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七百五十三話 解っていても

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「アラッド、ちゃんと模擬戦っていうことを理解してた?」

「おう、勿論してたぞ。だから基本的に急所には攻撃してなかったし、狂化は使ってなかっただろ?」

「模擬戦なんだから、魔力を纏うのはまだしも、狂化以外の強化系スキルを使用する意味もなかったと思うんだけどな」

完全に試合レベルの模擬戦が行われていたため、スティームはアラッドの強さを十分に知っているが、それでも色々と含めて心配になる。

「すまんすまん。ただなぁ……やっぱり、ライホルトとはそれなりに全力で力比べをしてみたかったからな」

「……アラッドからすれば、超ウェルカムな相手なのは解るけど、程々にね」

「分かった分かった。そういえば、次はアッシュだったか?」

「はい、そうですね」

入念に柔軟を行うアッシュ。
割と気合が入ってる? と思えなくもないが、眼はいつも通り。

単に、あまり怪我をしたくないだけである。

「よろしく、アッシュ君」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

互いに一礼を行い……珍しく、アッシュの方から仕掛けた。

「っ、もしかして、戦る気満々、なのかな?」

「こういった場に参加したのですから、それなりに動かなければ、失礼かと、思いまして」

「ふふ……何はともあれ、君にそれなりの戦る気があるのは、嬉しいよ」

知人、友人と言えるリエラが一方的に攻撃を仕掛けられる様子を、ラディアも観客席から見ていた。

スキルの効果……ではなく、無理矢理人間の限界を超えた動きを引き出す。
その力にも驚きはしたが、真に注目すべきは歳不相応の技術だった。

「っ、シッ!!」

(受け流しの技術も、十分過ぎる)

レベル差、ラディアもガチガチの前衛職ということもあり、身体能力の差……腕力の差は顕著に表れる。

本気を出してはいないとはいえ、自身の斬撃を細剣で軌道をズラし、そのままカウンターを放つ。

ラディアにも弟がおり、偶に会った時は模擬戦を行ったりするが、アッシュほどの技術はまだなく、そもそも受け流しや軌道をズラすといった技術に目が向いていない。

(戦闘に興味がない、にもかかわらず、ここまでの技量を持つ、子。そしてソロで、竜殺しを達成した、二人の子……パーシブル家の当主は、この上なく、嬉しいだろう、な)

結果、今回の模擬戦ではラディアが勝利を収めるものの、何度かヒヤッとさせられる場面があり、改めてスティームの末恐ろしさを感じ取った。


「お願いしますわ!!」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」

続いてリエラとフローレンスの試合がスタート。

ロングソードと細剣。
互いの斬撃がぶつかり合う中……やはり優勢なのはフローレンス。

(精霊と、契約してるから。特殊なスキルを身に付けてるか、だけではない、ですね!!!!)

元々スキルやそういった特別な要素に助けられてるだけの人間だとは思っていなかった。

しかし、そういったスキルや普段使用している専用の武器などの使用を禁止し、互いの剣技をぶつけ合った結果……改めて、これまでフローレンスが積み上げてきた練度を体感。

リエラにとって、特別因縁がある相手ではない。
ただ、将来は騎士になり、戦闘職として生きていくいと決めている以上……負けたくないという思いはある。

(模擬戦だからといって、負けられない!!!!)

互いに高め合う為の模擬戦ではあるが、完全に勝つ気で挑むリエラの攻撃は苛烈さを増すも、フローレンスはそれを笑顔で受け入れる。


(どうやら、あちらもあちらでがっつり戦り合う気満々みたいだな)

観戦中のアラッドは心配そうな表情は……一ミリもなく、寧ろニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら二人の戦いを観ていた。

「なんか、アラッドとライホルトさんの戦いに似てきてるね」

「なんだ、止めるのか、スティーム?」

「……止めておくよ。後でリエラさんに怒られそうだし」

「俺とライホルトの模擬戦は止めなかったくせに、なんで私たちの模擬戦は止めたんだって感じで起こられそうだな」

容易にイメージ出来てしまい、苦い表情を浮かべるスティーム。

そんな彼の心境を無視しながら、ラディアが肩に手を置く。

「リエラとフローレンスの模擬戦が終わったら、今度は私と君だから」

「ッ!!」

「勿論、アラッドが評価してた内容通り、戦ってね」

「え、えっと……あの、そうなると……模擬戦では、なくなるんですけど」

本人の言う通り、アラッドが評価しているスティームの戦力通りに戦えば、先程のアラッド対ライホルトの模擬戦の範疇を越えた戦い……以上の戦いになる事間違いない。

「それなら、先にちゃんとルールを決めておくか。使用するのは……魔力、属性魔力のみ」

「分かった。それじゃあ、それで戦う」

先にルールを決めてしまった事で、ある程度ラディアたちに、スティームのどの部分が評価するべき点なのかバレてしまうかもしれない……なんて事は、アラッドも解っていた。

だが、アラッドには確信があった。

仮に答えに辿り着いたとしても、初戦ではどうする事も出来ないと。
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