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七百五十九話 その常識があるから
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「弓は出来ないのですね」
夕方まで訓練を行った後、リエラは前回の失敗を活かし、個室があるレストランへとアラッドたちを案内した。
「そうだな。弓は……決して弓をバカにしてるわけではないが、あまり使おうと思わなかった」
アラッドが基本的に魔法のみで戦った、勝ったり負けたりを繰り返したため、お前は何が出来ないんだという話が継続していた。
「確かに貴族出身の冒険者は、あんまり弓を使わないイメージがあるね~」
「そういえば、ガルーレは一応使えるんだったか?」
「本当に一応ってレベルよ。ちゃんとした本職にはこれっぽちも敵わないわよ」
アマゾネスの村で生活してい時に習ったことがあったものの、ガルーレは自分には合わないと判断して短剣やその他の武器を重点的に鍛えた。
「しかし、本職の者たちにも負けてないのではないか?」
「ライホルト、それは褒め過ぎだ。魔力量はそれなりに多いとは思うが、純粋な威力や技量は本職には届かないだろう」
アラッドは一切の嫌味なしで答えるも、現在まだ学生であり……同級生の中には宮廷魔術師を目指している者もいるリエラから見れば……とても本職に劣っているとは思えなかった。
「アラッド、それあまり本職の魔法使い相手に言わない方が良いわよ」
「……俺を評価してくれてるのは嬉しいが」
「過大評価、ではないわよ。あそこまで魔法だけで戦える者は、そう多くないわ」
ラディアとライホルトも頷き、同意する。
ただ、そこでアッシュはアラッドと三人の思考の違い? に気付いた。
「多分ですけど、アラッド兄さんは魔法で戦うことを焦点に置いて、鍛錬と実戦を繰り返してきたんですよ」
「? アッシュ、それは他の魔法使いも当然の様に行ってることよ」
「純粋な魔法使いは、なるべくモンスターと距離を置いて戦いますよね。アラッド兄さんは元々ガッツリ前衛なので、そこら辺を気にせず戦えます」
「…………ふむ、なるほど。そういう事か」
説明を受け、ライホルトが一番先にアッシュが何を言いたいのか理解した。
「どういう事なの、ライホルト」
「アッシュの言った通り、普通の魔法使いは相手から距離を置いて戦う。それは彼らが従来の魔法使い通りの戦い方をしているからだ。だが、アラッドは魔法スキルを会得しても、それを頼りにして戦おうとはしていない」
「走り回って、偶にぶん投げたりしてたね」
「そうだろ。普通の魔法使いは移動しながら魔法を発動したとしても。アラッドほど速く移動せず、距離も詰めてこない」
ライホルトたちと魔法のみで戦う時、アラッドは縦横無尽に駆け回り、時にゼロ距離から攻撃魔法を放っていた。
「そういった戦い方も込みで、俺達はアラッドが本職にも負けてないと思っていたのだ」
「なる、ほど…………しかし、それは本職の魔法使いたちに同じ事をしてほしいと頼んでも、無理でしょうね」
「だろうな。元々前衛として戦っているアラッドだからこそ出来る戦り方だ。そんな戦法を取ってくれと頼めば、ブチ切れ待ったなしであろう」
仮に同僚、同級生に頼み込んだ場合……ブチ切れする姿が容易に浮かんだ三人。
「少なくとも、俺はアラッドほどスムーズに戦えない」
「私もですね。三人の中だと、やはりラディアだけですわね」
「私はゼロ距離から魔法を撃ったりしないよ」
当然ながら、ゼロ距離で魔法を撃てば着弾した時の余波を余裕で食らってしまう。
魔力を纏っていればそれぐらいは……という感想もあるが、実戦では少しのミスが死に繋がってしまう。
ゼロ距離で魔法を撃った際の余波など、思いっきり死に繋がる可能性が高い。
「……しかし、ラディア嬢も俺やフローレンスと同じく接近戦タイプなことを考えれば、出来なくはないだろう」
フローレンスが出来る前提で話が進んでいるが、当のフローレンスは……そこに関して全くツッコまなかった。
何故なら、自身が聖光雄化を使用した時の姿をある程度把握しているから。
筋肉の張り等を考えれば、余波なんてないも同然だろ、と言われても返す言葉がない。
「そうね。出来なくはないと思う。ただ、やっぱり他の魔法使いたちに同じ事はして貰えないでしょうね」
「現時点で魔法使いとして形が出来てる人は無理だろうな」
「アラッド、言葉通りの意味で受け取るなら、まだ魔法使いとして形になってない者であれば、不可能ではないということになるが」
「絶対の保証がある訳ではないがな」
無茶を言っている自覚はある。
しかし、アラッドなりの考えが一応ある。
「そもそも、魔法使いは敵から離れて攻撃魔法を放って戦う。この常識が……おかしいとは言わない。ただ、その常識があるからこそ、俺がさっきやってた戦い方が非常に珍しいと感じるんだ」
「常識があるからこそ、か」
アラッドはそれだけ口にし、その話題に関して切り上げた。
何故なら……魔法の才というのは、決して平等ではない。
保有できる魔力の量に関しても、レベルが上がれば増えるものの……やはり個人差は大きい。
(これ以上あれこれ考えを口外したら、将来的にヤバいことになりそうだしな)
どうヤバいことになるのか……この中で最年少でありながら、理解力が高いアッシュだけが速攻で、アラッドの考える将来的にヤバい事に辿り着いた。
夕方まで訓練を行った後、リエラは前回の失敗を活かし、個室があるレストランへとアラッドたちを案内した。
「そうだな。弓は……決して弓をバカにしてるわけではないが、あまり使おうと思わなかった」
アラッドが基本的に魔法のみで戦った、勝ったり負けたりを繰り返したため、お前は何が出来ないんだという話が継続していた。
「確かに貴族出身の冒険者は、あんまり弓を使わないイメージがあるね~」
「そういえば、ガルーレは一応使えるんだったか?」
「本当に一応ってレベルよ。ちゃんとした本職にはこれっぽちも敵わないわよ」
アマゾネスの村で生活してい時に習ったことがあったものの、ガルーレは自分には合わないと判断して短剣やその他の武器を重点的に鍛えた。
「しかし、本職の者たちにも負けてないのではないか?」
「ライホルト、それは褒め過ぎだ。魔力量はそれなりに多いとは思うが、純粋な威力や技量は本職には届かないだろう」
アラッドは一切の嫌味なしで答えるも、現在まだ学生であり……同級生の中には宮廷魔術師を目指している者もいるリエラから見れば……とても本職に劣っているとは思えなかった。
「アラッド、それあまり本職の魔法使い相手に言わない方が良いわよ」
「……俺を評価してくれてるのは嬉しいが」
「過大評価、ではないわよ。あそこまで魔法だけで戦える者は、そう多くないわ」
ラディアとライホルトも頷き、同意する。
ただ、そこでアッシュはアラッドと三人の思考の違い? に気付いた。
「多分ですけど、アラッド兄さんは魔法で戦うことを焦点に置いて、鍛錬と実戦を繰り返してきたんですよ」
「? アッシュ、それは他の魔法使いも当然の様に行ってることよ」
「純粋な魔法使いは、なるべくモンスターと距離を置いて戦いますよね。アラッド兄さんは元々ガッツリ前衛なので、そこら辺を気にせず戦えます」
「…………ふむ、なるほど。そういう事か」
説明を受け、ライホルトが一番先にアッシュが何を言いたいのか理解した。
「どういう事なの、ライホルト」
「アッシュの言った通り、普通の魔法使いは相手から距離を置いて戦う。それは彼らが従来の魔法使い通りの戦い方をしているからだ。だが、アラッドは魔法スキルを会得しても、それを頼りにして戦おうとはしていない」
「走り回って、偶にぶん投げたりしてたね」
「そうだろ。普通の魔法使いは移動しながら魔法を発動したとしても。アラッドほど速く移動せず、距離も詰めてこない」
ライホルトたちと魔法のみで戦う時、アラッドは縦横無尽に駆け回り、時にゼロ距離から攻撃魔法を放っていた。
「そういった戦い方も込みで、俺達はアラッドが本職にも負けてないと思っていたのだ」
「なる、ほど…………しかし、それは本職の魔法使いたちに同じ事をしてほしいと頼んでも、無理でしょうね」
「だろうな。元々前衛として戦っているアラッドだからこそ出来る戦り方だ。そんな戦法を取ってくれと頼めば、ブチ切れ待ったなしであろう」
仮に同僚、同級生に頼み込んだ場合……ブチ切れする姿が容易に浮かんだ三人。
「少なくとも、俺はアラッドほどスムーズに戦えない」
「私もですね。三人の中だと、やはりラディアだけですわね」
「私はゼロ距離から魔法を撃ったりしないよ」
当然ながら、ゼロ距離で魔法を撃てば着弾した時の余波を余裕で食らってしまう。
魔力を纏っていればそれぐらいは……という感想もあるが、実戦では少しのミスが死に繋がってしまう。
ゼロ距離で魔法を撃った際の余波など、思いっきり死に繋がる可能性が高い。
「……しかし、ラディア嬢も俺やフローレンスと同じく接近戦タイプなことを考えれば、出来なくはないだろう」
フローレンスが出来る前提で話が進んでいるが、当のフローレンスは……そこに関して全くツッコまなかった。
何故なら、自身が聖光雄化を使用した時の姿をある程度把握しているから。
筋肉の張り等を考えれば、余波なんてないも同然だろ、と言われても返す言葉がない。
「そうね。出来なくはないと思う。ただ、やっぱり他の魔法使いたちに同じ事はして貰えないでしょうね」
「現時点で魔法使いとして形が出来てる人は無理だろうな」
「アラッド、言葉通りの意味で受け取るなら、まだ魔法使いとして形になってない者であれば、不可能ではないということになるが」
「絶対の保証がある訳ではないがな」
無茶を言っている自覚はある。
しかし、アラッドなりの考えが一応ある。
「そもそも、魔法使いは敵から離れて攻撃魔法を放って戦う。この常識が……おかしいとは言わない。ただ、その常識があるからこそ、俺がさっきやってた戦い方が非常に珍しいと感じるんだ」
「常識があるからこそ、か」
アラッドはそれだけ口にし、その話題に関して切り上げた。
何故なら……魔法の才というのは、決して平等ではない。
保有できる魔力の量に関しても、レベルが上がれば増えるものの……やはり個人差は大きい。
(これ以上あれこれ考えを口外したら、将来的にヤバいことになりそうだしな)
どうヤバいことになるのか……この中で最年少でありながら、理解力が高いアッシュだけが速攻で、アラッドの考える将来的にヤバい事に辿り着いた。
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