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六百九十七話 よくよく考えてみれば

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リーダーの言葉に、他の護衛たちの顔にも確かな自信が戻った。

「ふふ……頼りになるな。頼もしい限りだ……そういえば、アラッドは轟炎竜と戦ったことがあったな」

「はい。ただ、あの轟炎竜は火竜から進化したばかりのAランク。それでも、クロと共に戦っての勝利です。俺自身の勝利ではありません」

何を尋ねられたのか即座に把握し、アラッドは自分の力だけで倒せたのではないと断言。

そんなアラッドの言葉、態度に……騎士たちは小さな嫉妬と、大きな敬意を抱いた。

(ただ謙虚なだけではなく、先を…………まだ強くなるという確かな意志を持っているからこその答え、だな)

リーダーの男は、相棒のクロを撫でるアラッドの志を見習わなければと思い、向上心が更に燃え上がった。

その後は特に問題が起こることはなく、夕食を食べ終え……野営なのに風呂に入るという贅沢を楽しみ、就寝。
さすがにアラッドも夜の見張りぐらいは行わなければと思ったが、騎士や宮廷魔術師に止められた。

「君たちは代表戦で力を発揮してほしい。それに、ここは私たち大人に頼ってくれ」

であればクロが外で寝ているので、あなた達も明日の為にゆっくりと休んで欲しいと伝えたかったアラッドだが……結果として彼らの仕事を奪い、プライドを傷つけるかもしれないと思い、甘えることにした。


「そういえばさ、向こうは代表枠に誰が入ってくるのか知ってるのかな」

翌日、場所の中でふと思い出したように呟いたスティーム。

「代表枠に参加する人物は、一応当日まで解らないようになってるんじゃないのか?」

「そうなんだけど、学生枠はともかく若手冒険者枠と若手騎士枠はある程度読めるんじゃないかと思って」

「……ていうかさ、自慢し合ってるんだったら、向こうの国王様はアラッドとフローレンスが出てくることは解ってるんじゃないの?」

スティームが言いたかったことを言ってくれたガルーレ。

「ほら、フローレンスは学生の頃から話題になってて、アラッドも冒険者として直ぐに噂の人? になったわけじゃん。それなら、向こうはそこまで深く調べなくても二人が参加してくるのは解ってたんじゃないかな」

「かもしれないな……それで、何が言いたいんだ?」

「二人がとんでもなく強いって事が知ってても、ただ自慢するだけで終わらず、実際にどちらの方が強いか決めようじゃないかってなったなら、ナルターク王国の国王様もアラッドやフローレンスさんに匹敵する人材を知ってるんじゃないかと思って」

「っ…………そう、か。そうだな。よくよく考えてみれば、そうじゃなきゃ自慢合戦にならず、ただ陛下が自慢するだけで終わってしまうか」

確かにスティームの言う通りだ。
そう思ったアラッドだったが、それでも自分やフローレンスの様な人物が、そうほいほいといるのか? という疑問が浮かぶ。

(俺は転生者だ。いや、それが理由で傲慢になるのは良くないが……けど、いるか?)

自分と同じ強さを持つ。そんな人物たちがそれなりに居るとは思っていた。
歳が近い人物であればフローレンスやスティーム、ガルーレに同世代ではレイという今後が非常に楽しみな者もおり、身内にも戦闘に強い興味がないのが残念に思える逸材がいる。

(つっても、俺の周りにはいるし……別に、俺の周りだけに集中する訳でもないか。そっか……そうだよな。国外に目を向ければ、俺らレベルの奴らが同年代にごろごろとは言わずとも、ぽつぽついてもおかしくない、か)

代表戦、アラッドはクロを自身の戦力として投入するつもりは一切なかったが、場合によってはフローレンスの時の様に投入し、共に戦うのもありだと思い始めた。

「あり得ない話ではありませんね。国土ではアルバース王国の方がやや勝っていますが、それでも強くなる環境はある程度整っている国です」

「若くても飛び抜けた強さを持っている奴がいてもおかしくない、か…………とりあえず、学生代表としてアッシュと戦うのは、高等部の学生だろうな」

「もしかしたら同じ中等部の学生ってこともあるんじゃない?」

「さすがにそれは……って否定は出来ないな。実際にこっちは中部のアッシュが参加する訳だしな」

それでもアラッドの中で、先程浮かんだ考えが頭の中から消えてはいないが、アッシュレベルの逸材はさすがにいないのでは? とつい思ってしまう。

「でも、とりあえず中等部の学生よりも経験があって、地力が強い高等部の学生が参加すると仮定しても良いんじゃないかな」

「高等部なら……どの学年が出てきてもおかしくはないか。そういえばアッシュ……お前、どんな感じで現役の騎士を倒したんだ?」

何かしらの切り札を手に入れた。
だが、その細かい内容までは知らないアラッド。

本番のお楽しみにとっておきたいが、どんな内容なのか軽く知りたくなった。

「ん~~~……多分だけど、何とかなると思うかな」

「何とかなる、か」

「詳しく話した方が良い?」

「……いや、代表戦本番の楽しみに取っておく」

優秀な弟だからこそ、根拠のない自信は口にしない。
それが解っているからこそ、何を会得したのか……ワクワクを感じざるを得ない。
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