576 / 1,023
五百七十五話 返答は決まっているが……
しおりを挟む
「アラッドよ、名案を思い付いたぞ」
「名案ですか」
木竜が名案と言うのだから、さぞかし良い案なのだろうと少し期待するアラッド。
「短期間の間、そこの従魔と同様、私もお前の従魔になれば良い」
「……………………」
アラッドの思考は完全に停止した。
木竜の言葉が聞こえなかったわけではない。
寧ろちゃんと聞こえており、じっくり考えれば……いや、じっくり考えずともそこが妥協点であることは解る。
ただ……その未来を想像してしまい、思わずフリーズ。
「……おい、アラッド」
「はっ!!?? す、すいません。少しお、驚き過ぎたと言いますか……その、本当にびっくりして」
「構わん。それで、私の名案はどうだ」
「そ、そうですね……」
木竜が本格的に参戦するにはどうするべきかと考えれば、まさに名案だった。
アラッドは基本的に誰も知らないような村から現れた超スーパールーキーなどではなく、身元がしっかりしており、侯爵家の令息に加えて騎士の爵位を持っている。
立場という点に関しては申し分ない。
加えて、冒険者界隈では未来のAランク冒険者候補に挙げられており、ただ立場があるだけのボンクラではない。
その他の要素も加えて……アラッドは木竜を従魔にするだけの要素が色々と揃っている。
「……あの、それは本当に自分でなければ駄目ですか?」
「自分の実力に自信がない、という事か?」
「い、いえ。そういう事を言葉にしてしまうのは、嫌味になると解っているので……ですが、その……」
既にアラッドはクロ……デルドウルフというAランクのモンスターを従魔にして活動している。
これまでの行動から、もっと穏便に目立たないように行動したいんですよぉ~~~~……なんて言おうものなら、友人たちからであっても白い、もしくは冷たい目を向けられる。
それはアラッド本人も理解しており、そもそもそういった生き方は無理だと自覚している。
いきなり方向転換しようとも考えていない。
しかし……Aランクのドラゴンを一時的にとはいえ、従魔にする。
それがどれだけの事なのかも理解出来る。
従魔と共に戦う冒険者の中に、ワイバーンやBランクの属性ドラゴンを従魔にしている冒険者は……多くはないが、一定数存在する。
そしてアルバース王国や、他の国にもワイバーンに乗って戦う竜騎士は存在する。
だが……Aランクの高位ドラゴンを従える者は、まずいない。
歴史を遡ったとしても、両手両足の指の数を越えることはない。
「……木竜殿は、一時的にとはいえ人間の下で行動することに、不満などはないのですか」
「不満があれば、このような提案はしない。まず、お前は私と同じ次元のドラゴンと親交がある」
「そ、そうですね」
疑問解消の質問の中で、既にオーアルドラゴンと交流があることは伝え済み。
「加えて、その歳にしては圧倒的な強さを持っている。そっちの巨狼と組めば、十分私の首に刃が届くだろう」
「ど、どうも」
「強ければ誰にでも従うという訳ではない。アラッド……お前だからこそ、その価値があると判断した」
「っ……光栄です」
人の言葉を話せるからか、それとも高い知性があるからか……そう評価されることに嬉しさすら感じる。
(…………寧ろ、今回の件に関わった人間以外に従った場合の方が、色々と問題になるかもしれない、か)
また十数秒ほど瞑目して悩んだ。
しかし、悩んだところで……どちらにしろ結果は変わらない。
ただ……それでも、この場でアラッドが勝手に決める訳にはいかなかった。
「……木竜殿。おそらく答えは決まっているとは思いますが、一度この件に関しては持ち帰ってもよろしいでしょうか」
「ふむ……………力の強さだけで序列が決まらない事を考えれば、当然か。分かった、上の返事というのを待とう」
「ありがとうございます」
本題はこれで終了……だが、この後結局アラッドはオーアルドラゴンの時と同じく料理を造ることになり、結局ジバルに戻ってくるのは夕暮れになってからだった。
「なるほど…………とりあえず、大丈夫かい」
戻って来たアラッドから木竜との会話内容を聞いたハリスは、まずアラッドの心労具合を心配した。
ハリスはアラッドが目立たないように、なんて生き方を強く求めていない事は分かっている。
単純に目立つ、意外の目立ち方をすることも受け入れていると……直感で解かっている。
だが、今回の件がそのまま……木竜の提案通りに進めば、眉間を抑えたくなる目立ち方をするのも解る。
「……もう、仕方ないと思ってます。というか、ここまで関わっていて今更無理だと言うのは……逃げになります」
変なプライドの話でも、男らしい……ほんの少し子供心が混ざっているプライドでもない。
責任という単純な話である。
「問題が問題なだけに……貴族出身の自分が、この件から逃げることは出来ません」
「無理をしてないかい、という言葉は愚問だね」
「心配して頂き、ありがとうございます」
貴族だから…………代われるなら、その責任を代わりに背負いたい。
(っ……そう思うなら、この先起こり得るであろう戦争で、一人でも多くの仲間を救うのみ)
ハリスもハリスで、アラッドと同じく覚悟を決めた。
「名案ですか」
木竜が名案と言うのだから、さぞかし良い案なのだろうと少し期待するアラッド。
「短期間の間、そこの従魔と同様、私もお前の従魔になれば良い」
「……………………」
アラッドの思考は完全に停止した。
木竜の言葉が聞こえなかったわけではない。
寧ろちゃんと聞こえており、じっくり考えれば……いや、じっくり考えずともそこが妥協点であることは解る。
ただ……その未来を想像してしまい、思わずフリーズ。
「……おい、アラッド」
「はっ!!?? す、すいません。少しお、驚き過ぎたと言いますか……その、本当にびっくりして」
「構わん。それで、私の名案はどうだ」
「そ、そうですね……」
木竜が本格的に参戦するにはどうするべきかと考えれば、まさに名案だった。
アラッドは基本的に誰も知らないような村から現れた超スーパールーキーなどではなく、身元がしっかりしており、侯爵家の令息に加えて騎士の爵位を持っている。
立場という点に関しては申し分ない。
加えて、冒険者界隈では未来のAランク冒険者候補に挙げられており、ただ立場があるだけのボンクラではない。
その他の要素も加えて……アラッドは木竜を従魔にするだけの要素が色々と揃っている。
「……あの、それは本当に自分でなければ駄目ですか?」
「自分の実力に自信がない、という事か?」
「い、いえ。そういう事を言葉にしてしまうのは、嫌味になると解っているので……ですが、その……」
既にアラッドはクロ……デルドウルフというAランクのモンスターを従魔にして活動している。
これまでの行動から、もっと穏便に目立たないように行動したいんですよぉ~~~~……なんて言おうものなら、友人たちからであっても白い、もしくは冷たい目を向けられる。
それはアラッド本人も理解しており、そもそもそういった生き方は無理だと自覚している。
いきなり方向転換しようとも考えていない。
しかし……Aランクのドラゴンを一時的にとはいえ、従魔にする。
それがどれだけの事なのかも理解出来る。
従魔と共に戦う冒険者の中に、ワイバーンやBランクの属性ドラゴンを従魔にしている冒険者は……多くはないが、一定数存在する。
そしてアルバース王国や、他の国にもワイバーンに乗って戦う竜騎士は存在する。
だが……Aランクの高位ドラゴンを従える者は、まずいない。
歴史を遡ったとしても、両手両足の指の数を越えることはない。
「……木竜殿は、一時的にとはいえ人間の下で行動することに、不満などはないのですか」
「不満があれば、このような提案はしない。まず、お前は私と同じ次元のドラゴンと親交がある」
「そ、そうですね」
疑問解消の質問の中で、既にオーアルドラゴンと交流があることは伝え済み。
「加えて、その歳にしては圧倒的な強さを持っている。そっちの巨狼と組めば、十分私の首に刃が届くだろう」
「ど、どうも」
「強ければ誰にでも従うという訳ではない。アラッド……お前だからこそ、その価値があると判断した」
「っ……光栄です」
人の言葉を話せるからか、それとも高い知性があるからか……そう評価されることに嬉しさすら感じる。
(…………寧ろ、今回の件に関わった人間以外に従った場合の方が、色々と問題になるかもしれない、か)
また十数秒ほど瞑目して悩んだ。
しかし、悩んだところで……どちらにしろ結果は変わらない。
ただ……それでも、この場でアラッドが勝手に決める訳にはいかなかった。
「……木竜殿。おそらく答えは決まっているとは思いますが、一度この件に関しては持ち帰ってもよろしいでしょうか」
「ふむ……………力の強さだけで序列が決まらない事を考えれば、当然か。分かった、上の返事というのを待とう」
「ありがとうございます」
本題はこれで終了……だが、この後結局アラッドはオーアルドラゴンの時と同じく料理を造ることになり、結局ジバルに戻ってくるのは夕暮れになってからだった。
「なるほど…………とりあえず、大丈夫かい」
戻って来たアラッドから木竜との会話内容を聞いたハリスは、まずアラッドの心労具合を心配した。
ハリスはアラッドが目立たないように、なんて生き方を強く求めていない事は分かっている。
単純に目立つ、意外の目立ち方をすることも受け入れていると……直感で解かっている。
だが、今回の件がそのまま……木竜の提案通りに進めば、眉間を抑えたくなる目立ち方をするのも解る。
「……もう、仕方ないと思ってます。というか、ここまで関わっていて今更無理だと言うのは……逃げになります」
変なプライドの話でも、男らしい……ほんの少し子供心が混ざっているプライドでもない。
責任という単純な話である。
「問題が問題なだけに……貴族出身の自分が、この件から逃げることは出来ません」
「無理をしてないかい、という言葉は愚問だね」
「心配して頂き、ありがとうございます」
貴族だから…………代われるなら、その責任を代わりに背負いたい。
(っ……そう思うなら、この先起こり得るであろう戦争で、一人でも多くの仲間を救うのみ)
ハリスもハリスで、アラッドと同じく覚悟を決めた。
140
お気に入りに追加
6,108
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
その聖女は身分を捨てた
メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
おばあちゃん(28)は自由ですヨ
美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。
その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。
どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。
「おまけのババアは引っ込んでろ」
そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。
その途端、響く悲鳴。
突然、年寄りになった王子らしき人。
そして気付く。
あれ、あたし……おばあちゃんになってない!?
ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!?
魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。
召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。
普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。
自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く)
元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。
外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。
※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。
※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要)
※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。
※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる