758 / 1,043
七百五十七話 無意識に縛っていた
しおりを挟む
「生きてるか、リエラ嬢」
「え、えぇ。生きてる、わ…………はぁ~~~~。本気で戦ったのだけどね」
既にフローレンスから渡されたポーションを飲み干し、ガルーレにやられた肋骨や内臓の損傷は癒されていた。
「済まないな、ガルーレがバカな戦い方をして」
「……そんな事ないわよ。彼女は模擬戦ではなく、試合をしようと最初に伝えてくれてたわ」
「そう言ってもらえると助かる」
「それより、あんな戦い方をして、ガルーレは大丈夫なの?」
細剣で手を貫かれることに抵抗がなく、寧ろ引かずに柄を掴んむという奇行に出たガルーレに対し、リエラは驚きこそすれ、ドン引いてはいなかった。
何かを懸けて戦っていた訳ではないが、戦うのであれば負けたくない。
そんな至極単純な心構えを見失わずに持っている……と、リエラはガルーレの行動を捉えていた。
「あいつはあるスキルを発動して、その効果で痛みに関して物凄く鈍くなっていたんだ。だから左手を貫かれてもそのまま動かして、細剣の柄を掴んだんだ」
「テンションが上がり過ぎて、痛みを忘れてた、という訳ではないのね」
「……それもそれであり得そうだが、今回に関してはスキルの影響があってだな。それと、余計なお世話かもしれないが、ガルーレのメイン武器は素手だ。リエラ嬢が万全の状態であれば、同じ結果にはなっていなかったかもしれない」
ガルーレのメインウェポンが拳や脚なのに対し、今回リエラが使用していた細剣はなるべく頑丈に造られている訓練用の細剣。
普段リエラが使用している愛剣ではないため、アラッドの言う通り愛剣を使用していれば同じ結果になるとは限らない。
そんなアラッドの気遣いに対し、本当に余計なお世話だとは口にせず、ありのままの現実を受け入れる。
「関係無いわ。正直なところ、普段使っている細剣を使用したからといって、絶対に勝てるイメージは湧く湧かない。それに……私は細剣技のスキル技を使用してたけれど、彼女は武技のスキル技を使用していなかった」
スキル技の使用の有無。
これに関しては特にルールを決めておらず、ガルーレ自身も……特に意識して縛りプレイをしていた訳ではなかった。
最後の掌底も発勁ではなく、ただの渾身の掌底がぶち込まれた結果、きっちり内臓までダメージが浸透しただけ。
「それに、痛みに対して鈍くなるという効果を考えると、これより良い得物を使ったところで、っていう気がするのよね」
「そうか…………まぁ、あいつもバカではないんで」
ただの脳筋美女ではなく、戦いに関してはそれなりに頭が回る……というよりも、頭の代わりに本能が働いてくれる。
「アラッド、彼女……直ぐにまた試合を始めたそうだけど、大丈夫なのかしら?」
フローレンスが指さす方へ顔を向けると……今度はガルーレとライホルトが試合を始めていた。
「ら、ライホルト、とか。殴り合いだけなら、大丈夫だと思いたい、かな」
ガルーレの奥の手であるペイル・サーベルスはアラッドの狂化と違い、任意で発動出来る強化系スキルではない。
使い勝手が悪いと思われるかもしれないが、狂化の様に一定の使用時間が過ぎれば感情がコントロールしきれなくなる、飲み込まれるといったデメリットがない。
スティームの赤雷の様に消費魔力の燃費が悪いわけでもなく、ダメージを受ければ受けるほど身体能力が高まる。
つまり……ガルーレの根性次第で、シーソーゲームがいくらでも続く。
「アラッド兄さん。あれ、本当に大丈夫なんですか?」
腹パンならぬ腹掌を食らって壁に激突したリエラを心配する素振りすら見せず、アッシュは絶賛殴り合っている二人について兄に尋ねた。
「確か、ガルーレさんの奥の手って、本人の意志とは関係無く特定の状態になったら、勝手に発動すしますよね」
「そうだな」
「発動してしまったら、ライホルトさんも……多分、奥の手を使わざるを得なくなりますよね」
「どう、だろうな。もしかしたら、ライホルトはこの試合でそれを使わないと決めてるかもしれないぞ」
見た目だけで実力は測れない。
それは確かにそうなのだが、接近戦において、体格の大きさは……それはそれで武器になる。
(とはいえ、負けたくないって思いが爆発すれば、色々と無視してしまうかもしれない、が…………いや、ライホルトなら、大丈夫だろう……多分、きっと)
アラッドの中で、ライホルトという人間は真面目な岩男という印象が強かった。
しかし、実際に話すようになってから……割と自分やガルーレと同じく、強者としての戦いが好みなのだと知った。
故に……不安がないと言えば、嘘になる。
「…………アラッド、どうやらそこまで心配する必要はないみたいだよ」
「おっ、やっぱりそうか?」
「うん。多分だけど、ガルーレももしかしてっていう不安があるんだるね。少しいつもと違う戦い方をしてる」
(……言われてみれば、偶に拳に拳を、脚に脚を合わせたりするけど、どちらかと言えばダメージが蓄積しない様な戦い方をしてるな)
ガルーレがリエラとの試合とは変わって、ダメージを気にしながら戦うようになったこともあり、二人の試合は五分以上経過した後、ガルーレがペイル・サーベルスが発動してしまったのを把握し、自分の降参を宣言した。
「え、えぇ。生きてる、わ…………はぁ~~~~。本気で戦ったのだけどね」
既にフローレンスから渡されたポーションを飲み干し、ガルーレにやられた肋骨や内臓の損傷は癒されていた。
「済まないな、ガルーレがバカな戦い方をして」
「……そんな事ないわよ。彼女は模擬戦ではなく、試合をしようと最初に伝えてくれてたわ」
「そう言ってもらえると助かる」
「それより、あんな戦い方をして、ガルーレは大丈夫なの?」
細剣で手を貫かれることに抵抗がなく、寧ろ引かずに柄を掴んむという奇行に出たガルーレに対し、リエラは驚きこそすれ、ドン引いてはいなかった。
何かを懸けて戦っていた訳ではないが、戦うのであれば負けたくない。
そんな至極単純な心構えを見失わずに持っている……と、リエラはガルーレの行動を捉えていた。
「あいつはあるスキルを発動して、その効果で痛みに関して物凄く鈍くなっていたんだ。だから左手を貫かれてもそのまま動かして、細剣の柄を掴んだんだ」
「テンションが上がり過ぎて、痛みを忘れてた、という訳ではないのね」
「……それもそれであり得そうだが、今回に関してはスキルの影響があってだな。それと、余計なお世話かもしれないが、ガルーレのメイン武器は素手だ。リエラ嬢が万全の状態であれば、同じ結果にはなっていなかったかもしれない」
ガルーレのメインウェポンが拳や脚なのに対し、今回リエラが使用していた細剣はなるべく頑丈に造られている訓練用の細剣。
普段リエラが使用している愛剣ではないため、アラッドの言う通り愛剣を使用していれば同じ結果になるとは限らない。
そんなアラッドの気遣いに対し、本当に余計なお世話だとは口にせず、ありのままの現実を受け入れる。
「関係無いわ。正直なところ、普段使っている細剣を使用したからといって、絶対に勝てるイメージは湧く湧かない。それに……私は細剣技のスキル技を使用してたけれど、彼女は武技のスキル技を使用していなかった」
スキル技の使用の有無。
これに関しては特にルールを決めておらず、ガルーレ自身も……特に意識して縛りプレイをしていた訳ではなかった。
最後の掌底も発勁ではなく、ただの渾身の掌底がぶち込まれた結果、きっちり内臓までダメージが浸透しただけ。
「それに、痛みに対して鈍くなるという効果を考えると、これより良い得物を使ったところで、っていう気がするのよね」
「そうか…………まぁ、あいつもバカではないんで」
ただの脳筋美女ではなく、戦いに関してはそれなりに頭が回る……というよりも、頭の代わりに本能が働いてくれる。
「アラッド、彼女……直ぐにまた試合を始めたそうだけど、大丈夫なのかしら?」
フローレンスが指さす方へ顔を向けると……今度はガルーレとライホルトが試合を始めていた。
「ら、ライホルト、とか。殴り合いだけなら、大丈夫だと思いたい、かな」
ガルーレの奥の手であるペイル・サーベルスはアラッドの狂化と違い、任意で発動出来る強化系スキルではない。
使い勝手が悪いと思われるかもしれないが、狂化の様に一定の使用時間が過ぎれば感情がコントロールしきれなくなる、飲み込まれるといったデメリットがない。
スティームの赤雷の様に消費魔力の燃費が悪いわけでもなく、ダメージを受ければ受けるほど身体能力が高まる。
つまり……ガルーレの根性次第で、シーソーゲームがいくらでも続く。
「アラッド兄さん。あれ、本当に大丈夫なんですか?」
腹パンならぬ腹掌を食らって壁に激突したリエラを心配する素振りすら見せず、アッシュは絶賛殴り合っている二人について兄に尋ねた。
「確か、ガルーレさんの奥の手って、本人の意志とは関係無く特定の状態になったら、勝手に発動すしますよね」
「そうだな」
「発動してしまったら、ライホルトさんも……多分、奥の手を使わざるを得なくなりますよね」
「どう、だろうな。もしかしたら、ライホルトはこの試合でそれを使わないと決めてるかもしれないぞ」
見た目だけで実力は測れない。
それは確かにそうなのだが、接近戦において、体格の大きさは……それはそれで武器になる。
(とはいえ、負けたくないって思いが爆発すれば、色々と無視してしまうかもしれない、が…………いや、ライホルトなら、大丈夫だろう……多分、きっと)
アラッドの中で、ライホルトという人間は真面目な岩男という印象が強かった。
しかし、実際に話すようになってから……割と自分やガルーレと同じく、強者としての戦いが好みなのだと知った。
故に……不安がないと言えば、嘘になる。
「…………アラッド、どうやらそこまで心配する必要はないみたいだよ」
「おっ、やっぱりそうか?」
「うん。多分だけど、ガルーレももしかしてっていう不安があるんだるね。少しいつもと違う戦い方をしてる」
(……言われてみれば、偶に拳に拳を、脚に脚を合わせたりするけど、どちらかと言えばダメージが蓄積しない様な戦い方をしてるな)
ガルーレがリエラとの試合とは変わって、ダメージを気にしながら戦うようになったこともあり、二人の試合は五分以上経過した後、ガルーレがペイル・サーベルスが発動してしまったのを把握し、自分の降参を宣言した。
164
お気に入りに追加
6,129
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
冤罪で追放した男の末路
菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる