616 / 1,058
六百十五話 敢えて上げるなら
しおりを挟む
「はっ!!!??? ちょ、まっ………………」
速かった。
それはもう……圧倒的な速度と言えた。
アラッドが一応展開していた感知網を速攻で潜り抜け……何処かに行ってしまった。
「…………嘘、だろ」
もう追うには絶望的なほど距離が離れており、クロの鼻でも追えない。
一応通った穴に糸を通わせればなんとか出来なくはないが……やるには既に距離があり過ぎる。
場合によってはアラッドが糸を操れる範囲を越えてしまう。
「……すまん、スティーム」
「いや……アラッドが、謝る事じゃ、ないよ。なんと言うか、僕も…………ソルヴァイパーから攻撃が来るかもしれないって思って、ワクワクしながら待ってたから」
「だよな。そう……思ってしまうよな」
まだ完全に後がない状況ではないが、このまま押され続ける戦況が続けば、いずれ討伐されてしまうことは確実。
そんな中、ソルヴァイパー自身も驚く力を会得。
覚醒状態と言っても過言ではない状態となり……アラッドやスティームだけではなく、クロとファルですらこれから更に激しい戦いになると思い、闘争心を熱く燃やしていた。
だが……肝心のソルヴァイパーは自身が会得した力を冷静に把握し終えた後……少なくともスティームとファルは完全にこちらの出方を待っていると把握し……新たに得た力を全力で逃走に使用した。
「……………………マジか」
地面に腰を下ろし、力なくうなだれる。
ソルヴァイパーは戦闘を好む性格ではなく、逃走癖がある。
そんな事は実際に戦う前から解っていた事実。
そう……解っていたにも関わらず、逃してしまった。
(…………だって仕方ないだろ、とは言えないな。冒険者なら……プロなら、私情を優先して逃してしまうのは駄目だ)
冒険者が獲物を逃してしまうのは珍しくない。
これまで依頼達成によって得られる金額、縁などに釣られて多くの冒険者たちがソルヴァイパーに挑んだが……返り討ちに合うか、逃げられていた。
決してアラッドたちだけがやらかしてしまった失敗ではない。
BランクやAランクの冒険者であってもやってしまうミスであり、一回逃してしまっただけでプロ失格とはならない。
ただ……今回の件で唯一二人がやらかしてしまったと言える点は……白雷を使用出来るソルヴァイパーを誕生させてしまったこと。
元々ソルヴァイパーは戦闘を好まないのだから大丈夫なのでは? と考えるかもしれないが、冒険者ギルドとしてはそう簡単に片づけられる問題ではない。
「ふぅ~~~~~~~~…………あれだ、今酒があったら……吞んで呑んで呑みまくって、酔って潰れたい」
「僕も、同じ気分だよ」
まだ太陽が沈み始めてないこともあってか、二人は腰を下ろしたその場から動く気になれなかった。
「「…………」」
従魔の二体も主人と同じく、元気がない。
もっと自分がそういった状況を予想していればという責任感すらあったが……二人がそれを直ぐに感じ取り、お前たちは悪くないと撫でて慰める。
「……まぁ、あれだな。ちゃんとギルドに報告しないとだな」
「そうだね。後から問題になるからって言うより、僕達が報告しなかったら犠牲者が増えるかもしれない」
「臆病なモンスターなんかに負けるかって意気込む人もいるだろうが……白雷。色の付いた魔力を操れると知れば、少しは落ち着いて考えられるだろうな」
これ以上ここで腰を下ろしていても仕方ない。
膝を叩き、気合を入れて立ち上がり……もう用はないため、街に向かって帰る。
ただ、二人の足取りはすこぶる重かった。
やらなければならない事は把握しており、二人はそれが出来ない程子供ではなく……バカでも屑でもない。
それでも、今回の一件…………物凄くやってしまった感が強い。
そのやらかしてしまったが故に発生する何かが、自分たちだけに降りかかるのであればまだしも、ソルヴァイパーがもうこの地にいないことを考えれば、まず一人の少女が死ぬ。
犠牲が生まれたことだけは確かだった。
(…………スティームがなんと言おうと、今回の一件は俺のミスだ。スティームとファルは……仕方ない。実際にソルヴァイパーと戦っていた当事者だ。それなりにアドレナリンが出てた筈だ……それに加えて、赤雷で止めを刺そうとした瞬間に覚醒? して白雷を会得…………逃走癖を持っていると頭の何処かで解っていたとしても、そこからの激闘を期待するなと言うのは無理な話だ)
やはり実際に戦ってはおらず、少し離れた場所から観戦していた自分こそ、ソルヴァイパーの逃走癖を忘れてはいけなかった。
絶対に監視員から観客に変わってはいけなかった。
(……自分に厳し過ぎる、とか関係無い。強い奴と戦う為にここまで来たことを考えれば、尚更逃がしてはいけなかった……ギルドには、ちゃんと伝えておかないとな)
今後の評価にどう影響するのかなど、考える必要はない。
ただ、何が原因でそんな事を起こってしまったのか、事実を伝えるのみ。
それで評価が下がろうとも……それこそ、仕方ないという話だった。
そんな相変わらず街に到着しても足取りが重い中、ギルドに入ったアラッドの目に、気になる依頼書が入った。
速かった。
それはもう……圧倒的な速度と言えた。
アラッドが一応展開していた感知網を速攻で潜り抜け……何処かに行ってしまった。
「…………嘘、だろ」
もう追うには絶望的なほど距離が離れており、クロの鼻でも追えない。
一応通った穴に糸を通わせればなんとか出来なくはないが……やるには既に距離があり過ぎる。
場合によってはアラッドが糸を操れる範囲を越えてしまう。
「……すまん、スティーム」
「いや……アラッドが、謝る事じゃ、ないよ。なんと言うか、僕も…………ソルヴァイパーから攻撃が来るかもしれないって思って、ワクワクしながら待ってたから」
「だよな。そう……思ってしまうよな」
まだ完全に後がない状況ではないが、このまま押され続ける戦況が続けば、いずれ討伐されてしまうことは確実。
そんな中、ソルヴァイパー自身も驚く力を会得。
覚醒状態と言っても過言ではない状態となり……アラッドやスティームだけではなく、クロとファルですらこれから更に激しい戦いになると思い、闘争心を熱く燃やしていた。
だが……肝心のソルヴァイパーは自身が会得した力を冷静に把握し終えた後……少なくともスティームとファルは完全にこちらの出方を待っていると把握し……新たに得た力を全力で逃走に使用した。
「……………………マジか」
地面に腰を下ろし、力なくうなだれる。
ソルヴァイパーは戦闘を好む性格ではなく、逃走癖がある。
そんな事は実際に戦う前から解っていた事実。
そう……解っていたにも関わらず、逃してしまった。
(…………だって仕方ないだろ、とは言えないな。冒険者なら……プロなら、私情を優先して逃してしまうのは駄目だ)
冒険者が獲物を逃してしまうのは珍しくない。
これまで依頼達成によって得られる金額、縁などに釣られて多くの冒険者たちがソルヴァイパーに挑んだが……返り討ちに合うか、逃げられていた。
決してアラッドたちだけがやらかしてしまった失敗ではない。
BランクやAランクの冒険者であってもやってしまうミスであり、一回逃してしまっただけでプロ失格とはならない。
ただ……今回の件で唯一二人がやらかしてしまったと言える点は……白雷を使用出来るソルヴァイパーを誕生させてしまったこと。
元々ソルヴァイパーは戦闘を好まないのだから大丈夫なのでは? と考えるかもしれないが、冒険者ギルドとしてはそう簡単に片づけられる問題ではない。
「ふぅ~~~~~~~~…………あれだ、今酒があったら……吞んで呑んで呑みまくって、酔って潰れたい」
「僕も、同じ気分だよ」
まだ太陽が沈み始めてないこともあってか、二人は腰を下ろしたその場から動く気になれなかった。
「「…………」」
従魔の二体も主人と同じく、元気がない。
もっと自分がそういった状況を予想していればという責任感すらあったが……二人がそれを直ぐに感じ取り、お前たちは悪くないと撫でて慰める。
「……まぁ、あれだな。ちゃんとギルドに報告しないとだな」
「そうだね。後から問題になるからって言うより、僕達が報告しなかったら犠牲者が増えるかもしれない」
「臆病なモンスターなんかに負けるかって意気込む人もいるだろうが……白雷。色の付いた魔力を操れると知れば、少しは落ち着いて考えられるだろうな」
これ以上ここで腰を下ろしていても仕方ない。
膝を叩き、気合を入れて立ち上がり……もう用はないため、街に向かって帰る。
ただ、二人の足取りはすこぶる重かった。
やらなければならない事は把握しており、二人はそれが出来ない程子供ではなく……バカでも屑でもない。
それでも、今回の一件…………物凄くやってしまった感が強い。
そのやらかしてしまったが故に発生する何かが、自分たちだけに降りかかるのであればまだしも、ソルヴァイパーがもうこの地にいないことを考えれば、まず一人の少女が死ぬ。
犠牲が生まれたことだけは確かだった。
(…………スティームがなんと言おうと、今回の一件は俺のミスだ。スティームとファルは……仕方ない。実際にソルヴァイパーと戦っていた当事者だ。それなりにアドレナリンが出てた筈だ……それに加えて、赤雷で止めを刺そうとした瞬間に覚醒? して白雷を会得…………逃走癖を持っていると頭の何処かで解っていたとしても、そこからの激闘を期待するなと言うのは無理な話だ)
やはり実際に戦ってはおらず、少し離れた場所から観戦していた自分こそ、ソルヴァイパーの逃走癖を忘れてはいけなかった。
絶対に監視員から観客に変わってはいけなかった。
(……自分に厳し過ぎる、とか関係無い。強い奴と戦う為にここまで来たことを考えれば、尚更逃がしてはいけなかった……ギルドには、ちゃんと伝えておかないとな)
今後の評価にどう影響するのかなど、考える必要はない。
ただ、何が原因でそんな事を起こってしまったのか、事実を伝えるのみ。
それで評価が下がろうとも……それこそ、仕方ないという話だった。
そんな相変わらず街に到着しても足取りが重い中、ギルドに入ったアラッドの目に、気になる依頼書が入った。
144
お気に入りに追加
6,127
あなたにおすすめの小説

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。


婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる