スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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五百九十七話 手に入れて数年経っても

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「…………申し訳ないが、それは教えられない」

「っ!! な、なんでだよ!!!」

「狂化とは、その言葉からも解るように、諸刃の剣。得たところで……本当に使いこなせるかは、別の話なんです」

「……アラッド、もう少し詳しく教えないと納得してくれないと思うよ」

無茶を承知で水蓮のメンバーである男が尋ねている側なので、そこまで頑張って説得する必要はないが……根がお人好しということもあって、ため息を一つ吐きながら説明を続けた。

「そうですね……俺は、狂化を……親しい者を失いかけたことで、手に入れました」

「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」

アラッドがどうやって狂化というスキルを習得したか。
これは意外にも知れ渡っていない情報であり、知っている者も身内以外にいるが……全員口が堅いこともあり、調べてもそう簡単に知れる情報ではない。

「実際のところ、その者は生きていました。ただ……本当に、運が良かっただけです。ただ、奇跡が重なった。それがなかったら……俺は親しい者を失うどころか、身内を傷付けてしまったかもしれません」

トロールによって、まだブラックウルフだった頃のクロを瀕死に追い込まれたアラッドは狂化を手に入れ……そのまま暴走。

結果としてトロールを殺すまでは標的だけに殺意を集中していたが、倒し終えて後は……ただ、次は誰だと、殺戮兵器になっていた。

そこで、奇跡的にブラックウルフからデルドウルフに進化したクロの声を耳にしなければ……戻れていなかったかもしれない。

「あなたに……親しい者を失ってでも強くなりたい……そんな思いが、ありますか?」

「っ…………」

男はその問いに、答えられなかった。

常日頃から、強くなりたいという思いは抱き続けている。
だが……親しい者を、大切な仲間を失ってでも強くなりたいという思いは……ない。

「冒険者になってからも今回の様に狂化を使って強敵と戦ったことがありますが…………とある一戦では、友の声を聞かなければ、狂気に飲みこまれていました」

「っ!! まだ、完全にはコントロール出来て、いないのか」

「えぇ、そうです。勿論、短時間であれば問題ありませんが、その短時間を越えてしまうと……リスクが跳ね上がります。狂気という感情は、それほど……使用者の人間自身が持つ感情であっても、コントロールし難い暴れ馬なのでしょう」

狂気…………水蓮のメンバーは犯罪者を捕える、もしくはその場で抹殺する機会もある。
そのため、常人が持つことはない狂気を抑えない、遠慮なく発散させる怪物と……この場にいる何人かは出会ったことがある。

「因みに、俺は狂化をその場で会得した盗賊の頭と戦ったことがある」

「そ、そいつは……そいつは、どうやって!!!」

男は他にも方法があるのかと……アラッドが止めとけと説いているにも関わらず、身を乗り出してその手段を、流れを聞こうとする。

「……そいつは、ビーストテイマーという、盗賊にしては珍しい存在でした。その頭領が率いる盗賊団と俺たちは
戦い、俺はその頭と従魔の一体、マウンテングリズリーと戦いました」

そこまで説明しただけで、勘の良い者たちは後の流れを察せた。

「その戦いで俺は先にマウンテングリズリーを討伐しました…………盗賊と言えど、一般人にとって害しかない彼らにも、情というのはあるのでしょう。大切な相棒を失った怒りによって、狂化を習得し、そのまま怒り狂い、再度俺の斬り掛かってきました」

「そう……か」

「他にも習得する方法があるのかもしれません。ただ、他の強化系スキルにも言えることだとは思いますが、扱えるようになるまで時間がかかり、大きなリスクを背負い続けることになります」

「アラッド、因みに訊くけど、スキルブックで習得した場合はどうなるのかな」

スティームにとっても、彼らは……ぶっちゃけた話、どうでも良い相手。

狂化の会得方法について尋ねてきた同年代であろう青年がこの先狂気を抑えきれずに仲間を殺してしまっても、どうでも良いのだが……その通りだよね~と素通りできる程、人間の血が薄くはない。

「……読めば会得は出来るだろう。ただ、最初に使用した際、そのまま狂気をコントロール出来る可能性は限りなく低い…………というか、狂化のスキルブックを購入する金があるなら、他のコントロールは難しいが、暴走や死のリスクがない強化系のスキルブックを購入した方が良いだろうな」

「はは! 確かに、それもそうだね」

「一応俺の手札の一つではあるけど、説明した通りのリスクもあるので、お勧めは出来ません。もし、何か大幅に自分を強くしたいのであれば、強化系のスキルブックを購入する……もしくはそういった類のマジックアイテムを購入するのが一番良いかと」

「……そうか。答えてくれて、ありがとう」

まだ、完全に納得してないのが表情から解る。

ただ、アラッドは意地悪でお勧めしないのではない。
結果として自分はある程度扱えるようになったが、それでもあと一歩で、といった場面に数回遭遇している。

本当に……ただ運が良かっただけ。
アラッドが豪運の持ち主か否か……それはさておき、狂化が扱いにくいスキルなのは間違いなかった。

大人組は会得している知人を知っているため、その知人とアラッドに会得方法を尋ねた後輩を比べ……おそらく、適正という面ではかなり低いなと納得していた。
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