615 / 1,012
六百十四話 望んでいたシチュエーション
しおりを挟む
スティームとファル対ソルヴァイパーの戦闘が始まってから既に五分以上が経過。
今のところ……開幕当初から変わらず、スティームとファルのタッグが攻め続けている。
形としては攻めている側が優勢に思えるが、スタミナという点に関して、スティームはファルやソルヴァイパーに劣る。
ただ……今回に限っては延々と防御に時間を費やしているソルヴァイパーの精神面がガリガリと削られていた。
これまで戦ってきたどの人間との戦いよりも……先程まで争っていたディーマンバとの戦いよりも、神経が削れる厳しい戦闘と断言出来る。
加えて、ただ敵の猛攻が絶えず苦しいだけではなく、もう一人と一体が自分を逃さないように構えている。
おそらく……現在己が戦っている敵よりも強い一人と一体。
まさに絶望的と言える状況ではあるが……臆病で逃走癖があるソルヴァイパーであっても、己の命を放り出そうとは思わず、まだ……まだ、スティームとソルヴァイパーの攻撃に耐え続ける。
だが、どれだけ耐え続けても、反撃の糸口……もしくは逃げる隙が生まれない。
ほぼ全力で動き続けていることを考えれば、そろそろスティームのスピードが落ちてきてもおかしくないのだが……今のスティームはランナーズハイの状態に近く、疲れを感じることなく双剣を振るい、戦場を駆け続ける。
未だソルヴァイパーの防御力は堅牢と呼べる状態だが……それでも徐々に切傷が増えてきた。
「ハァアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!」
今がチャンスだと思い、更に加速。
このまま肺がどうなろうと構うものかと、これまでの戦闘で与えた切傷に向けて更に斬撃を刻む。
「ッ!!!???」
同じく動き続けているソルヴァイパーだが、こちらは自身の体力や魔力の減り具合を常に気にしており、正直なところ……速攻で逃げだしたい。
今はもう、これまで通り動き続けてきた反復によってなんとか攻撃を捌けてるだけの状態。
(殺れる……まだソルヴァイパーはそれなりの魔力を有してるが、それでも視たところ…………ここから逆転出来る手はないはず)
これまでの経験によって行われる防御技術は相変わらず厄介なことに変わりはないが、スティームにはまだ見せていない奥の手がある。
アラッドはこの時点で、友の勝利を確信した。
(うん…………これ、以上は、もう無意味な、やり取りだね)
全能感を体験しながら双剣を振るうも、これまでの戦闘で培ってきた堅牢な防御は少しずつしか攻略出来ない。
結局は魔力切れを狙う形で勝負が終わる……そんなイメージが思い浮かぶも、それはスティームが望む決着ではなかった。
「ファル!!!」
「ッ! キィエエエエエエエッ!!!!!」
主人の糸を読み取ったファルは両翼から放たれる羽の弾幕と風のブレスを同時に発射。
後に下がるか、それとも前に出て躱すか……どちらにしろ、次の行動は限定される。
そして一部だけ羽が地面に刺さらない道が生まれ、次の瞬間……赫い線が通った。
(殺ったな)
アラッドはもう完全に決まったと思った。
全身に赤雷を纏って強化し、双剣にも赤雷を纏って切れ味を超強化。
その状態では、どれだけ堅いソルヴァイパーの防御技術も意味をなさい。
大きく切り裂かれて絶命。
絶命に至らずとも、大量の血を流す致命傷となり、あと一撃与えるだけで勝負は決まる……筈だった。
(ッ……この感じ、まさか)
そのまさかが起こり得た。
アラッドがトロールにクロを殺された時と似ているのか……自らの死を明確に感じ取ったソルヴァイパーは、ここにきて自身の本当の才能を開花させ……白雷を会得し、赤雷を纏ったスティームの斬撃に耐えた。
「おいおいおい……ここにきて、会得したのか」
ここにくるまで、隠し通してきた可能性も捨てきれないが、若干自身の状態に違和感を感じてるであろう素振りをするソルヴァイパーを見ると、今ここで会得したとしか思えない。
普通に考えれば……危機的状況であるのは間違いない。
アラッドとクロという戦力が後ろにいるとはいえ、白雷という力を得たことは……単なるパワーアップとは言えない。
まだ魔力量がギリギリではないことを考えれば、赤雷を利用した攻撃を全て対処されてもおかしくない。
だが……この状況こそ、スティームが望んでいた状態。
(全く…………良い顔するじゃないか、スティーム)
自身が望んでいたシチュエーションとなり、本当の勝負が今……ようやく始まる。
やや疲れは感じるも、まだまだ体は動く。
魔力もまだ赤雷を使用しながら動いても問題にはならない。
従魔であるファルも主人と同じく、堅牢な強敵がパワーアップしたことに対して一切臆することは無く、寧ろ歓喜していた。
今のソルヴァイパーなら……うっかり心臓を潰してしまう可能性を考慮しなくても構わない。
そう思わせるだけの圧が増した。
(いやぁ~~~、本当にここは良い特等席、だ…………はっ?)
「えっ?」
ほぼ同じタイミングで戸惑った二人。
何故なら……つい先程超絶パワーアップしたソルヴァイパーが……地面を掘って地中に潜り……そのまま全く関係がない方向へ向かってしまった。
今のところ……開幕当初から変わらず、スティームとファルのタッグが攻め続けている。
形としては攻めている側が優勢に思えるが、スタミナという点に関して、スティームはファルやソルヴァイパーに劣る。
ただ……今回に限っては延々と防御に時間を費やしているソルヴァイパーの精神面がガリガリと削られていた。
これまで戦ってきたどの人間との戦いよりも……先程まで争っていたディーマンバとの戦いよりも、神経が削れる厳しい戦闘と断言出来る。
加えて、ただ敵の猛攻が絶えず苦しいだけではなく、もう一人と一体が自分を逃さないように構えている。
おそらく……現在己が戦っている敵よりも強い一人と一体。
まさに絶望的と言える状況ではあるが……臆病で逃走癖があるソルヴァイパーであっても、己の命を放り出そうとは思わず、まだ……まだ、スティームとソルヴァイパーの攻撃に耐え続ける。
だが、どれだけ耐え続けても、反撃の糸口……もしくは逃げる隙が生まれない。
ほぼ全力で動き続けていることを考えれば、そろそろスティームのスピードが落ちてきてもおかしくないのだが……今のスティームはランナーズハイの状態に近く、疲れを感じることなく双剣を振るい、戦場を駆け続ける。
未だソルヴァイパーの防御力は堅牢と呼べる状態だが……それでも徐々に切傷が増えてきた。
「ハァアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!」
今がチャンスだと思い、更に加速。
このまま肺がどうなろうと構うものかと、これまでの戦闘で与えた切傷に向けて更に斬撃を刻む。
「ッ!!!???」
同じく動き続けているソルヴァイパーだが、こちらは自身の体力や魔力の減り具合を常に気にしており、正直なところ……速攻で逃げだしたい。
今はもう、これまで通り動き続けてきた反復によってなんとか攻撃を捌けてるだけの状態。
(殺れる……まだソルヴァイパーはそれなりの魔力を有してるが、それでも視たところ…………ここから逆転出来る手はないはず)
これまでの経験によって行われる防御技術は相変わらず厄介なことに変わりはないが、スティームにはまだ見せていない奥の手がある。
アラッドはこの時点で、友の勝利を確信した。
(うん…………これ、以上は、もう無意味な、やり取りだね)
全能感を体験しながら双剣を振るうも、これまでの戦闘で培ってきた堅牢な防御は少しずつしか攻略出来ない。
結局は魔力切れを狙う形で勝負が終わる……そんなイメージが思い浮かぶも、それはスティームが望む決着ではなかった。
「ファル!!!」
「ッ! キィエエエエエエエッ!!!!!」
主人の糸を読み取ったファルは両翼から放たれる羽の弾幕と風のブレスを同時に発射。
後に下がるか、それとも前に出て躱すか……どちらにしろ、次の行動は限定される。
そして一部だけ羽が地面に刺さらない道が生まれ、次の瞬間……赫い線が通った。
(殺ったな)
アラッドはもう完全に決まったと思った。
全身に赤雷を纏って強化し、双剣にも赤雷を纏って切れ味を超強化。
その状態では、どれだけ堅いソルヴァイパーの防御技術も意味をなさい。
大きく切り裂かれて絶命。
絶命に至らずとも、大量の血を流す致命傷となり、あと一撃与えるだけで勝負は決まる……筈だった。
(ッ……この感じ、まさか)
そのまさかが起こり得た。
アラッドがトロールにクロを殺された時と似ているのか……自らの死を明確に感じ取ったソルヴァイパーは、ここにきて自身の本当の才能を開花させ……白雷を会得し、赤雷を纏ったスティームの斬撃に耐えた。
「おいおいおい……ここにきて、会得したのか」
ここにくるまで、隠し通してきた可能性も捨てきれないが、若干自身の状態に違和感を感じてるであろう素振りをするソルヴァイパーを見ると、今ここで会得したとしか思えない。
普通に考えれば……危機的状況であるのは間違いない。
アラッドとクロという戦力が後ろにいるとはいえ、白雷という力を得たことは……単なるパワーアップとは言えない。
まだ魔力量がギリギリではないことを考えれば、赤雷を利用した攻撃を全て対処されてもおかしくない。
だが……この状況こそ、スティームが望んでいた状態。
(全く…………良い顔するじゃないか、スティーム)
自身が望んでいたシチュエーションとなり、本当の勝負が今……ようやく始まる。
やや疲れは感じるも、まだまだ体は動く。
魔力もまだ赤雷を使用しながら動いても問題にはならない。
従魔であるファルも主人と同じく、堅牢な強敵がパワーアップしたことに対して一切臆することは無く、寧ろ歓喜していた。
今のソルヴァイパーなら……うっかり心臓を潰してしまう可能性を考慮しなくても構わない。
そう思わせるだけの圧が増した。
(いやぁ~~~、本当にここは良い特等席、だ…………はっ?)
「えっ?」
ほぼ同じタイミングで戸惑った二人。
何故なら……つい先程超絶パワーアップしたソルヴァイパーが……地面を掘って地中に潜り……そのまま全く関係がない方向へ向かってしまった。
123
お気に入りに追加
6,106
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ダンマス(異端者)
AN@RCHY
ファンタジー
幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。
元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。
人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!
地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。
戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。
始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。
小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。
向こうの小説を多少修正して投稿しています。
修正をかけながらなので更新ペースは不明です。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる