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五百八十二話 確かに教えてない
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「始まるなら、なるべく早く始まってほしいもんだな」
「っ……何故、そう思う?」
ガルシアは……ギリギリ怒ることはなかった。
目の前の同僚とはそれなりに親交があり、今では友人だと思っている。
そんな友人が……戦争が始まるなら、早く始まれば良いのに、といった感じの言葉を零した。
自分たちの努力をバカだと思っている? という結論には至らない。
ただ、言葉に表し辛い感情が湧き上がった。
「…………戦争が始まるのが遅ければ遅い程、あいつらが参加するかもしれないだろ」
「あいつら……っ、そうか」
あいつらという言葉が誰を指しているのか、ガルシアは直ぐに察した。
そして何故……友人が戦争が始まるのであれば、なるべく早く始まってほしいと口にしたのか理解した。
「……そうだな。長引けば長引くほど、あいつらが参加する可能性は……高くなるだろう」
「そうだろ。だから、俺としては……なるべく早く始まってほしいと思ってな」
あいつらとは、孤児院で育ち……今は冒険者として活動している者たち。
いずれは彼ら、彼女たちの背中を追おうとしている子供たちのことを指す。
当然だが、冒険者は一定のランク以上に達すれば、戦争などの有事の際……必ず参加しなければならない。
その一定のランクというのは……Dランク。
冒険者として活動している以上、基本的には逃れられない義務である。
「あいつらの強さ、向上心を考えれば……ぶっちゃけ、Dランクなんて直ぐだと思うんだよ」
「そうだな……まぁ、アラッド様の様な方が直ぐ近くに居れば、そうならざるを得ないというのもあると思うが」
主人であるアラッドを非難しているわけではない。
寧ろ、ガルシア的には褒めている。
「Dランクに上がれば、基本的に参加しなきゃならねぇ…………冒険者なら、いずれはそういう経験をしなきゃならねぇってのは解ってる。でもな……俺としては、参加してほしくねぇ」
男に取って、巣立っていった子供たちは……全員大切な教え子。
子供の様に思えることもあった。
まだ冒険者になる前から本気で強くなる為に鍛え、学んできた彼らは……簡単に死にはしない。
ただ、戦争という名の戦場では……たとえ巣立っていった子供たちより強いベテランであっても、死ぬときは死ぬ。
子供たちが今よりも強くなれば戦場で死なない確率が上がる?
今よりも強くなれば、その戦闘力に見合った戦場に送られるだけで、死亡率が確実に下がるとは言えない。
「…………ガルシア。俺を、甘ちゃんだと思うか」
「思えるわけがないだろう。あいつらは……俺にとっても、可愛い弟や妹たちだ。冒険の中で死ぬのであればまだしも……戦争、という場所で死ぬのは……違うだろうと、思う」
当然、ガルシアも戦争という名の戦場を経験したことがあるわけではない。
それでも……決して良い場所ではないことぐらいは想像出来る。
「…………それでも、あいつらは……俺たちが何を言っても、なるべく戦いを避けたり、そういった行動を取ってくれないだろうな」
「だろうな。俺としてはそうやって上手いこと避けて避けて……必要最低限の戦いだけ乗り越えて、生き残って欲しい。ただ……マスターの下で育ったからこそ、マスターから直々に戦場ではそういった行動をしろと言われても、聞かなそうだ」
「……自分たちは、そんなダサい逃げの姿勢は教わっていません。なんて言われそうだな」
「はは……一丁前に堂々と言う姿が想像出来るぜ」
乾いた笑いだけが零れる……内心では、ちっとも笑えていない。
「恨む様なことじゃねぇ。恨むなんてのはあり得ねぇ……恨むなら、ちょっかいを掛けてきたバカな国をなんてのは解ってる…………ガルシア、お前らのことだ。その戦争に向けて、何かやろうとしてるんだろ」
「…………ちょっと、遠征でも行こうかと」
「遠征ね…………んじゃ、少し頼まれごとしても良いか」
「何をしたらいい」
話の流れから、しょうもない事を頼もうとしてないことは解る。
「……それは、構わない。構わないが……あいつらは、素直に受け取るか?」
「嫌でも受け取ってもらうしかねぇな」
過保護だろうとなんだろうと構わない。
それが原因で巣だった子供たちとの仲が悪くなっても構わない。
男は……それでも、子供たちが戦争で死ぬよりはよっぽど良い。
「はぁ~~~。にしても遠征か……」
「行きたいか? 当主様に頼めば、受け入れてくれるだろう」
「いや、止めとくぜ。そりゃ俺も真面目にレベルアップしたいなって思いはあるが、あんまりにも大人数がこっから離れたら、もしもの時の守りが足りなくなるだろ」
「むっ…………済まないな。苦労を掛ける」
「良いって事よ。そもそも、お前らはマスターも参加する争いには絶対に参加するだろ……それを考えれば、お前らも今よりうんと強くなって、絶対に生き残って欲しい」
冒険者時代は……いつ死んでも、それはそれで仕方ないと考えていた。
周りも同じだった。
それで良いと思っていた……でも、今周りに居る奴らは、違う。
大切に思う仲間で友人で、家族だからこそ……どうか、また一緒にバカな話をしたいと思ってしまう。
「っ……何故、そう思う?」
ガルシアは……ギリギリ怒ることはなかった。
目の前の同僚とはそれなりに親交があり、今では友人だと思っている。
そんな友人が……戦争が始まるなら、早く始まれば良いのに、といった感じの言葉を零した。
自分たちの努力をバカだと思っている? という結論には至らない。
ただ、言葉に表し辛い感情が湧き上がった。
「…………戦争が始まるのが遅ければ遅い程、あいつらが参加するかもしれないだろ」
「あいつら……っ、そうか」
あいつらという言葉が誰を指しているのか、ガルシアは直ぐに察した。
そして何故……友人が戦争が始まるのであれば、なるべく早く始まってほしいと口にしたのか理解した。
「……そうだな。長引けば長引くほど、あいつらが参加する可能性は……高くなるだろう」
「そうだろ。だから、俺としては……なるべく早く始まってほしいと思ってな」
あいつらとは、孤児院で育ち……今は冒険者として活動している者たち。
いずれは彼ら、彼女たちの背中を追おうとしている子供たちのことを指す。
当然だが、冒険者は一定のランク以上に達すれば、戦争などの有事の際……必ず参加しなければならない。
その一定のランクというのは……Dランク。
冒険者として活動している以上、基本的には逃れられない義務である。
「あいつらの強さ、向上心を考えれば……ぶっちゃけ、Dランクなんて直ぐだと思うんだよ」
「そうだな……まぁ、アラッド様の様な方が直ぐ近くに居れば、そうならざるを得ないというのもあると思うが」
主人であるアラッドを非難しているわけではない。
寧ろ、ガルシア的には褒めている。
「Dランクに上がれば、基本的に参加しなきゃならねぇ…………冒険者なら、いずれはそういう経験をしなきゃならねぇってのは解ってる。でもな……俺としては、参加してほしくねぇ」
男に取って、巣立っていった子供たちは……全員大切な教え子。
子供の様に思えることもあった。
まだ冒険者になる前から本気で強くなる為に鍛え、学んできた彼らは……簡単に死にはしない。
ただ、戦争という名の戦場では……たとえ巣立っていった子供たちより強いベテランであっても、死ぬときは死ぬ。
子供たちが今よりも強くなれば戦場で死なない確率が上がる?
今よりも強くなれば、その戦闘力に見合った戦場に送られるだけで、死亡率が確実に下がるとは言えない。
「…………ガルシア。俺を、甘ちゃんだと思うか」
「思えるわけがないだろう。あいつらは……俺にとっても、可愛い弟や妹たちだ。冒険の中で死ぬのであればまだしも……戦争、という場所で死ぬのは……違うだろうと、思う」
当然、ガルシアも戦争という名の戦場を経験したことがあるわけではない。
それでも……決して良い場所ではないことぐらいは想像出来る。
「…………それでも、あいつらは……俺たちが何を言っても、なるべく戦いを避けたり、そういった行動を取ってくれないだろうな」
「だろうな。俺としてはそうやって上手いこと避けて避けて……必要最低限の戦いだけ乗り越えて、生き残って欲しい。ただ……マスターの下で育ったからこそ、マスターから直々に戦場ではそういった行動をしろと言われても、聞かなそうだ」
「……自分たちは、そんなダサい逃げの姿勢は教わっていません。なんて言われそうだな」
「はは……一丁前に堂々と言う姿が想像出来るぜ」
乾いた笑いだけが零れる……内心では、ちっとも笑えていない。
「恨む様なことじゃねぇ。恨むなんてのはあり得ねぇ……恨むなら、ちょっかいを掛けてきたバカな国をなんてのは解ってる…………ガルシア、お前らのことだ。その戦争に向けて、何かやろうとしてるんだろ」
「…………ちょっと、遠征でも行こうかと」
「遠征ね…………んじゃ、少し頼まれごとしても良いか」
「何をしたらいい」
話の流れから、しょうもない事を頼もうとしてないことは解る。
「……それは、構わない。構わないが……あいつらは、素直に受け取るか?」
「嫌でも受け取ってもらうしかねぇな」
過保護だろうとなんだろうと構わない。
それが原因で巣だった子供たちとの仲が悪くなっても構わない。
男は……それでも、子供たちが戦争で死ぬよりはよっぽど良い。
「はぁ~~~。にしても遠征か……」
「行きたいか? 当主様に頼めば、受け入れてくれるだろう」
「いや、止めとくぜ。そりゃ俺も真面目にレベルアップしたいなって思いはあるが、あんまりにも大人数がこっから離れたら、もしもの時の守りが足りなくなるだろ」
「むっ…………済まないな。苦労を掛ける」
「良いって事よ。そもそも、お前らはマスターも参加する争いには絶対に参加するだろ……それを考えれば、お前らも今よりうんと強くなって、絶対に生き残って欲しい」
冒険者時代は……いつ死んでも、それはそれで仕方ないと考えていた。
周りも同じだった。
それで良いと思っていた……でも、今周りに居る奴らは、違う。
大切に思う仲間で友人で、家族だからこそ……どうか、また一緒にバカな話をしたいと思ってしまう。
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