上 下
762 / 984

七百六十一話 諸々報告

しおりを挟む
「この間ぶりだね、アラッド。おかえり」

「ただいま、父さん」

特に予定がないということもあり、アラッドは一度実家に帰ってきていた。

スティームは当然文句など無く、ガルーレとしてもアラッドの実家には強者がたくさん要るということもあって、寧ろ乗り気であった。

「もしかして、母さんは狩りに行ってる?」

「いや、違うよ。アリサたちは、今ガルシアたちを連れてダンジョンに行ってるよ」

「ダンジョン? ガルシアたちも連れて?」

元気であることは窺えるが、それよりも何故何故? という気持ちの方が大きい。

「ほら、この前来た時に気になることを教えてくれただろ」

「この前……えっ、もしかしてそういう事、なんですか?」

直ぐに何故アリサたちがダンジョンに向かった理由に辿り着いたアラッド。

その息子の表情を見て「解る解る。良く解るよその気持ち」と言いたげな苦笑いを浮かべるフール。

「そういう事なんだよ。という訳で、今アリサたちはいないんだ」

「わ、解りました」

「ところでアラッド。いや、是非とも二人にも訊きたいかな。アッシュは上手く戦れたかい」

一応、一応手紙による報告で末息子であるアッシュが代表戦に勝利したという報告は受けていた。

だが、細かい詳細までは聞いていなかった。

「あなた、アラッド。入っても良いかしら」

「……丁度良いタイミングかな」

「えぇ、そうですね」

声の主はアッシュと血の繋がった実の母であるエリア。

フールが入室を許可。
スティームとガルーレはザ・貴族夫人と解るエリアを見て、アラッドの友人として失礼がない様、深々と頭を下げた。

二人の対応に微笑を浮かべながら、フールの隣に腰を下ろす。

「おかえりなさい、アラッド」

「ただいま、エリア母さん」

互いに優しい笑顔を浮かべながら、元々エリアがそのつもりだったこともあり、話はアッシュの件について戻る。

「アッシュは代表戦で……年齢を考えれば、学生代表として相応しい力を見せてくれました」

「具体的にどのようにして勝利を収めたのか、訊いても良いかな」

「アッシュは、ナルターク王国の学生代表であるリエラ・カルバトラとの差を埋める為に、無理矢理身体能力の限界を超えた力を発揮する、といった荒業を発動して勝利を収めました」

「っ!!!???」

具体的な報告を伝えられたフールは、まさかの内容に衝撃を隠せずにいた。

そして、それは父親のフールだけではなく、優れた魔法使いであるエリアも同じ反応を見せた。

「……アラッド、それは間違いないのかい」

「はい。本人からも説明を得ています」

「「………………」」

その戦いを観ていたであろう、説明を聞いていたであろうスティームとガルーレにも頷かれ、二人は本当なのだと認めざるを得なかった。

「……アッシュは、その後痛みを訴えたりしていなかったかい」

「特にそういった様子はありませんでした。無理してやせ我慢しているといった感じもなく」

「そうか…………アラッドは、以前からアッシュには戦いのセンスがあると言っていたね」

「はい」

「私も解っていた。解っていたつもりだった……しかし、予想を遥かに上回っていたようだ」

スキルや魔力云々関係無く、限界を超えた力を引き出す。
その感覚にフールは覚えがあった。

だが、才能あふれる貴族たちの中でも戦闘センスが高い部類であるフールであっても、それを自分の意志で行うのは不可能であった。

「とは言っても、本人の意志が変わらない限りはね……うん、仕方ない」

戦いの才能がある、どころの話ではない。
しかし、アッシュはレグラ家の長男ではない。

長男に何かあった時の為に、というスペア的な立場でもない。
フールとしても惜しいという気持ちはあれど、その道を強制することはしない。

「父さんの気持ちも解ります。ただ、アッシュの性格からして、学園に入学しただけでも良い結果かと。加えて、アッシュがその気になっていれば……おそらく、まともに上を目指そうとするのはシルフィーだけになるかと」

断言は出来ない。
ただ、双子であるシルフィーは、それだけアッシュに負けられない、負けたくないという思いが燃え上がり続ける。

だが他の生徒たちには……何かしらの因縁、拭い切れない屈辱などが無ければ、上を目指すだけ無駄だと感じてしまう高過ぎる壁になってしまう。

(前世のバスケットボールとかで、相手チームに外国人留学生とかがいる感覚、になるのかもな)

勝つ気が、勝負しようとする意志がかき消される。
未来の騎士候補たちの事など知ったことではないアラッドだが、さすがに気の毒だと思わざるを得ない。

「……多くの学生たちを知らない身でこう言ってしまうのは良くないけど、確かにその通りだろうね」

「仮にアッシュが戦いの道に進んだとしても、冒険者兼錬金術師といった非常に選ぶ者が少ない道かと」

二人がまだ何とも言えない表情を浮かべる中、ふと……アラッドは思い出した内容を伝えた。

「そういえば、代表戦でアッシュと戦ったリエラ・カルバトラが対戦後、アッシュに婚約を申し込みました」

「「っ!!!???」」

衝撃の大きさで言えば、間違いなく自力で肉体の限界を超えたという内容よりも断然大きかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...