774 / 1,058
七百七十三話 頼もしい姿
しおりを挟む
「ふっふっふ。どちらにしろ、お前たちが本気を出せば、討伐不可能ということはないだろう。クロもいることだしな」
「ワゥっ!!!」
任せて! と元気良く吠えるアラッドの相棒。
「ねぇ、アラッド。本当にスパイダーからタラテクトに進化したであろうモンスターと、糸で戦わないのかい?」
屋敷へと続く通路の道中、スティームもガルーレと同じ言葉を投げた。
「なんだ、スティームまで糸を使った俺とタラテクトの勝負を見たいのか?」
「ガルーレほどではないけど、珍しいなと思ってね」
糸と糸では、他の武器同士を使った戦いよりも盛り上がらない、比べられない。
そういった気持ちが解らなくはないが、それでも珍しいと思う気持ちの方が大きかった。
「……俺にとって、糸は確かにバカにされれば、屈辱を味合わせたくなるほど頼れる力だ。ただ……他の武器と比べて、ライバルと言える存在がいないだろう」
「ら、ライバル、か。それはまぁそうだろうね」
長剣、短剣、槍、斧等と比べてまず使う者がおらず、せいぜい暗殺者が使う程度の武器。
貴族の者が使うことはまずなく、アラッドの実家に仕える騎士たちの中にも使用する者は一人もいない。
「だからか、特に張り合おうという気持ちが湧いて来なくてな」
では、せっかくライバルと言えるかもしれない敵がいるのであれば、尚更挑もうという気持ちが湧かないのか!? と言いたかったガルーレ。
しかし、アラッドの表情から……これ以上同じ事を言えばイラつかせてしまうと確信し、口には出さなかった。
「とりあえず、ギルドに伝えておくか」
自分たちで討伐しても良いが、一応冒険者ギルドに報告しておくべきだろう。
そう思ったアラッドは屋敷に戻り、そのままギルドへ直行。
受付嬢に話を伝えるが……実は、既にここ最近、スパイダー系のモンスターの姿が多く確認されていた。
「……マジですか」
「え、えぇ。そうなんですよ。ギルドの方でも、実はタラテクトクラスのモンスターが潜んでいるのではないかという話が出ていて」
「被害の方は」
「今のところ死者は出ていません。しかし、状況次第では特にルーキーたちの身が危なくなるかと」
蜘蛛系のモンスターの武器は糸だけではなく、毒液や麻痺液といった状態異常系の攻撃といった、嫌らしいものもある。
状態異常を治すポーションは傷を治すポーションよりもやや高く、確実に回復魔法のスキルを会得してる者でなければ治せない。
故に、ルーキーたちにとってはこの上なく厄介なモンスターである。
「おい、アラッド。何をそんな心配してんだよ」
「タラテクトクラスのモンスターが潜んでいるかもしれないとなると、心配しるなというのは無理な話かと」
声を掛けてきたのは、顔見知りの冒険者の一人。
「まっ、それもそうか。けどな、アラッド。できれば今回の件は、俺たちだけで解決したいと思ってるんだよ」
「…………理由を聞いても良いですか」
嫌だ、俺たちが倒す、別にモンスターを倒すのに予約制なんてないだろ……といった言葉を吐かず、一旦顔見知りの考えを聞くことにした。
「簡単な話だ。ヤベぇ、強ぇモンスターが現れたからつって、お前に頼るのは情けないだろ」
幼い頃ならまだしも、今のアラッドは自分たちよりも数段強い。
それは彼も解っていた。
起こってしまう被害を考えれば、アラッドたちに討伐してもらった方が良いのは、考えなくても解る事である。
「いざとなればアラッドに頼れば、領主が出てくれれば一発で解決……ってのはよ、俺らのプライド的にはちょっとな」
「解らなくはないですが」
「勿論あれだぜ、どうしようもねぇってなったら、頼らせてもらうことになる。情けなねぇけど、そこまで意地は張れねぇ」
男はただ暴走して「俺たちだけでなんとかしてみせるぜ!!!」と言ってる訳ではなく、最低限のリスクは考えている。
「でもな、自分たちで何もせず最初っからお前らを頼るのは、それ以上に情けねぇしダセぇだろ」
情けない、ダサい。
そういった感情が理由でリスクに突っ込んでほしくないという思いは……あるにはある。
しかし、アラッドも冒険者であり……そして男。
(……はぁ~~~~~~~。どうやら、この先輩だけの意見って訳じゃなさそうだな)
全員が全員、アラッドの顔見知り冒険者と同じ意見という訳ではない。
「…………分かりました。十分注意して、対策を立てて挑んでくださいよ」
「おぅよ。まっ、実はタラテクトの一歩手前ぐらいのレベルが一番ありがてぇんだけどな。なっはっは!!!!」
強腰なのか弱腰なのか解らない先輩の様子に……アラッドは小さく笑みを零し、伝えたいことは伝えたのでギルドから出た。
(あそこまで言わせて、あんな覚悟の決まった顔をされたら、やっぱり俺たちが……なんて言えないな)
生き残ってこそ冒険者。
それが彼等にとって最優先事項なのは間違いない。
だが、時にはプライドや誇り、想いを優先しなければならない時がある。
「はぁ~~~~…………仕方ない、か」
大きなため息を吐きだすも、頼もしい顔見知りたちの頼もしい姿を思い出し、また……笑みが零れていた。
「ワゥっ!!!」
任せて! と元気良く吠えるアラッドの相棒。
「ねぇ、アラッド。本当にスパイダーからタラテクトに進化したであろうモンスターと、糸で戦わないのかい?」
屋敷へと続く通路の道中、スティームもガルーレと同じ言葉を投げた。
「なんだ、スティームまで糸を使った俺とタラテクトの勝負を見たいのか?」
「ガルーレほどではないけど、珍しいなと思ってね」
糸と糸では、他の武器同士を使った戦いよりも盛り上がらない、比べられない。
そういった気持ちが解らなくはないが、それでも珍しいと思う気持ちの方が大きかった。
「……俺にとって、糸は確かにバカにされれば、屈辱を味合わせたくなるほど頼れる力だ。ただ……他の武器と比べて、ライバルと言える存在がいないだろう」
「ら、ライバル、か。それはまぁそうだろうね」
長剣、短剣、槍、斧等と比べてまず使う者がおらず、せいぜい暗殺者が使う程度の武器。
貴族の者が使うことはまずなく、アラッドの実家に仕える騎士たちの中にも使用する者は一人もいない。
「だからか、特に張り合おうという気持ちが湧いて来なくてな」
では、せっかくライバルと言えるかもしれない敵がいるのであれば、尚更挑もうという気持ちが湧かないのか!? と言いたかったガルーレ。
しかし、アラッドの表情から……これ以上同じ事を言えばイラつかせてしまうと確信し、口には出さなかった。
「とりあえず、ギルドに伝えておくか」
自分たちで討伐しても良いが、一応冒険者ギルドに報告しておくべきだろう。
そう思ったアラッドは屋敷に戻り、そのままギルドへ直行。
受付嬢に話を伝えるが……実は、既にここ最近、スパイダー系のモンスターの姿が多く確認されていた。
「……マジですか」
「え、えぇ。そうなんですよ。ギルドの方でも、実はタラテクトクラスのモンスターが潜んでいるのではないかという話が出ていて」
「被害の方は」
「今のところ死者は出ていません。しかし、状況次第では特にルーキーたちの身が危なくなるかと」
蜘蛛系のモンスターの武器は糸だけではなく、毒液や麻痺液といった状態異常系の攻撃といった、嫌らしいものもある。
状態異常を治すポーションは傷を治すポーションよりもやや高く、確実に回復魔法のスキルを会得してる者でなければ治せない。
故に、ルーキーたちにとってはこの上なく厄介なモンスターである。
「おい、アラッド。何をそんな心配してんだよ」
「タラテクトクラスのモンスターが潜んでいるかもしれないとなると、心配しるなというのは無理な話かと」
声を掛けてきたのは、顔見知りの冒険者の一人。
「まっ、それもそうか。けどな、アラッド。できれば今回の件は、俺たちだけで解決したいと思ってるんだよ」
「…………理由を聞いても良いですか」
嫌だ、俺たちが倒す、別にモンスターを倒すのに予約制なんてないだろ……といった言葉を吐かず、一旦顔見知りの考えを聞くことにした。
「簡単な話だ。ヤベぇ、強ぇモンスターが現れたからつって、お前に頼るのは情けないだろ」
幼い頃ならまだしも、今のアラッドは自分たちよりも数段強い。
それは彼も解っていた。
起こってしまう被害を考えれば、アラッドたちに討伐してもらった方が良いのは、考えなくても解る事である。
「いざとなればアラッドに頼れば、領主が出てくれれば一発で解決……ってのはよ、俺らのプライド的にはちょっとな」
「解らなくはないですが」
「勿論あれだぜ、どうしようもねぇってなったら、頼らせてもらうことになる。情けなねぇけど、そこまで意地は張れねぇ」
男はただ暴走して「俺たちだけでなんとかしてみせるぜ!!!」と言ってる訳ではなく、最低限のリスクは考えている。
「でもな、自分たちで何もせず最初っからお前らを頼るのは、それ以上に情けねぇしダセぇだろ」
情けない、ダサい。
そういった感情が理由でリスクに突っ込んでほしくないという思いは……あるにはある。
しかし、アラッドも冒険者であり……そして男。
(……はぁ~~~~~~~。どうやら、この先輩だけの意見って訳じゃなさそうだな)
全員が全員、アラッドの顔見知り冒険者と同じ意見という訳ではない。
「…………分かりました。十分注意して、対策を立てて挑んでくださいよ」
「おぅよ。まっ、実はタラテクトの一歩手前ぐらいのレベルが一番ありがてぇんだけどな。なっはっは!!!!」
強腰なのか弱腰なのか解らない先輩の様子に……アラッドは小さく笑みを零し、伝えたいことは伝えたのでギルドから出た。
(あそこまで言わせて、あんな覚悟の決まった顔をされたら、やっぱり俺たちが……なんて言えないな)
生き残ってこそ冒険者。
それが彼等にとって最優先事項なのは間違いない。
だが、時にはプライドや誇り、想いを優先しなければならない時がある。
「はぁ~~~~…………仕方ない、か」
大きなため息を吐きだすも、頼もしい顔見知りたちの頼もしい姿を思い出し、また……笑みが零れていた。
666
お気に入りに追加
6,127
あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる