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六百五十五話 伝えなければ
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「……私の力では無理だったと、認められなかったということだな」
「っ!!!!!!」
騎士の男はなんと言葉を返せば良いのか解らなかった。
そんな事はありません。
では何故アラッドたちが強大なモンスターを討伐した瞬間に、剛柔が山頂に現れた?
偶々運が良かっただけです。
運が良かった……それは運命という言葉に繋がるのではないか?
どんな慰めの言葉を伝えても、反論が返ってくるイメージしか湧かない。
アマルガその様な人物ではないと解ってはいるものの……騎士はなんとか言葉を絞り出そうとしても、結局何も出てこなかった。
「ふぅーーーーー……ソルヴァイパー、プロミネンスコブラ、ディーマンバを倒した、か…………私たちに出来るか、怪しいところだな」
「…………」
これに関しても、どう返答すれば良いか分からない。
三体の大蛇のうち、一体だけであれば討伐出来る自信がある。
剛柔を発見する為に雇っていた冒険者も含めれば……一体だけであれば、余裕を持って討伐出来ると騎士は断言する。
Bランクの大蛇が二体であれば、当然だが余裕はない。
それでも無理ではないと思っている。
しかし……三体ともなれば、仮に倒せたとしても、誰かが確実に死ぬ。
騎士の男は、その覚悟は出来ている。
だが、きっとアマルは納得しない。
「……あの人と私の差は、何なのだろうな」
もう、嫉妬や憎しみなどはない。
お前は強いだろ。
その言葉を投げられ、混乱しながらも……まず嬉しかった。
心を覆う優しさが、負の感情を全て溶かした。
だが、それでも剛柔を手に入れることを諦めた訳ではない。
剛柔の捜索と同時に、自分を強くするための鍛錬も、これまで以上に力を入れて行い始めた。
それでも……結局は敵わなかった。
どれだけアラッドに対して負の感情が薄れ、消えて敬意だけが残ったとしても、敵わなかったという喪失感は消えない。
「恐れながら…………あの方は、私たちと比べて、根っこから違うかと」
恐れながらという言葉はどちらに向けられているのか。
ひとまず、アマルは騎士の言葉をゆっくり脳内で繰り返し考える。
「才能とはまた違う部分、ということか?」
「えぇ。あの方は幼き頃から訓練に励むだけではなく、モンスターと何度も何度も戦い続けていたらしいです。どういった心境で戦っていたのかまでは解りませんが……普通の幼子では、とても耐えられないかと」
貴族の令息の子供が、普通の幼子に当てはまるのか否か気になるところだが、子供の頃から得物……もしくは魔法の訓練を受ける。
この点に関しては貴族ならではの習慣ではある。
しかし、五歳の時点から何度も何度も……一年、三百六十五日、毎日……というのは少々大袈裟だが、三百三十日ほどは街の外に出てモンスターと戦っており、特に頭を使って考えずとも、普通ではないと解る。
「生まれた時から、何かが決定的に違う。それが狂気なのか、もしくは生まれながらに自分が目指す道が薄っすらと定まっていたのか……明確な答えはありませんが、それらが私の直感的な感想です」
「……ありがとう」
楽になったわけではない。
何かが違っても、だから負けて良いという理由にはならない。
それでも……気持ちの落としどころは見えた……かもしれない。
(英雄とは何なのか、なんてことを考えることがそもそも違う……間違いなのかもしれないな)
祖先であり、英雄であるエルス・エスペラーサは英雄になりたくて英雄になったのか……違う。
アマルはアラッドという同じ侯爵家出身の人間でありながら、全く違う存在の様に思える者と出会い、思考の一部が変わった。
(何をもってして英雄となるのか…………ふ、ふふふ。こういった事を考えている時点で、私は英雄になれないのだろうな)
何かを悟ったとはいえないが、改めてアラッドという人間と出会ったことで、多くの事に気付かされたと感じたアマル。
もう剛柔に未練はない。
悔しさは残っているが、やはり嫉妬などの負の感情が再発することはなかった。
ただ、礼を伝えたかった。
あなたと出会えたことで自分が勘違いをしていた事に気付けた、そもそもあなた達が現れなければ……剛柔を探そうとしなければ、剛柔はこれからも見つからず、永遠にリバディス鉱山に眠ったままだったかもしれない。
アマルは直ぐにアラッドたちが今現在何処にいるかを探し、ダッシュで現場に向かった。
「あ、アラッド殿」
「ん? あなたは……アマルさん、でしたね」
何故殿と呼ばれたのか、なんで息絶え絶え状態なのか……色々とツッコミたいことはあるが、アポを取られてないにもかかわらず自分のところに来たという事は、どう考えても自分に用がある。
アラッドはアマルの域が整うまで待った。
因みに今現在場所は大通り。
そろそろ日が完全に沈み始めるが、夕食時という事もあり、周囲に人はそれなりにいる。
だが、アマルはそんな事お構いなしに口を開き、自分の思った事を伝え始めた。
素直にあなた達が先に剛柔を手に入れたことが悔しかった。
でも、あなた達が剛柔を探そうと思わなければ、ずっとリバディス鉱山に眠ったままだったかもしれない。
あなたのお陰で、英雄に対する考え方が変わったと。
アマルは……何度も感謝の言葉を伝えた。
「っ!!!!!!」
騎士の男はなんと言葉を返せば良いのか解らなかった。
そんな事はありません。
では何故アラッドたちが強大なモンスターを討伐した瞬間に、剛柔が山頂に現れた?
偶々運が良かっただけです。
運が良かった……それは運命という言葉に繋がるのではないか?
どんな慰めの言葉を伝えても、反論が返ってくるイメージしか湧かない。
アマルガその様な人物ではないと解ってはいるものの……騎士はなんとか言葉を絞り出そうとしても、結局何も出てこなかった。
「ふぅーーーーー……ソルヴァイパー、プロミネンスコブラ、ディーマンバを倒した、か…………私たちに出来るか、怪しいところだな」
「…………」
これに関しても、どう返答すれば良いか分からない。
三体の大蛇のうち、一体だけであれば討伐出来る自信がある。
剛柔を発見する為に雇っていた冒険者も含めれば……一体だけであれば、余裕を持って討伐出来ると騎士は断言する。
Bランクの大蛇が二体であれば、当然だが余裕はない。
それでも無理ではないと思っている。
しかし……三体ともなれば、仮に倒せたとしても、誰かが確実に死ぬ。
騎士の男は、その覚悟は出来ている。
だが、きっとアマルは納得しない。
「……あの人と私の差は、何なのだろうな」
もう、嫉妬や憎しみなどはない。
お前は強いだろ。
その言葉を投げられ、混乱しながらも……まず嬉しかった。
心を覆う優しさが、負の感情を全て溶かした。
だが、それでも剛柔を手に入れることを諦めた訳ではない。
剛柔の捜索と同時に、自分を強くするための鍛錬も、これまで以上に力を入れて行い始めた。
それでも……結局は敵わなかった。
どれだけアラッドに対して負の感情が薄れ、消えて敬意だけが残ったとしても、敵わなかったという喪失感は消えない。
「恐れながら…………あの方は、私たちと比べて、根っこから違うかと」
恐れながらという言葉はどちらに向けられているのか。
ひとまず、アマルは騎士の言葉をゆっくり脳内で繰り返し考える。
「才能とはまた違う部分、ということか?」
「えぇ。あの方は幼き頃から訓練に励むだけではなく、モンスターと何度も何度も戦い続けていたらしいです。どういった心境で戦っていたのかまでは解りませんが……普通の幼子では、とても耐えられないかと」
貴族の令息の子供が、普通の幼子に当てはまるのか否か気になるところだが、子供の頃から得物……もしくは魔法の訓練を受ける。
この点に関しては貴族ならではの習慣ではある。
しかし、五歳の時点から何度も何度も……一年、三百六十五日、毎日……というのは少々大袈裟だが、三百三十日ほどは街の外に出てモンスターと戦っており、特に頭を使って考えずとも、普通ではないと解る。
「生まれた時から、何かが決定的に違う。それが狂気なのか、もしくは生まれながらに自分が目指す道が薄っすらと定まっていたのか……明確な答えはありませんが、それらが私の直感的な感想です」
「……ありがとう」
楽になったわけではない。
何かが違っても、だから負けて良いという理由にはならない。
それでも……気持ちの落としどころは見えた……かもしれない。
(英雄とは何なのか、なんてことを考えることがそもそも違う……間違いなのかもしれないな)
祖先であり、英雄であるエルス・エスペラーサは英雄になりたくて英雄になったのか……違う。
アマルはアラッドという同じ侯爵家出身の人間でありながら、全く違う存在の様に思える者と出会い、思考の一部が変わった。
(何をもってして英雄となるのか…………ふ、ふふふ。こういった事を考えている時点で、私は英雄になれないのだろうな)
何かを悟ったとはいえないが、改めてアラッドという人間と出会ったことで、多くの事に気付かされたと感じたアマル。
もう剛柔に未練はない。
悔しさは残っているが、やはり嫉妬などの負の感情が再発することはなかった。
ただ、礼を伝えたかった。
あなたと出会えたことで自分が勘違いをしていた事に気付けた、そもそもあなた達が現れなければ……剛柔を探そうとしなければ、剛柔はこれからも見つからず、永遠にリバディス鉱山に眠ったままだったかもしれない。
アマルは直ぐにアラッドたちが今現在何処にいるかを探し、ダッシュで現場に向かった。
「あ、アラッド殿」
「ん? あなたは……アマルさん、でしたね」
何故殿と呼ばれたのか、なんで息絶え絶え状態なのか……色々とツッコミたいことはあるが、アポを取られてないにもかかわらず自分のところに来たという事は、どう考えても自分に用がある。
アラッドはアマルの域が整うまで待った。
因みに今現在場所は大通り。
そろそろ日が完全に沈み始めるが、夕食時という事もあり、周囲に人はそれなりにいる。
だが、アマルはそんな事お構いなしに口を開き、自分の思った事を伝え始めた。
素直にあなた達が先に剛柔を手に入れたことが悔しかった。
でも、あなた達が剛柔を探そうと思わなければ、ずっとリバディス鉱山に眠ったままだったかもしれない。
あなたのお陰で、英雄に対する考え方が変わったと。
アマルは……何度も感謝の言葉を伝えた。
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