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六百六十七話 ……どう違うんだ?
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「……まっ、こうなるよな」
グリフォン討伐の宴会は冒険者ギルドの酒場で行われていたのだが……ほぼ全員酔い潰れた状態となっていた。
(他の店からエールを持ってきてたりしてた事を考えれば、当然の結果か)
スティームは当然の様に潰れており、ガルーレも彼女の魅力に惹かれてエールを何杯も奢ってもらい、スティームと仲良く潰れていた。
「大丈夫か、クラート」
「お、おぅ……なん、とか」
大丈夫だと言うものの、英雄に酒を呑ませたい連中が後を絶たず、ギリギリ肝臓十分目に達してないといった状態だった。
「……ちょっと歩くか。夜風に当たれば、酔いも少し冷めるだろ」
そう言うとアラッドはスティームとガルーレを肩に背負い、空いている宿に預けてからクラートとぶらっと静かになった街を歩き始めた。
「…………なぁ、なんでアラッドはさ……俺を英雄って呼んでくれるんだ」
「? 言っただろ。あの時みた背中に惚れた」
「英雄の背中、ってやつだったのか」
「そうだ。背中なんだから、本人に見えないのは当然だ」
クラートからすれば、アラッドの方が英雄と呼ぶに相応しい人物であり……雷獣の素材を受け取る事には納得したが、アラッドから英雄と呼ばれることだけには……まだむず痒さを感じていた。
「……プレッシャーをかけてしまったか?」
「い、いや。そんなことはない。嬉しいっちゃ嬉しいんだが……恥ずかしさが勝るっつーか」
「そうか……確かに、あまり英雄英雄と連呼するのは良くないか」
仰々しく褒められ過ぎるのは、アラッド自身も恥ずかしいと感じるタイプなため、極力控えようと決めた。
「そうしてくれると助かる…………なぁ、アラッド。俺のこれからの人生で……気を付けた方が良いことって、あるか」
唐突な質問であり、普通に考えればあまり英雄がするような質問ではない。
しかし、アラッドや街の冒険者や騎士に兵士、住民たちがクラートをそう呼ぼうとも……彼はまだギリギリ二十歳を越えていない。
それを言うならアラッドは歳下だぞ? とツッコまれるかもしれないが、クラートからすればアラッドの落ち着き具合は確実に自分より上だと断言出来る。
とにかく……訊けるうちに、訊いておきたい。
「気を付けた方が良いことか。それは英雄として、か? だったら、あまり良いアドバイスは答えられないぞ」
「そ、そうなのか?」
アラッドの功績を聞く限り、英雄と呼ぶに十分。
そう思わない奴がいれば、それはアラッドに嫉妬してるだけの面倒な輩としか思えないクラート。
「……クラート同じなのかもな。俺はただ、我武者羅に進んで戦ってただけだからな」
「俺も同じ感覚だ………………それでも、何かないか?」
もう、こうしてアラッドとゆっくり話せる機会はない。
だからこそ、どうしても訊いておきたい。
「………………生きる理由。いや、幸せか? クラート自身の幸せを見つければ、上手くやれるというか……自分が傷ついている事に気付かない、なんてことはなくなるんじゃないか?」
「この街を守ること、だけじゃなくてか?」
「そうだ。えっとなぁ…………少し突っ込んだ話にはなるが、恋人……嫁さんができたりすれば、良いのかもな」
「よ、嫁さん、か……」
嫌な、苦手な顔ではなく、ほんの少し顔を赤らめて顔を背けたのを見て、アラッドは思わずニヤニヤ笑みを浮かべた。
「なんだ、もしかしてそういう人がいるのか?」
「……なんつーか、まだ詳しくは解らないというか」
「そうか。クラートより歳下の俺が言うのもあれだけど、まだ若いから焦ることはないかもな」
本当にそうだよ。マジで歳いくつなんだよ!!! とツッコミたい。
「でも、嫁さん……子供。そういう存在がいた方が、今日みたいに絶対に勝って生き残るって思いが爆発して戦えるんじゃないか?」
「そ、そう、なのか?」
当然、まだそういった存在がいないため、上手く想像出来ない。
加えて……クラートの中では、そういった存在がいるからこそ、寧ろ弱くなってしまうのではないかという思いがあった。
「今回は、アラッドたちのお陰で生き残ることが出来た。グリフォンの素材とお前から貰った素材を使った武器を造ってもらえば、生き残れる可能性は上がると思う。でも…………逆に、弱くなったり、しないか」
「難しい話だな」
この手の話に関しては、主に二つの意見があり、アラッドとしてはその二つの理由にどちらも一理あると考えている。
「けど、俺が思うに、そういった存在がいるからこそ、ギリギリまで死ぬ気で勝つという意志を持って戦うことが出来る。今日のクラートみたいな、死んでも勝つとは違ってな」
「…………それって、何か違うのか?」
「……ごめん、ちょっと良く解らないな」
「えっ!?」
カッコ良さげなセリフを言ったにもかかわらず、本人が良く解ってなかった。
(最強のセリフを言い回してみたけど、上手く説明するのは難しいな)
超絶ダサい状態ではあるが、アラッド自身……これまでの経験から、その二つに違いがあるということだけは解っていた。
「思考の違い、だろうな。死ぬ気で勝つは最後までどう勝つのか考え抜くのに対し、死んでも勝つは考えることを放棄した……やけくそ状態? って感じかな」
「なるほど。それなら……うん、なんとなくだが解るな」
「そりゃ良かった」
この後も二人は一時間程散歩を続けてから互いの宿へと戻った。
グリフォン討伐の宴会は冒険者ギルドの酒場で行われていたのだが……ほぼ全員酔い潰れた状態となっていた。
(他の店からエールを持ってきてたりしてた事を考えれば、当然の結果か)
スティームは当然の様に潰れており、ガルーレも彼女の魅力に惹かれてエールを何杯も奢ってもらい、スティームと仲良く潰れていた。
「大丈夫か、クラート」
「お、おぅ……なん、とか」
大丈夫だと言うものの、英雄に酒を呑ませたい連中が後を絶たず、ギリギリ肝臓十分目に達してないといった状態だった。
「……ちょっと歩くか。夜風に当たれば、酔いも少し冷めるだろ」
そう言うとアラッドはスティームとガルーレを肩に背負い、空いている宿に預けてからクラートとぶらっと静かになった街を歩き始めた。
「…………なぁ、なんでアラッドはさ……俺を英雄って呼んでくれるんだ」
「? 言っただろ。あの時みた背中に惚れた」
「英雄の背中、ってやつだったのか」
「そうだ。背中なんだから、本人に見えないのは当然だ」
クラートからすれば、アラッドの方が英雄と呼ぶに相応しい人物であり……雷獣の素材を受け取る事には納得したが、アラッドから英雄と呼ばれることだけには……まだむず痒さを感じていた。
「……プレッシャーをかけてしまったか?」
「い、いや。そんなことはない。嬉しいっちゃ嬉しいんだが……恥ずかしさが勝るっつーか」
「そうか……確かに、あまり英雄英雄と連呼するのは良くないか」
仰々しく褒められ過ぎるのは、アラッド自身も恥ずかしいと感じるタイプなため、極力控えようと決めた。
「そうしてくれると助かる…………なぁ、アラッド。俺のこれからの人生で……気を付けた方が良いことって、あるか」
唐突な質問であり、普通に考えればあまり英雄がするような質問ではない。
しかし、アラッドや街の冒険者や騎士に兵士、住民たちがクラートをそう呼ぼうとも……彼はまだギリギリ二十歳を越えていない。
それを言うならアラッドは歳下だぞ? とツッコまれるかもしれないが、クラートからすればアラッドの落ち着き具合は確実に自分より上だと断言出来る。
とにかく……訊けるうちに、訊いておきたい。
「気を付けた方が良いことか。それは英雄として、か? だったら、あまり良いアドバイスは答えられないぞ」
「そ、そうなのか?」
アラッドの功績を聞く限り、英雄と呼ぶに十分。
そう思わない奴がいれば、それはアラッドに嫉妬してるだけの面倒な輩としか思えないクラート。
「……クラート同じなのかもな。俺はただ、我武者羅に進んで戦ってただけだからな」
「俺も同じ感覚だ………………それでも、何かないか?」
もう、こうしてアラッドとゆっくり話せる機会はない。
だからこそ、どうしても訊いておきたい。
「………………生きる理由。いや、幸せか? クラート自身の幸せを見つければ、上手くやれるというか……自分が傷ついている事に気付かない、なんてことはなくなるんじゃないか?」
「この街を守ること、だけじゃなくてか?」
「そうだ。えっとなぁ…………少し突っ込んだ話にはなるが、恋人……嫁さんができたりすれば、良いのかもな」
「よ、嫁さん、か……」
嫌な、苦手な顔ではなく、ほんの少し顔を赤らめて顔を背けたのを見て、アラッドは思わずニヤニヤ笑みを浮かべた。
「なんだ、もしかしてそういう人がいるのか?」
「……なんつーか、まだ詳しくは解らないというか」
「そうか。クラートより歳下の俺が言うのもあれだけど、まだ若いから焦ることはないかもな」
本当にそうだよ。マジで歳いくつなんだよ!!! とツッコミたい。
「でも、嫁さん……子供。そういう存在がいた方が、今日みたいに絶対に勝って生き残るって思いが爆発して戦えるんじゃないか?」
「そ、そう、なのか?」
当然、まだそういった存在がいないため、上手く想像出来ない。
加えて……クラートの中では、そういった存在がいるからこそ、寧ろ弱くなってしまうのではないかという思いがあった。
「今回は、アラッドたちのお陰で生き残ることが出来た。グリフォンの素材とお前から貰った素材を使った武器を造ってもらえば、生き残れる可能性は上がると思う。でも…………逆に、弱くなったり、しないか」
「難しい話だな」
この手の話に関しては、主に二つの意見があり、アラッドとしてはその二つの理由にどちらも一理あると考えている。
「けど、俺が思うに、そういった存在がいるからこそ、ギリギリまで死ぬ気で勝つという意志を持って戦うことが出来る。今日のクラートみたいな、死んでも勝つとは違ってな」
「…………それって、何か違うのか?」
「……ごめん、ちょっと良く解らないな」
「えっ!?」
カッコ良さげなセリフを言ったにもかかわらず、本人が良く解ってなかった。
(最強のセリフを言い回してみたけど、上手く説明するのは難しいな)
超絶ダサい状態ではあるが、アラッド自身……これまでの経験から、その二つに違いがあるということだけは解っていた。
「思考の違い、だろうな。死ぬ気で勝つは最後までどう勝つのか考え抜くのに対し、死んでも勝つは考えることを放棄した……やけくそ状態? って感じかな」
「なるほど。それなら……うん、なんとなくだが解るな」
「そりゃ良かった」
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