし、冬と言える時期は……日本の冬ほど寒くなることはない。

ただ……地域によっては、鬼の様に寒い地域も存在する。

「あ、アラッド……何を、考えてるの?」

「別に、特に何も難しいことは考えてないぞ。寒い季節が訪れて来た……だから、寒い場所に冒険に行ってみよう、っというだけだ」

アホである。

その地域で活動している冒険者であればともかく、地域外で活動している冒険者たちが、わざわざ全体的に寒くなっ時期を狙って寒い地域に向かうなど……ただの修行僧。

「そんなにビビる必要はないだろう。マジックアイテムを装備してれば、寒さは凌げる」

「そういう時期に行くからこそ、面白そうな存在にも出会えそうね」

「ふふ、そういう事だ。まぁ……雪崩が少し怖くはあるが、思いっ切り攻撃すればなんとかなるだろ」

超人的な戦闘力を持つ冒険者であっても恐ろしい自然災害、雪崩。

(雪崩……話だけしか聞いたことがないけど、人もモンスター……木々も全てのみ込む雪の災害、だっけ)

この世界には映像という技術が殆どなく、生で見た者にしか正確に解らない情報は大量にある。

(…………あ、アラッドやクロが本気で攻撃して対応しようとしたら、逆に雪崩の先にある山が崩壊したり……し、しないよね?)

ただ、実力を知っている以上、聞いたことがある自然災害よりも、仲間が放つ全力の攻撃の方が恐ろしいと感じてしまっていた。

しかし……一撃、一撃だけであれば……パーティー内では、スティームの赤雷を使用した専用技、万雷が間違いなく一番恐ろしい攻撃なのだが……本人はまだそれに気付けていなかった。
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