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六百四十話 何年もは居られない

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「解ってはいたいが、中々見つからないもんだな」

剛柔の探索を始めて約十日が経過。
アラッドたちはそれなりに強いモンスターと戦うことは出来るが、それでも剛柔に繋がるであろう手掛かりは一切無く……ついでに発見確率は低いが、ダンジョンの醍醐味とも言える宝箱も一回も見つけられていない。

「簡単に見つかったら、何十年も未発見ってことはないだろうからね」

「仕方ないってやつね~~。でも、私は色んなモンスターと戦えて結構楽しいけどね」

「そうだな、それに関しては同意だ」

半ダンジョン化したリバディス鉱山では新たにラミア、ロックバードにガーゴイル、ゴーレムなどといったモンスターと遭遇し、全員がそれなりに満足出来る戦いを体験出来ていた。

「そういえば、アラクネと戦ったのは今回が初めてだったな」

「悲鳴が聞こえたと思ったらねぇ~~。まっ、一種の怖さがあるモンスターだし、糸にぐるぐるに巻かれて食料にされるとか最悪の運命だからね」

蜘蛛の下半身に女性の上半身が付いている疑う余地がない異形の存在。

上半身の女性が人間の女性らしい訳でもないため、まさにモンスター。

「僕達があの声に気付けて良かったね」

「そうだな。聞こえた冒険者によっては、姿だけ確認して逃げるたかもしれない。まぁ、自分の……自分たちの命が最優先というのは決して間違ってはいないがな」

アラッドたちがアラクネに襲撃されたパーティーの悲鳴を聞きつけ……到着した時にはアラクネの毒で全員眠らされていたが、最終的にはガルーレとスティームのタッグが討伐。

眠らされていた四人が起きないため、クロが背負いながらもしやと思いながら周囲を歩き回ると……糸でぐるぐる巻きにされ、衰弱していた冒険者たちを発見。

アラッドたちが救出したことで事なきを得たが……発見しなかったら、アラクネに食われる云々以前に栄養失調などで死んでいてもおかしくなかった。

「でもあれだよね、アラクネを倒しても宝箱は出現しなかったよね」

「そうね~。戦ってた時、ちょっと期待してたんだけどね~~……現実は甘くないってことね」

「そうなるね……けどさ、あのアラクネを倒しても宝箱が出現しなかったら、仮にちゃんとしたダンジョンが生まれてたら……あれぐらいのモンスターが普通に現れてもおかしくない難易度のダンジョンだったことだよね」

スティームが何を言いたいのか解る二人は……何故、何故ちゃんとしたダンジョンが生まれなかったんだ、とどこにぶつければ良いのか解らない悔しさを顔に浮かべる。

「本当に………………本当に、そうだな」

「半ダンジョン化の方が凄く珍しいんだけど……やっぱりあれかな。剛柔が影響してるのかも」

「半ダンジョン化という珍しい現象が起きてることを考えれば、そういう結論に至るのが当然、か」

まだ全ての通路を通っていない三人だが、それでもそれなりに動き続け……探し続けた。
アラクネ以外のBランクモンスターを討伐したが、それでも剛柔に繋がる手掛かりは手に入らない。

「……リバディス鉱山が半ダンジョン化したという事は、だ……まだ、リバディス鉱山は成長してるんだったよな」

「半ダンジョン化した場所に関しては情報が乏しいけど、リバディス鉱山は誰かが掘って新しく道をつくらなくても、いつの間にか新しい道が出来てるってことがあるみたいだね」

「えっと……もしかして、剛柔を手に入れるには私たちがどれだけ探索しても、意味がないってこと?」

ガルーレが零した言葉に、アラッドとスティームは……何も返せなかった。

「ちょ、ちょっと~~~、何か言ってよ!」

「す、すまん。ただ、なぁ……情報が少ないから断定は出来ないが、本当に見つけるとしたら……数年は必要になるかもしれないなと思って」

「絶対ってわけじゃないんだけどね」

数年……中々の年数であり、今度はガルーレの方が返す言葉が出てこなかった。

「……………………ごめん、あれだね。本当に……ちょっと上手く言葉が出てこなくなるね」

「理解してくれたようでなによりだ。とはいえ、スティームの言う通り半ダンジョン化したダンジョンに関して情報が少ない。そもそも、そこにかつての英雄が使ってた名剣がおそらくある……というのも、普通ではない状況だ」

必ずしも、剛柔を見つけられるまで、最低でも数年かかるという訳ではない。
ただ……それも仮定の話ではある。

「もしかしたら、リバディス鉱山には何かが足りないのかもしれない」

「足りない? ……それは、本当のダンジョンになるために足りない何かがあるってこと?」

結果としてリバディス鉱山が消え……鉱山タイプのダンジョンになり、五十階層や六十階層のとある一室……通称ボス部屋と呼ばれる場所に存在する強大なモンスターを倒し……初回に限り、ボスモンスターを倒すことで現れる宝箱の中に剛柔が入っている。

なんて仮定の流れであれば、一応納得出来なくもない。

「可能性としての話だがな」

剛柔を探すのに何年も必要ない……という希望的観測。

しかし、スティームとガルーレもそういった話を続けるのは寧ろ楽しく、事前に購入していたお菓子とアラッドが淹れた紅茶を飲みながら夕食時まで延々とあーでもないこーでもないと話し続けた。
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