スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
723 / 1,058

七百二十二話 挑みたかったが

しおりを挟む
SIDE フローレンス

(今のカウンターは、少し危なかった、ですね)

剣を合わせる前から解っていた。

素の状態、一定レベルまでなら……完全にパワーに関しては負けていると。
だからこそ自分が勝っているストロングポイント、スピードで勝負を進めようとしていたが、思ったよりも早く対応されてしまった。

(改めて……今のところ、まだその土俵に付き合いたくありませんね)

まだ踏み込み過ぎる訳にはいかない。
そう判断したフローレンスは再び戦場を駆け、スピードで翻弄する。

「っ、流石だな」

先程までのフローレンスは戦場を縦横無尽に駆け回っていた。
当然の様に死角に回り込み、心臓や頭部、喉以外の急所と呼ばれる場所に斬撃、刺突を放っていた。

だが、第二ラウンドが始まってからは死角に周ることなく、正面や左右から斬撃や刺突を放ち、大気を斬り裂くライホルトの大斬を躱す。

(フローレンスもフローレンスで、対応する速さが並ではないな)

観客席から観戦しているアラッドは、素直にフローレンスへ賞賛を送っていた。

ライホルトはスピードタイプの相手に、ただ戦い慣れている訳ではなく、死角から放たれる攻撃にも慣れている。
完全にタイミングやリズムを読まれてしまえば、先程のフローレンスのようにガードしていても押し飛ばされてしまう。

だが……スピードタイプとして戦える者たちからすれば、自身の攻撃……一撃一撃によっぽどの自身がなければ、ライホルトの準備が間に合わないスピードで、角度から仕留めるしかない。

(死角を狙う動きと、正面からスピードを活かす戦い方は、また違う)

しかし、フローレンスはたとえ真正面からであっても、ライホルトに斬り勝つ強さを有している。

(ただ速いだけではなく、どのように速さを活かすのかであれば、真正面から戦う方がパターンが多い……と思っていたんだが、これは…………)

アラッドの予感が的中。

「ッ!!!!!!!」

本日、二度目の大斬に捉われたフローレンス。
今回も間に細剣を挟むことに成功したが、迷いなく振り抜かれる大剣の速さに、衝撃を逃がすことは出来なかった。

(…………認めなければなりませんね。おそらく、まだ隠し玉があるのだとすれば……この方は、私がこれまで対峙してきたどの相手よりも……パワーという点に限り、一番でしょう)

本能的になのか、実力がアラッドより上の可能性があるとは思わなかった。

普通に考えればアラッドより年齢が上のライホルトが、これまで対峙してきた相手の中で一番上だと認めてもなんらおかしくはないのだが……フローレンスはそんな自分の思考に、一切疑問を持たなかった。

「追撃は、してこないのですね」

「お前の技量が、俺を上回っていることは解っている。過去に、痛い目にも合っているからな」

「……冷静なのですね」

「脳筋という言葉は嫌いではないが、本当に言葉通りのままでは、勝てた試合も逃してしまう」

脳筋と呼ばれることが嫌いではない。
そう宣言したライホルトに……観戦していた殆ど者たちが首を傾げた。

因みに、アラッドたちの中では、ガルーレだけは何故か納得した顔で頷いていた。

「故に、深追いはしない」

「見事な判断です。では、やはり私が踏み込む必要がありますね」

次の瞬間、フローレンスの全身が膨れ上がり、多少筋肉質……といった肉体から、大きく変化した。

「っ……それが噂の聖光雄化、か」

「あなたは、これを使うだけの強さがある。本当は…………無茶に挑みたいところですが、そうもいきませんので」

アラッドは精霊剣の力を引き出したラディアに、最終的に封印されている水の精霊に意識を乗っ取られ、アッシュと同じく本人の限界を越えた力を引き出しそうになった相手に……クロを召喚せずに勝利した。

アラッドたちは知らないものの、アラッドが従魔を召喚したり、フローレンスが契約している光の精霊を召喚することはルールとして容認されている。
なので、あの場でアラッドがクロを召喚しても、全く問題はなかったが……一人でラディア・クラスターを倒したいという考えしかなく、結局相棒を呼ぶことなくラディアを倒した。

因みに今現在、従魔用の小屋で待機しているクロは……クロの存在が気になって訪れた者たちに対し、敵意がない事を確認してから……もふもふすることを許可し、もふられていた。

「ふっふっふ、そうか。有難いな……ぬぅうううううあああああああああああああッ!!!!!!!!!」

切り札の一つと言える手札を隠したところで、勝てる相手ではないと認めているのはライホルト・ギュレリックも同じ。

「あらあら……少し、私との聖光雄化と似ているでしょうか」

「かもしれないな」

状況によっては、フローレンスが持つ常人が獲得することは出来ない強化系スキル、聖光雄化に迫る能力を秘めている強化スキル……巨人の怒り。

それが、ライホルト・ギュレリックが他の代表候補騎士たちを蹴散らすという結果を得るに至った切り札。

(おそらく……腕力も強化されている。だからといって……避ける訳にはいかない)

この瞬間、確かにフローレンスの顔には、何かに挑むときに表れる、笑みが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...