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七百三十五話 必要はない

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「でしたら……時期を見極めて、私も冒険者になりましょうか」

「「「「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」」」」」

衝撃の一言……簡潔にして、非常に伝わりやすい言葉である。

衝撃を受けたのはラディアやライホルト、ソルやルーナだけではなくアラッドやスティーム……その他の者たちも大なり小なり差はあれど、似た様な反応であった。

「……フローレンス、もう呑み過ぎたか?」

「普段からそこまで呑み過ぎる方ではありませんが、それなりに吞める方なので安心してください」

既に二杯目のワインではあるが、確かに……フローレンスはまだ酔っていなかった。

だが、アラッドからすれば、酔った状態で先程の言葉を吐いていた方が、まだ気持ちが軽かった。

「そ、そうか…………それで、お前……本気なのか?」

「まだ確定したわけではありませんよ。ただ、私は騎士として前線で動き続けたい。その思いが変わることはありません。多少の書類仕事などであればまだしも、基本的に現場に出て動き続けます」

「そうか、それは俺が言うのもあれだが、非常に良い心がけ? だとは思う」

「そうでしょう。しかし、上の方々が私を無理矢理上に引き上げようとするのであれば、騎士の爵位を返上して冒険者に転職するのも、致し方ない事でしょう」

致し方ない事でしょう、ではない!!!!!!!

アラッドは心の内の激情をなんとか……なんとか抑えることに成功した。

「そうは言うがな、フローレンス。お前は公爵家の令嬢だぞ」

「えぇ、それは勿論自覚しています。しかし、歴史を遡れば、公爵家出身の冒険者は全くいないわけではないようです」

「………………」

知らない。
もしかしたら実在したのかもしれないが、少なくともアラッドは知らなかった。

自分たちの会話を耳にしてるであろうアルバース国王の方にチラッと視線を向けると、アラッドの意図を察した国王は苦笑いしながら小さく頷いた。

(クッソ、その場しのぎの嘘じゃないのかよ)

前例がある。
となれば、あれこれ屁理屈を伝えて思い留まらせることが出来ないと肩を落とす。

「そもそもな話、アラッドも侯爵家の人間ではないですか」

「それはそうだがな」

「私は長女ではありませんし、あなたと同じく特にあれこれ気にする必要はないかと」

(こ、こいつ……もしかして開き直ってるのか? つか、腰巾着二人、なんでフローレンスの暴走? を止めないんだよ)

フローレンスが騎士団から抜け、騎士を辞めるかもしれない。
それはソルとルーナにとって、なんとしてでも止めたい案件である。

しかし、同時にもしもの場合は騎士を辞めて冒険者に転職し、前線で……最前線で動き続ける。
それは、その考えは二人が惚れたフローレンスの考えでもあった。

故に……ただ思うだけではなく、それを口にしてしまったフローレンスを止められなかった。

「……俺に関しては、ガキの頃から冒険者になると断言してた。だから社交界にも最低限しか出席してなかった」

「だから許されたと?」

「そういう部分もあると、思ってる。でもな、フローレンス、お前は違うだろ」

「えぇ、違いますね」

あっさりと認めてしまった。
それでも、やはり考えそのものが変わったようには見えない。

「ですが、民を守りたいと……新たに出来た、自分の力ではどうしようも出来ず、未来を持てない子たちの為に動くには…………騎士である必要はありません」

(………………チッ!!! 良い眼をしやがる)

最大限の賛辞である。
苦々しい表情が零れてはいるものの、今フローレンスが浮かべている表情は……掲げている信念は、非常にアラッド好みであった。

「……ふっふっふ、はっはっは!!!!! 一本取られた、というのは違うだろうが、確かに……真理ではある。誰かを守る、支えるという目標を果たすためならば、必ずしも騎士である必要はないな」

「ライホルト、それは現役の騎士が口にしていい言葉なの?」

「その理屈なら、良くはないだろう」

おいおいおい、と言いたげな眼を向けられるも、ライホルトは自信満々な表情で自身の考えを述べた。

「しかし、我々が忘れてはならないのは……騎士としての役目、騎士になると決めた時の心、初心……そういったものを忘れてはならないと、再認識させられた」

「…………それは、そうなのかもね」

既に冒険者としての道を進んでいるラディアだが、それでも騎士道精神とは何なのか、騎士たちの役割……それらを忘れてしまった訳ではなかった。

「であれば、必ずしも騎士である必要はない……なんとも、覚悟を秘めた言葉だと思わないか?」

「…………否定は、出来ないな」

答えを求められたアラッドは、そう答えるしかなかった。

己の正義を為すために、目標の為に騎士という立場を捨てることを厭わない……非常にアラッドとしては、敬意を感じざるを得ない心構えである。

(……これ、俺は関係無いよな。別に俺と関わったから、短期間とはいえ俺と共に行動したからとか、全く関係無いよな?)

珍しく、心の中で言い訳の言葉を並べるアラッドであった。
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