689 / 1,058
六百八十八話 いずれ、その時に
しおりを挟む
「お疲れ様、アラッド。楽しかった?」
「そうだな。その場から動かない、糸しか使わないっていう縛りで戦ったが……正直、ヒヤッとした場面はいくつかあった」
「……物凄く正直な感想だね」
アラッドとしては若干ソルとルーナをフォローしているつもりだが、スティームからすれば全くフォローになっていなかった。
「なんて言うか、またえげつない戦い方したね~~~」
「かもしれないな。けど、向こうから売ってきた喧嘩……試合だ。向こうが望む通りの方法で戦う必要はないだろ」
「まっ、それもそうだね~~」
ガルーレから視て、ソルとルーナは決して弱くなかった。
片方が相手であれば自分でも勝つ自信はあるが、一対二という状況だと……素直に自分の方が不利だと認める。
「アラッド、改めて彼女たちの我儘を受けてくれたありがとうございます」
「別に構わない。あんたから受ける対価を貰えるわけだしな」
「王都に居る間が、それとも終わった後か、後日連絡をください」
「あぁ、解った」
用事は終った。
予定通り母校に向かおうとするアラッドの背に、フローレンスからある提案が飛ばされた。
「ところで、久しぶりに手合わせしてみますか? 勿論、試合の範囲内で、です」
「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」
「…………」
訓練場に居る殆どの者たちに緊張が走る。
アラッド対フローレンス。
トーナメントの決勝戦で二人が戦う試合を観た者たちは……これまで何度も学生同士がしのぎを削る戦いを観てきた者たちは、こう語る。
あれ以上の決勝戦は……試合は今後起こりえないと。
天才という枠に収まらない生徒が全試合を圧勝していく。
そういったケースは……一応、試合記録として僅かに残っている。
だが、天才という枠に収まらない生徒が二人も現れ、観客たち全員の記憶に残り続ける試合は……滅多に起こりえない。
その決勝戦を観た騎士はこの場にもおり、再び二人の試合が観れると思うと……自然と拳を握る力が強まり、口端が上がってしまう。
「どうでしょう」
「…………遠慮させてもらう」
お断り。
この対応に、フローレンスはアラッドが逃げたとは思わなかった。
ただ、試合の範囲内であればアラッドは受けてくれると思っていたところがあり、何故断ったのかが気になった。
「何故断るのか、聞いても」
「単純な話だ。何も懸かってない状況で、場所で……俺とお前が試合を行う? フローレンス・カルロスト。俺とお前が戦った場合、本当に試合の範疇で終わると思ってるのか」
零れ出る……戦意、殺意、怒気? どれも違う。
敢えて言うならば…………覇気。
「俺は、お前に負けたくない。勝負となれば、それはお前も同じだろ」
「……そうですね」
負けても良いと思う戦闘者は殆どいない。
当然だが、この二人も戦うとなれば負けたくないという強い闘志がある。
クロ、ウィリスの召喚をなしにして戦えば良い?
最初にそういった縛りを設けたとしても、二人の予想は同じく……いざという場面になれば、縛りを守れる気がしない。
「だから、こんなところでは戦わない。けど、そうだな…………体を動かしたいなら、スティームとガルーレに頼めばいい」
「へっ!!!???」
いきなり話を振られたスティームは仰天。
ガルーレとしては望むところなため、ワクワクしていた。
「俺と戦るなら、それ相応の場所で……覚悟が決まった状態で、だ」
「……ふふ、そうですね。私も、まだやりたい事が残っています」
「俺もだ。まだまだこの世界を冒険したりない。けど、フローレンス・カルロスト。お前にその気があるなら、いつか本気で戦ろう」
「えぇ…………約束ですよ」
「あぁ」
言いたい事を言い終えたアラッドは訓練場の責任者に軽く頭を下げ、今度こそ訓練場から去った。
「…………」
「フローレンスさん、本当に良かったんですか?」
「……正直に言うと、ちょっぴり残念に思ってます。互いに本気でなくとも……今の彼と手合わせするのは楽しみだったので」
本音だった。
若手騎士枠として、国の代表として戦って欲しいという内容が記された手紙には、他にも若手冒険者枠と学生枠があると書かれてあった。
それを見た瞬間、若手冒険者枠には必ずアラッドが来ると……確信があった。
確信を持ってから、楽しみにしていた。
互いに代表として戦うことを考えれば、その前に全力で戦うのはあり得ない選択。
それでも、互いにあの頃よりも成長した今、手合わせしたかった。
「ですが……彼が、本当に私に負けたくないのだと……勝ちたいのだと、そう思う熱を感じました」
ライバルと認識されている……そう思うのは、傲慢ではないだろう。
「真剣に戦えば、ただの試合では終われない。彼がそう思っていることに、嬉しさすら感じました」
「なるほど…………それは、とても嬉しいやつですね」
自身が認めている相手から認められる。
それが解った時、どうしようもなく嬉しい気持ちが胸の中に溢れる。
声を掛けた騎士も同じ体験をしたことがあり、フローレンスがとても満足気な笑みを浮かべているのに納得出来た。
「そうだな。その場から動かない、糸しか使わないっていう縛りで戦ったが……正直、ヒヤッとした場面はいくつかあった」
「……物凄く正直な感想だね」
アラッドとしては若干ソルとルーナをフォローしているつもりだが、スティームからすれば全くフォローになっていなかった。
「なんて言うか、またえげつない戦い方したね~~~」
「かもしれないな。けど、向こうから売ってきた喧嘩……試合だ。向こうが望む通りの方法で戦う必要はないだろ」
「まっ、それもそうだね~~」
ガルーレから視て、ソルとルーナは決して弱くなかった。
片方が相手であれば自分でも勝つ自信はあるが、一対二という状況だと……素直に自分の方が不利だと認める。
「アラッド、改めて彼女たちの我儘を受けてくれたありがとうございます」
「別に構わない。あんたから受ける対価を貰えるわけだしな」
「王都に居る間が、それとも終わった後か、後日連絡をください」
「あぁ、解った」
用事は終った。
予定通り母校に向かおうとするアラッドの背に、フローレンスからある提案が飛ばされた。
「ところで、久しぶりに手合わせしてみますか? 勿論、試合の範囲内で、です」
「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」
「…………」
訓練場に居る殆どの者たちに緊張が走る。
アラッド対フローレンス。
トーナメントの決勝戦で二人が戦う試合を観た者たちは……これまで何度も学生同士がしのぎを削る戦いを観てきた者たちは、こう語る。
あれ以上の決勝戦は……試合は今後起こりえないと。
天才という枠に収まらない生徒が全試合を圧勝していく。
そういったケースは……一応、試合記録として僅かに残っている。
だが、天才という枠に収まらない生徒が二人も現れ、観客たち全員の記憶に残り続ける試合は……滅多に起こりえない。
その決勝戦を観た騎士はこの場にもおり、再び二人の試合が観れると思うと……自然と拳を握る力が強まり、口端が上がってしまう。
「どうでしょう」
「…………遠慮させてもらう」
お断り。
この対応に、フローレンスはアラッドが逃げたとは思わなかった。
ただ、試合の範囲内であればアラッドは受けてくれると思っていたところがあり、何故断ったのかが気になった。
「何故断るのか、聞いても」
「単純な話だ。何も懸かってない状況で、場所で……俺とお前が試合を行う? フローレンス・カルロスト。俺とお前が戦った場合、本当に試合の範疇で終わると思ってるのか」
零れ出る……戦意、殺意、怒気? どれも違う。
敢えて言うならば…………覇気。
「俺は、お前に負けたくない。勝負となれば、それはお前も同じだろ」
「……そうですね」
負けても良いと思う戦闘者は殆どいない。
当然だが、この二人も戦うとなれば負けたくないという強い闘志がある。
クロ、ウィリスの召喚をなしにして戦えば良い?
最初にそういった縛りを設けたとしても、二人の予想は同じく……いざという場面になれば、縛りを守れる気がしない。
「だから、こんなところでは戦わない。けど、そうだな…………体を動かしたいなら、スティームとガルーレに頼めばいい」
「へっ!!!???」
いきなり話を振られたスティームは仰天。
ガルーレとしては望むところなため、ワクワクしていた。
「俺と戦るなら、それ相応の場所で……覚悟が決まった状態で、だ」
「……ふふ、そうですね。私も、まだやりたい事が残っています」
「俺もだ。まだまだこの世界を冒険したりない。けど、フローレンス・カルロスト。お前にその気があるなら、いつか本気で戦ろう」
「えぇ…………約束ですよ」
「あぁ」
言いたい事を言い終えたアラッドは訓練場の責任者に軽く頭を下げ、今度こそ訓練場から去った。
「…………」
「フローレンスさん、本当に良かったんですか?」
「……正直に言うと、ちょっぴり残念に思ってます。互いに本気でなくとも……今の彼と手合わせするのは楽しみだったので」
本音だった。
若手騎士枠として、国の代表として戦って欲しいという内容が記された手紙には、他にも若手冒険者枠と学生枠があると書かれてあった。
それを見た瞬間、若手冒険者枠には必ずアラッドが来ると……確信があった。
確信を持ってから、楽しみにしていた。
互いに代表として戦うことを考えれば、その前に全力で戦うのはあり得ない選択。
それでも、互いにあの頃よりも成長した今、手合わせしたかった。
「ですが……彼が、本当に私に負けたくないのだと……勝ちたいのだと、そう思う熱を感じました」
ライバルと認識されている……そう思うのは、傲慢ではないだろう。
「真剣に戦えば、ただの試合では終われない。彼がそう思っていることに、嬉しさすら感じました」
「なるほど…………それは、とても嬉しいやつですね」
自身が認めている相手から認められる。
それが解った時、どうしようもなく嬉しい気持ちが胸の中に溢れる。
声を掛けた騎士も同じ体験をしたことがあり、フローレンスがとても満足気な笑みを浮かべているのに納得出来た。
166
お気に入りに追加
6,127
あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています


妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる