上 下
760 / 984

七百五十九話 その常識があるから

しおりを挟む
「弓は出来ないのですね」

夕方まで訓練を行った後、リエラは前回の失敗を活かし、個室があるレストランへとアラッドたちを案内した。

「そうだな。弓は……決して弓をバカにしてるわけではないが、あまり使おうと思わなかった」

アラッドが基本的に魔法のみで戦った、勝ったり負けたりを繰り返したため、お前は何が出来ないんだという話が継続していた。

「確かに貴族出身の冒険者は、あんまり弓を使わないイメージがあるね~」

「そういえば、ガルーレは一応使えるんだったか?」

「本当に一応ってレベルよ。ちゃんとした本職にはこれっぽちも敵わないわよ」

アマゾネスの村で生活してい時に習ったことがあったものの、ガルーレは自分には合わないと判断して短剣やその他の武器を重点的に鍛えた。

「しかし、本職の者たちにも負けてないのではないか?」

「ライホルト、それは褒め過ぎだ。魔力量はそれなりに多いとは思うが、純粋な威力や技量は本職には届かないだろう」

アラッドは一切の嫌味なしで答えるも、現在まだ学生であり……同級生の中には宮廷魔術師を目指している者もいるリエラから見れば……とても本職に劣っているとは思えなかった。

「アラッド、それあまり本職の魔法使い相手に言わない方が良いわよ」

「……俺を評価してくれてるのは嬉しいが」

「過大評価、ではないわよ。あそこまで魔法だけで戦える者は、そう多くないわ」

ラディアとライホルトも頷き、同意する。

ただ、そこでアッシュはアラッドと三人の思考の違い? に気付いた。

「多分ですけど、アラッド兄さんは魔法で戦うことを焦点に置いて、鍛錬と実戦を繰り返してきたんですよ」

「? アッシュ、それは他の魔法使いも当然の様に行ってることよ」

「純粋な魔法使いは、なるべくモンスターと距離を置いて戦いますよね。アラッド兄さんは元々ガッツリ前衛なので、そこら辺を気にせず戦えます」

「…………ふむ、なるほど。そういう事か」

説明を受け、ライホルトが一番先にアッシュが何を言いたいのか理解した。

「どういう事なの、ライホルト」

「アッシュの言った通り、普通の魔法使いは相手から距離を置いて戦う。それは彼らが従来の魔法使い通りの戦い方をしているからだ。だが、アラッドは魔法スキルを会得しても、それを頼りにして戦おうとはしていない」

「走り回って、偶にぶん投げたりしてたね」

「そうだろ。普通の魔法使いは移動しながら魔法を発動したとしても。アラッドほど速く移動せず、距離も詰めてこない」

ライホルトたちと魔法のみで戦う時、アラッドは縦横無尽に駆け回り、時にゼロ距離から攻撃魔法を放っていた。

「そういった戦い方も込みで、俺達はアラッドが本職にも負けてないと思っていたのだ」

「なる、ほど…………しかし、それは本職の魔法使いたちに同じ事をしてほしいと頼んでも、無理でしょうね」

「だろうな。元々前衛として戦っているアラッドだからこそ出来る戦り方だ。そんな戦法を取ってくれと頼めば、ブチ切れ待ったなしであろう」

仮に同僚、同級生に頼み込んだ場合……ブチ切れする姿が容易に浮かんだ三人。

「少なくとも、俺はアラッドほどスムーズに戦えない」

「私もですね。三人の中だと、やはりラディアだけですわね」

「私はゼロ距離から魔法を撃ったりしないよ」

当然ながら、ゼロ距離で魔法を撃てば着弾した時の余波を余裕で食らってしまう。

魔力を纏っていればそれぐらいは……という感想もあるが、実戦では少しのミスが死に繋がってしまう。
ゼロ距離で魔法を撃った際の余波など、思いっきり死に繋がる可能性が高い。

「……しかし、ラディア嬢も俺やフローレンスと同じく接近戦タイプなことを考えれば、出来なくはないだろう」

フローレンスが出来る前提で話が進んでいるが、当のフローレンスは……そこに関して全くツッコまなかった。

何故なら、自身が聖光雄化を使用した時の姿をある程度把握しているから。
筋肉の張り等を考えれば、余波なんてないも同然だろ、と言われても返す言葉がない。

「そうね。出来なくはないと思う。ただ、やっぱり他の魔法使いたちに同じ事はして貰えないでしょうね」

「現時点で魔法使いとして形が出来てる人は無理だろうな」

「アラッド、言葉通りの意味で受け取るなら、まだ魔法使いとして形になってない者であれば、不可能ではないということになるが」

「絶対の保証がある訳ではないがな」

無茶を言っている自覚はある。
しかし、アラッドなりの考えが一応ある。

「そもそも、魔法使いは敵から離れて攻撃魔法を放って戦う。この常識が……おかしいとは言わない。ただ、その常識があるからこそ、俺がさっきやってた戦い方が非常に珍しいと感じるんだ」

「常識があるからこそ、か」

アラッドはそれだけ口にし、その話題に関して切り上げた。

何故なら……魔法の才というのは、決して平等ではない。
保有できる魔力の量に関しても、レベルが上がれば増えるものの……やはり個人差は大きい。

(これ以上あれこれ考えを口外したら、将来的にヤバいことになりそうだしな)

どうヤバいことになるのか……この中で最年少でありながら、理解力が高いアッシュだけが速攻で、アラッドの考える将来的にヤバい事に辿り着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...