上 下
654 / 1,023

六百五十三話 口に出さない方が良き

しおりを挟む
「それで、アラッド。一応訊くけど、それどうするの?」

「売りはしないぞ」

「やっぱりね。それで、これからはアラッドの第三の得物で良いのよね?」

「いや……別に俺の物という訳ではないだろ」

今回の探索はアラッドだけではなく、スティームとガルーレの三人で行っていた。
剛柔を手に入れる要因となった戦いに関してはスティームがソルヴァイパーを、アラッドがプロミネンスコブラと倒し、ガルーレがディーマンバを討伐したからこそ。

アラッド一人の力で手に入れた物ではない……そもそもな話、ガルーレが半ダンジョン化したリバディス鉱山にある剛柔を一緒に探さないかと誘われなければ、かつての英雄が使用していた名剣を手にすることは出来なかった。

「あれは三人で手に入れた名剣だ。俺だけの物ではない」

「ふ~~~ん? まっ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、三人の中で一番ロングソードをメインに使ってるのはアラッドよね」

「まぁ、それはそうだな」

「僕もメイン武器は双剣だからね。やっぱり、アラッドが持っておく方が良いんじゃないかな?」

二人ともアラッドが剛柔を扱うことに対して異論はない。

しかし、アラッドにとってそれはそれ、これはこれという案件である。

「…………いや、それでも俺だけが扱うのは違う。使用期間を使うのは……違うか。とりあえず、俺には渦雷と迅罰の二つがある。剛柔に関してはまず二人のどちらかが使っててくれ」

そういって二人の前に剛柔を取り出すアラッド。

正直なところ……二人共剛柔を振るった時の感覚がまだ消えておらず、ロングソードもありだなぁ……なんて思いが心に残っていた。

「……僕はまず万雷の力を完全に引き出せるようになりたいから、先にガルーレが使ってよ」

「えっ、良いの! そ、それならぁ……つ、使ってみようかな?」

ガルーレのメイン武器はナックル、己の五体ということもあって、まずはこっちを極めないと、といった思いはあまりなかった。

「ふふ~~ん!! あっ、因みになんだけどさ、二人は剛柔を振るった時、どんな感じだった?」

「どんな…………誰かが、俺の一番の動きを導いてくれる。そんな感じがした、かな」

「僕も同じ感覚だったよ。そこまでロングソードを扱ってきた訳じゃないのに、こう……自分が扱うならっていう理想を教えてくれた」

「やっぱり!! 私も二人と同じ感じ!!!」

三人共剛柔を振るった時、誰かの指導を……導きを感じた。

(ロングソードを一番扱ってきたつもりだったが、俺もまだまだだって思い知らされた感覚でもあったな…………いや、俺ごときが何を言ってるんだ、悟ってるんだって感じか)

いつのまにか少々天狗になっていたと反省するアラッド。

転生者という絶対的なアドバンテージを持ち、そのアドバンテージを無駄にしないように生きてきた自信があった。
だが……本格的に剣の道を進み始めた年数は二十年も経っていない。
付け加えるのであれば、アラッドは剣以外の得物や魔法、特殊スキルである糸の扱いなど、様々な分野に手を伸ばして活動している。

まだ二十も越えていないにもかかわらず、一流に到達した……剣に関してはこれ以上の伸びしろはない……そう早合点していたことを恥じる。

しかし…………しかし!! アラッドがそう思う気持ちはアラッドにしか解らないが、アラッドの剣の腕は既に並み以上……剣一筋で生きている者からしても、油断出来ない域に達している。

自分はまだまだ未熟と考えるのは構わないが、剣に対して真剣に活動している者からすると……嫌味かと舌打ちしたくなる、かもしれない。

「もしかしてだけどさ、この剛柔を振るって英雄……エルスさんだっけ? その人が導いてくれてるのかもしれないね」

「英雄が導いてくれるのか……それはまた、なんとも贅沢な何かが宿ってるな」

「…………その内容に関してなんだけどさ、多分誰にも言わない方が良いよね」

「えっ、どうして?」

誰にも売りはしない。
それはもう決定事項である。

しかし、剛柔を手に入れるまでの物語、そして剛柔にはどういった効果が宿っていたのか……話の種としては最大級の内容である。

ガルーレは正直なところ、同族などに問われたら是非とも自慢話として語りたい。

「僕たちが剛柔を手に入れた。それはもう絶対に隠せない事実。だからこれが大勢の人達に知れ渡ってしまうのは仕方ないと思う。でも……この効果を知れば、意地でも手に入れたいと思う人が現れるかもしれない」

いったいどの様なカラクリで、使用者に対して指導を行う効果が発動されるのかは解らない。

もしかしたら……悪人、邪な考えを持つ人間に対して一切導こうとはしない。
それか、効果が転じて実戦では役に立たない方向へわざと導いてしまうかもしれない。

だが……白金貨何十枚、黒曜金貨数枚……十枚以上払ってでも欲しいと売って欲しいと頼み込む者が表れてもおかしくない。

「エスペラーサ家の人間はアラッドの考えを受け入れた? 手前、そういった行動には出ないと思うけど、他の人はどうか解らない」

「しつこく頼まれるのは……面倒だな」

幸いにも、同業者がいる前で三人共剣舞を行ったものの、詳しい内容に関しては知られていない。

三人が口に出さなければ、剛柔の真の効果が世に広まることは……ない。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

処理中です...