スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
708 / 1,047

七百七話 逃げられない

しおりを挟む
「……平和に過ごしたかったんだけどな」

「は、ははは。仕方ないよ。本当に……うん、仕方ないと思うよ。なんだかんだで、さっきの一件だってアラッドは悪くないし」

店内から出たアラッドは大袈裟にため息を吐く。
友人が慰めてくれるのは嬉しいが、そう簡単に沈んだ気分は晴れない。

「スティームの言う通りですよ。人が武器を選ぶのではなく、武器が人を選ぶ……その様な現象が起こるかもしれないと、予想出来るものではありません」

「そりゃそうなんだろうが……はぁ~~~~。やっぱり、外に出るべきじゃなかったか」

今更後悔しても仕方ない。
それはその通りだと解っているアラッド。

それでも……愚痴を吐かなければやってられない。

「でもさ、アラッドもあの武器……刀? に目を奪われてたじゃん。買う切っ掛けになったから、結局良かったんじゃないの?」

「買うにしても、ショーケースをぶち壊して目の前に来られるのは……」

「確かにあれには驚かされたね!!! それで、あの刀はなんて名前なの?」

武器がショーケースをぶち破って現れた現象には驚かされた。

ただ、その得物の詳細はどんなものなのか気になって仕方なかった。

「名前は羅刹だ。ランクは五だったな」

「へぇ~~~~……名前はなんかカッコ良いけど、ランクは五なのね」

ランクが五というのは、決して低くない。
寧ろ高品質と言える品であるのは間違いなく、BランクやAランクの冒険者であっても使っている者はそれなりにいる。

「あんな派手にアラッドの前に現れたから、最低六……もしかした八ぐらいかと思ってた」

「ランクが八もあったら、もっと金を払う必要があるに決まってるだろ」

白金貨数枚が大金であるのは間違いないが、ランクが八の武器など……一部の者たちからは、人知を越えた存在と呼ばれている。

(間違いなく、羅刹のランクは五だった…………けど、確かに違和感はある)

アラッドも疑問に思うところはあった。
あれだけ自分が眼を離せず、ガルーレの言う通りぶっ飛んだ登場をしたにもかかわらず、ランクは五なのかと。

「ていうかさ、アラッドの得意な得物ってロングソードなんでしょ。その刀って武器は使えるの?」

「一応使える。ガキの頃から気になってた武器ではあるから、それなりに鍛錬は積んでた」

「はぁ~~~、本当に色々と使えるよね、アラッドって」

「やる気次第だ。何かを始めるのに、遅すぎるってのはないだろ」

ガルーレはスティームやフローレンスと殆ど年齢が変わらず、世間一般的には若造の部類であるのは間違いなかった。

「へっへっへ、そうねぇ。んじゃ、いっちょ本気で頑張ってみようかな。あっ、そういえば刀がショーケースをぶっ壊したのはアラッドにとって迷惑な登場だったかもしれないけど、そのお陰で更にアラッドや私たちに、下手に関わらない方がいいって、良い警告になるんじゃない?」

「そう言われてみると…………そうだな。そういう風に考えることも出来るが」

目立った、それは間違いない。

武器が持ち手を、主人を選んだ。
話題性は抜群。

たとえナルターク王国の王都に滞在している者たちがアラッドの名前を知らずとも、選ぶのではなく逆に武器に選ばれた人間……それだけで強者感が満載である。

加えて、アラッドはその場で購入費と修繕費を含めて、サラッと白金貨数枚を手渡した。
財力も力の内の一つなため、更に下手に関わってはいけない要素になる。

「けど、今回の話が戦う人の耳に入ったら、相手の人ビビッて逃げちゃうんじゃない?」

半分は冗談ではあるが……もう半分は本気だった。

対戦相手がある程度アラッドの情報を集めているなら、そこに彼は武器から選ばれるほどの実力を有している追加情報が入れば……戦う前から諦めてしまうかもしれない。

それは、決してガルーレの考えが大袈裟とは言えない内容だった。

「さぁ、どうなるだろうな。もしかしたらビビるのかもしれないが、そもそも今回……互いに上司から選ばれた事情を考えれば、ビビっても逃げられないだろ」

「そうだよ、ガルーレ。逃げたら本人だけじゃなくて、家族にまで被害が及ぶかもしれないし」

「そういうもんなの?」

「そういうものだと思うよ。アラッドが珍しいタイプなだけで、今回上司から選ばれるのは、本当に名誉なことなんだ」

「だとさ、アッシュ。名誉だって思ってるか?」

「僕としては、錬金術に使える珍しい素材さえ手に入れば、それで良いと思ってます」

「…………」

例外にはアラッド以外にもいたが、それでもスティームの説明は正しい。

今回の代表戦に呼ばれることは大変名誉であり……相手が色々常識が通じない相手と解っても、辞退できるものではない。

「つっても、スティームの言う通りそういった事情も絡まって、逃げることはないだろ」

「けど、わざと手を抜くかもしれないじゃん」

「もしかしたら、器用な奴なのかもしれないな。まぁ……そんなクソつまらない姿勢で戦うつもりなら、速攻で終わらすだけだ」

冷めた目。

その言葉に相応しい友人の目を見て、スティームは頭からつま先まで震えた。

そして改め……友人が代表戦で負けることは絶対にないと、確信した。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...