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七百二十三話 無駄とは、思えない
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SIDE アラッド
「フローレンスが強化系スキルを使って超強化したと思ったら、向こうの岩男も同じようなスキルを発動したみたいだな」
「……筋肉パラダイス?」
「ぶふっ!!!!!」
弟の呟きに思わず吹き出してしまったアラッド。
審判の男性も、間違いが起きそうになった時に止められるだけの強靭な体を有しているため、確かにリングの上は筋肉パラダイスと呼べる状態……かもしれない。
「ぶはっはっは!!!!!」
当然、ガルーレは大爆笑。
「ふっ、ふっ……ふふふ」
スティームは笑いをこらえるのは必死になっていた。
「き、筋肉パラダイス、か……確かにそう表現できる状態かもしれないな」
「お、お腹、痛い…………よ、よじれる」
「えっと、リングの上が筋肉パラダイス、なのは一旦置いといて、フローレンスさんが使用した強化スキルは、アラッドが度々話してくれてた、聖光雄化で良いんだよな」
それを使用した状態のフローレンスは、アラッドは筋肉聖女と評していた。
そして今、リングの上で動きが損なわれない限界まで筋肉が肥大化したライホルトと渡り合っているフローレンスの姿は……確かにその言葉がピッタリ当てはまる。
失礼だとは思いつつも、色々と納得してしまったスティーム。
「そうだ。あれが、フローレンスの切り札の一つ、聖光雄化だ。あっちの岩男も何かしらの手札を持っているとは思っていたが……中々どうして、ふっふっふ。やはり、あの岩男とも戦ってみたかったな」
「うん、アラッドはアラッドだね。それで、あの人はいったいどういった強化スキルを使ったんだろ」
「…………身体強化系なのは間違いない。ただ……腕力がメイン、か?」
そんな事言われなくても解る!!! と、何も解らない者であればツッコんでしまうが……アッシュも含め、アラッドの言葉に対して下手に……不用意なツッコミを入れることはなかった。
「戦況としては、さっきまでとそんなに変わってない感じ?」
「そう、だね……予想以上に、岩男さんが発動した強化系スキルの効果が高い」
「…………仕方ない。視させてもらうか」
失礼を承知で、アラッドは一瞬だけ岩男ことライホルト・ギュレリックのステータスを視た。
「……気になるスキルが、一つだけあった」
「どんなスキルだったんですか?」
「巨人の怒り、だ」
「詳細は?」
「悪いが、そこまでは視れてない。仕方ないと思いはしたが、試合中にあまりじろじろと視るのは、な」
ただ注意深く感心するのと、鑑定を使って視られるのは違う。
それを理解しているアラッドは、本当に一瞬だけしかライホルトの事を視てない。
「巨人の怒り。名前からして、やっぱり身体強化の中でも、腕力強化がメインのスキルなのかな」
「……戦況的に、腕力だけじゃなくて防御力? も上がってそうじゃない」
「ガルーレの言う通りだな。それでもフローレンスが使用した聖光雄化の方が、効果は勝っている。だから先程までと比べて、攻撃は通るようになっているが……だとしても、先程まで以上に、一発で試合がひっくり返る脅威を感じる」
アラッドの違和感は、的中していた。
ライホルト・ギュレリックが有している強化系スキル、巨人の怒りの効果は身体能力の大幅強化……それにプラス、対峙している者との速度が大きければ大きい程、使用者の腕力と防御力を上げる。
(フローレンスも聖光雄化で防御力が強化されている。聖光を纏うことで、斬撃や刺突の威力は向上してる。しかし、やはり試合を直ぐに終わらせることは…………いや、そこは俺が心配するところじゃないか)
首を横に振り、脳裏に過った考えをかき消す。
「……アラッド兄さん。この勝負、やろうと思えばフローレンスが勝てますよね」
「やろうと思えば、というのはどういう意味だ?」
「向こうの人も貴族出身の方らしく、魔力量は多いです。でも、やはり前衛タイプの人の特徴が出てるというか……つまり、逃げれば勝てますよね」
逃げる、という言葉がどの様な戦い方を示しているのか、アラッドたちは直ぐに理解し……そしてアッシュの考えを肯定した。
「そうだな。確かに魔力の総量はフローレンスの方が多い。逃げて魔力切れを待つのも、一つの戦略だ。ただ……そうはしないだろうな」
言葉通り、アラッドは相手の魔力切れを待って戦うという、消極的な戦法を否定するつもりはない。
リングの上という場所で、消極的な相手を仕留められない。
それはそれで、ライホルトの仕留める力のなさも指摘される。
だが……アラッドは、フローレンスがその戦法を取るとは思えなかった。
「何故ですか?」
「アッシュからすれば、あまり理解出来ない話だとは思うが……プライド、だろうな」
「プライド、ですか」
「あぁ、そうだ。自身に全力を尽くそうと向かってくる相手から、逃げたくない。他に戦い方があると解っていても……真っ向から打ち勝ちたい。あまり、理解出来ないだろ」
「そうですね。僕は、高ランクモンスターの素材が欲しいので、あぁいった戦いをしましたけど……でも、無駄なプライドだとは、思いませんね」
逃げず真正面から打ち勝とうとするフローレンスのプライドを理解出来ずとも、アッシュはそのプライドを否定しようとは……とても思えなかった。
「フローレンスが強化系スキルを使って超強化したと思ったら、向こうの岩男も同じようなスキルを発動したみたいだな」
「……筋肉パラダイス?」
「ぶふっ!!!!!」
弟の呟きに思わず吹き出してしまったアラッド。
審判の男性も、間違いが起きそうになった時に止められるだけの強靭な体を有しているため、確かにリングの上は筋肉パラダイスと呼べる状態……かもしれない。
「ぶはっはっは!!!!!」
当然、ガルーレは大爆笑。
「ふっ、ふっ……ふふふ」
スティームは笑いをこらえるのは必死になっていた。
「き、筋肉パラダイス、か……確かにそう表現できる状態かもしれないな」
「お、お腹、痛い…………よ、よじれる」
「えっと、リングの上が筋肉パラダイス、なのは一旦置いといて、フローレンスさんが使用した強化スキルは、アラッドが度々話してくれてた、聖光雄化で良いんだよな」
それを使用した状態のフローレンスは、アラッドは筋肉聖女と評していた。
そして今、リングの上で動きが損なわれない限界まで筋肉が肥大化したライホルトと渡り合っているフローレンスの姿は……確かにその言葉がピッタリ当てはまる。
失礼だとは思いつつも、色々と納得してしまったスティーム。
「そうだ。あれが、フローレンスの切り札の一つ、聖光雄化だ。あっちの岩男も何かしらの手札を持っているとは思っていたが……中々どうして、ふっふっふ。やはり、あの岩男とも戦ってみたかったな」
「うん、アラッドはアラッドだね。それで、あの人はいったいどういった強化スキルを使ったんだろ」
「…………身体強化系なのは間違いない。ただ……腕力がメイン、か?」
そんな事言われなくても解る!!! と、何も解らない者であればツッコんでしまうが……アッシュも含め、アラッドの言葉に対して下手に……不用意なツッコミを入れることはなかった。
「戦況としては、さっきまでとそんなに変わってない感じ?」
「そう、だね……予想以上に、岩男さんが発動した強化系スキルの効果が高い」
「…………仕方ない。視させてもらうか」
失礼を承知で、アラッドは一瞬だけ岩男ことライホルト・ギュレリックのステータスを視た。
「……気になるスキルが、一つだけあった」
「どんなスキルだったんですか?」
「巨人の怒り、だ」
「詳細は?」
「悪いが、そこまでは視れてない。仕方ないと思いはしたが、試合中にあまりじろじろと視るのは、な」
ただ注意深く感心するのと、鑑定を使って視られるのは違う。
それを理解しているアラッドは、本当に一瞬だけしかライホルトの事を視てない。
「巨人の怒り。名前からして、やっぱり身体強化の中でも、腕力強化がメインのスキルなのかな」
「……戦況的に、腕力だけじゃなくて防御力? も上がってそうじゃない」
「ガルーレの言う通りだな。それでもフローレンスが使用した聖光雄化の方が、効果は勝っている。だから先程までと比べて、攻撃は通るようになっているが……だとしても、先程まで以上に、一発で試合がひっくり返る脅威を感じる」
アラッドの違和感は、的中していた。
ライホルト・ギュレリックが有している強化系スキル、巨人の怒りの効果は身体能力の大幅強化……それにプラス、対峙している者との速度が大きければ大きい程、使用者の腕力と防御力を上げる。
(フローレンスも聖光雄化で防御力が強化されている。聖光を纏うことで、斬撃や刺突の威力は向上してる。しかし、やはり試合を直ぐに終わらせることは…………いや、そこは俺が心配するところじゃないか)
首を横に振り、脳裏に過った考えをかき消す。
「……アラッド兄さん。この勝負、やろうと思えばフローレンスが勝てますよね」
「やろうと思えば、というのはどういう意味だ?」
「向こうの人も貴族出身の方らしく、魔力量は多いです。でも、やはり前衛タイプの人の特徴が出てるというか……つまり、逃げれば勝てますよね」
逃げる、という言葉がどの様な戦い方を示しているのか、アラッドたちは直ぐに理解し……そしてアッシュの考えを肯定した。
「そうだな。確かに魔力の総量はフローレンスの方が多い。逃げて魔力切れを待つのも、一つの戦略だ。ただ……そうはしないだろうな」
言葉通り、アラッドは相手の魔力切れを待って戦うという、消極的な戦法を否定するつもりはない。
リングの上という場所で、消極的な相手を仕留められない。
それはそれで、ライホルトの仕留める力のなさも指摘される。
だが……アラッドは、フローレンスがその戦法を取るとは思えなかった。
「何故ですか?」
「アッシュからすれば、あまり理解出来ない話だとは思うが……プライド、だろうな」
「プライド、ですか」
「あぁ、そうだ。自身に全力を尽くそうと向かってくる相手から、逃げたくない。他に戦い方があると解っていても……真っ向から打ち勝ちたい。あまり、理解出来ないだろ」
「そうですね。僕は、高ランクモンスターの素材が欲しいので、あぁいった戦いをしましたけど……でも、無駄なプライドだとは、思いませんね」
逃げず真正面から打ち勝とうとするフローレンスのプライドを理解出来ずとも、アッシュはそのプライドを否定しようとは……とても思えなかった。
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