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六百五十三話 口に出さない方が良き
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「それで、アラッド。一応訊くけど、それどうするの?」
「売りはしないぞ」
「やっぱりね。それで、これからはアラッドの第三の得物で良いのよね?」
「いや……別に俺の物という訳ではないだろ」
今回の探索はアラッドだけではなく、スティームとガルーレの三人で行っていた。
剛柔を手に入れる要因となった戦いに関してはスティームがソルヴァイパーを、アラッドがプロミネンスコブラと倒し、ガルーレがディーマンバを討伐したからこそ。
アラッド一人の力で手に入れた物ではない……そもそもな話、ガルーレが半ダンジョン化したリバディス鉱山にある剛柔を一緒に探さないかと誘われなければ、かつての英雄が使用していた名剣を手にすることは出来なかった。
「あれは三人で手に入れた名剣だ。俺だけの物ではない」
「ふ~~~ん? まっ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、三人の中で一番ロングソードをメインに使ってるのはアラッドよね」
「まぁ、それはそうだな」
「僕もメイン武器は双剣だからね。やっぱり、アラッドが持っておく方が良いんじゃないかな?」
二人ともアラッドが剛柔を扱うことに対して異論はない。
しかし、アラッドにとってそれはそれ、これはこれという案件である。
「…………いや、それでも俺だけが扱うのは違う。使用期間を使うのは……違うか。とりあえず、俺には渦雷と迅罰の二つがある。剛柔に関してはまず二人のどちらかが使っててくれ」
そういって二人の前に剛柔を取り出すアラッド。
正直なところ……二人共剛柔を振るった時の感覚がまだ消えておらず、ロングソードもありだなぁ……なんて思いが心に残っていた。
「……僕はまず万雷の力を完全に引き出せるようになりたいから、先にガルーレが使ってよ」
「えっ、良いの! そ、それならぁ……つ、使ってみようかな?」
ガルーレのメイン武器はナックル、己の五体ということもあって、まずはこっちを極めないと、といった思いはあまりなかった。
「ふふ~~ん!! あっ、因みになんだけどさ、二人は剛柔を振るった時、どんな感じだった?」
「どんな…………誰かが、俺の一番の動きを導いてくれる。そんな感じがした、かな」
「僕も同じ感覚だったよ。そこまでロングソードを扱ってきた訳じゃないのに、こう……自分が扱うならっていう理想を教えてくれた」
「やっぱり!! 私も二人と同じ感じ!!!」
三人共剛柔を振るった時、誰かの指導を……導きを感じた。
(ロングソードを一番扱ってきたつもりだったが、俺もまだまだだって思い知らされた感覚でもあったな…………いや、俺ごときが何を言ってるんだ、悟ってるんだって感じか)
いつのまにか少々天狗になっていたと反省するアラッド。
転生者という絶対的なアドバンテージを持ち、そのアドバンテージを無駄にしないように生きてきた自信があった。
だが……本格的に剣の道を進み始めた年数は二十年も経っていない。
付け加えるのであれば、アラッドは剣以外の得物や魔法、特殊スキルである糸の扱いなど、様々な分野に手を伸ばして活動している。
まだ二十も越えていないにもかかわらず、一流に到達した……剣に関してはこれ以上の伸びしろはない……そう早合点していたことを恥じる。
しかし…………しかし!! アラッドがそう思う気持ちはアラッドにしか解らないが、アラッドの剣の腕は既に並み以上……剣一筋で生きている者からしても、油断出来ない域に達している。
自分はまだまだ未熟と考えるのは構わないが、剣に対して真剣に活動している者からすると……嫌味かと舌打ちしたくなる、かもしれない。
「もしかしてだけどさ、この剛柔を振るって英雄……エルスさんだっけ? その人が導いてくれてるのかもしれないね」
「英雄が導いてくれるのか……それはまた、なんとも贅沢な何かが宿ってるな」
「…………その内容に関してなんだけどさ、多分誰にも言わない方が良いよね」
「えっ、どうして?」
誰にも売りはしない。
それはもう決定事項である。
しかし、剛柔を手に入れるまでの物語、そして剛柔にはどういった効果が宿っていたのか……話の種としては最大級の内容である。
ガルーレは正直なところ、同族などに問われたら是非とも自慢話として語りたい。
「僕たちが剛柔を手に入れた。それはもう絶対に隠せない事実。だからこれが大勢の人達に知れ渡ってしまうのは仕方ないと思う。でも……この効果を知れば、意地でも手に入れたいと思う人が現れるかもしれない」
いったいどの様なカラクリで、使用者に対して指導を行う効果が発動されるのかは解らない。
もしかしたら……悪人、邪な考えを持つ人間に対して一切導こうとはしない。
それか、効果が転じて実戦では役に立たない方向へわざと導いてしまうかもしれない。
だが……白金貨何十枚、黒曜金貨数枚……十枚以上払ってでも欲しいと売って欲しいと頼み込む者が表れてもおかしくない。
「エスペラーサ家の人間はアラッドの考えを受け入れた? 手前、そういった行動には出ないと思うけど、他の人はどうか解らない」
「しつこく頼まれるのは……面倒だな」
幸いにも、同業者がいる前で三人共剣舞を行ったものの、詳しい内容に関しては知られていない。
三人が口に出さなければ、剛柔の真の効果が世に広まることは……ない。
「売りはしないぞ」
「やっぱりね。それで、これからはアラッドの第三の得物で良いのよね?」
「いや……別に俺の物という訳ではないだろ」
今回の探索はアラッドだけではなく、スティームとガルーレの三人で行っていた。
剛柔を手に入れる要因となった戦いに関してはスティームがソルヴァイパーを、アラッドがプロミネンスコブラと倒し、ガルーレがディーマンバを討伐したからこそ。
アラッド一人の力で手に入れた物ではない……そもそもな話、ガルーレが半ダンジョン化したリバディス鉱山にある剛柔を一緒に探さないかと誘われなければ、かつての英雄が使用していた名剣を手にすることは出来なかった。
「あれは三人で手に入れた名剣だ。俺だけの物ではない」
「ふ~~~ん? まっ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ、三人の中で一番ロングソードをメインに使ってるのはアラッドよね」
「まぁ、それはそうだな」
「僕もメイン武器は双剣だからね。やっぱり、アラッドが持っておく方が良いんじゃないかな?」
二人ともアラッドが剛柔を扱うことに対して異論はない。
しかし、アラッドにとってそれはそれ、これはこれという案件である。
「…………いや、それでも俺だけが扱うのは違う。使用期間を使うのは……違うか。とりあえず、俺には渦雷と迅罰の二つがある。剛柔に関してはまず二人のどちらかが使っててくれ」
そういって二人の前に剛柔を取り出すアラッド。
正直なところ……二人共剛柔を振るった時の感覚がまだ消えておらず、ロングソードもありだなぁ……なんて思いが心に残っていた。
「……僕はまず万雷の力を完全に引き出せるようになりたいから、先にガルーレが使ってよ」
「えっ、良いの! そ、それならぁ……つ、使ってみようかな?」
ガルーレのメイン武器はナックル、己の五体ということもあって、まずはこっちを極めないと、といった思いはあまりなかった。
「ふふ~~ん!! あっ、因みになんだけどさ、二人は剛柔を振るった時、どんな感じだった?」
「どんな…………誰かが、俺の一番の動きを導いてくれる。そんな感じがした、かな」
「僕も同じ感覚だったよ。そこまでロングソードを扱ってきた訳じゃないのに、こう……自分が扱うならっていう理想を教えてくれた」
「やっぱり!! 私も二人と同じ感じ!!!」
三人共剛柔を振るった時、誰かの指導を……導きを感じた。
(ロングソードを一番扱ってきたつもりだったが、俺もまだまだだって思い知らされた感覚でもあったな…………いや、俺ごときが何を言ってるんだ、悟ってるんだって感じか)
いつのまにか少々天狗になっていたと反省するアラッド。
転生者という絶対的なアドバンテージを持ち、そのアドバンテージを無駄にしないように生きてきた自信があった。
だが……本格的に剣の道を進み始めた年数は二十年も経っていない。
付け加えるのであれば、アラッドは剣以外の得物や魔法、特殊スキルである糸の扱いなど、様々な分野に手を伸ばして活動している。
まだ二十も越えていないにもかかわらず、一流に到達した……剣に関してはこれ以上の伸びしろはない……そう早合点していたことを恥じる。
しかし…………しかし!! アラッドがそう思う気持ちはアラッドにしか解らないが、アラッドの剣の腕は既に並み以上……剣一筋で生きている者からしても、油断出来ない域に達している。
自分はまだまだ未熟と考えるのは構わないが、剣に対して真剣に活動している者からすると……嫌味かと舌打ちしたくなる、かもしれない。
「もしかしてだけどさ、この剛柔を振るって英雄……エルスさんだっけ? その人が導いてくれてるのかもしれないね」
「英雄が導いてくれるのか……それはまた、なんとも贅沢な何かが宿ってるな」
「…………その内容に関してなんだけどさ、多分誰にも言わない方が良いよね」
「えっ、どうして?」
誰にも売りはしない。
それはもう決定事項である。
しかし、剛柔を手に入れるまでの物語、そして剛柔にはどういった効果が宿っていたのか……話の種としては最大級の内容である。
ガルーレは正直なところ、同族などに問われたら是非とも自慢話として語りたい。
「僕たちが剛柔を手に入れた。それはもう絶対に隠せない事実。だからこれが大勢の人達に知れ渡ってしまうのは仕方ないと思う。でも……この効果を知れば、意地でも手に入れたいと思う人が現れるかもしれない」
いったいどの様なカラクリで、使用者に対して指導を行う効果が発動されるのかは解らない。
もしかしたら……悪人、邪な考えを持つ人間に対して一切導こうとはしない。
それか、効果が転じて実戦では役に立たない方向へわざと導いてしまうかもしれない。
だが……白金貨何十枚、黒曜金貨数枚……十枚以上払ってでも欲しいと売って欲しいと頼み込む者が表れてもおかしくない。
「エスペラーサ家の人間はアラッドの考えを受け入れた? 手前、そういった行動には出ないと思うけど、他の人はどうか解らない」
「しつこく頼まれるのは……面倒だな」
幸いにも、同業者がいる前で三人共剣舞を行ったものの、詳しい内容に関しては知られていない。
三人が口に出さなければ、剛柔の真の効果が世に広まることは……ない。
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