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七百二十二話 挑みたかったが

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SIDE フローレンス

(今のカウンターは、少し危なかった、ですね)

剣を合わせる前から解っていた。

素の状態、一定レベルまでなら……完全にパワーに関しては負けていると。
だからこそ自分が勝っているストロングポイント、スピードで勝負を進めようとしていたが、思ったよりも早く対応されてしまった。

(改めて……今のところ、まだその土俵に付き合いたくありませんね)

まだ踏み込み過ぎる訳にはいかない。
そう判断したフローレンスは再び戦場を駆け、スピードで翻弄する。

「っ、流石だな」

先程までのフローレンスは戦場を縦横無尽に駆け回っていた。
当然の様に死角に回り込み、心臓や頭部、喉以外の急所と呼ばれる場所に斬撃、刺突を放っていた。

だが、第二ラウンドが始まってからは死角に周ることなく、正面や左右から斬撃や刺突を放ち、大気を斬り裂くライホルトの大斬を躱す。

(フローレンスもフローレンスで、対応する速さが並ではないな)

観客席から観戦しているアラッドは、素直にフローレンスへ賞賛を送っていた。

ライホルトはスピードタイプの相手に、ただ戦い慣れている訳ではなく、死角から放たれる攻撃にも慣れている。
完全にタイミングやリズムを読まれてしまえば、先程のフローレンスのようにガードしていても押し飛ばされてしまう。

だが……スピードタイプとして戦える者たちからすれば、自身の攻撃……一撃一撃によっぽどの自身がなければ、ライホルトの準備が間に合わないスピードで、角度から仕留めるしかない。

(死角を狙う動きと、正面からスピードを活かす戦い方は、また違う)

しかし、フローレンスはたとえ真正面からであっても、ライホルトに斬り勝つ強さを有している。

(ただ速いだけではなく、どのように速さを活かすのかであれば、真正面から戦う方がパターンが多い……と思っていたんだが、これは…………)

アラッドの予感が的中。

「ッ!!!!!!!」

本日、二度目の大斬に捉われたフローレンス。
今回も間に細剣を挟むことに成功したが、迷いなく振り抜かれる大剣の速さに、衝撃を逃がすことは出来なかった。

(…………認めなければなりませんね。おそらく、まだ隠し玉があるのだとすれば……この方は、私がこれまで対峙してきたどの相手よりも……パワーという点に限り、一番でしょう)

本能的になのか、実力がアラッドより上の可能性があるとは思わなかった。

普通に考えればアラッドより年齢が上のライホルトが、これまで対峙してきた相手の中で一番上だと認めてもなんらおかしくはないのだが……フローレンスはそんな自分の思考に、一切疑問を持たなかった。

「追撃は、してこないのですね」

「お前の技量が、俺を上回っていることは解っている。過去に、痛い目にも合っているからな」

「……冷静なのですね」

「脳筋という言葉は嫌いではないが、本当に言葉通りのままでは、勝てた試合も逃してしまう」

脳筋と呼ばれることが嫌いではない。
そう宣言したライホルトに……観戦していた殆ど者たちが首を傾げた。

因みに、アラッドたちの中では、ガルーレだけは何故か納得した顔で頷いていた。

「故に、深追いはしない」

「見事な判断です。では、やはり私が踏み込む必要がありますね」

次の瞬間、フローレンスの全身が膨れ上がり、多少筋肉質……といった肉体から、大きく変化した。

「っ……それが噂の聖光雄化、か」

「あなたは、これを使うだけの強さがある。本当は…………無茶に挑みたいところですが、そうもいきませんので」

アラッドは精霊剣の力を引き出したラディアに、最終的に封印されている水の精霊に意識を乗っ取られ、アッシュと同じく本人の限界を越えた力を引き出しそうになった相手に……クロを召喚せずに勝利した。

アラッドたちは知らないものの、アラッドが従魔を召喚したり、フローレンスが契約している光の精霊を召喚することはルールとして容認されている。
なので、あの場でアラッドがクロを召喚しても、全く問題はなかったが……一人でラディア・クラスターを倒したいという考えしかなく、結局相棒を呼ぶことなくラディアを倒した。

因みに今現在、従魔用の小屋で待機しているクロは……クロの存在が気になって訪れた者たちに対し、敵意がない事を確認してから……もふもふすることを許可し、もふられていた。

「ふっふっふ、そうか。有難いな……ぬぅうううううあああああああああああああッ!!!!!!!!!」

切り札の一つと言える手札を隠したところで、勝てる相手ではないと認めているのはライホルト・ギュレリックも同じ。

「あらあら……少し、私との聖光雄化と似ているでしょうか」

「かもしれないな」

状況によっては、フローレンスが持つ常人が獲得することは出来ない強化系スキル、聖光雄化に迫る能力を秘めている強化スキル……巨人の怒り。

それが、ライホルト・ギュレリックが他の代表候補騎士たちを蹴散らすという結果を得るに至った切り札。

(おそらく……腕力も強化されている。だからといって……避ける訳にはいかない)

この瞬間、確かにフローレンスの顔には、何かに挑むときに表れる、笑みが浮かんでいた。
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