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七百六十九話 笑い話か、トラウマか
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「…………」
「俺にバカ絡みしたことを後悔したか? 一生分の恥をかいたか? もう冒険者としてやっていけないと思ったか? まぁ、正直なところ俺が伝えたことが君に何も響いてなくとも、俺には関係無い。仮に逆恨みで襲い掛かって来たとしても、その時は殺して終わりだ」
殺して終わり、その言葉には一切葛藤を感じさせない。
ルーキーたちはある意味その静かさに震え、ベテランたちは「これだよこれ。これがアラッドなんだよ」と、何故か得意げに頷いていた。
「けどな……盗賊とか、人に迷惑を掛ける、不幸にする事でもやってみろ……地獄を見せてから殺す」
「「「「「「「「「「っ!!!!!」」」」」」」」」」
今度はルーキー、ベテランも関係く震えた。
特に……斥候系の冒険者たちは盗賊たちにアジトの場所を吐かせる用に、差はあれど拷問のやり方を知っている。
だからこそ、糸という武器を使えるアラッドの「地獄を見せてから殺す」という言葉に、心底恐ろしさを感じた。
「君、まだ二十になってないかなったばかりか、その程度だろ」
「あ、あぁ」
「なら、いくらでもやり直せる。別に弱いわけじゃないだろ。別に冒険者の資格を剥奪された訳じゃないんだ。あの時の奴に比べたら、全然やり直せるだろ」
「なっ……あ、あの…………さっき話してた話は、本当、だったのか?」
「? あぁ、そうだぞ」
冒険者間の争いで明確に殺人を行ったなどの証拠がなければ、資格を剝奪することは非常に難しい。
話し半分でしか聞いてなかった青年は、ギルに関する話が本当だとは思っていなかった。
「あいつは触れちゃならないところまで触れたし、刃も出したしな。君は今回、俺に挑発して俺に殴り掛かろうとしただけ。そういった連中とはこれからも遭遇するだろうから、わざわざ領主の息子だからって立場を利用して資格を剥奪したり、牢にぶち込むつもりもない」
人によっては優し過ぎる、温過ぎる対応だと言うかもしれないが、強制して止められる者でもないと思っている。
「…………だからって、これからも、やってけると、本当に思うのかよ」
「それは知らない。これからも冒険者としての生活を続けるのか、辞めるのか……辞めずとも別の街に行くのかは、君が決める事だ。ただ、これからの選択次第で俺に殴り掛かろうとしてあっさりと拘束されたことが笑い話になるか、トラウマになるか決まる」
「…………」
「まっ、個人的には今後、今回みたいに騒がれてるルーキーに一々絡んで欲しくないかな」
「……………………解かったよ。約束するよ」
それだけ言うと青年はギルドから出て行き、彼の仲間達は慌てて後を追った。
「はっはっは!!!! 俺らベテランもお手上げの説教っぷりだな」
「……爺臭かったですかね」
「歳不相応な説教なのは間違いねぇな!!! けど、本当に間違いねぇ説教だったよ。にしても……本当に優しいな」
「そうですか? 場合によっては、地獄を見せてから殺すつもりでしたけど」
「憎い人間なんざ、そう出来るなら全員そうするだろ。けど、お前は殴り掛かられたのに、タダ拘束して終わらせた。貴族の世界はあんまり詳しくねぇけど、向こうじゃそれで終わらせる奴は少ないんじゃねぇのか?」
一つ、つい先程思い出した出来事に関して、笑みを零しながら話し始めた。
「かもしれません。俺も一度、バカ絡みしてきた奴のズボンを全部糸に変えました」
「……つまり、パン一になったのか」
「上はそのままですから、パン一よりも変な恰好かもしれませんね」
「…………ぶっ!!!!!! は、は、なっはっはっはっはッ!!!!! さ、最高過ぎるだろ、それ」
「でしょう。本当はそいつのムスコもそのまま切断することも出来たんですけど、一応社交界の場だったんで、それはさすがに不味いかと」
「っ!!!!!!」
男は腹がよじれそうな笑い話を危機……笑い過ぎてやや過呼吸になっていた。
「そ、それは……ど、どっちにしろって、やつだぜ」
「かもしれませんね。話が逸れましたけど、俺はもう仕方ないって諦めてます。ダメな事なのにダメだな事をやる人は消えませんから。いなければ、治安維持の為の兵士や騎士は必要なくなりますけど……そんな未来、想像出来ますか?」
「はは、そいつは、全く想像できねぇな」
悪い事だ、駄目な事だと……人に迷惑を掛ける、傷付ける、不幸にする事だと解っていながらも、やる者はやってしまう。
それはこの世界でも、アラッドの前世でも変わらない、残念な事実である。
「でも、さっき言った通り俺にもやり返す権利はありますからね。我慢し続けるつもりはありません」
「その方が良いぜ。鬱憤の溜まりっぱしは良くねぇからな。っしゃ!!! まだまだ呑むぜ!!!!」
男は自分の驕りだから遠慮するなと話し、そこから暇だった顔見知りの冒険者たちが増えていき……結局アラッドたちはクエストボードに張られている依頼を見ることはなく、そのまま夕食時間に突入し、エールをこれまでで一番呑んだ。
当然、スティームは屋敷に帰る頃には完全に潰れていた。
「俺にバカ絡みしたことを後悔したか? 一生分の恥をかいたか? もう冒険者としてやっていけないと思ったか? まぁ、正直なところ俺が伝えたことが君に何も響いてなくとも、俺には関係無い。仮に逆恨みで襲い掛かって来たとしても、その時は殺して終わりだ」
殺して終わり、その言葉には一切葛藤を感じさせない。
ルーキーたちはある意味その静かさに震え、ベテランたちは「これだよこれ。これがアラッドなんだよ」と、何故か得意げに頷いていた。
「けどな……盗賊とか、人に迷惑を掛ける、不幸にする事でもやってみろ……地獄を見せてから殺す」
「「「「「「「「「「っ!!!!!」」」」」」」」」」
今度はルーキー、ベテランも関係く震えた。
特に……斥候系の冒険者たちは盗賊たちにアジトの場所を吐かせる用に、差はあれど拷問のやり方を知っている。
だからこそ、糸という武器を使えるアラッドの「地獄を見せてから殺す」という言葉に、心底恐ろしさを感じた。
「君、まだ二十になってないかなったばかりか、その程度だろ」
「あ、あぁ」
「なら、いくらでもやり直せる。別に弱いわけじゃないだろ。別に冒険者の資格を剥奪された訳じゃないんだ。あの時の奴に比べたら、全然やり直せるだろ」
「なっ……あ、あの…………さっき話してた話は、本当、だったのか?」
「? あぁ、そうだぞ」
冒険者間の争いで明確に殺人を行ったなどの証拠がなければ、資格を剝奪することは非常に難しい。
話し半分でしか聞いてなかった青年は、ギルに関する話が本当だとは思っていなかった。
「あいつは触れちゃならないところまで触れたし、刃も出したしな。君は今回、俺に挑発して俺に殴り掛かろうとしただけ。そういった連中とはこれからも遭遇するだろうから、わざわざ領主の息子だからって立場を利用して資格を剥奪したり、牢にぶち込むつもりもない」
人によっては優し過ぎる、温過ぎる対応だと言うかもしれないが、強制して止められる者でもないと思っている。
「…………だからって、これからも、やってけると、本当に思うのかよ」
「それは知らない。これからも冒険者としての生活を続けるのか、辞めるのか……辞めずとも別の街に行くのかは、君が決める事だ。ただ、これからの選択次第で俺に殴り掛かろうとしてあっさりと拘束されたことが笑い話になるか、トラウマになるか決まる」
「…………」
「まっ、個人的には今後、今回みたいに騒がれてるルーキーに一々絡んで欲しくないかな」
「……………………解かったよ。約束するよ」
それだけ言うと青年はギルドから出て行き、彼の仲間達は慌てて後を追った。
「はっはっは!!!! 俺らベテランもお手上げの説教っぷりだな」
「……爺臭かったですかね」
「歳不相応な説教なのは間違いねぇな!!! けど、本当に間違いねぇ説教だったよ。にしても……本当に優しいな」
「そうですか? 場合によっては、地獄を見せてから殺すつもりでしたけど」
「憎い人間なんざ、そう出来るなら全員そうするだろ。けど、お前は殴り掛かられたのに、タダ拘束して終わらせた。貴族の世界はあんまり詳しくねぇけど、向こうじゃそれで終わらせる奴は少ないんじゃねぇのか?」
一つ、つい先程思い出した出来事に関して、笑みを零しながら話し始めた。
「かもしれません。俺も一度、バカ絡みしてきた奴のズボンを全部糸に変えました」
「……つまり、パン一になったのか」
「上はそのままですから、パン一よりも変な恰好かもしれませんね」
「…………ぶっ!!!!!! は、は、なっはっはっはっはッ!!!!! さ、最高過ぎるだろ、それ」
「でしょう。本当はそいつのムスコもそのまま切断することも出来たんですけど、一応社交界の場だったんで、それはさすがに不味いかと」
「っ!!!!!!」
男は腹がよじれそうな笑い話を危機……笑い過ぎてやや過呼吸になっていた。
「そ、それは……ど、どっちにしろって、やつだぜ」
「かもしれませんね。話が逸れましたけど、俺はもう仕方ないって諦めてます。ダメな事なのにダメだな事をやる人は消えませんから。いなければ、治安維持の為の兵士や騎士は必要なくなりますけど……そんな未来、想像出来ますか?」
「はは、そいつは、全く想像できねぇな」
悪い事だ、駄目な事だと……人に迷惑を掛ける、傷付ける、不幸にする事だと解っていながらも、やる者はやってしまう。
それはこの世界でも、アラッドの前世でも変わらない、残念な事実である。
「でも、さっき言った通り俺にもやり返す権利はありますからね。我慢し続けるつもりはありません」
「その方が良いぜ。鬱憤の溜まりっぱしは良くねぇからな。っしゃ!!! まだまだ呑むぜ!!!!」
男は自分の驕りだから遠慮するなと話し、そこから暇だった顔見知りの冒険者たちが増えていき……結局アラッドたちはクエストボードに張られている依頼を見ることはなく、そのまま夕食時間に突入し、エールをこれまでで一番呑んだ。
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