スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

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五百七十三話 適当に慰められない

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「…………だが、勝手に私が仕掛ければ面倒になる……そう言いたげな眼だな、青年」

「ッ!! 申し訳ありません」

「いや、構わん。私もそれなりに知識を持っている方だ。それぐらいは解っている……殺したいという思いは変わらないがな」

多くの猛者たちが思った。

果たして……自分たちは目の前にいるドラゴンを、モンスターという言葉で呼べるのかと。
一部の者は、目の前にいる木竜は……ただのドラゴンではなく、神獣の類なのではないかと思えてきた。

(殺れるなら、今すぐ殺りにいきたいところだが……ふむ、中々どうして面白い人間だ)

今自分と話している青年……アラッド以外にも興味を持つ猛者たちがいる。

しかし、どの人間が一番興味深いかと尋ねられれば、木竜は迷いなくアラッドだと答える。

(私と同クラスのドラゴンを殺していながら、同クラスの知竜と同じ匂いを感じる。加えて、この微かな気配…………もしや、ユニコーンとも関りを持っているのか?)

とても……とても先程までの姿からは想像出来ない。

ただ己の力を振り回すことに酔い痴れている狂人とも思えない。

「青年よ。お主の名は」

「アラッド・パーシブルです」

「……その家名、どこかで聞いたことがあるな………………あぁ、あれか。あのボレアスを仕留めた人間の家名か。ということは、青年はその男の息子か」

「は、はい。その通りです」

木竜が自身の父親のことを知っている。

この場においてあまり……いや、それなりに驚くべき内容ではある。
ただ、アラッドは誇らしげな気持ちになるものの、場所を弁えて一旦堪えた。

「……………良いだろう。お前たちが私を殺すつもりではなく、止める為に動いていた。であれば、今直ぐには動かんとしよう」

この言葉に多くの者たちが……特にホーバスト伯爵に仕える騎士たちと、国に仕える騎士たちはほっと一安心。

「だが、殺る時には声を掛けよ。良いな」

「は、はい!!!!」

悲劇が起こることはなく、誰一人怪我を負うことなく終了。

さぁ、これでようやく来るかもしれない危機に怯えながら過ごさずに済む。
上司に良い報告が出来る……などなど、全員が最悪の恐怖から解放されて生き生きとした表情で帰る中……一人だけ
、木竜に呼び留められた冒険者が居た。

「青年……アラッドだったか。お主は明日、正午にもう一度来い」

「は、はい……わ、分かりました」

何故……という思いを、その場にいる全員が感じた。
敵意はないとはいえ、Aランクのドラゴンに青年一人で会わせるのは危険ではないか。
そう思いはするものの、木竜が直々に指名しているところに……待ったをかける勇気を持つ者は誰もいなかった。

しかし、これに関してはその場にいる者たちが白状なのではなく、無駄に蛮勇を発揮しなかっただけ。

双方にとって、指名されたアラッドとしても、下手に木竜と構えたくはなく、断るつもりはなかった。


「……………」

直々の指名であっては仕方ないという思いはありつつも、やはり何故という疑問が頭から消えない。

「だ、大丈夫かい。アラッド君」

「はい……大丈夫です、ハリスさん。ただ、どうして木竜は自分に再度来るように伝えたのか……それらしい考えが浮かばなくて」

敵意がないことは十分に理解しているが、それでもAランクのドラゴンから再度来いと言われた。

戦闘がなくとも、何の為に? という思いが消えることは無い。

「…………見た感じ、木竜はアラッド君に強い興味を持っていたね」

「そうだな。やはり、過去に同じAランクのドラゴンを討伐したからか?」

「無茶苦茶知性を感じたけど、ドラゴンってそこまで情報収集できるのか?」

「細かい情報を集めてなくても、感覚で解るところがあるんじゃないかしら」

もし、仮にその件で再度来いと言われたのであれば、報復? されるのではという思いが強まる。

「それはどうかな。確かに一つの要因ではあるかもしれないけど、それなら戦意や殺気があってもおかしくない」

「そうなると、本当にアラッドさんという一人の人間に興味を持ったからでしょうか?」

「…………本当にそうなら、俺以外に興味を持って良さそうな人は多かった思うんですけどね」

Aランクのドラゴンに興味を持たれるのは、一応凄い事ではあるものの……とても光栄な事とは思えなかった。

(でも、あれか。今後の経過によっては、あの木竜がどう動くかも関わってくることだし…………というか、絶対にどういった話をしたのかホーバスト伯爵に話さなきゃダメだよな)

それはそれで面倒だと思いながらも……思うだけで、内心では諦めていた。

「とりあえず命が取られることはないと思うんで、諦めて話してきます」

普通はここで何かしらの声を掛けるべき流れ……なのだが、一緒に街へ戻っているハリスたちは上手く喉から言葉が出てこなかった。

頑張れ……と声を掛けたところで、自分なら「何を頑張れって言うんですか?」と、ちょっとキレてしまう。

基本的に礼儀正しい振る舞いが出来るように見えるアラッドだが、大人達も子供に責任が大きい何かを任せてしまった負い目があるのか……気軽に適当な言葉を掛けることが出来なかった。
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