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七百四十六話 欠片もないので口にしない

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(店の雰囲気、料理の味も良いな)

内装、提供される味、店内の空気、全てに満足しているアラッド。

「本当に良い店だな」

ストレートな褒め言葉をハッキリと口にする。

それを聞いて、店を案内して共に昼食を食べているリエラだけではなく、従業員たちも心の中で満面の笑みを浮かべる。

「そうでしょう。他の候補もあったのだけど、あなたはあまり堅苦しい場所は好まないでしょう」

王都を案内しているのはアラッドだけではなく、フローレンスやアッシュたち全員。

アラッドだけが主役という訳ではないが、それでも……リエラは実際に感じて、観て把握した強さ。
彼等が話すときの空気なども含めて、間違いなくアラッドが彼等の中でトップの存在であると認識。

故に、あまりアラッドの機嫌を損ねすぎるのは良くないと判断し、昼食の店を選んだ。

「ところで……あなた達の従魔は裏で遠慮なく料理を食べてるらしいのだけど、本当に制限をしなくて良いのかしら」

当然の事ではあるが、体が人よりも大きいクロとファルは一般的に人間よりも多くの食事を食べる。

リエラが選んだ店には権力者たち以外の客も訪れるが、それでも冒険者たちや傭兵、他の職業たちの者が訪れるのであれば、多少は背伸びする必要がある。

大量に食べれば、それだけ良い額が飛んでいく。

「隠さずに言えば、金はある。だから、特に気にする必要はない」

「まぁ、僕も同じかな。アラッド一緒に行動し始めてから、懐に入ってくるお金は間違いなく多くなったからね」

「……冒険者って、随分と儲かるのね」

「リエラ、それは違うわ。普通はそこまで辿り着くのに、多大な時間が掛かる」

ラディアを知る冒険者が聞けば、お前がそれを説明するのかとツッコむかもしれないが、この場にいる冒険者が……ガルーレも含め、最初から身に付けていた戦闘力が異常に高かったため、金銭面で苦労した経験が殆どなかった。

「つまり、アラッドたちぐらい強ければ、ということね」

「そういう事」

幼い頃からの顔見知りということもあり、身分に関係無く会話をする二人を見て……アラッドはレイたちの事を思い出し、小さな笑みを零す。

すると……誰かがその笑みに反応するではなく、先に自分たちに向かってくる存在に気付き、そちらに意識を向けた。

「失礼、そちらの女性と少しお話したいのですが、よろしいでしょうか」

アラッドたちに声を掛けてきた人物は……とある赤髪の青年。

ガルーレやスティームは直ぐに声を掛けてきた人物たちが、赤髪の青年も含めて冒険者であることに気付いた。

(冒険者……冒険者。俺たちと同じ冒険者……だよな?)

人族、エルフ、竜人族、ハーフドワーフの四人組。
全員が男であり、種類別ではあれど全員が良い面をしている。

そんな中、アラッドは声を掛けてきた赤髪の青年に関して疑問を持った。

「はぁーーー……」

「ラディア、構いませんわ」

「っ、でも」

「大声を上げず、不遜な態度で接してこなかった。それだけで、彼らは他の冒険者たちよりも礼儀があると判断しても良いでしょう」

何かあれば、無理矢理にでも治めることが出来る。
そう判断し、わざわざ一人だけ場所を変えなくても良いと友人に伝えた。

そんなリエラの判断に、アラッドたちも異論はなく、同じ冒険者たちと比べて、彼らは礼儀があるという判断にも同意であった。

(……ラディアたちの反応からして、同じ貴族出身ではない……みたいだな。であれば…………隠し子か、もしくは認知されてない子、か)

とても口には出せない。
からかう内容であっても、ジョークセンスの欠片もない。

それが解らないアラッドではなく、だからこ疑問に思っても口にすることは一切なかった。

「感謝します」

「構わないわ。それで、昼食中にわざわざ話しかけてきたという事は、それなりの用があるということよね」

自分たちが居た方が、面倒が起こっても無理矢理なんとか出来ると判断した。

しかし、それはそれでこれはこれ……楽しい昼食タイムが邪魔されたことに変わりはない。

「実は、俺たちはそちらの同業者、ラディアにうちのパーティーに加入しないかと、スカウトしたことがあります」

「過去形という事は、前に振られたということね」

「えぇ、その通りです」

赤髪の冒険者はリエラの言葉をもう少し柔らかく訂正することはなく、素直に事実だと答えた。

「その際、彼女はこれからも基本的にソロで活動するからと、断られてしまいました」

ラディア・クレスターにはそう宣言できるだけの実力がある。
それは彼等も認めていた。

「しかし……偶々この店にいた彼女が、他の冒険者たちといた。これはいったいどういう事なのかと思い、声を掛けました」

現在自分に話しかけている女性、そして岩男の様な男性。
その二人が冒険者ではないことは理解していた。

もう一人……正確にはもう三人、直感が彼女たちは冒険者ではないと判断した人物たちもいた。

だが、明確にこの三人は冒険者だと判断出来る者たちがいた。
何故自分たちの誘いを断り、これからもソロで活動すると言っていたのに、見知らぬ冒険者たちと共に行動してるのかと……それが、彼らが声を掛けてき理由。

要は嫉妬である。

アラッドは面倒と思うと同時に、そういうのじゃないから帰れ、というだけで事が片付くとは思えず、心の中でため息を吐いた。
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