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七百十話 納得は……出来る?

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(強い……明らかに強くなっている。新米とはいえ、現役の騎士を倒したというのも納得の強さだ。だが……本当にアッシュの奴、どういったスキルを使ったんだ?)

珍しく、アラッドの顔に本気の疑問が浮かぶ。

スティームたちもアラッドに尋ねるだけではなく、自分の頭でいったいアッシュはどんな方法で自身の身体能力を
大幅に向上させ……何故アッシュらしからぬスタイルで戦っているのかを考える。

そんな中、観戦中であるアルバース国王だけは歯軋りしているナルターク国王の隣で年齢忘れてはしゃいでいた。

「ダメだ、全く思い浮かばない~~~。魔力は纏ってるけど……属性魔力じゃないから、スティームみたいに赤雷とかアラッドのお兄さんみたいに黒炎とかを纏ってるからじゃないもんね」

「そうだね。そこは僕が断言出来る。アッシュ君は色が付いた魔力を纏っている訳ではない」

「…………もしや、スキルや魔力は関係無いのでしょうか」

まだ明確な理由は浮かんでいない。
それでもフローレンスの口から、そんな言葉が零れた。

他の面子からすれば、それはどういう意味だと、本気で頭を捻りたくなる。

(スキルや、魔力は関係、ない……っ!!!!!!)

だが、この中にいる面子の中で、誰よりもアッシュの事を知っているアラッドだからこそ、そこから答えに辿り着くことが出来た。

「あいっ!!!!!! ……くっっっ、そ…………は、はっはっは。マジかよ」

いきなり立ち上がり、拳を握りしめながらも……完全に四つも歳上である上級生、リエラ・カルバトラを圧している弟に好戦的な笑みを浮かべた。

「あ、アラッド? もしかして、何か解かったの?」

「あぁ……本人に聞かなきゃ本当に正解かは解らないが、多分間違ってない筈だ」

「なになになに!!!??? 弟君はいったい何をしたの!!??」

「おそらく、無理矢理……自分の意志で、体の限界を突破させた」

「「「「っ!!!!????」」」」

この世界にはまだ、体や脳の限界などについて科学的な証明はされていない。

それでも戦いの世界の……命懸けの戦闘を繰り返し行う彼ら彼女たちであれば、それが何を意味するのか……半分は解る。

「そんな事、出来るものなの?」

「出来る訳がないだろ……普通ならな」

アラッドはアッシュが大幅にパワーアップした要因を理解した瞬間、速攻で「お前は青〇か赤〇かよ!!」とツッコんだ。

(代表戦に誘われてから、この短時間でおそらく戦うであろう上級生に対して、対抗できる秘策としては……解る!!! 解らなくはないが……だからって、やろうと思って出来るかよ!!!!!)

怒ってはいない。
心の中で呟く言葉は荒くなっているが、決して怒ってはいない。

ただ……アッシュの底知れないセンス、転移知らずな才能に興奮していた。

「ただ、あいつはやってみせた」

「じゃあじゃあ!! アラッドが狂化を使った時みたいに荒れてるのは、そのせい?」

「無理矢理感情すらも振り切っている……そう見て取れるが、アッシュの事だ……何が考えがありそうだな」

スティームたちはまだアッシュの超パワーアップを飲み込めておらず、アラッドですら乾いら笑いを浮かべる中……既に試合は佳境に差し掛かっていた。

「刃ッ!!!!!!!!!!!」

超パワーアップした……その事実は間違いなく、最初からフルスロットルという点も含めてアッシュはリエラを驚かせた。

だが、学生レベルではないのはリエラ・カルバトラも同じ。

既に就職先の騎士団は決まっており、決してお飾りではないトップクラスの騎士団。
その実力はアッシュと同じく、そこら辺の新米騎士より上。

確かに身体能力は上回られてしまった……それでも、それだけで怯え怯み、諦める強者ではない。

圧倒的、絶望的という言葉が脳を過るほどの差がある訳ではない。
であれば、回避と攻撃のタイミングさえ合えば形勢逆転も不可能ではない。

「ふっ……っと。僕の勝ちで良いですよね」

「っ!!!!!!!」

リエラが放った刺突は、細剣技スキルの技、閃光。

まさに言葉通り、閃光の如き速さで対象を貫く。
リエラほどの実力者が放つ閃光であれば、タンクが構える盾などお構いなしに貫く。

しかしアッシュはそれを完全に読んでいたかのように……自然な流れで超低空飛行で駆け、リエラの腕が伸びきった瞬間に背後から首筋に剣先を添えた。

「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ」

「……まだ、戦りますか? 代表戦って事を考えれば、まぁその判断も致し方なしではあると思いますが」

「っ!!!!!!!」

葛藤が…………リエラがこれまで生きてきた中で、一番の葛藤が生まれた。

(代表戦、勝たなければ、ならない。けど、けど、けどっ……けれど……………………)

勝利こそ、最上の目的。
この戦いはリエラだけが背負っているものではない。

その点を考えれば……例え後からアルバース国王側から何かを言われても、このまま試合を続けるべきというのは間違ってはいない。

「…………私の、負けですわ」

それでも、これから正しき騎士として生きる為には、ここで嘘は付けなかった。
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