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六百九十六話 それなら解る

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(も、木竜さん、そいつはぁ……こ、言葉にしたら駄目っすよ~~~~~~)

その話題には触れないと、何故か勝手に思い込んでいたが故に、先回りして防ぐのを忘れてしまっていたアラッド。

スティームは当然であり、アッシュやフローレンス……騎士や宮廷魔術師たちも似た様な表情になり、場が凍り付いた。
本気で同じ事を考えていたガルーレだけがうんうんと、全く空気を読まず頷いていた。

「アラッドの強さは知っている。実際に戦ってはいないが、本気の戦意は感じ取った。クロと共に戦えば……いや、戦わずとも万に一つ、億に一つ同じ若手冒険者に勝ち目はいないだろう」

強者が、猛者が自分の実力を褒めてくれるのは嬉しい。
大変嬉しいのだが……今アラッドの頭の中は、この凍り付いた空気をどう暖かくすれば良いのか、しか考えられなかった。

「そして騎士枠というのは……そちらの娘であろう。僅かにではあるが、精霊の匂いを感じる」

「っ……」

隠している訳ではない。

しかし、人間界……騎士界隈の事情に詳しくないであろうドラゴンに即バレるとは思っていなかったフローレンス。

「そして学生枠は……そちらの少年か…………アラッドよ、その少年はお前の弟か?」

「あ、はい。そうです。腹違いではありますけど、俺の弟です」

「そうか。つまり、ボレアスを討伐した男の血は流れているのだな」

ボレアスとは、暴風竜ボレアスのこと。

Aランクの怪物、風竜の上位種に当たる存在、暴風竜。
そんな存在を討伐した男……そのうちの一人として、騎士や宮廷魔術師たちの頭に第一に浮かぶのはアラッドとアッシュの父親であるフール。

Aランクのドラゴンである木竜が自分たちの知るフールを覚えていることに……言葉に表すのが難しい嬉しさを感じた。

「……………………あれだな。アラッド、お前ほど闘志に満ちてはいない様だな」

「弟、アッシュは俺と似た部分がありまして、錬金術に興味を持っています。ただ、俺以上に錬金術への興味、探求心が強く、物理的な強さ……戦闘力などに関しては、興味が薄いんです」

「納得の理由……ではあるか。しかしアラッド、血の繋がった弟であるならば、思えも気付いているのであろう」

「そうですね。戦闘センスは俺よりも上です。初めてアッシュが自分の意思を通す為に戦った光景を見た時の振るえは、今でも覚えてしまう」

「ほぅ……解っているのであれば良い。しかし………………惜しいな」

「「「「「「「っ!!!!」」」」」」」

戦わずともその強さが解る。

人の姿をしているとはいえ、それでも木竜の強さは騎士たちに伝わっていた。
そんな木竜がアッシュを視て……アッシュの興味を知り……惜しいと呟いた。

「だが、それも致し方なし、か。私たちドラゴンの中にも、争いを好まない珍しいタイプの者もいる。そういった者たちと同じタイプなのだろう」

「そうですね。逆に双子のシルフィーは血気盛んというか、闘争心旺盛って感じで」

「ある意味双子、というやつだな……うむ、やはり代表戦とやらをやる意味が解らんな」

フローレンスとアッシュも、Aランクのドラゴンに自身の強さを認められるのは、やはり大なり小なり嬉しい。
だが、やはり反応に困る。

「木竜殿よ。代表戦の始まりは、私と今から向かう国の王の自慢話から発展したのだ」

国王は特に躊躇う様子もなく、切っ掛けをぶっちゃけた。

そんな簡単にぶっちゃけてしまって良かったのかと不安そうな顔を浮かべる騎士たちだが、木竜は切っ掛けの内容を嗤うことはなく……寧ろどこか納得した表情を浮かべていた。

「なるほど。自慢、か…………そうだな。であれば仕方ない、か。アラッドたちが更に自慢出来るというもの」

「その通りです。年甲斐もなく自慢合戦をしてしまいましてな」

「その気持ちは私にも解る。昔は良く手に入れた宝の自慢をしたものだ」

宝を集め、自身の宝物庫をつくるのが趣味のドラゴン。

そんな知能が高い木竜としては、国王の気持ちは良く解った。

「さて、私はそろそろ樹海に戻るとしよう。アラッドよ、ご馳走になった」

「い、いえ。では、その……また」

「うむ」

数メートルも歩き、茂みに消えていくと、あっという間に気配を感じられなくなった。

「…………ぷは~~~~~~~~~っ!!! はぁ、はぁ……はぁ~~~~~」

全くもって知らされていなかった来客に、緊張しっぱなしであったアラッドは盛大に息を吐き、呼吸を整える。

「……な、なんか。すいません」

「顔を見れば、予想していなかった、事前に聞かされていなかった来客であることは解る。安心しろ」

「あ、ありがとうございます」

木竜の独断行動とはいえ、普通に考えれば多少のお咎めはあってもおかしくなかった。

「とはいえ……ふっふっふ。あれがAランクのドラゴンか。どうだ、お前たち。人型とはいえ……あれだけの圧を、存在感を持った相手に、勝てそうか」

「死を覚悟して挑みます。であれば、勝てるでしょう」

今回、王の護衛として選ばれた騎士たちのトップが、真っ先に答えた。

死を覚悟して、という言葉に嘘偽りはなく、その瞳には確かに騎士としての覚悟が宿っていた。
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