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六百十七話 それは……ありだね
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「……なんか、あれだな。あまり、困ってる様子ではなかったな」
「そうだね。もしかしたら、ソルヴァイパーが白雷を会得してしまったことよりも、侯爵家からの依頼を達成出来た方が、ギルドとしては嬉しいからじゃないかな」
今回、うっかり逃げられてしまった通り、ソルヴァイパーは基本的に戦闘を好まず、しょうがなく戦闘が始まったとしても、逃走癖がある。
実際に……侯爵家からの依頼を達成しようと多くの冒険者たちがソルヴァイパーに挑んだが、死者はたった数人。
冒険者たちもそれなりの面子で挑んでいるとはいえ、Bランクモンスターに挑んでそれだけの被害はかなり低いと言える。
「そういうものか……まぁ、あぁなってしまったのは仕方ない。そう思うしかないな」
ただでさえ防御力が半端ではないソルヴァイパーが白雷という強力な武器を得てしまった。
その事実を仕方ないの一言で済ませるのは、やや無責任ではないか? と思われてもおかしくはない。
おかしくはないが…………冒険者として活動するということは、そういった予想外の場面で予想外過ぎる強敵と遭遇してしまうことまで含めて、自己責任なのである。
「だね。とはいえ……はぁ~~~~~。僕としては、凄く消化不良だよ」
「はは、そうだろうな。あれは……あの空気は、これから更に熱くなると思ってしまう。それこそ、仕方ない感情だ」
止めを刺そうとするまでは、スティームもそれなりに満足した。
ファルと共に戦うのであれば、Bランクモンスターはそこまで攻略が難しい相手ではない。
タッグで挑む出のあれば、赤雷を使わずとも問題無かった。
そういった部分が確かめられただけでも色々と満足だったが……あれは、卑怯である。
強力な一撃で仕留めようとした瞬間、新たな力を会得。
しかも……戦う前から、その情報を知った時から、そうなる事を望んでいたシチュエーションだった。
これから、勝つか負けるにしろ心の底から満足激闘になると…………そう思ってしまっていた。
スティームは完全に期待してしまっていたのだ。
「次も、スティームが挑むか?」
「いや、いいよ。さすがに悪いよ」
「……別に構わないぞ。あれはちょっとな……ソルヴァイパーの逃走癖を忘れてた俺も悪いが、あれはどうしても期待してしまう場面だ。あんなお預け食らったままというのは……きついだろ」
パーティーメンバーの……友人の言う通りだった。
正直、かなり不満が溜まっていた。
「………………それなら、二人で満足出来る戦いで良いんじゃないかな。ほら、この前の火竜みたいに……結果として、アラッドとクロが戦うことになっちゃったけど」
「なるほど。それなりに強い奴らが複数いれば、二人とも満足出来るか…………どうせなら、Aランクに二人で挑むのもあり、かもな」
「ッ!!!」
前回、結果として互いを食らい合い、生き残った一体が轟炎竜に進化。
その戦いを離れた場所から見ていたスティームは……その凄さ、圧倒されてはいたが、全く自分が戦うイメージが湧かなかったわけではない。
だからこそ……その提案は、非常に魅力的に感じた。
「ふ、ふっふっふ……アラッド。ありだね」
「ふふ、そうだろ。スティーム」
二人は現在……酒場にいる。
当然、そこには同業者たちも仲間たちと酒を呑んで晩飯を食べて騒いでいる。
ただ……二人の会話内容を聞いたら、とりあえず耳を疑う。
強い奴と戦いたい……そんな考えを口にしてしまうのは、そこまでおかしくない。
若い頃は、そういった話で盛り上がってしまい、歳を取ってから「あの時は俺らも若かったな~」と語る時の話題となる。
しかし、Aランクモンスターに挑む……という話は、耳を疑うなと言うのは無理な話。
それは冒険者ではなく、酒場で働くウェイトレスや仕事が終わって呑みに来ているギルド職員たちも同じである。
一応ギルド職員であれば、会話の主たちがアラッドとスティームだと気付き、なるほどと納得。
命知らず過ぎない? と思ってしまうが、それでもあの二人ならそういう会話をしてもおかしくないというのは納得出来る。
だが、二人の名前を聞いたことがあっても、そこまで見た目について知らない者からすれば……夢を語るにしても、少しイキり過ぎている。
酒場に居れば、当然アルコールが入る。
アルコールが入れば……当然、酔ってしまう。
酔いというのは本当に恐ろしく、二人は名前で呼び合っているため……少し二人の会話の耳をすませば、本人であることが解る。
「やぁ、アラッド君。スティーム君」
バカが数人ほど動こうとした瞬間、とある男が二人のテーブルに近づいた。
「あれ、レストさんじゃないですか……他のメンバーは?」
「今日は一人でちょっとね。そしたら、顔見知りが居たからつい声を掛けたんだ」
実際は違う。
本当に小さな噂だが、二人がソルヴァイパーと戦ったのではないか、という話を耳にし……その事実を確かめたくなった。
だがこの時……レストはちょっとだけ二人に声を掛けた事を後悔することになる。
「そうだね。もしかしたら、ソルヴァイパーが白雷を会得してしまったことよりも、侯爵家からの依頼を達成出来た方が、ギルドとしては嬉しいからじゃないかな」
今回、うっかり逃げられてしまった通り、ソルヴァイパーは基本的に戦闘を好まず、しょうがなく戦闘が始まったとしても、逃走癖がある。
実際に……侯爵家からの依頼を達成しようと多くの冒険者たちがソルヴァイパーに挑んだが、死者はたった数人。
冒険者たちもそれなりの面子で挑んでいるとはいえ、Bランクモンスターに挑んでそれだけの被害はかなり低いと言える。
「そういうものか……まぁ、あぁなってしまったのは仕方ない。そう思うしかないな」
ただでさえ防御力が半端ではないソルヴァイパーが白雷という強力な武器を得てしまった。
その事実を仕方ないの一言で済ませるのは、やや無責任ではないか? と思われてもおかしくはない。
おかしくはないが…………冒険者として活動するということは、そういった予想外の場面で予想外過ぎる強敵と遭遇してしまうことまで含めて、自己責任なのである。
「だね。とはいえ……はぁ~~~~~。僕としては、凄く消化不良だよ」
「はは、そうだろうな。あれは……あの空気は、これから更に熱くなると思ってしまう。それこそ、仕方ない感情だ」
止めを刺そうとするまでは、スティームもそれなりに満足した。
ファルと共に戦うのであれば、Bランクモンスターはそこまで攻略が難しい相手ではない。
タッグで挑む出のあれば、赤雷を使わずとも問題無かった。
そういった部分が確かめられただけでも色々と満足だったが……あれは、卑怯である。
強力な一撃で仕留めようとした瞬間、新たな力を会得。
しかも……戦う前から、その情報を知った時から、そうなる事を望んでいたシチュエーションだった。
これから、勝つか負けるにしろ心の底から満足激闘になると…………そう思ってしまっていた。
スティームは完全に期待してしまっていたのだ。
「次も、スティームが挑むか?」
「いや、いいよ。さすがに悪いよ」
「……別に構わないぞ。あれはちょっとな……ソルヴァイパーの逃走癖を忘れてた俺も悪いが、あれはどうしても期待してしまう場面だ。あんなお預け食らったままというのは……きついだろ」
パーティーメンバーの……友人の言う通りだった。
正直、かなり不満が溜まっていた。
「………………それなら、二人で満足出来る戦いで良いんじゃないかな。ほら、この前の火竜みたいに……結果として、アラッドとクロが戦うことになっちゃったけど」
「なるほど。それなりに強い奴らが複数いれば、二人とも満足出来るか…………どうせなら、Aランクに二人で挑むのもあり、かもな」
「ッ!!!」
前回、結果として互いを食らい合い、生き残った一体が轟炎竜に進化。
その戦いを離れた場所から見ていたスティームは……その凄さ、圧倒されてはいたが、全く自分が戦うイメージが湧かなかったわけではない。
だからこそ……その提案は、非常に魅力的に感じた。
「ふ、ふっふっふ……アラッド。ありだね」
「ふふ、そうだろ。スティーム」
二人は現在……酒場にいる。
当然、そこには同業者たちも仲間たちと酒を呑んで晩飯を食べて騒いでいる。
ただ……二人の会話内容を聞いたら、とりあえず耳を疑う。
強い奴と戦いたい……そんな考えを口にしてしまうのは、そこまでおかしくない。
若い頃は、そういった話で盛り上がってしまい、歳を取ってから「あの時は俺らも若かったな~」と語る時の話題となる。
しかし、Aランクモンスターに挑む……という話は、耳を疑うなと言うのは無理な話。
それは冒険者ではなく、酒場で働くウェイトレスや仕事が終わって呑みに来ているギルド職員たちも同じである。
一応ギルド職員であれば、会話の主たちがアラッドとスティームだと気付き、なるほどと納得。
命知らず過ぎない? と思ってしまうが、それでもあの二人ならそういう会話をしてもおかしくないというのは納得出来る。
だが、二人の名前を聞いたことがあっても、そこまで見た目について知らない者からすれば……夢を語るにしても、少しイキり過ぎている。
酒場に居れば、当然アルコールが入る。
アルコールが入れば……当然、酔ってしまう。
酔いというのは本当に恐ろしく、二人は名前で呼び合っているため……少し二人の会話の耳をすませば、本人であることが解る。
「やぁ、アラッド君。スティーム君」
バカが数人ほど動こうとした瞬間、とある男が二人のテーブルに近づいた。
「あれ、レストさんじゃないですか……他のメンバーは?」
「今日は一人でちょっとね。そしたら、顔見知りが居たからつい声を掛けたんだ」
実際は違う。
本当に小さな噂だが、二人がソルヴァイパーと戦ったのではないか、という話を耳にし……その事実を確かめたくなった。
だがこの時……レストはちょっとだけ二人に声を掛けた事を後悔することになる。
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