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六百十三話 迫られるジャストタイミング

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(強過ぎる……ことは、ない)

ようやく自分たちに運が回ってきた。

スティームは相棒であるストームファルコンのファルと共にソルヴァイパーが逃げないように意識しながらじわじわと追い詰めていく。

そして戦闘が始まってから約二分が経過。

今のところ、思ってたほど強くはないというのが、正直な感想。
しかし、その感想と現在の攻め具合は……あまり一致していなかった。

(ダメージは、与えられてる。でも、この白蛇……攻撃への対応が、上手いな)

二対一という状況もあって、スティームとファルの攻撃は着実にダメージを与えている。

だが、ソルヴァイパーはそれぞれの攻撃に対して対応力が優れており、スティームの雷を纏った双剣による斬撃は尾撃で弾き、ファルの羽による弾幕は溶解性の高い毒のカーテンで防御。

毒を展開することで、スティームが容易に攻め込めない状況をつくる。

加えて魔力を素早く一点集中させる技術が高く、雷刃が当たったとしても、鱗しか切り裂けないパターンも多々ある。
そのためパッと見でダメージを与えられてる様に見えても、実際のところはまだ二割も体力を削れていない。

体力制の世界ではないが、相手を疲弊させるためにはとりあえず魔力量を削るか、出血させなければならない。

勿論、超急所である脳や心臓、魔石を潰せばソルヴァイパーの場合は一発KO出来るが、今回は諸事情により、基本的に心臓は狙えない。

(それと、狙われてる期間が、長かったからか、急所への攻撃対応が、本当に早いね!!!)

戦いの時間は短ければ短い程、死ぬリスクが低くなる。

故に脳や魔石の位置を把握して狙うのは至極当然。
ただ……そもそもソルヴァイパーはこの辺りにくるまでも冒険者に狙われたことがあり、ここに来てから更に狙われることが増えたため、自然と防御技術も向上。

冒険者や騎士がどれだけ上手く意識を逸らさせてから攻撃を行っても、魔石や脳への攻撃は即座に反応する。

「まっ、それも強さの一つでは、あるよね!!!!」

とはいえ、攻撃が中々通らないからといって、勝負を捨てるわけがなく……ただ、ギリギリのタイミングまでは赤雷を使用しない。

当然、今のところ万雷を使用する予定もない。
強い武器や強力な切り札も含めて個人の力……という考えは解る。
そういった力を最後の最後まで隠し続けてきた結果死んでしまうなど、穴があっても入れない程恥ずかしくなる。

故に使うべき時には使用するが……それでも、スティームの中にはアラッドと同じく、そういった強力な武器ばかりに頼っていては本当の成長は出来ない!!!! といった考えを持っている。

そういった考えに対して相容れないと思う者もいるだろうが……少なくとも、スティームは今回の戦いでは開始食後から使うべきではないと判断した。

「ふぅ~~~……いやはや、本当に堅い。まさに堅牢だね」

「…………」

まだまだ余裕を感じさせる表情を保つスティーム。

そんな人間の言葉は解らないが……面倒な敵に狙われてしまったと感じているソルヴァイパー。
ソルヴァイパーから見て、スティームそファルの第一印象は、速い。

既に戦闘開始から五分近く経過しており、良いタイミングがあったら逃げ出したいと思い始めていた。

しかし、そう思い始めてから一度も実行に移せるタイミングがなく、今も互いに止まっているが……ファルはいつでも両足から風の斬撃を放てるようにしており、地面に潜ろうとしても地中まで刃が届いてしまう。

人間が行う斬撃も完璧にガードしなければ中まで切り裂かれ……常に完璧なタイミングでの対応を迫られる。

基本的に好戦的なタイプではなく、逃げ癖があるソルヴァイパーとしては、本当に今すぐにでも逃げ出したい。

「……ふっ!!!!!」

「っ!!!!!!」

「キィエエエエアアアアアッ!!!!!」

だが、やはりそう簡単に逃がしてくれる相手ではない。

再び殺り合いが再開されてもスピードが落ちることはなく、ソルヴァイパーの攻撃は中々クリーンヒットしない。

膠着……とは少し違う状態が再び続くこととなる。


「ワフゥ」

「おっ、そっちは終ったみたいだな。それじゃ、とりあえず回収しとくか」

ソルヴァイパーが逃げ出さないように見張っている間に、クロは一人でディーマンバを仕留め終えた。

ディーマンバの体には幾つもの裂傷が刻まれており、それだけクロの攻撃に耐えながら攻め続けたのが解る。

「ほれ、クロ。ちゃんと飲んどけよ」

「ワゥ」

スティームとファル対ソルヴァイパーの試合を観察している間にも、後方の戦闘音はしっかりと耳に入っていた。

そんな戦闘音の中で、数回ほどクロの攻撃方法ではこんな音は聞こえないであろう音が聞こえており、クロが大ダメージとはいかずとも、自然回復では少々完治に時間が掛かるのが解っていた。

主人からの労いを断らず、有難く受け取り……友人がまだ戦い続けている戦場へ視線を向ける。

「…………」

「……ソルヴァイパーは、クロが戦ったディーマンバとは真逆のタイプ、かもな」

「ワフ……」

クロとしてはやや不満なタイプではあるが、それはそれで面白いとも思う。

「結構長くなってきたが……多分、負けることはないだろうな」

アラッドから見て、まず友人が負ける姿はイメージ出来なかった。
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