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六百五十六話 なんの候補?
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(嬉しいことには嬉しい……嬉しいんだが、クソ恥ずかしいな)
現在、アマルがアラッドに感謝を伝えている場所は宿の部屋などではなく、人が大勢いる大通り。
当然……ガルーレやお付きの騎士などが睨みを利かせることで、立ち止まってどんな話をしているのか、全て聞いてやろうと野次馬根性を全開にする者はいない。
ただ、通りすがりに耳を立てる。
ガルーレやお付きの騎士も、そこまで細かくあれこれするなと言えなかった。
「長々と語ってしまったが……とにかく、あなたという強者に出会えて、本当に感謝している」
「それはどういたしまして、というべきなのかな?」
「勿論です。あなたから言葉を貰わなければ、私はこれから数年……十年、もしくは死ぬまで道を迷い続けたかもしれない」
「そうか…………なら、最後に一つ伝えておこう」
ここまで自分との出会いに、自分が私情を含んだ言葉に対して感謝し、敬意を持ってくれる相手に……もう一度ぐらい助けになってやりたいと思ったアラッド。
「アマルさん、あんたは強い。これからもかつての英雄、エルス・エスペラーサの影に囚われることがあるかもしれない」
「…………」
「でも、俺はあんたなら……エスペラーサ家の歴史の中で、新たな英雄として名を刻めると思っている」
「っ!!!!!」
アラッドの言葉が、アマルの心臓にじわりと響き……泣きたい訳でもないのに、涙腺が刺激された。
「あなたは騎士だ。英雄、エルス・エスペラーサの様に人々を助ける強者となる……その部分に曇りがなければ、いずれ付いてくる筈だ……自分の幸せを見失わないように、頑張ってください」
「っ!!!……ありがとう、ございます」
零れる涙を隠すように、アマルは歳下であるアラッドに対して深々と頭を上げ、再度感謝の言葉を口にした。
アマルに続いて、お付きの騎士もアラッドに対して深々と頭を下げた。
出会いは最悪に近い。
結果として決闘、乱闘、喧嘩には発展しなかったが、仲が悪くなった……まともに顔を合わせて話すことなど無理だろうと思っていた。
今思い返せば、アラッドが怒りを煮えたぎらせたのも解る。
だが、あの青年は自分以上に大人だった。
アマルの言葉を受けてくれ……最後にはアマルの背中を押してくれた。
アラッドと出会ったことによって生まれた柱……芯が、更に太く、頑丈になった。
(本当に……良い意味で、歳不相応なお方だ)
お付きの騎士は、アラッドがアマルに対して背中を押す言葉を伝えてくれた光景を……生涯忘れることはなかった。
「意外だったね」
「何がだ?」
「アラッドなら、ちょっとぐらい嫌味を込めるかと思って」
背中を押した。
それはアラッドだからと、割と納得している。
しかし、言葉の中に一切嫌味が含まれてないのは少し疑問に思った。
「……あの場では怒りに任せて言葉を吐いたが、一応あいつの……アマルさんの気持ちは解るつもりだ」
完全に理解出来るとは言わない。
それでも、一歩離れて冷静に把握することは出来た。
「でも、あれね。剛柔を使ってたエルス・エスペラーサと同じぐらい? の英雄になれるってのは、ちょっと大袈裟だったんじゃないの?」
「さぁ、どうだろうな。そもそも俺はエルス・エスペラーサに会ったことがない。話を聞く限り、父さんと同じか……もしかしたら、それ以上の実力を持ってる人なのかもしれない」
自身の父親を尊敬し、その実力は超一級品だと思っており、自分は関係無いが……自慢の一つである。
それでも、父親であるフールがどこぞの地上最強の生物の如く、誰にも負けない最強の剣士だとは思ってない。
「けど……あの人の眼には、既に覚悟が宿っていた。才や向上心は、一定の領域より上を目指すには十分だろう。まだ年齢も若い。不可能ではないと、俺は思う」
それはこの世に、絶対に無理と断言出来る挑戦はない……という、希望的観測が大半を占める言葉ではない。
「アラッドがそこまで褒めるなら、もしかしたらひょっとしそうね。アマル・エスペラーサ、候補に入れとこっと」
「「…………」」
なんとなく解る気がするが、二人は敢えてなんの候補? とは尋ねなかった。
(これがアマゾネス、か。ガルーレの奴、アマルさんが侯爵家の人間ってことをちゃんと理解してるのか? そりゃアマルさんも男だから発散するとは思うが…………将来、お縄にならないことを祈ろう)
(ある意味、強欲と言えるのかな? それでも侯爵家出身の騎士を狙うのは……あっ、でもアマルさんは次期当主ではないんだったよね。それでもという疑問は残るけど……もしかして、候補っていうのは恋愛的な意味ではない、のかな???)
どういった候補なのか、深く考えれば考えるとほど様々な可能性が思い浮かぶが、やはり正確な候補内容までは解らない。
ただ……パーティーメンバーだからと油断しているのか、二人の名前もその候補の中に入っていることを、アラッドとスティームは全く予想していなかった。
「アラッド様、お手紙が届いています」
「どうも、ありがとうございます」
実家からの手紙だろう。
そう思って手紙を受け取るアラッドだったが……封を見て、直ぐに実家からの手紙ではないと気付いた。
現在、アマルがアラッドに感謝を伝えている場所は宿の部屋などではなく、人が大勢いる大通り。
当然……ガルーレやお付きの騎士などが睨みを利かせることで、立ち止まってどんな話をしているのか、全て聞いてやろうと野次馬根性を全開にする者はいない。
ただ、通りすがりに耳を立てる。
ガルーレやお付きの騎士も、そこまで細かくあれこれするなと言えなかった。
「長々と語ってしまったが……とにかく、あなたという強者に出会えて、本当に感謝している」
「それはどういたしまして、というべきなのかな?」
「勿論です。あなたから言葉を貰わなければ、私はこれから数年……十年、もしくは死ぬまで道を迷い続けたかもしれない」
「そうか…………なら、最後に一つ伝えておこう」
ここまで自分との出会いに、自分が私情を含んだ言葉に対して感謝し、敬意を持ってくれる相手に……もう一度ぐらい助けになってやりたいと思ったアラッド。
「アマルさん、あんたは強い。これからもかつての英雄、エルス・エスペラーサの影に囚われることがあるかもしれない」
「…………」
「でも、俺はあんたなら……エスペラーサ家の歴史の中で、新たな英雄として名を刻めると思っている」
「っ!!!!!」
アラッドの言葉が、アマルの心臓にじわりと響き……泣きたい訳でもないのに、涙腺が刺激された。
「あなたは騎士だ。英雄、エルス・エスペラーサの様に人々を助ける強者となる……その部分に曇りがなければ、いずれ付いてくる筈だ……自分の幸せを見失わないように、頑張ってください」
「っ!!!……ありがとう、ございます」
零れる涙を隠すように、アマルは歳下であるアラッドに対して深々と頭を上げ、再度感謝の言葉を口にした。
アマルに続いて、お付きの騎士もアラッドに対して深々と頭を下げた。
出会いは最悪に近い。
結果として決闘、乱闘、喧嘩には発展しなかったが、仲が悪くなった……まともに顔を合わせて話すことなど無理だろうと思っていた。
今思い返せば、アラッドが怒りを煮えたぎらせたのも解る。
だが、あの青年は自分以上に大人だった。
アマルの言葉を受けてくれ……最後にはアマルの背中を押してくれた。
アラッドと出会ったことによって生まれた柱……芯が、更に太く、頑丈になった。
(本当に……良い意味で、歳不相応なお方だ)
お付きの騎士は、アラッドがアマルに対して背中を押す言葉を伝えてくれた光景を……生涯忘れることはなかった。
「意外だったね」
「何がだ?」
「アラッドなら、ちょっとぐらい嫌味を込めるかと思って」
背中を押した。
それはアラッドだからと、割と納得している。
しかし、言葉の中に一切嫌味が含まれてないのは少し疑問に思った。
「……あの場では怒りに任せて言葉を吐いたが、一応あいつの……アマルさんの気持ちは解るつもりだ」
完全に理解出来るとは言わない。
それでも、一歩離れて冷静に把握することは出来た。
「でも、あれね。剛柔を使ってたエルス・エスペラーサと同じぐらい? の英雄になれるってのは、ちょっと大袈裟だったんじゃないの?」
「さぁ、どうだろうな。そもそも俺はエルス・エスペラーサに会ったことがない。話を聞く限り、父さんと同じか……もしかしたら、それ以上の実力を持ってる人なのかもしれない」
自身の父親を尊敬し、その実力は超一級品だと思っており、自分は関係無いが……自慢の一つである。
それでも、父親であるフールがどこぞの地上最強の生物の如く、誰にも負けない最強の剣士だとは思ってない。
「けど……あの人の眼には、既に覚悟が宿っていた。才や向上心は、一定の領域より上を目指すには十分だろう。まだ年齢も若い。不可能ではないと、俺は思う」
それはこの世に、絶対に無理と断言出来る挑戦はない……という、希望的観測が大半を占める言葉ではない。
「アラッドがそこまで褒めるなら、もしかしたらひょっとしそうね。アマル・エスペラーサ、候補に入れとこっと」
「「…………」」
なんとなく解る気がするが、二人は敢えてなんの候補? とは尋ねなかった。
(これがアマゾネス、か。ガルーレの奴、アマルさんが侯爵家の人間ってことをちゃんと理解してるのか? そりゃアマルさんも男だから発散するとは思うが…………将来、お縄にならないことを祈ろう)
(ある意味、強欲と言えるのかな? それでも侯爵家出身の騎士を狙うのは……あっ、でもアマルさんは次期当主ではないんだったよね。それでもという疑問は残るけど……もしかして、候補っていうのは恋愛的な意味ではない、のかな???)
どういった候補なのか、深く考えれば考えるとほど様々な可能性が思い浮かぶが、やはり正確な候補内容までは解らない。
ただ……パーティーメンバーだからと油断しているのか、二人の名前もその候補の中に入っていることを、アラッドとスティームは全く予想していなかった。
「アラッド様、お手紙が届いています」
「どうも、ありがとうございます」
実家からの手紙だろう。
そう思って手紙を受け取るアラッドだったが……封を見て、直ぐに実家からの手紙ではないと気付いた。
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