637 / 1,058
六百三十六話 縋るなよ
しおりを挟む
「言っておくが、他の冒険者たちより高い金額で買い取ろうとしても無駄だ。冒険者としてそれなりに稼げているが、あんたが侯爵家の人間なら、俺が何で稼いでいたかは知っているだろ」
「っ……キャバリオン、か」
「その通りだ……うん、知っててくれたようで良かったよ」
リバーシなどに関しては未だに生み出した人物は秘匿されている。
勘の良い者たちはもしやと気付いているが、主に販売している商会の主もフールも一切話さない、認めていないため、まだ完全には特定されていない。
だが、キャバリオンというマジックアイテムをアラッドが造ったという話は……それなりに知れ渡っている。
とはいえ……ここでアマルが知らなかったら、本当に恥ずかしい場面になり得た。
「解ったら、諦めろ。俺たちは俺たちで剛柔を探す。見つけたとしても、お前らに売るつもりはない」
「ッ!!! …………それが、貴族間の悪化に繋がってもか」
「っ…………」
本人達はそう思わないかもしれない。
エスペラーサ家の当主も、同じ侯爵家と争いたくはない。
それでも……外野がどう噂を立てるか、それは当人たちがコントロールできない部分である。
(悪いが、どうあっても譲れないラインなんだ)
アマル自身も、そういった手段を取りたくて取っている訳ではない。
ただ、そこら辺の空気を読んで他の貴族出身の冒険者たちも、あまり剛柔の件には関わらないようにしていた。
全くゼロではないが、関わろうとしている貴族出身の冒険者たちでは……今のところ、かなり望みが薄い。
しかし、アラッドという貴族界の中でもかなりの異端児が関わったとなれば、アマルとしては絶対に無視出来なかった。
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
イスが……テーブルが、皿が……コップが、酒場が僅かに揺れた。
それは皿に入った料理、コップに入った酒が零れない程調節された……しかし、酒場が全体が揺れたかと思わせる揺れだった。
「おい…………あまりイラつかせるなよ」
揺れを起こした原因は……アラッドの脚。
「お前……アマルだったか。それとそっちの従者二人……冒険者の方は、まぁ良いか。そいつの意見とは関係無いだろう」
この時、アラッドは口に出した通り、明確にイラついていた。
「お前ら、強いだろ」
「…………???」
何が言いたいのか解らない。
確かにアマルは同年代の中では頭一つ跳び抜けていると言っても過言ではない。
騎士と魔法使いも、エスペラーサ家に仕える者の中では、半ダンジョン化した鉱山を探索するのに相応しい実力を有している。
ついでに、現在共に活動している冒険者たちもちゃんと強い。
全員、ちゃんと強いのは確かであり、それは本人達もそれとなく解っている、自覚はある。
それでも……アラッドが何を言いたいのか解らない。
「ただセンスだけに、才能だけに頼って生きてきた訳じゃねぇ……そうだろ」
「あ、あぁ、そうだな」
褒められている? という疑問が浮かぶ。
そして増々、何故アラッドがここまで怒りを爆発させているのか解らなくなる。
それは、アマルたちだけではなく、現在パーティーメンバーのスティームとガルーレも同じだった。
(こ、これは……えっと、多分怒ってるん、だよね? じゃなきゃ強めに地面を踏んで揺らしたりしないし……でも、それなら何でこの人たちを褒めてるんだろ)
(ん~~~~、もしかして感情が超ぐちゃぐちゃになってる感じ? 解らなくもない感覚だけど、アラッドって割と冷静ないタイプだよね……けど、なんか今のところ褒めてるし……????)
ガルーレはこれ以上考えるとショートしそうになると思い、考えることを止めた。
ちなみに、この時従魔用のスペースで飯を食べていたファルはアラッドの怒りに気付き、クロに「どうする?」と声を掛けるが……クロはアラッドが怒りの化身と化した時に空気を僅かに覚えている為「気にする必要はないよ」と返して再び夕食を食べることに夢中になる。
「そういった強さをちゃんと持ってるんだろ……強いんだろ。だったら、それしか誇れることがないカスみたいな連中と同じ様に、権力に縋ろうとしてんじゃねぇよ」
「っ!!!!」
まだ……まだ、本当にアラッドという人間が、何に対してそこまで怒りを抱いているのか、完全には理解出来ない。
それでも、決して理不尽な怒りをぶつけられているのではないと感じ取ったアマル。
「今まで、耐えて積み重ねて、傷を負ってでも……折れずに進み続けてきたんだろうが」
「…………」
「剛柔は俺の元に、俺たちの元に帰るべきと本気で思ってるなら……英雄の子孫らしく、己の手で掴み取れよ」
「…………」
「今でも剛柔に拘るなら、それ以上英雄の名に泥を塗るな。これまでの自分を否定するな」
言い終わると、アラッドは物凄い勢いで……喉に詰まらないか? と心配になるほどの早さで自分が頼んだ料理と酒を食べて呑み終わる。
「誰かの手を借りるのが悪いとは言わねぇ。ただ、自分とは関係無い力に縋るなよ」
最後にそれだけ言い残し、アラッドは数枚の金貨をテーブルに置いて立ち上がり、店から出て行った。
「っ……キャバリオン、か」
「その通りだ……うん、知っててくれたようで良かったよ」
リバーシなどに関しては未だに生み出した人物は秘匿されている。
勘の良い者たちはもしやと気付いているが、主に販売している商会の主もフールも一切話さない、認めていないため、まだ完全には特定されていない。
だが、キャバリオンというマジックアイテムをアラッドが造ったという話は……それなりに知れ渡っている。
とはいえ……ここでアマルが知らなかったら、本当に恥ずかしい場面になり得た。
「解ったら、諦めろ。俺たちは俺たちで剛柔を探す。見つけたとしても、お前らに売るつもりはない」
「ッ!!! …………それが、貴族間の悪化に繋がってもか」
「っ…………」
本人達はそう思わないかもしれない。
エスペラーサ家の当主も、同じ侯爵家と争いたくはない。
それでも……外野がどう噂を立てるか、それは当人たちがコントロールできない部分である。
(悪いが、どうあっても譲れないラインなんだ)
アマル自身も、そういった手段を取りたくて取っている訳ではない。
ただ、そこら辺の空気を読んで他の貴族出身の冒険者たちも、あまり剛柔の件には関わらないようにしていた。
全くゼロではないが、関わろうとしている貴族出身の冒険者たちでは……今のところ、かなり望みが薄い。
しかし、アラッドという貴族界の中でもかなりの異端児が関わったとなれば、アマルとしては絶対に無視出来なかった。
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
イスが……テーブルが、皿が……コップが、酒場が僅かに揺れた。
それは皿に入った料理、コップに入った酒が零れない程調節された……しかし、酒場が全体が揺れたかと思わせる揺れだった。
「おい…………あまりイラつかせるなよ」
揺れを起こした原因は……アラッドの脚。
「お前……アマルだったか。それとそっちの従者二人……冒険者の方は、まぁ良いか。そいつの意見とは関係無いだろう」
この時、アラッドは口に出した通り、明確にイラついていた。
「お前ら、強いだろ」
「…………???」
何が言いたいのか解らない。
確かにアマルは同年代の中では頭一つ跳び抜けていると言っても過言ではない。
騎士と魔法使いも、エスペラーサ家に仕える者の中では、半ダンジョン化した鉱山を探索するのに相応しい実力を有している。
ついでに、現在共に活動している冒険者たちもちゃんと強い。
全員、ちゃんと強いのは確かであり、それは本人達もそれとなく解っている、自覚はある。
それでも……アラッドが何を言いたいのか解らない。
「ただセンスだけに、才能だけに頼って生きてきた訳じゃねぇ……そうだろ」
「あ、あぁ、そうだな」
褒められている? という疑問が浮かぶ。
そして増々、何故アラッドがここまで怒りを爆発させているのか解らなくなる。
それは、アマルたちだけではなく、現在パーティーメンバーのスティームとガルーレも同じだった。
(こ、これは……えっと、多分怒ってるん、だよね? じゃなきゃ強めに地面を踏んで揺らしたりしないし……でも、それなら何でこの人たちを褒めてるんだろ)
(ん~~~~、もしかして感情が超ぐちゃぐちゃになってる感じ? 解らなくもない感覚だけど、アラッドって割と冷静ないタイプだよね……けど、なんか今のところ褒めてるし……????)
ガルーレはこれ以上考えるとショートしそうになると思い、考えることを止めた。
ちなみに、この時従魔用のスペースで飯を食べていたファルはアラッドの怒りに気付き、クロに「どうする?」と声を掛けるが……クロはアラッドが怒りの化身と化した時に空気を僅かに覚えている為「気にする必要はないよ」と返して再び夕食を食べることに夢中になる。
「そういった強さをちゃんと持ってるんだろ……強いんだろ。だったら、それしか誇れることがないカスみたいな連中と同じ様に、権力に縋ろうとしてんじゃねぇよ」
「っ!!!!」
まだ……まだ、本当にアラッドという人間が、何に対してそこまで怒りを抱いているのか、完全には理解出来ない。
それでも、決して理不尽な怒りをぶつけられているのではないと感じ取ったアマル。
「今まで、耐えて積み重ねて、傷を負ってでも……折れずに進み続けてきたんだろうが」
「…………」
「剛柔は俺の元に、俺たちの元に帰るべきと本気で思ってるなら……英雄の子孫らしく、己の手で掴み取れよ」
「…………」
「今でも剛柔に拘るなら、それ以上英雄の名に泥を塗るな。これまでの自分を否定するな」
言い終わると、アラッドは物凄い勢いで……喉に詰まらないか? と心配になるほどの早さで自分が頼んだ料理と酒を食べて呑み終わる。
「誰かの手を借りるのが悪いとは言わねぇ。ただ、自分とは関係無い力に縋るなよ」
最後にそれだけ言い残し、アラッドは数枚の金貨をテーブルに置いて立ち上がり、店から出て行った。
150
お気に入りに追加
6,126
あなたにおすすめの小説


追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる