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六百四十四話 契約書は欲しいところ

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「でもさ、他の貴族とあんまり交流がなかったら、そういう噂が流れてもおかしくないんじゃない」

アマゾネスは強い雄とヤることも好きだが、割と恋バナが好きな者も多い。

「さぁ…………どうなんだろうな。もう冒険者生活を初めて一年以上経ってるし、そこら辺の事情は昔以上に詳しくないな。つか、フローレンスとはあの大会の決勝で思いっきり戦りあったんだぞ。そうはならないんじゃないか」

本人が自覚している通り、アラッドはかなり貴族界隈について疎い。

侯爵家の人間がそれはおかしい、あり得ないのではないかという声は……間違ってはいないが、アラッドと関りがある人物たちは「それがアラッドだよな~~」という認識を持たれていた。

「そこはほら、殴り合ったからこそ友情を感じる男同士……の男女バージョンとか?」

「……訳解からん」

アラッドも恋バナは嫌いではなく、寧ろ好きな方だが……自分の話題になるとかなりテンションが下がる典型的なタイプ。

加えて、話題に上がる人物がフローレンスとなると、更に急降下。

「でも、フローレンスさんはアラッドが歳が近い人物の中で、数少ない本気で強いと感じた人物なんだよね」

「…………条件を揃えた場合、負ける可能性はあっただろうな」

今でも思い出す。
まず、聖光雄化を使用したフローレンスは筋肉聖女となって超強化。

加えて光の人型精霊……ウィリスを呼び出し、挙句の果てには未完成とはいえ、召喚者と召喚された精霊の文字通り合体技、精霊同化を発動させた。

「うっは~~~。アラッドがそこまで言うなんて、俄然会ってみたくなるね」

「言っておくが、公爵家の令嬢だからな。実家の爵位は俺やスティームより上だ。下手に近づけば周りの連中に囲まれるぞ」

「その連中を全員倒せば、模擬戦ぐらいしてくれそうじゃない?」

「……あの人の性格を考えれば、とりあえず興味は持ちそうだな」

一部気に食わないところはあるものの、アラッドはあの令嬢はどこか他の貴族と違う部分があると感じていた。

「そういえば、既に騎士団に入団してるんだよね。それなら、同じ騎士団に所属してる人からアプローチされたりしてるんじゃないかな」

「全然あり得るだろうな。そのまま誰かとくっ付けば、もしかしたらあるかもしれない俺とどうたらこうたらって噂も消えるだろ」

「……本気で女性として見てないんだね」

実際にフローレンス・カルロストを見たことがないスティームだが、色々とアラッドから話を聞いても、そこまでアラッドが嫌う理由が全ては理解出来なかった。

「私の勘だけど、その人に恋人とか婚約者をつくるつもりがないなら、もしかしたらだけど今はアラッドを使って男避けをしてるかもね」

「………………は?」

ちびっ子たちが聞けば割と本気でビビッて震え上がり、漏らすかもしれない声がアラッドの口から零れた。

「いや、だって今の年齢で婚約者とかがいないなら、本当にそこら辺の男じゃ無理って感じなんじゃないかって思って。後、同族でそういう手段で面倒なオスを追い払ってる人いるし」

「私を倒したアラッドに勝てる人じゃないと興味を持てない、って感じかな」

「そうそう、そんな感じ。まっ、あくまでも私個人の予想だけどね~~~」

「でも、正直かなりあり得そうだね」

二人とも他人事なので楽しそうではあるが、利用されてるかもしれないアラッドとしては、ふざけんなという苛立ちが爆発しそうだった。

「…………クソ、あり得なさそうなのが本当に嫌だ」

「やっぱり、アラッドは本当に変わってるよね。けど、今のところ騎士がいきなりアラッドに勝負……決闘とか申し込んでくる様子はないし、やっぱりガルーレの予想に留まってると思うよ」

「そうである事を祈るよ」

「いやでもあれじゃない? 決勝でフローレンスさんに勝って、その上冒険者になってからもバンバン功績を上げてるから、ビビッて誰も挑んで来ないんじゃないかな」

「……もうそれでいいや」

アラッドとしては、そういう面倒が降り掛かってこないだけで十分だった。

「アラッドはさ、もし知り合いの王女様にそういう使われ方? をしたらどうするの」

「フィリアス様のことか? フィリアス様なら……まぁ、別に良いかもな」

「えっ、アラッドって王女様とそういう関係なの!!!???」

「いきなり直結させるな。ただの……学園は違ったが、学友って関係だ」

アマゾネスの里で生まれたガルーレからすれば、公爵家の令嬢と王女様も似た様な存在であるため……何故アラッドがそこまで対応に差を付けるのか、スティームと同じく完全には理解出来ない。

「へぇ~~~~……その感じだと、他国の王子と決闘!! みたいな感じになっても承諾しそうだね」

「クソ怠い展開だな。やるにしても、キッチリ報酬は貰うぞ。後は…………相手の出方次第ではあるが、うっかり殺してしまっても仕方ないですよねって契約書が欲しいかもしれないな」

「「………………」」

スティームとガルーレ……二人共アラッドとの付き合いは数年もないが、眼を見ればガチで言ってるのが解り、ほんの少しだけ震えた。
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