上 下
764 / 1,023

七百六十三話 仮に決まったとして

しおりを挟む
「ねぇ、アラッド」

「ん? なんだ、スティーム」

アッシュに関する話が終わり、シルフィーはアラッドのあれこれも話し終え、ようやくフールとエリアと別れた三人。

「アッシュ君、本当にリエラさんに興味が無いように思えるんだけど」

「スティーム……それに関しては話して話して話しまくっただろ。基本的に、アッシュは相手が誰であろうと、関係無いんだよ」

好きになった人が好きなタイプ、といったありきたりな結論しか出なかった議題。
他にもアッシュが守りたくなる人など予想は上がったが、結局それは好きになった人がそうなのでは? という結論に至る。

「まっ、問題がないわけではないけどな」

「リエラさんがアッシュ君より歳上なこと?」

例がない話ではないが、基本的に貴族の令息が、自分より歳上の令嬢と婚約し、結婚するケースは殆どない。

二、三歳程度の差であればまだしも、アッシュとリエラの差は約四歳。
たかが一歳差ではないか……と平民であれば思ってしまうが、貴族界ではその一つ一つの差が大きい。

「ガルーレ、今更父さんとエリア母さんがそんな事考えると思うか? アッシュが告白されたって知って、無茶苦茶嬉しそうな顔をしてただろ」

「それは……うん、そうね」

「つまりそういう事なんだよ」

フールとエリアもそれが解らない訳ではない。

社交界に出れば、本人達が心の底から愛し合っていたとしても、陰口を叩く者は叩く。
だが、そもそもアッシュは学園を卒業してしまえば、まず社交界に出ることはない。

「俺が少し心配なのは、リエラ嬢は来年卒業するだろ」

「えっと……あっ、それか」

「そう、それなんだよ」

来年卒業。
つまり、リエラは卒業すれば……現在の予定通り、内定が確定している騎士団に入団する。

だが……仮にアッシュとの婚約が確定すれば、別の選択肢が生まれる可能性がゼロとは言えない。

「????? アッシュ君が卒業するまで、ナルターク王国の騎士団で活動を続けて、その時期になれば退職してアッシュ君と結婚すれば良いじゃない」

間違ってはいない。
ガルーレの言う事は全く間違ってないのだが、貴族の令息であるアラッドとスティームには、そう簡単に事が運ばない未来が容易に想像出来てしまう。

「四年ちょいも待つなら、絶対に他の人と婚約すれば良いと考える輩が現れるだろうな」

「だろうね。もしかしたら、カルバトラ侯爵家の中で、そういった考えを持つ人が現れるかもしれない……というか、婚約が決まる前から現れてもおかしくないかと」

「あぁ~~~、リエラさんは美人でおっぱいも大きいもんね~~~」

そういう話ではないとツッコみたいが、なんとなくスルーする二人。

「あれ、でもさ。本当に婚約して、じゃあリエラさんが騎士団に入団しないってなったら、どうするの?」

「それは……それは………………どうするんだろうな」

ナルターク王国内であれこれ言われるのであれば、アルバース王国に来れば良い。

(……待て待て、仮にこっちに来て……どうするんだ?)

アルバース王国に来る、だけでは何の解決にもならない。

「……パーシブル家に来て、アッシュ君が卒業するまで待つとか?」

「それは、無きにしも非ず……なのか?」

「無きにしも非ずなんじゃないの? リエラさんって割と戦うのが好きそうなタイプだし、パーシブル家の人たちと結構気が合うと思うけど」

なんとなく、想像出来なくはないと思えたアラッド。

だが、婚約者がウェルカムな状態で四年と少し待たせ続けるのは、いかがなものかという考えも同時に湧き上がる。

「アルバース王国の騎士団、今フローレンスさんが所属してる国労騎士団に在籍するというのはどうかな。あの人なら、事情? も解ってるだろうし、リエラさんも居心地が悪いことはないと思うんだけど」

「……スティームの兄さんがギーラス兄さんが所属してる騎士団に現在所属してることを考えれば、ありではあるか」

全くもってアラッドの一存で決められる事ではなく、仮にこの話をフローレンスに通したとして、黒狼騎士団の団長がフローレンスでもないため、結局関係者だけで決められる話ではない。

「あの、アラッド様」

「ん? どうした」

歳若いメイドがアラッドに声を掛けてきた。

「あの、アッシュ様に婚約者出来るかもしれないという、その話はほ、本当なのですか」

(し、しまった。普通の声量で話してしまった)

絶対に漏らしてはいけない秘密事項ではない。
ただ、気軽に誰にでも話して良い内容でもない。

「いや、可能性は低いと思うぞ」

「そ、そうですか」

当然の事ながら、アッシュはパーシブル家に仕えるメイドたちからも、その辺りの将来を心配されている。
そのため、アッシュに婚約者が出来た、もしくは気になる異性が現れたというだけでも、嬉しさで涙が零れるかも……といったレベルのビッグニュース。

可能性は低いと告げられ、肩を落すのも無理はなかった。

「ただ、どうなるか分からないとだけ言っておくよ」

「っ!!!」

「でも普通に話してた俺が言うのもあれだけど、あまり広めないでくれると嬉しい」

「わ、解りました!!!!!」

若いメイドは深々と頭を下げ、ルンルン気分で仕事へと戻って行った。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

処理中です...