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七百十八話 摂理から逃れられなかった
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(更に、沈め……踏み込むことを、恐れるな)
決着を急ぐアラッド。
急ぐ理由は狂化を発動し続けることによるリスクを避けることだけではなく、このまま戦闘が長引けば、ラディアの体がヤバい意味で限界を向けてしまうかもしれないため。
(手元から離れれば、それで、大丈夫、だろう……)
狙いを乗っ取られているラディアではなく、水の精霊が封印されている精霊剣に定めた。
そこからは……アラッドは思考を、意識を放棄した。
「っ!!!!!!??????」
距離を取り、走りながら構えを取った瞬間……今日一、激しい金属音が会場中に響き渡った。
「ぐっ!!!??? っ、あ…………? 私は、どうして……っ!!??」
アラッドの狙い通り、無心で振るわれた渾身の一刀は見事精霊剣を捉え、ラディアの手元から弾き飛ばされたが……同時にラディアの体も吹っ飛び、壁に激突。
「…………っ、どうやら、上手くいったようだな」
ラディアの無事を確認し、狂化を解いた……訳ではなかった。
これ以上狂化を発動し続ければ、今度はアラッドは狂気に飲み込まれていた。
(本当に……危なかった。あの精霊剣…………彼女を乗っ取るだけではなく、無理矢理限界を越えた動きをしようとし始めていた)
乗っ取られた状態の身体能力は、同じく強靭な肉体を持つアラッドでさえ危機感を感じざるを得なかった。
その上に、更に人体的な意味で限界を越えた動きをされれば……完全に身体能力で上をいかれることになる。
(ギリギリ渦雷による加速でスピードは勝てたかもしれないが、本当に勝てていたのは、そこだけだろう)
「勝者、アラッド・パーシブル!!!!!! 治癒班! 直ぐに彼女の治療を!!!」
完全に限界を越えはしなかったものの、半歩踏み入った影響でラディアの体は外見以上にボロボロになっていた。
「あなたも治療を」
「いや、俺は大丈夫だ。外傷も、大したことはない」
アラッドの体にも切傷はそれなりに多く見受けられるが、それでも血が足りなさ過ぎて今すぐ肉が食べたい、と思ってしまう状態でもない。
(……ふふ。アクシデント、イレギュラーと言える事態が起こったものの、良い戦いを経験できた……)
心の底から、この代表戦に参加した意味があったと思い、薄っすらと笑みを零すアラッド。
だが……驚くべき出来事は、まだ終わっていなかった。
「あっ」
「ん? ………………ふぅ~~~~~~。こいつは、どういうことだ」
アラッドの目の前に、先程までラディアの手元にあった精霊剣が現れた。
(つい先日似た様なことが、俺の記憶がボケてなければあったと思うんだが……精霊が封印されてる剣ってことを考えれば、あり得なくはない現象なのか? というか、それならあの刀…………羅刹には、何かが封印されてるのか?)
完全に意識が目の前の精霊剣ではなく、先日……購入せざるを得ない状況になった羅刹に向いていた。
「………………っと、考え込み過ぎたな」
自分の意識が別の得物に向いているにもかかわらず、目の前から動かない精霊剣を見て……アラッドはもう二振りの得物を取り出した。
「渦雷、迅罰、そして羅刹……悪いが、頼もしい武器は間に合っている」
正直なところ、精霊剣という非常に貴重で珍しい武器には興味がある。
しかし、面前の相手はどこぞの山賊や裏の黒い組織に属する人間、自分に悪意を持って喧嘩を売ってきたクソ貴族ではない。
隣国の真っ当な冒険者の得物を奪うことなど……出来るわけがない。
「…………」
「はぁ~~~~……さっさと主人の元に、戻れ!!」
目の前から動こうとしない精霊剣、ウィルビアに向かって、今放てる最大威力の……デコピンを食らわせた。
結果、ウィルビアは回転しながらラディアから少し離れた壁に突き刺さった。
「俺に興味があるなら、お前の主人と共に更に高め合え。最後のあの強さが……常時出せる力となれば、再度戦う価値がある」
「…………」
壁までデコピンで弾き飛ばされた精霊剣は自力で抜け出し、アラッドの言葉を聞き終えた後……それでもアラッドの前に行く様なことはせず、大人しく自身の鞘に戻った。
(全く、本当に勘弁してほしいものだな)
精霊剣が主人であるラディアの元に戻ったことにホッと一安心し……アラッドも得物をしまい、ポーションを飲みながらリングから去って行った。
(気に入られた事は素直に嬉しいが……精霊に、人間の、貴族界の事情なんぞ解る訳がない。それは解っているが……はぁ~~~。ため息が止まらないな)
無事、ウィルビアは主人の元に戻りはした。
しかし、クレスター伯爵家の家宝的存在である武器、精霊剣ウィルビアが主人を乗り換えようとした場面を、フローレンスやスティーム……ナルターク王国の住人ではない者たちが見てしまった。
当然、ナルターク王国の住人である者たちも見てしまったのも重要問題ではある。
(いや、あれだけ……脳裏に敗北の二文字が過る試合が出来たんだ。それは満足すべきことなのだが………………仕方ないか。何かを得るには、何かを犠牲にする必要がある。今回、俺はその摂理から逃げられなかったということだ)
この後もため息を吐き続けたアラッドは、観客席に戻るまで自分が何回ため息を吐いたのか解らない程、運を吐き出し続けてしまった。
決着を急ぐアラッド。
急ぐ理由は狂化を発動し続けることによるリスクを避けることだけではなく、このまま戦闘が長引けば、ラディアの体がヤバい意味で限界を向けてしまうかもしれないため。
(手元から離れれば、それで、大丈夫、だろう……)
狙いを乗っ取られているラディアではなく、水の精霊が封印されている精霊剣に定めた。
そこからは……アラッドは思考を、意識を放棄した。
「っ!!!!!!??????」
距離を取り、走りながら構えを取った瞬間……今日一、激しい金属音が会場中に響き渡った。
「ぐっ!!!??? っ、あ…………? 私は、どうして……っ!!??」
アラッドの狙い通り、無心で振るわれた渾身の一刀は見事精霊剣を捉え、ラディアの手元から弾き飛ばされたが……同時にラディアの体も吹っ飛び、壁に激突。
「…………っ、どうやら、上手くいったようだな」
ラディアの無事を確認し、狂化を解いた……訳ではなかった。
これ以上狂化を発動し続ければ、今度はアラッドは狂気に飲み込まれていた。
(本当に……危なかった。あの精霊剣…………彼女を乗っ取るだけではなく、無理矢理限界を越えた動きをしようとし始めていた)
乗っ取られた状態の身体能力は、同じく強靭な肉体を持つアラッドでさえ危機感を感じざるを得なかった。
その上に、更に人体的な意味で限界を越えた動きをされれば……完全に身体能力で上をいかれることになる。
(ギリギリ渦雷による加速でスピードは勝てたかもしれないが、本当に勝てていたのは、そこだけだろう)
「勝者、アラッド・パーシブル!!!!!! 治癒班! 直ぐに彼女の治療を!!!」
完全に限界を越えはしなかったものの、半歩踏み入った影響でラディアの体は外見以上にボロボロになっていた。
「あなたも治療を」
「いや、俺は大丈夫だ。外傷も、大したことはない」
アラッドの体にも切傷はそれなりに多く見受けられるが、それでも血が足りなさ過ぎて今すぐ肉が食べたい、と思ってしまう状態でもない。
(……ふふ。アクシデント、イレギュラーと言える事態が起こったものの、良い戦いを経験できた……)
心の底から、この代表戦に参加した意味があったと思い、薄っすらと笑みを零すアラッド。
だが……驚くべき出来事は、まだ終わっていなかった。
「あっ」
「ん? ………………ふぅ~~~~~~。こいつは、どういうことだ」
アラッドの目の前に、先程までラディアの手元にあった精霊剣が現れた。
(つい先日似た様なことが、俺の記憶がボケてなければあったと思うんだが……精霊が封印されてる剣ってことを考えれば、あり得なくはない現象なのか? というか、それならあの刀…………羅刹には、何かが封印されてるのか?)
完全に意識が目の前の精霊剣ではなく、先日……購入せざるを得ない状況になった羅刹に向いていた。
「………………っと、考え込み過ぎたな」
自分の意識が別の得物に向いているにもかかわらず、目の前から動かない精霊剣を見て……アラッドはもう二振りの得物を取り出した。
「渦雷、迅罰、そして羅刹……悪いが、頼もしい武器は間に合っている」
正直なところ、精霊剣という非常に貴重で珍しい武器には興味がある。
しかし、面前の相手はどこぞの山賊や裏の黒い組織に属する人間、自分に悪意を持って喧嘩を売ってきたクソ貴族ではない。
隣国の真っ当な冒険者の得物を奪うことなど……出来るわけがない。
「…………」
「はぁ~~~~……さっさと主人の元に、戻れ!!」
目の前から動こうとしない精霊剣、ウィルビアに向かって、今放てる最大威力の……デコピンを食らわせた。
結果、ウィルビアは回転しながらラディアから少し離れた壁に突き刺さった。
「俺に興味があるなら、お前の主人と共に更に高め合え。最後のあの強さが……常時出せる力となれば、再度戦う価値がある」
「…………」
壁までデコピンで弾き飛ばされた精霊剣は自力で抜け出し、アラッドの言葉を聞き終えた後……それでもアラッドの前に行く様なことはせず、大人しく自身の鞘に戻った。
(全く、本当に勘弁してほしいものだな)
精霊剣が主人であるラディアの元に戻ったことにホッと一安心し……アラッドも得物をしまい、ポーションを飲みながらリングから去って行った。
(気に入られた事は素直に嬉しいが……精霊に、人間の、貴族界の事情なんぞ解る訳がない。それは解っているが……はぁ~~~。ため息が止まらないな)
無事、ウィルビアは主人の元に戻りはした。
しかし、クレスター伯爵家の家宝的存在である武器、精霊剣ウィルビアが主人を乗り換えようとした場面を、フローレンスやスティーム……ナルターク王国の住人ではない者たちが見てしまった。
当然、ナルターク王国の住人である者たちも見てしまったのも重要問題ではある。
(いや、あれだけ……脳裏に敗北の二文字が過る試合が出来たんだ。それは満足すべきことなのだが………………仕方ないか。何かを得るには、何かを犠牲にする必要がある。今回、俺はその摂理から逃げられなかったということだ)
この後もため息を吐き続けたアラッドは、観客席に戻るまで自分が何回ため息を吐いたのか解らない程、運を吐き出し続けてしまった。
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