上 下
576 / 1,034

五百七十五話 返答は決まっているが……

しおりを挟む
「アラッドよ、名案を思い付いたぞ」

「名案ですか」

木竜が名案と言うのだから、さぞかし良い案なのだろうと少し期待するアラッド。

「短期間の間、そこの従魔と同様、私もお前の従魔になれば良い」

「……………………」

アラッドの思考は完全に停止した。

木竜の言葉が聞こえなかったわけではない。
寧ろちゃんと聞こえており、じっくり考えれば……いや、じっくり考えずともそこが妥協点であることは解る。

ただ……その未来を想像してしまい、思わずフリーズ。

「……おい、アラッド」

「はっ!!?? す、すいません。少しお、驚き過ぎたと言いますか……その、本当にびっくりして」

「構わん。それで、私の名案はどうだ」

「そ、そうですね……」

木竜が本格的に参戦するにはどうするべきかと考えれば、まさに名案だった。

アラッドは基本的に誰も知らないような村から現れた超スーパールーキーなどではなく、身元がしっかりしており、侯爵家の令息に加えて騎士の爵位を持っている。

立場という点に関しては申し分ない。
加えて、冒険者界隈では未来のAランク冒険者候補に挙げられており、ただ立場があるだけのボンクラではない。
その他の要素も加えて……アラッドは木竜を従魔にするだけの要素が色々と揃っている。

「……あの、それは本当に自分でなければ駄目ですか?」

「自分の実力に自信がない、という事か?」

「い、いえ。そういう事を言葉にしてしまうのは、嫌味になると解っているので……ですが、その……」

既にアラッドはクロ……デルドウルフというAランクのモンスターを従魔にして活動している。

これまでの行動から、もっと穏便に目立たないように行動したいんですよぉ~~~~……なんて言おうものなら、友人たちからであっても白い、もしくは冷たい目を向けられる。

それはアラッド本人も理解しており、そもそもそういった生き方は無理だと自覚している。
いきなり方向転換しようとも考えていない。

しかし……Aランクのドラゴンを一時的にとはいえ、従魔にする。
それがどれだけの事なのかも理解出来る。

従魔と共に戦う冒険者の中に、ワイバーンやBランクの属性ドラゴンを従魔にしている冒険者は……多くはないが、一定数存在する。

そしてアルバース王国や、他の国にもワイバーンに乗って戦う竜騎士は存在する。

だが……Aランクの高位ドラゴンを従える者は、まずいない。
歴史を遡ったとしても、両手両足の指の数を越えることはない。

「……木竜殿は、一時的にとはいえ人間の下で行動することに、不満などはないのですか」

「不満があれば、このような提案はしない。まず、お前は私と同じ次元のドラゴンと親交がある」

「そ、そうですね」

疑問解消の質問の中で、既にオーアルドラゴンと交流があることは伝え済み。

「加えて、その歳にしては圧倒的な強さを持っている。そっちの巨狼と組めば、十分私の首に刃が届くだろう」

「ど、どうも」

「強ければ誰にでも従うという訳ではない。アラッド……お前だからこそ、その価値があると判断した」

「っ……光栄です」

人の言葉を話せるからか、それとも高い知性があるからか……そう評価されることに嬉しさすら感じる。

(…………寧ろ、今回の件に関わった人間以外に従った場合の方が、色々と問題になるかもしれない、か)

また十数秒ほど瞑目して悩んだ。

しかし、悩んだところで……どちらにしろ結果は変わらない。
ただ……それでも、この場でアラッドが勝手に決める訳にはいかなかった。

「……木竜殿。おそらく答えは決まっているとは思いますが、一度この件に関しては持ち帰ってもよろしいでしょうか」

「ふむ……………力の強さだけで序列が決まらない事を考えれば、当然か。分かった、上の返事というのを待とう」

「ありがとうございます」

本題はこれで終了……だが、この後結局アラッドはオーアルドラゴンの時と同じく料理を造ることになり、結局ジバルに戻ってくるのは夕暮れになってからだった。


「なるほど…………とりあえず、大丈夫かい」

戻って来たアラッドから木竜との会話内容を聞いたハリスは、まずアラッドの心労具合を心配した。

ハリスはアラッドが目立たないように、なんて生き方を強く求めていない事は分かっている。
単純に目立つ、意外の目立ち方をすることも受け入れていると……直感で解かっている。

だが、今回の件がそのまま……木竜の提案通りに進めば、眉間を抑えたくなる目立ち方をするのも解る。

「……もう、仕方ないと思ってます。というか、ここまで関わっていて今更無理だと言うのは……逃げになります」

変なプライドの話でも、男らしい……ほんの少し子供心が混ざっているプライドでもない。
責任という単純な話である。

「問題が問題なだけに……貴族出身の自分が、この件から逃げることは出来ません」

「無理をしてないかい、という言葉は愚問だね」

「心配して頂き、ありがとうございます」

貴族だから…………代われるなら、その責任を代わりに背負いたい。

(っ……そう思うなら、この先起こり得るであろう戦争で、一人でも多くの仲間を救うのみ)

ハリスもハリスで、アラッドと同じく覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...